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最高裁判所第二小法廷決定平成24年02月13日

【事案】

 精神科の医師である被告人が,少年事件について,家庭裁判所から,鑑定事項を「1.少年が本件非行に及んだ精神医学的背景,2.少年の本件非行時及び現在の精神状態,3.その他少年の処遇上参考になる事項」として,精神科医としての知識,経験に基づく,診断を含む精神医学的判断を内容とする鑑定を命じられ,それを実施したものであり,そのための鑑定資料として少年らの供述調書等の写しの貸出しを受けていたところ,正当な理由がないのに,同鑑定資料や鑑定結果を記載した書面を第三者に閲覧させ,少年及びその実父の秘密を漏らしたという事案。

(参照条文)

刑法
134条1項 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

135条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

 

刑訴法230条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。

【判旨】

 所論は,鑑定医が行う鑑定はあくまでも「鑑定人の業務」であって「医師の業務」ではなく,鑑定人の業務上知った秘密を漏示しても秘密漏示罪には該当しない,本件で少年やその実父は被告人に業務を委託した者ではなく,秘密漏示罪の告訴権者に当たらない旨主張する。
 しかし,本件のように,医師が,医師としての知識,経験に基づく,診断を含む医学的判断を内容とする鑑定を命じられた場合には,その鑑定の実施は,医師がその業務として行うものといえるから,医師が当該鑑定を行う過程で知り得た人の秘密を正当な理由なく漏らす行為は,医師がその業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏示するものとして刑法134条1項の秘密漏示罪に該当すると解するのが相当である。 このような場合,「人の秘密」には,鑑定対象者本人の秘密のほか,同鑑定を行う過程で知り得た鑑定対象者本人以外の者の秘密も含まれるというべきである。 したがって,これらの秘密を漏示された者は刑訴法230条にいう「犯罪により害を被った者」に当たり,告訴権を有すると解される。
 以上によれば,少年及びその実父の秘密を漏らした被告人の行為につき同罪の成立を認め,少年及びその実父が告訴権を有するとした第1審判決を是認した原判断は正当である。

【千葉勝美補足意見】

 私は,法廷意見との関係で,次の点を補足しておきたい。

1.医師法17条にいう医業の内容となる医行為のうち,患者に対して診察・治療を行うという臨床としての職務(以下「基本的な医行為」という。)においては,医師は,患者等との間で信頼関係があり(緊急搬送された意識不明の患者との間でも,合理的な意思の推測により信頼関係の存在は認められよう。),それを基に患者の病状,肉体的・精神的な特徴等というプライバシー等の秘密や,治療等の関係で必要となる第三者の秘密に接することになり,基本的な医行為は,正にそのような秘密を知ることを前提として成り立つものである。刑法134条の秘密漏示罪の趣旨は,医師についていえば,医師が基本的な医行為を行う過程で常に患者等の秘密に接し,それを保管することになるという医師の業務に着目して,業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らすことを刑罰の対象としたものである。したがって,同条は,第一次的には,このような患者等の秘密を保護するため,第二次的(あるいは反射的)には,患者等が安心して医師に対し秘密を開示することができるようにし,医師の基本的な医行為が適正に行われるようにすることを企図し,いわば医師の業務自体を保護することも目的として制定されたものといえる。
 同条が,医師以外にも同じような業務の特徴を有する職業に就いている者を限定列挙しているのも,その趣旨である。

2.ところで,医師が鑑定人に選任された場合についてみると,基本的な医行為とは異なり,常に上記のような信頼関係に立って鑑定対象者等のプライバシー等の秘密に接することになるわけではなく,更には,臨床医としての知識,経験に基づき,書面上の検討のみで鑑定人としての見解を述べるような場合(いわゆる書面鑑定の場合)もあり得るところであり,これも医師の業務ではある。しかし,このような場合には,対象者等との信頼関係が問題にならないこともあるが,鑑定資料を見ることにより対象者等のプライバシー等に接することはあり得よう。この点は,医師以外の,例えば行動心理学の専門家が鑑定人に選任された場合も同様であろう。ところが,この場合,鑑定人がたまたま医師であるときは,鑑定人の業務遂行中に知り得た他人の秘密を公にすれば刑罰の対象となるが,行動心理学の専門家であれば刑罰の対象にならないという状況が生ずることになり,その差異ないし不均衡をどう考えるかが気になるところである。

