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最高裁判所第一小法廷判決平成24年02月16日

【事案】

1.上告人の施行する土地区画整理事業の施行地区内に存する11階建てマンション(以下「本件マンション」という。)の区分所有者でありその共用部分及び敷地(以下「本件土地」という。)を他の区分所有者とともに共有する被上告人らが,上告人から,土地区画整理法(平成17年法律第34号による改正前のもの。以下「法」という。)98条1項に基づき,本件土地につき仮換地の指定(以下「本件仮換地指定」という。)を受けた上,法77条2項に基づき,本件マンションの共用部分である受水槽等の移転をする旨の通知(以下「本件移転通知」という。)を受け,その移転工事(以下「本件工事」という。)が完了したことから,違法な本件仮換地指定並びに本件移転通知及びこれに基づく本件工事により損害を被ったとして,国家賠償法1条1項に基づき上告人に対し損害賠償を請求する事案。なお,被上告人らは,上告人に対し,本件移転通知の取消しを求めて訴えを提起したが,第1審で請求棄却の判決を受け,控訴したところ,その後本件工事が完了したため,原審において行政事件訴訟法21条に基づき損害賠償請求への訴えの変更をしたものである。

(参照条文)土地区画整理法

98条1項 施行者は、換地処分を行う前において、土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合又は換地計画に基づき換地処分を行うため必要がある場合においては、施行地区内の宅地について仮換地を指定することができる。・・略・・。
2項 施行者は、前項の規定により仮換地を指定し、又は仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を指定する場合においては、換地計画において定められた事項又はこの法律に定める換地計画の決定の基準を考慮してしなければならない。

77条1項 施行者は、第九十八条第一項の規定により仮換地・・略・・を指定した場合、第百条第一項の規定により従前の宅地若しくはその部分について使用し、若しくは収益することを停止させた場合又は公共施設の変更若しくは廃止に関する工事を施行する場合において、従前の宅地又は公共施設の用に供する土地に存する建築物その他の工作物又は竹木土石等(以下これらをこの条及び次条において「建築物等」と総称する。)を移転し、又は除却することが必要となつたときは、これらの建築物等を移転し、又は除却することができる。
2項 施行者は、前項の規定により建築物等を移転し、又は除却しようとする場合においては、相当の期限を定め、その期限後においてはこれを移転し、又は除却する旨をその建築物等の所有者及び占有者に対し通知するとともに、その期限までに自ら移転し、又は除却する意思の有無をその所有者に対し照会しなければならない。

89条1項 換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない。

2.事実関係等の概要

(1) 上告人は,平成4年1月17日に都市計画決定がされ同年9月14日に事業計画が定められた福岡都市計画事業筥崎土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行者である。本件事業は,本件土地の所在する福岡市A区Bの一部を含む27.8ha を施行地区とし,都市計画事業として施行される土地区画整理事業であり,公共施設の未整備,土地の細分化や家屋の密集などによる市街地環境の低下,道路と鉄道が平面交差することにより発生する交通事故や慢性的な交通渋滞等の問題を解消するため,本件事業の都市計画決定と同時に都市計画決定がされた鉄道の高架化を内容とする福岡都市計画都市高速鉄道事業九州旅客鉄道株式会社鹿児島本線及び篠栗線(以下「本件関連事業」という。)と併せて行われ,幹線道路,区画道路,箱崎駅前広場,公園等の公共施設の整備改善と宅地の利用の増進を図ることを目的とするものである。

(2) 上告人は,本件事業について換地の設計を行い,土地区画整理審議会の意見を聴いた上,平成8年11月に施行地区内全ての仮換地を決定し,平成9年3月から順次仮換地の指定をした。本件土地については,本件マンションの管理組合の役員や区分所有者に対する個別説明等を実施した上,平成17年8月29日,被上告人らを含む区分所有者に対し通知することにより,効力発生の日を同年9月1日として本件仮換地指定をした(以下,本件仮換地指定がされる前の本件土地を「本件従前地」,本件仮換地指定において本件土地の仮換地として指定された土地を「本件仮換地」という。)。本件仮換地指定は,本件従前地とほぼ同じ位置に本件仮換地を指定するいわゆる現地仮換地の方法によるものであって,本件マンションの移転や除却が必要となるものではないが,本件従前地と本件仮換地には次のような相違がある。

