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最高裁判所第一小法廷判決平成24年02月20日

【事案】

1.交通事故によって死亡したAの両親である第1審原告らが,加害車両の運転者である第1審被告Y1に対しては民法709条に基づき,加害車両の保有者である第1審被告Y2に対しては自動車損害賠償保障法3条に基づき,損害賠償を求める事案。第1審原告らは,第1審原告X1が自動車保険契約を締結していた保険会社から,上記保険契約に適用される普通保険約款中の人身傷害条項に基づき,保険金の支払を受けたことから,上記保険会社による損害賠償請求権の代位取得の範囲等が主たる争点となった。

2.事実関係の概要等

(1) Aは,平成17年5月1日午後6時40分頃,横断歩道の設けられていない道路を横断中,前方注視を怠るなどして上記道路を進行してきた第1審被告Y1が運転し,第1審被告Y2が保有する普通乗用自動車に衝突され,脳挫傷,気管挫裂傷等の傷害を負い(以下,この事故を「本件事故」という。),入院治療を受けたが,同年11月26日,死亡した。

(2) 本件事故によりAが被った損害は合計7828万2219円であるが,本件事故におけるAの過失割合が10%であることから,上記割合により過失相殺をすると,Aが第1審被告らに対して賠償請求をすることができる損害金(以下,単に「Aの損害金」という。)の額は,7045万3997円となる。Aの両親である第1審原告らは,Aの第1審被告らに対する損害賠償請求権を2分の1ずつ相続により取得した。

(3) 第1審原告らは,本件事故によりAが被った損害につき,公立学校共済組合から123万9297円の,第1審被告Y2から793万0904円の各支払を受けた。その結果,第1審原告らが第1審被告らに対して賠償請求をすることができるAの損害金の残元本は,上記(2)の7045万3997円から上記各支払額を控除した6128万3796円となった。

(4) 第1審原告X1固有の損害は,270万円であり,第1審原告X2固有の損害は,160万円である。

(5) 第1審原告X1は,本件事故当時,B(以下「訴外保険会社」という。)との間で,人身傷害条項のある普通保険約款(以下「本件約款」という。)が適用される自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結しており,Aは,上記条項に係る被保険者であった。

(6) 本件約款中の人身傷害条項には,要旨,次のような定めがあった。

ア.訴外保険会社は,日本国内において,自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により,被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者又はその父母,配偶者若しくは子が被る損害に対し,保険金を支払う。

イ.訴外保険会社は,被保険者の故意又は極めて重大な過失(事故の直接の原因となり得る過失であって,通常の不注意等では説明のできない行為(不作為を含む。)を伴うものをいう。)によって生じた損害に対しては,保険金を支払わない。

ウ.訴外保険会社が保険金を支払うべき損害の額は,本件約款所定の算定基準に従い算定された金額の合計額(以下「人傷基準損害額」という。)とする。

エ.訴外保険会社が支払う保険金の額は,人傷基準損害額から@保険金請求権者が賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額及びA上記アの損害を補償するために支払われる給付で保険金請求権者が既に取得したものがある場合はその取得額等を差し引いた額とする。

オ.保険金請求権者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合には,訴外保険会社は,その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で,保険金請求権者がその他人に対して有する権利を取得する(以下「本件代位条項」という。)。

(7) 本件約款には,訴外保険会社が上記(6)アの損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めはない。

(8) Aについての人傷基準損害額は,6741万7099円である。第1審原告らは,平成19年10月25日,本件事故によりAが被った損害につき,訴外保険会社から,本件約款中の人身傷害条項に基づき,保険金として,上記の人傷基準損害額から上記(3)の各支払額を差し引いた5824万6898円(以下「本件保険金」という。)の支払を受けた。

(9)ア.第1審原告X1の請求(当審における減縮後のもの)は,以下の金員の支払を求めるものである。

(ア) Aの損害金の残元本の2分の1である924万3908円

(イ) 固有の損害金元本330万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金(民法所定年5分の割合によるもの。以下同じ。)41万0465円

(ウ) 上記(ア)の924万3908円及び上記(イ)の330万円の合計1254万3908円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

イ.第1審原告X2の請求(当審における減縮後のもの)は,以下の金員の支払を求めるものである。

(ア) 上記ア(ア)と同じ

(イ) 固有の損害金元本210万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金26万1205円

(ウ) 上記ア(ア)の924万3908円及び上記(イ)の210万円の合計1134万3908円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

ウ.第1審原告らは,主位的には,本件保険金を支払った訴外保険会社はAの損害金の残元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求権を代位取得すると主張して,上記ア及び上記イの各(ア)のAの損害金の残元本を請求しているが,予備的に,仮に,本件保険金を支払った訴外保険会社が上記遅延損害金の支払請求権を代位取得しないのであれば,第1審原告らは上記遅延損害金の2分の1の支払請求権を有していると主張しており,それぞれ,Aの損害金の残元本の2分の1である543万2560円及び上記遅延損害金の2分の1である381万1348円を請求しているとみられることは,記録上明らかである。