3.この点については,医師の業務のうち,基本的な医行為ないしそれに類する行為を行う過程で知り得た秘密,すなわち患者等との信頼関係に基づき知り得た秘密のみが,刑法134条にいう「秘密」に当たると解し,上記の書面鑑定の場合や,基本的な医行為とはいえない業務,例えば伝染病の予防等の観点から死体を解剖したデータに基づく診断書の作成の過程で知り得た秘密等はこれに当たらないとする解釈が考えられる。この解釈は,同条の立法趣旨を徹底するものであり,他の例でいえば,ある弁護士が,本来の業務である弁護活動とは別に弁護士であるがゆえに所属弁護士会の重要な会務を行うことになり,その過程で知り得た他人の秘密については,弁護士と依頼者との間の信頼関係に基づき知り得たものではないので,ここでいう「秘密」に当たらず,それを漏らしたとしても刑罰の対象にはならないとするのは,それが弁護士の業務に当たらないとする理由もあるが,上記信頼関係とは関係のない場面で知り得た秘密であることも,実質的な理由ではないかと考える。

4.もっとも,このような考えは,刑法134条所定の「秘密」を,立法趣旨に従って目的論的に限定解釈するものであるが,文理上の手掛かりはなく,解釈論としては無理であろう。
 そうすると,この問題は次のように考えるべきではないだろうか。
 医師は,基本的な医行為が業務の中核であり,その業務は,常に患者等が医師を信頼して進んで自らの秘密を明らかにすることによって成り立つものである。医師は,そのような信頼がされるべき存在であるが,医師の業務の中で基本的な医行為とそれ以外の医師の業務とは,必ずしも截然と分けられるものではない。例えば,本件においても,被告人は,鑑定人として一件記録の検討を行うほか,少年及び両親との面接,少年の心理検査・身体検査,少年の精神状態についての診断を行い,少年の更生のための措置についての意見を述べることが想定されているところであり,この一連の作業は,少年に対する診察と治療といった基本的な医行為と極めて類似したものである。
 刑法134条は,基本的にはこのような人の秘密に接する業務を行う主体である医師に着目して,秘密漏示行為を構成要件にしたものであり,その根底には,医師の身分を有する者に対し,信頼に値する高い倫理を要求される存在であるという観念を基に,保護されるべき秘密(それは患者の秘密に限らない。)を漏らすような倫理的に非難されるべき行為については,刑罰をもって禁止したものと解すべきであろう。
 医師の職業倫理についての古典的・基本的な資料ともいうべき「ヒポクラテスの誓い」の中に,「医療行為との関係があるなしに拘わらず,人の生活について見聞したもののうち,外部に言いふらすべきでないものについては,秘密にすべきものと認め,私は沈黙を守る。」というくだりがある。そこには,患者の秘密に限定せず,およそ人の秘密を漏らすような反倫理的な行為は,医師として慎むべきであるという崇高な考えが現れているが,刑法134条も,正にこのような見解を基礎にするものであると考える。

5.いずれにしろ,被告人が鑑定という医師の業務に属する行為の過程で知り得た秘密を漏示した本件行為は,鑑定人としてのモラルに反することは勿論,刑法134条の構成要件にも該当するものというべきである。

 

最高裁判所第一小法廷決定平成24年02月14日

【事案】

 本件再審請求は,控訴を棄却した確定判決に対するものであるが,刑訴法436条1項所定の事由の主張がなく,法令上の方式に違反していたこと,本件再審請求の対象事件については,第1審の有罪の確定判決に対する再審請求が福岡地方裁判所に係属しており,請求が競合する状態にあったが,控訴裁判所である原々審は,刑訴規則285条1項による訴訟手続の停止をすることなく,本件再審請求を棄却した。

(参照条文)刑訴規則285条

 第一審の確定判決と控訴を棄却した確定判決とに対して再審の請求があつたときは、控訴裁判所は、決定で第一審裁判所の訴訟手続が終了するに至るまで、訴訟手続を停止しなければならない。