ア.本件従前地は,正方形に近い形状で,換地計画を定める基準として算出された地積が1480.03uであり,北側の1辺が幅員約8mの道路(以下「北側道路」という。)に,南側の1辺が幅員約5mの道路(以下「南側道路」という。)にそれぞれ接していた。南側道路は,本件従前地の東隣に南北方向に広がる鉄道敷地に突き当たり行き止まりとなっていたが,本件従前地の西方で南北方向に走る県道とつながっていた。本件マンションの電線は,南側道路の電柱から引き込まれており,本件マンションの下水の一部は,南側道路の下に埋設された排水管に排出されていた。

イ.本件仮換地は,その南東部において正方形の一角が東に向かって張り出した形状で(以下,この張り出した部分を「本件張り出し部分」という。),実測により測定された地積が1556uであり,本件従前地と比べて約5%増えている。本件事業の事業計画に従い,南側道路が廃止された一方,本件仮換地の東側に鉄道敷地に沿って南北方向に走る道路(以下「東側道路」という。)が新たに設けられており,本件仮換地は,北側道路に接しているほか,本件張り出し部分において東側道路に接している。なお,本件事業により北側道路の幅員は17mとなったこと,また,東側道路の幅員は6mであることがうかがわれる。本件マンションの電線は,地下埋設方式となり,南側に排出されていた下水は,東側に排出されることになった。

ウ.本件事業により上記のとおり本件仮換地と鉄道敷地の間に東側道路が設けられたことに加え,本件関連事業により鉄道の高架化が実現したことから,本件マンションから線路までの距離は,本件事業開始前は14.9mであったが,現在は16.9mである。鉄道高架敷が本件マンションの3階付近の高さにあり,一部の階では鉄道の騒音が増加したものの,その増加後の騒音は従前の他の階の騒音と同程度のものであることがうかがわれ,また,3階以上では線路までの距離が本件事業開始前より近くなっているものの,カーテンや目隠しにより十分にプライバシー保護を図ることができる程度のものにとどまることがうかがわれる。

(3) 本件仮換地が上記のような形状及び地積となったのは,次の経緯によるものであった。
 上告人は,本件従前地につき,当初,その属する街区における関係権利者の公平を考慮して3%の減歩をすることを検討したが,それをすると本件マンションの容積率が建築基準法の定める数値を超えるため,敷地となる土地を加えることによりこれを避ける必要があると判断した(もっとも,平成9年6月13日に施行された平成9年法律第79号による建築基準法の改正により,建築物の容積率の算定の基礎となる延べ面積に共同住宅の共用の廊下又は階段の用に供する部分の床面積を算入しないこととされたため,本件仮換地指定当時には本件従前地につき3%の減歩をしても本件マンションの容積率が同法に違反することはなかったが,上告人は上記改正後に上記の判断を見直すことをしなかった。)。また,上告人は,南側道路が廃止されることから,本件仮換地が東側又は西側で道路と接するようにする必要があると判断した。
 こうして,本件従前地につき3%の減歩をすれば地積が1435uとなるところ,これに121uの本件張り出し部分が加えられて本件仮換地となり,その地積が1556uとなったものである。

(4) 上告人は,南側道路が廃止され,本件仮換地が本件張り出し部分において東側道路と接することになったことに伴い,本件従前地の南側部分に存した本件マンションの共用部分である受水槽,フェンス,雨水汚水設備その他工作物一式を本件張り出し部分等に移転する必要があると判断し,本件マンションの区分所有者を対象とした移転補償説明会を実施し,移転の必要性等を説明した上,平成18年10月4日,被上告人らを含む本件マンションの区分所有者に対し,期限を同年12月10日と定め,その後に上告人がその移転を行うものとする本件移転通知をした。

(5) 上告人は,平成21年11月5日,本件移転通知に基づく本件工事に着手し,平成22年5月20日にこれを完了した。
 本件工事完了後,本件仮換地の南側部分に設けられた駐車場は,本件従前地上にあった当時と比較すると一部の駐車スペースが狭くなるなど利用しづらくなっているものの,自動車を駐車すること自体に支障はなく,また,東側道路からの緊急車両の進入は可能であり,救助活動が阻害される状況もうかがわれない。