3.原審は,上記事実関係の下に,以下の(1)及び(2)の理由により,第1審原告らが第1審被告らに対して請求することができるAの損害金の元本を各532万9797円とし,第1審原告らの請求を,上記の532万9797円と第1審原告ら各自の固有の損害金元本(第1審原告X1につき270万円,同X2につき160万円)との合計額及びこれに対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で,これを認容すべきものと判断したが,第1審原告ら各自の固有の損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求については,特段の理由を示すことなくこれを棄却すべきものと判断した。

(1) 本件保険金は,民法491条に準じて,まず,上記2(3)のAの損害金の残元本に対する本件保険金支払日までの遅延損害金762万2696円に充当される。

(2) 本件保険金のうち上記(1)のとおり充当された残額である5062万4202円については,その全額が上記2(3)のAの損害金の残元本に充当され,その結果,Aの損害金の残元本は,1065万9594円となる。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 本件約款中の人身傷害条項に基づき,被保険者である交通事故等の被害者が被った損害に対して保険金を支払った訴外保険会社は,上記保険金の額の限度内で,これによって填補される損害に係る保険金請求権者の加害者に対する賠償請求権を代位取得し,その結果,訴外保険会社が代位取得する限度で,保険金請求権者は上記請求権を失い,上記請求権の額が減少することとなるところ(最高裁昭和49年(オ)第531号同50年1月31日第三小法廷判決・民集29巻1号68頁参照),訴外保険会社がいかなる範囲で保険金請求権者の上記請求権を代位取得するのかは,本件保険契約に適用される本件約款の定めるところによることとなる。

(2) 本件約款によれば,上記保険金は,被害者が被る損害の元本を填補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を填補するものではないと解される。そうであれば,上記保険金を支払った訴外保険会社は,その支払時に,上記保険金に相当する額の保険金請求権者の加害者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって,損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではないというべきである。

(3) 次に,被保険者である被害者に,交通事故の発生等につき過失がある場合において,訴外保険会社が代位取得する保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権の範囲について検討する。
 本件約款によれば,訴外保険会社は,交通事故等により被保険者が死傷した場合においては,被保険者に過失があるときでも,その過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされているのであって,上記保険金は,被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として,被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず填補する趣旨・目的の下で支払われるものと解される。上記保険金が支払われる趣旨・目的に照らすと,本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は,保険金請求権者が,被保険者である被害者の過失の有無,割合にかかわらず,上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)を確保することができるように解することが合理的である。
 そうすると,上記保険金を支払った訴外保険会社は,保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。

(4) なお,第1審原告ら固有の損害の賠償債務は,本件事故時に発生し,かつ,何らの催告を要することなく,遅滞に陥ったものであるから(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),第1審原告ら固有の損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求が否定される理由はない。

2(1) 前記事実関係等及び上記1で説示したところによれば,訴外保険会社は,本件保険金5824万6898円とAの損害金元本7045万3997円との合計額1億2870万0895円が,本件事故によりAが被った損害である事案2(2)の7828万2219円を上回る部分である5041万8676円の範囲で,Aの損害金元本の支払請求権を代位取得し,その限度で第1審原告らが第1審被告らに請求することができるAの損害金の残元本の額が減少することとなる。そして,事案2(3)のAの損害金の残元本6128万3796円から上記の5041万8676円を控除すると,第1審原告らが第1審被告らに請求することができるAの損害金の残元本は,1086万5120円となる。

(2)ア.そうすると,第1審原告X1の請求は,以下の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。

(ア) 上記Aの損害金の残元本の2分の1である543万2560円及び事案2(3)のAの損害金の残元本6128万3796円に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の2分の1である381万1348円

(イ) 固有の損害金元本270万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金33万5835円

(ウ) 上記(ア)の543万2560円及び上記(イ)の270万円の合計813万2560円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

イ.また,第1審原告X2の請求は,以下の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。

(ア) 上記ア(ア)と同じ

(イ) 固有の損害金元本160万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金19万9013円

(ウ) 上記ア(ア)の543万2560円及び上記(イ)の160万円の合計703万2560円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

【宮川光治補足意見】

 本件約款の人身傷害条項は,自動車事故によって被保険者が死傷した場合に所定の基準により算定された損害の額に相当する保険金を支払うという傷害保険を定めるものである。同保険では,被保険者は迅速な損害填補を受けることができるのであるから,判決による遅延損害金をも填補している賠償責任条項とは異なって,損害金元本に対する遅延損害金を填補していない。保険代位の対象となる権利は,保険による損害填補の対象と対応する損害についての賠償請求権に限定されるのであるから(対応の原則),原審が本件保険金について民法491条を準用し損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金に充当するとしたことは,相当でない。
 被害者に過失がある場合において,保険金を支払った保険者が代位取得する損害賠償請求権の範囲については,諸説がある。法廷意見は,人身傷害保険の趣旨・目的に照らすといわゆる裁判基準差額説と呼ばれている見解が合理的であるとするものであるが,本件約款の人身傷害条項においては損害や保険金を過失割合に応じて按分するという考えを採っていないこと,保険法25条1項が一部保険に関していわゆる差額説を採用したことにも相応すること,そして,そもそも平均的保険契約者の理解に沿うものと認められることから,支持できると思われる。本件約款の人身傷害条項は,賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額等がある場合は,保険金の額はそれらの合計額を差し引いた額とすると定めている。これを字義どおり解釈して適用すると,一般に人身傷害条項所定の基準は裁判基準を下回っているので,先に保険金を受領した場合と比較すると不利となることがある。そうした事態は明らかに不合理であるので,上記定めを限定解釈し,差し引くことができる金額は裁判基準損害額を確保するという「保険金請求権者の権利を害さない範囲」のものとすべきであると考えられる。