2 第一審又は第二審の確定判決と上告を棄却した確定判決とに対して再審の請求があつたときは、上告裁判所は、決定で第一審裁判所又は控訴裁判所の訴訟手続が終了するに至るまで、訴訟手続を停止しなければならない。

【判旨】

 本件のように,再審請求が競合した場合において控訴を棄却した確定判決に対する再審請求が適法な再審事由の主張がないため不適法であることが明らかなときには,第1審裁判所と控訴裁判所との間において審理の重複や判断の矛盾等が生じるおそれはないから,控訴裁判所は,刑訴規則285条1項による訴訟手続の停止をすることなく,当該再審請求を棄却することも許されるというべきである。これと同旨の原々決定及び原決定は相当である。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成24年02月16日

【事案】

1.北海道砂川市(以下「市」という。)がその所有する土地を神社施設の敷地として無償で使用させていることは憲法の定める政教分離原則に違反する行為であって,敷地の使用貸借契約を解除し同施設の撤去及び土地明渡しを請求しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとして,市の住民である上告人らが,被上告人に対し,地方自治法242条の2第1項3号に基づき,上記怠る事実の違法確認を求める事案。

2.事実関係等の概要

(1) 市は,原判決別紙第1不動産目録記載1ないし5の各土地(以下「本件各土地」といい,同目録記載の土地を個別に摘示するときは,その番号に従い「本件土地1」などという。)を所有している。
 本件土地1上には,鳥居及び地神宮が設置されている。また,本件各土地上には,地域の集会場等であるA会館(以下「本件建物」という。)が建てられ,その一角にA神社(以下「本件神社」という。)の祠が設置されている。本件建物のうち会館入口とは別に鳥居の正面に当たる部分にある入口の上部には,「神社」との表示が設けられていたが,上記表示は後記(5)のとおり現在では撤去されている(以下,上記の鳥居等をそれぞれ「本件鳥居」,「本件地神宮」,「本件祠」及び「本件神社の表示」といい,これらの4物件を併せて「本件神社物件」という。)。
 本件建物及び本件神社物件の所有者は,B町内会(以下「本件町内会」という。)であり,市は,本件町内会に対し,本件各土地を無償で本件建物,本件鳥居及び本件地神宮の敷地としての利用に供している(以下,市が本件各土地を上記のとおり無償で提供していることを「本件利用提供行為」という。)。

(2) 本件神社は,宗教法人法所定の宗教法人ではなく,神社付近の住民らで構成される氏子集団(以下「本件氏子集団」という。)によってその管理運営がされている。本件氏子集団は,組織についての規約等がなく,氏子の範囲を明確に特定することもできないため,これを権利能力なき社団と認めることはできないが,役員として氏子総代及び世話役が各10名おり,総代の中からその代表者である総代長を協議で選出している。本件町内会は,A地区の六つの町内会によって組織される地域団体で,本件氏子集団を包摂し,各町内会の会員によって組織される運営委員会が本件建物の管理運営を行っている。

(3) 昭和23年頃,現在の市立A小学校(当時の名称は公立C郡D尋常小学校)において校舎増設及び体育館新設の計画が立てられ,その敷地としてそれまで神社施設が所在していた隣地を使用することになったため,A地区の住民であるEは,その所有する本件土地1及び4を上記神社施設の移転先敷地として提供し,上記神社施設はその頃上記各土地上に移設された。Eは,昭和28年,本件土地1及び4に係る固定資産税の負担を解消するため,当時の砂川町(同33年7月の市制施行により市となる。以下「町」という。)に上記各土地の寄附願出をし,町は,同年3月の町議会において,上記各土地の採納の議決及び上記各土地を祠等の施設のために無償で使用させる旨の議決を経て,Eからの寄附に基づきそれらの所有権を取得した。
 本件町内会は,昭和45年,市から補助金の交付を受けて,本件各土地上に本件建物を新築した。これに伴い,従来の鳥居等は取り壊され,本件祠及び本件鳥居が現在の位置に設置された。
 現在,本件神社においては,初詣,春祭り及び秋祭りという年3回の祭事が行われており,春祭りと秋祭りの際には,F神社から宮司の派遣を受け,「A神社」,「地神宮」等と書かれたのぼりが本件鳥居の両脇に立てられる。また,秋祭りの際には,本件地神宮の両脇に「奉納 地神宮 氏子中」等と書かれたのぼりが立てられて神事が行われる。