3.原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,本件仮換地指定の違法を理由とする損害賠償請求として,被上告人らの上告人に対する前記請求を各自55万円(慰謝料50万円,弁護士費用5万円)及び遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
 平成9年法律第79号による建築基準法の改正の結果,本件従前地につき3%の減歩をしても本件マンションの容積率が同法違反となることはなかったから,特別の事情がない限り,本件マンションの敷地を増やす必要はなかったものである。本件仮換地と北側道路以外の道路との接続を図る必要があるとしても,本件張り出し部分を加えることなく,南側道路を延長して新設の東側道路とつなぎ,従前の電線や下水排水施設をそのまま利用し,本件マンションの区分所有者の経済的負担をなるべく軽減するという,より合理的な仮換地案も十分に考えられた。本件仮換地指定は,必要のない敷地の増加により不整形な本件仮換地を作り出し,本件マンションの区分所有者に清算金の負担等の経済的不利益を発生させた上,駐車場の配置等の点においても不利益を生じさせており,本件従前地と本件仮換地は,宅地の位置,地積,利用状況等において照応しないことが明らかである。したがって,本件仮換地指定は上告人の裁量権の範囲を逸脱したものであり,違法である。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 土地区画整理事業の施行者は,法98条1項に基づいて仮換地を指定する場合において,法89条1項所定の基準を考慮してしなければならないところ(法98条2項),土地区画整理は,施行者が一定の限られた施行地区内の宅地につき,多数の権利者の利益状況を勘案しつつそれぞれの土地を配置していくものであり,また,仮換地の方法は多数あり得るから,具体的な仮換地の指定を行うに当たっては,法89条1項所定の基準の枠内において,施行者の合目的的な見地からする裁量的判断に委ねざるを得ない面があることは否定し難いところである。そして,仮換地の指定は,指定された仮換地が,土地区画整理事業開始時における従前の宅地の状況と比較して,同項所定の照応の各要素を総合的に考慮してもなお,社会通念上不照応であるといわざるを得ない場合においては,上記裁量的判断を誤った違法のものと判断すべきである(最高裁昭和63年(行ツ)第104号平成元年10月3日第三小法廷判決・裁判集民事158号31頁参照)。

(2) 本件についてこれをみると,前記事実関係等によれば,次の諸事情を指摘することができる。
 本件仮換地は,本件従前地とほぼ同じ位置に指定されたいわゆる現地仮換地であり,本件マンションの移転や除却が必要となるものではなかった。本件従前地の地積が1480.03uであったのに対し,本件仮換地の地積は1556uであり,地積は約5%増加している。本件従前地が正方形に近い形状であったのに対し,本件仮換地はその南東部で本件張り出し部分が東側に張り出した形状となっており,その分だけ不整形になっているが,上記のとおり全体の地積は増加しており,本件張り出し部分はこの増加分にほぼ対応している。そして,本件従前地が北側道路のほかに南側道路に接していたのに対し,本件仮換地は,本件張り出し部分が加えられたことによって,北側道路のほかに東側道路に接しており,その利用状況として,2方向において自動車の出入りが可能な状況であることに変わりはなく,しかも,本件事業により北側道路の幅員は8mから17mへと広がり,南側道路の幅員が約5mであったのに対し東側道路の幅員は6mとなっているのであって,本件仮換地のマンションの敷地としての利用価値が本件従前地と比較して特に減少したとは認め難い。また,本件仮換地における電線や排水管等の設備の利便性が本件従前地と比較して低下したとはいえない。
 さらに,近隣の鉄道の騒音やその線路との距離といった本件仮換地の環境条件が本件事業及び本件関連事業開始前における本件従前地の環境条件と比較して特に悪化しているとはうかがわれない。なお,本件事業の施行地区内の他のマンションが鉄道の騒音を考慮して移転したなどの事実はうかがわれない。
 上記の諸事情を総合的に考慮すれば,本件仮換地が南側で道路に接していないことや本件張り出し部分が存在することによって不整形となっていることなどを勘案しても,本件仮換地指定は,社会通念上不照応なものであるとはいえないというべきである。したがって,本件仮換地指定は,上告人が前記の裁量的判断を誤ってしたものとはいえず,照応の原則を定める法89条1項に違反するものではない。

(3) 原審は,照応原則違反の有無を判断するに当たり,南側道路を廃止しないで延長するとした場合に想定される仮換地案と本件仮換地とを比較検討すべきである旨をいうが,事案2(2)イのとおり南側道路の廃止は本件事業の事業計画において定められたものであるから,照応原則違反の有無は上記(2)のとおりその廃止を所与の前提として判断すべきものである(なお,南側道路を廃止することとした点において本件事業の事業計画決定に違法があることを認めるに足りる事情もうかがわれない。)。また,原審は,本件マンションの区分所有者に清算金の負担が生ずることを考慮すべきである旨をいうが,清算金は換地処分が行われその公告があった日の翌日において確定するものである(法104条8項,103条4項)から,本件仮換地指定の時点において実際に清算金の負担が生ずるか否かは明らかでない上,清算金の負担の有無や額によって本件仮換地指定についての照応原則違反の有無の判断が左右されるものではない。

(4) 以上のとおり,本件仮換地指定は法89条1項に違反するものではなく,他にこれを違法と認めるに足りる事情もうかがわれないから,本件仮換地指定に違法があるということはできない。

2.以上によれば,上告人に対して本件仮換地指定の違法を理由として損害賠償を求める被上告人らの前記請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして,同部分に関する被上告人らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却すべきである。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成24年02月20日

【事案】

 犯行時18歳の少年であった被告人が,(1) 山口県光市内のアパートの一室において,当時23歳の主婦(以下「被害者」という。)を強姦しようと企て,同女の背後から抱き付くなどの暴行を加えたが,激しく抵抗されたため,同女を殺害した上で姦淫の目的を遂げようと決意し,その頸部を両手で強く絞め付けて,同女を窒息死させて殺害した上,強いて同女を姦淫した殺人,強姦致死,(2) 同所において,当時生後11か月の被害者の長女(以下「被害児」という。)が激しく泣き続けたため,(1)の犯行が発覚することを恐れ,同児の殺害を決意し,同児を床にたたき付けるなどした上,同児の首に所携のひもを巻いて絞め付け,同児を窒息死させて殺害した殺人,(3) さらに,同所において,現金等が在中する被害者の財布1個を窃取した窃盗からなる事案。

(参照条文)少年法51条

 罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科する。

2 罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、無期刑をもつて処断すべきときであつても、有期の懲役又は禁錮を科することができる。この場合において、その刑は、十年以上十五年以下において言い渡す。

【判旨】

 (1),(2)の各犯行は,被害者を殺害して姦淫し,その犯行の発覚を免れるために被害児をも殺害したのであって,各犯行の罪質は甚だ悪質であり,動機及び経緯に酌量すべき点は全く認められない。強姦及び殺人の強固な犯意の下で,何ら落ち度のない被害者らの尊厳を踏みにじり,生命を奪い去った犯行は,冷酷,残虐にして非人間的な所業であるといわざるを得ず,その結果も極めて重大である。被告人は,被害者らを殺害した後,被害者らの死体を押し入れに隠すなどして犯行の発覚を遅らせようとしたばかりか,被害者の財布を盗み取って(3)の犯行に及ぶなど,殺人及び姦淫後の情状も芳しくない。遺族の被害感情はしゅん烈を極めている。被告人は,原審公判においては,本件各犯行の故意や殺害態様等について不合理な弁解を述べており,真摯な反省の情をうかがうことはできない。平穏で幸せな生活を送っていた家庭の母子が,白昼,自宅で惨殺された事件として社会に大きな衝撃を与えた点も軽視できない。
 以上のような諸事情に照らすと,被告人が犯行時少年であったこと,被害者らの殺害を当初から計画していたものではないこと,被告人には前科がなく,更生の可能性もないとはいえないこと,遺族に対し謝罪文と窃盗被害の弁償金等を送付したことなどの被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人の刑事責任は余りにも重大であり,原判決の死刑の科刑は,当裁判所も是認せざるを得ない。