(4) 当裁判所大法廷が,本件を原審に差し戻した判決(最高裁平成19年(行ツ)第260号同22年1月20日大法廷判決・民集64巻1号1頁)において,本件利用提供行為の現状は憲法89条及び20条1項後段に違反するものであるが,このような違憲状態の解消には神社施設を撤去して土地を明け渡す以外にも適切な手段があり得るから,他の合理的で現実的な手段が存在するか否かについて更に審理を尽くさせる必要がある旨を判示したことを受けて,市の担当者は,平成22年1月22日,氏子総代長であるGと面談し,当時の第1町内会の会長であり本件町内会の会長も務めたことのある同人に対し,市としては上記判決によって示された方法により解決を図りたい旨を申し入れるとともに,地域としての意見の取りまとめを依頼した。Gは,本件氏子集団の役員らや本件町内会を組織する各町内会の会長らと協議を重ねた上,同年3月19日,市の担当者に対し,神社施設を存続させる方向でまとまりつつあること,本件神社の財政上本件各土地の買取りは不可能であり,賃借する場合でも極力面積が小さくなるように配慮してほしいこと,本件地神宮については「地神宮」の文字を削り「開拓記念碑」に彫り直す方針であることなどを述べた。これに対し,市の担当者は,本件祠を本件鳥居の北側に移設して敷地を縮小する場合には,例えば面積を20坪とすれば賃料を年4万6000円程度に抑えることができるとの見通しを伝えたところ,Gは,同月26日,市の担当者に対し,同月19日に市と協議した方法による本件神社の存続につき本件氏子集団の役員会において意思確認がされた旨を告げた。

(5) 上記(4)の協議を受けて,被上告人は,本件利用提供行為の前示の違憲状態を解消するために次のアないしオの手段(以下「本件手段」という。)を採る方針を策定し,平成22年7月9日の原審口頭弁論期日においてこれを表明した。

ア.本件建物につき,本件神社の表示を撤去する。

イ.本件地神宮につき,「地神宮」の文字を削り,宗教的色彩のない「開拓記念碑」等の文字を彫り直す。そのために必要な費用は約13万円である。

ウ.本件祠につき,本件建物内からこれを取り出し,本件鳥居の付近に設置し直す。そのために必要な費用は約51万円である。

エ.本件鳥居及び本件祠につき,その敷地として,本件土地1のうち本件鳥居が存して国道に面する部分52u(以下「本件賃貸予定地」という。)を砂川市公有財産規則(平成4年砂川市規則第21号)に基づく適正な賃料(年額3万5000円程度)で本件氏子集団の氏子総代長に賃貸する。

オ.本件賃貸予定地については,ロープを張るなどその範囲を外見的にも明確にする措置を施す。Gは,同月16日,市の担当者に対し,本件祠の移設のために必要な費用及び本件地神宮の文字の彫り直し費用については本件神社側が負担することで了解済みである旨を述べた。G及び他の地域住民は,その後,本件神社の表示を撤去するとともに,本件建物内に保管されていた本件神社に関連する物品等を全て地域住民宅に移動した。

【判旨】

1.論旨は,本件手段の実施は,その直接の効果として本件氏子集団が本件祠及び本件鳥居を利用した宗教的活動を行うことを容易にするものであるから,その効果は本件利用提供行為と全く異ならないため,その違憲状態を解消することはできず,市が本件神社物件の撤去及び本件土地1の明渡しの方法を採らずに本件手段を実施することは,憲法89条,20条1項後段に違反する旨をいうのである。