【宮川光治反対意見】

1.私も,多数意見と同じく,被告人の本件行為は,(1) 被害者に対する殺人,強姦致死,(2) 被害児に対する殺人,そして,(3) 窃盗にそれぞれ該当すると考える。被告人の弁解は不合理であり,遺族がしゅん烈な被害感情を抱いていることは深く理解できる。被告人の刑事責任は誠に重い。私が多数意見と意見を異にするのは,次の点である。被告人は犯行時18歳に達した少年であるが,その年齢の少年に比して,精神的・道徳的成熟度が相当程度に低く,幼いというべき状態であったことをうかがわせる証拠が本件記録上少なからず存在する。精神的成熟度が18歳に達した少年としては相当程度に低いという事実が認定できるのであれば,そのことは,本件第1次上告審判決(最高裁平成14年(あ)第730号同18年6月20日第三小法廷判決・裁判集刑事289号383頁)がいう「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情」に該当し得るものと考える。また,精神的成熟度が相当程度低いという事実が認定できるのであれば,強姦の計画性を含め本件行為の犯情等の様相が変わる可能性がある。以下,詳述する。

2.いわゆる永山事件の差戻し前控訴審は,被告人が劣悪な生育環境であったことをとらえ,「犯行当時19歳であったとはいえ,精神的な成熟度においては実質的に18歳未満の少年と同視し得る状況にあったとさえ認められるのである」として,これを量刑判断の一事情として1審の死刑判決を破棄し,無期懲役を言い渡した(東京高裁昭和54年(う)第1933号同56年8月21日判決・東高時報32巻8号46頁)。これに対し,最高裁は,犯行時19歳3か月ないし19歳9か月の年長少年であった「被告人の精神的成熟度が18歳未満の少年と同視しうることなどの証拠上明らかではない事実を前提として本件に少年法51条の精神を及ぼすべきであるとする原判断は首肯し難い」として,破棄し差し戻した(最高裁昭和56年(あ)第1505号同58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁)。この最高裁判決は,被告人の精神的成熟度が18歳未満の少年と同視し得ることが証拠上明らかな場合に少年法51条の精神を及ぼすことができるかどうかについては,これを否定してはいない。本件第1次上告審判決は,被告人の生育環境について,「実母が被告人の中学時代に自殺したり,その後実父が年若い外国人女性と再婚して本件の約3か月前には異母弟が生まれるなど,不遇ないし不安定な面があったことは否定することができないが,高校教育も受けることができ,特に劣悪であったとまでは認めることができない」とした上,「結局のところ,本件において,しん酌するに値する事情といえるのは,被告人が犯行当時18歳になって間もない少年であり,その可塑性から,改善更生の可能性が否定されていないということに帰着する」が,そのことは,「相応の考慮を払うべき事情ではあるが,死刑を回避すべき決定的な事情であるとまではいえ」ないとしている。第1次上告審判決は,被告人の生育環境が特に劣悪であったとまでは認められないとし,被告人が18歳になって間もないということでは死刑を回避する決定的事情とはなり得ないといっているのであり,被告人の精神的成熟度が18歳未満の少年と同視し得る状態であったことが証拠上認められる場合に,それが,「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情」に該当するということを,否定してはいない。

3.もっとも,原判決が指摘しているとおり,少年法51条1項は,死刑適用の可否につき18歳未満か以上かという形式的基準を設けているのであり,精神的成熟度及び可塑性の要件を求めていないのであるから,精神的成熟度が不十分であるからといって少年法51条1項を準用し死刑の選択を回避すべきであるということには直ちにならない。しかしながら,「少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ)」(1985年)は,少年保護の基本理念に基づいて,「死刑は,少年が行ったどのような犯罪に対しても,これを科してはならない」としているのであり(17条2項。「少年」とは,各国の法制度の下で犯罪のゆえに成人とは異なる仕方で扱われることのある児童もしくは青少年である。2条2項(a)),留保的表現がなく,およそ,少年について死刑の選択は許さないという考えが明瞭である。18歳以上の少年に死刑を認める少年法51条1項は,この趣旨に合わない。もっとも,上記北京ルールズは,国連総会で採択された決議にすぎず,法的拘束力はない。北京ルールズ自らも「この規則の実施は,各加盟国の経済的,社会的・文化的条件に応じて進められなければならない」(1条5項)としている。我が国は,指導理念としてこれを尊重し,実現に向けて努力すべきものであり,少なくとも,少年法51条1項は死刑をできる限り回避する方向で適用されなければならないと思われる。また,刑法41条は14歳未満の者の行為は罰しないとしており,16歳未満の者は故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合であっても家庭裁判所から検察官へ原則送致はされない(少年法20条2項)。これらの背景には,行為規範の内在化が特に進んでいない年少少年の行為については,刑法的に非難することは相当でなく,刑罰による改善効果も威嚇効果(犯罪防止効果)も期待できないという考えがあると思われる。
 以上を総合して考えると,精神的成熟度が少なくとも18歳を相当程度下回っていることが証拠上認められるような場合は,死刑判断を回避するに足りる特に酌量すべき事情が存在するとみることが相当である。

4.少年刑事事件の審理においては,「少年,保護者又は関係人の行状,経歴,素質,環境等について,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用」するよう努めることが要請されている(少年法50条,9条,刑訴規則277条)。この専門科学的解明の要請は,本件のように死刑を適用するかどうかが争点となっている事件では,特に強く働くものといわなければならない。本件では,少年調査記録のうち鑑別結果通知書(1審甲218号証)と少年調査票(1審甲219号証)が取り調べられている。鑑別結果通知書の総合所見は,被告人の「内面の未熟さが顕著である」とし,自殺した「母親と父親からの見捨てられ感は強烈」であるとしている。少年調査票の家庭裁判所調査官3名の意見は,小学校入学前後から激しくなった両親の諍い,父親の暴力,被告人の被虐意識,中学1年時の母親の自殺等が被告人の精神形成に影響を与えたことを示している。父親の暴力は,1審,第1次控訴審,第1次上告審では取り上げられていないが,12歳時における母親の自殺とともにこの事実が被告人の幼少年期において与えた影響をどう評価するかは,本件の重要なポイントでもあると思われる。以上について,原判決は,同情すべきものがあり,人格形成や健全な精神の発達に影響を与えた面があることも否定できないが,「経済的に何ら問題のない家庭に育ち,高校教育も受けることができたのであるから,生育環境が特に劣悪であったとはいえない」とするにとどめている。しかしながら,家庭裁判所調査官は,「3歳以前の生活史に起因すると思われる深刻な心的外傷体験や剥奪,あるいは内因性精神病の前駆等により人格の基底に深刻な欠損が生じている可能性も疑える」と記述しているのであり,鑑別結果通知書中においても,顕著な内面の未熟さのほか,幼児的万能感の破綻,幼児的な自我状態が指摘されている。そして,家庭裁判所調査官は心理テスト(TAT:絵画統覚検査)結果の解釈として,「いわゆる罪悪感は浅薄で未熟であり,発達レベルは4,5歳と評価できる」と記述し,バウムテスト(ツリーテスト)でも「幼稚で自己愛が強く」と記述している。これについて,原判決は,「TATの結果のみから精神的成熟度を判断するのは相当でない上,前後の文脈に照らすと,この記載は,主として被告人の罪悪感に関する発達レベルを評価したものと解される」と述べているが,それ以上の付言はない。罪悪感に関する発達レベルとは,行為規範の内在化がどの程度進んでいるかということであり,行為の是非を弁別する能力の発達レベルそのものであろう。それは,精神的成熟度の重要な指標と考えるべきものでもあろう。「4,5歳」であるとの評価には疑問もあるが,家庭裁判所調査官の認識は被告人においては行為規範の内在化はかなり遅れており,人格的成長は幼いというものであったと思われる。原審においては,これら少年調査記録の内容を基に,被告人の人格形成や精神の発達に何がどのように影響を与えたのか,犯行時の精神的成熟度のレベルはどのようなものであったかを分析し,測るという作業が必要であった。