2.本件手段は,市が,前掲平成22年1月20日大法廷判決の前記判示を踏まえ,本件利用提供行為の前示の違憲性を是正解消するために,これを採る方針を策定したものである。
 そして,本件手段が実施されると,それまで無償で利用に供されていた本件賃貸予定地につき,適正な賃料が利用の対価として市に支払われることとなり,また,本件祠と本件鳥居の敷地として利用される市有地の部分が大幅に縮小されるとともに,本件土地1のうち本件賃貸予定地の範囲を外見的にも明確にする措置が執られることにより,本件氏子集団の利用し得る部分が事実上拡大することの防止も確保される上,本件祠の移設,本件神社の表示の撤去,本件地神宮の文字の彫り直し等の措置が執られることにより,本件賃貸予定地以外の部分からは,本件神社の徴表となる物件や表示は除去されることとなる(なお,本件神社の表示及び本件建物内に保管されていた本件神社に関連する物品等は,事案2(5)のとおり,既に撤去されている。)。加えて,前記事実関係等によれば,本件賃貸予定地が国道に面しており,本件建物内に保管されていた本件神社に関連する物品等が既に撤去されているため,本件手段の実施後に本件氏子集団が本件祠の移設された本件賃貸予定地において祭事等を行う場合に,本件各土地のうち本件賃貸予定地以外の部分や本件建物を使用する必要はないものということができる。これらの事情のほか,本件神社物件の前身である施設は本件土地1及び4が市制施行前の町有地となる前から上記各土地上に存在しており,上記各土地が町有地となったのも,小学校敷地の拡張に協力した用地提供者に報いるという世俗的,公共的な目的によるものであって,本件神社を特別に保護,援助するという目的によるものではなかったといえることも併せて総合考慮すると,本件手段が実施された場合に,本件氏子集団が市有地の一部である本件賃貸予定地において本件鳥居及び本件祠を維持し,年に数回程度の祭事等を今後も継続して行うことになるとしても,一般人の目から見て,市が本件神社ないし神道に対して特別の便益を提供し援助していると評価されるおそれがあるとはいえないというべきである。
 他方,本件神社物件を全て直ちに撤去させるべきものとすることは,本件氏子集団がこれを利用してごく平穏な態様で行ってきた祭事等の宗教的活動の継続を著しく困難なものにし,その構成員の信教の自由に重大な不利益を及ぼすことが明らかである。これに対し,前記事実関係等によれば,本件氏子集団は,年額約3万5000円の賃料を負担することによって,本件賃貸予定地において従前と同様の祭事等を行うことが可能となり,本件祠の移設や本件地神宮の彫り直しについても費用負担の点を含めて了承しているというのであるから,本件手段の実施による本件氏子集団の構成員の宗教的活動に対する影響は相当程度限定されたものにとどまるということができる。
 そうすると,本件手段は,本件利用提供行為の前示の違憲性を解消する手段として合理性を有するものと解するのが相当である。

3.そして,本件手段は,適正な対価による貸付けであるので,その実施には市議会による議決を要するものではなく(地方自治法96条1項6号,237条2項参照),また,前記事実関係等によれば,本件手段は,市の担当者が,氏子総代長であり本件町内会の元会長であったGと度々面談し,同人を介して本件氏子集団の役員らや本件町内会の会長らと協議を重ねてその意見を聴取し,本件氏子集団の役員会の了解を取り付けた上で策定したものであって,既に本件神社の表示の撤去が実施され,本件祠の移設や本件地神宮の彫り直しも費用負担の点を含めて本件氏子集団の了承が得られており,他方,本件賃貸予定地に係る年額約3万5000円の賃料の支払が将来滞る蓋然性があるとは考え難いことを併せ考えると,本件手段は確実に実施が可能なものということができ,その現実性を優に肯定することができる。

4.したがって,本件手段は,本件利用提供行為の前示の違憲性を解消するための手段として合理的かつ現実的なものというべきであり,市が,本件神社物件の撤去及び本件土地1の明渡しの請求の方法を採らずに,本件手段を実施することは,憲法89条,20条1項後段に違反するものではないと解するのが相当である。このことは,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和46年(行ツ)第69号同52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁最高裁平成19年(行ツ)第334号同22年1月20日大法廷判決・民集64巻1号128頁)の趣旨に徴して明らかというべきである。論旨は採用することができない。

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