5.本件においては,被告人側から,B教授の「犯罪心理鑑定報告書」(原審弁9号証)とC教授の「精神鑑定書」(原審弁10号証)が証拠として提出されており,2人の証人尋問が行われている。前者は,それぞれ2時間前後をかけた8回の被告人面接調査を行い,幾つかのテストを実施したほか,父親に4回,母親の妹,義母,高校時代の指導教員,同級生2名にそれぞれ1回の面接調査を行い,各判決書,公判記録,捜査段階の調書,書簡等の資料,前記少年調査記録を参照した上での,犯罪非行臨床心理学の専門家としての知見に基づく鑑定報告である。後者は,被告人とそれぞれ2時間をかけて3回の面接調査を行い,父親,友人1名,被告人の祖母及び母親の妹に面接調査を行い,その他捜査段階の調書を除く前記資料を参照した上での,精神医学,とりわけ青少年の精神病理に関する研究者・医師としての専門的知見に基づく鑑定報告である。B鑑定における「母胎回帰ストーリー」という動機が存在するという鑑定意見は採用できない。しかし,被告人が母親の自殺による急激な自己愛剥奪の影響を強く受けていること,父親との関係での被虐待経験の後遺症があること,身体的性の成熟に対してそれを統制できる精神的成熟が著しく遅れていること,人格の統合性,連続性が乏しく,社会的自我の形成がなされていなかったこと等の意見は,無視できない説得力を有していると思われる。また,C鑑定意見のうち,被告人の人格発達は極めて幼いこと,その原因は,被告人が父親の暴力に母親とともにさらされ,その恐怖体験が持続的な精神的外傷となっており,またそうした暴力を振るう父親に恐怖しながら,強い父親に受け入れてもらいたいという矛盾する感情に引き裂かれてもいること,こうした生育歴の中で被告人は同年齢の者よりも幼い状態であったが,12歳の頃,母親が苦しみ抜いて自殺したことを目撃するという強烈で決定的な精神的外傷体験があり,この結果として,被告人の精神的発達はこの時点の精神レベルに停留しているところがあるという意見は,説得力があると思われる。二つの鑑定意見は,被告人が述べることのみによらず総合的に判断しているとみることができるが,相互に関連し合い,前記少年調査記録とも相応している。

6.原判決は,被告人がそれまでの供述を原審において翻し虚偽の弁解を弄しているとしてこれを厳しく批判し,このこと自体,被告人の反社会性が増進したことを物語り,改善更生の可能性を大きく減殺する事情といわなければならないと指摘している。私も,被告人の原審における供述態度を誠に残念に思う。しかし,人は関係の中でしか成長しないのであって,人間的成熟が12歳かそれを幾ばくか超えたところで停滞しているのであれば,その状態で教育的処遇を受けることなく,拘置の歳月を8年,9年と過ごしたとして,反省・悔悟する力は生まれない。不合理で破綻しているとしかみることができない弁解に固執していることは事実であるが,これを原判決のように「反社会性が増進した」と厳しく批判するのは酷であろう。被告人は,適切な処遇を得れば,時間を必要とするが,自己を変革し犯した罪と正しく向き合うよう成長する可能性があるとみることもできるのであり,前記鑑別結果通知書も,被告人について,公判段階を通じ,被害者の苦悩についての厳しい現実等に直面させる中で,真に贖罪の気持を喚起させることが必要であるが,その作業は,事件の重さに応じた相応の期間を要し,また,精神的なサポートを受け,ある程度安定した状態にないと困難であるため,定期的なカウンセリングが望まれるとしている。記録によると,被告人は精神安定剤を多量に服用するという日々が続いていたことがうかがわれるが,平成16年2月,自ら進んで教誨師による教誨を受け始める等,年月を経て,現在は,次第に事実と向き合い,贖罪の気持ちを高めつつあることをうかがうことができる。

7.被告人の精神的成熟度が相当程度低いということが認定できるのであれば,本件犯行の犯情(計画性,故意の成立時期等)及び犯行後の行動に関わる情状についての理解も変わってくる可能性がある。本件は,被告人の人格形成や精神の発達に何がどのように影響を与えたのか,犯行時の精神的成熟度のレベルはどのようなものであったかについて,少年調査記録,B鑑定及びC鑑定を的確に評価し,さらには必要に応じて専門的智識を得る等の審理を尽くし,再度,量刑事情を検討して量刑判断を行う必要がある。したがって,原判決は破棄しなければ著しく正義に反するものと認められ,本件を原裁判所に差し戻すことを相当とする。

【金築誠志補足意見】

 私は,多数意見に賛成するものであるが,宮川裁判官の反対意見に鑑み,若干の意見を付加しておくこととしたい。
 反対意見の結論は,再度,量刑事情を検討して量刑判断を行う必要があるから,その点の審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すことが相当というものである。
 そこで,原審における審理経過をみてみると,被告人が,第1次上告審に至り従前の供述を翻して,犯行の態様,故意等につき新たな供述(以下「新供述」という。)を始めたため,原審においては,12回にわたって公判が開かれ,多数の書証,証人等が取り調べられたほか,詳細な被告人質問が実施された。弁護人の請求にかかる証拠で却下されたものもあるが,重要な証拠であるにもかかわらず却下したのは不当であるとして異議が申し立てられたものはない。取り調べた証拠の立証趣旨は,犯行態様,故意等のいわゆる罪体に関するものが多いが,そうした証拠の中にも,同時に,反対意見が問題とする犯行時の被告人の精神的成熟度をみる上でも重要な意味を持つものが少なくない。特に被告人の生育歴,生育環境と被告人の精神的発達度,犯行時の心理状態等については,弁護人の請求によりB作成の犯罪心理鑑定報告書及びC作成の精神鑑定書が取り調べられ,各作成者の証人尋問も行われている。また,第1審及び差戻し前の控訴審においては,当時は被告人が起訴事実をほぼ全面的に認めていたため,主として量刑事情に焦点を当てた審理が行われ,少年調査記録中の鑑別結果通知書及び少年調査票も取り調べられている。
 もっとも,上記犯罪心理鑑定報告書が提示する「母胎回帰ストーリー」を,原判決は排斥している。「母胎回帰ストーリー」は,被告人は母子一体の世界を希求する気持ちが大きかったところ,被害児を抱く被害者の中に母親類似の愛着的心情を投影し,甘えを受け入れて欲しいという感情から抱き付いたのが犯行の発端であり,被害者を殺害後に姦淫したのも自分を母親の胎内に回帰させる母子一体化の実現であるなどとするものであるが,この見解は,被告人の新供述を前提としている。しかし,新供述が基本的な部分において信用できないものであることは,原判決が詳細,適切に検討しているとおりであって,反対意見においても,被告人の弁解は不合理であり,「母胎回帰ストーリー」は採用できないとされている。また,C鑑定書も,犯行の動機,経緯について,被告人の新供述を前提として考察を加えている。したがって,母親の自殺,父親の暴力等が被告人の人格形成に大きな影響を与えたことは,被告人のために酌むべき事情であるが,上記鑑定書等によって直接これを犯行の動機等に結び付けることは,相当ではない。
 原判決は,生育環境に上記のような同情すべきものがあったこと,知能水準は中程度であって知的能力には問題がないが精神的成熟度は低いことを認定した上,独り善がりな自己中心性が強いことや,衝動の統制力が低いことなど,被告人の人格や精神の未熟が本件犯行の背景にあることは否定し難いとしつつ,本件犯行の罪質,動機,態様,結果に鑑みると,これらの点は量刑上十分考慮すべき事情ではあるものの,被告人が犯行時18歳になって間もない少年であったことと合わせて十分斟酌しても,死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情であるとまではいえないと判断している。原審は,被告人の人格形成上の問題,精神的成熟度について,審理することを怠ってはいないし,判決においてこれを等閑視しているわけでもないのである。
 反対意見は,精神的成熟度が少なくとも18歳を相当程度下回っていることが証拠上認められるような場合は,第1次上告審判決(最高裁平成14年(あ)第730号同18年6月20日第三小法廷判決・裁判集刑事289号383頁)がいう「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情」が存在するとみることが相当であるとし,原審はこの観点からの審理・検討が不十分であるとするものである。しかし,精神的成熟度が18歳を相当程度下回っているかどうかを判断するためには,18歳程度の精神的成熟度とは,どのような精神的能力をどの程度備えていなければならないか,どのような要件を満たすものでなければならないかを明らかにした上で,それとの乖離の程度を判定しなければならないが,人の精神的能力,作用は極めて多方面にわたり,それぞれの発達度は個人個人で偏りが避けられないものであるのに,果たして,そのような判断を可能にする客観的基準や信頼し得る調査の方法があるのであろうか。少年法51条1項が死刑適用の可否につき定めるところは18歳未満か以上かという形式的基準であり,精神的成熟度及び可塑性の要件を求めていないことは,反対意見にもあるとおりであり,少年法のその他の規定で年齢が要件となっているものの中にも,実質的な精神的成熟度を問題にしている規定は存在しない。本件の第1次上告審判決はもちろん,いわゆる永山事件の最高裁判決(最高裁昭和56年(あ)第1505号同58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁)も,精神的成熟度が18歳未満の少年と同視し得るかどうかを判別して,死刑適用の可否を判断すべきことを求めているものとは解されない。
 精神的成熟度は,いわゆる犯情と一般情状とを総合して量刑判断を行う際の,一般情状に属する要素として位置付けられるべきものであり,そのような観点から量刑に関する審理・判断を行った原審に,審理不尽の違法があるとすることはできないと考える。

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