 

最高裁判所第一小法廷決定平成24年02月22日

【事案】

1.実母及び実子2名を殺害し,その保険金等を詐取したとして起訴された事案につき,被告人の自白の信用性を否定するなどして無罪とした第1審判決を維持した原判決が是認された事案。

2.本件殺人,放火事件に係る公訴事実の要旨は,「被告人は,借金の返済等に窮したことから,実母であるB(当時53歳)の死亡保険金等を入手するため,Bを殺害した上,B方に放火するなどしようと企て,(1) 平成13年1月17日午前3時過ぎ頃,広島市西区内のB方において,殺意をもって,Bの頚部を両手で強く絞め付け,よって,その頃,同所において,Bを窒息死させて殺害した。(2) 同日午前3時30分頃,B方2階で就寝中の実妹C(当時28歳),長女D(当時8歳)及び二女E(当時6歳)を死亡させることもやむなしと決意し,同人らが現に住居に使用するB方(木造瓦葺2階建,床面積合計約63u)1階6畳間のベッド,たんす,カーペット,灰皿等に灯油をまいた上,所携のライターで上記灰皿内のたばこの吸いがらに点火して火を放ち,その火を壁,柱等に燃え移らせ,よって,その頃,B方を全焼させて焼損するとともに,D及びEの両名をいずれも焼死させて殺害したが,Cについては,同人が火災に気付いて屋外に退避したため,殺害するに至らなかった。」というものである。また,上記詐欺(共済金及び各保険金に関するもの。以下「本件保険金等詐欺事件」という。)の各事件に係る公訴事実の要旨は,「被告人は,(1) Bが同人を被保険者として住友生命保険相互会社との間に締結していた生命保険契約に基づく死亡保険金支払名下に同社から金員を詐取しようと企て,平成13年1月26日,広島市内の同支社の支部において,情を知らない同支部の保険外交員を介し,死亡保険金請求書等を,大阪市内の同社の契約審査部保険金課に送付し,同課の職員に対し,真実は被告人がBを殺害したものであるのに,これを秘し,Bが失火により焼死したように装って死亡保険金の支払請求をし,同課の職員をして,Bは失火により焼死したものと誤信させて保険金の支払手続を取らせ,よって,同年2月27日,同社から4121万9933円の交付を受けたほか,(2) 同様の方法で,平成13年1月31日,自己がD及びEを被保険者として全国生活協同組合連合会との間で締結していた生命共済契約に基づく死亡共済金799万6000円の交付を受け,同年2月2日,Bが同人の所有していた自動車を対象として日産火災海上保険株式会社との間に締結していた自動車保険契約に基づく車両保険金110万2500円の交付を受け,同月8日及び同年3月2日,Bが日本火災海上保険株式会社との間に締結していたB方家屋等を対象とした火災保険契約並びに被保険者をB,D及びEとする生命保険契約等を内容とする総合保険契約に基づく損害保険金及び死亡保険金合計2314万2575円の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた。」というものである。

3.第1審判決は,本件殺人,放火事件について,自己が犯人であるとする被告人の捜査段階の自白を信用することはできず,被告人がその犯人であると認めるには合理的な疑いが残るとし,本件保険金等詐欺事件についても,被告人が本件殺人,放火事件の犯人であることを前提とするものであるから,詐欺の事実を認めることはできないとして,被告人に対し,無罪を言い渡した。これに対し,検察官が事実誤認を理由に控訴したが,原判決は,第1審判決に事実誤認はないとして,控訴を棄却した。
 その理由は,次のとおりである。すなわち,原判決は,まず,本件殺人,放火事件の犯人が被告人であると認定できるほどの有力かつ確実な情況証拠は存在せず,被告人と犯行とを結び付ける唯一の証拠は,自己が犯人であるとする被告人の捜査段階の自白(以下「被告人の自白」という。)であるとした。その上で,原判決は,被告人の自白について,次の2点を理由にその信用性を否定した。

(1) 犯行の動機,目的についての被告人の自白は,Bに掛けられた生命保険金を取得するためというものであるが,被告人の自白における被告人の当時のBの生命保険契約についての認識は,Bが生命保険に入っているのではないか,入っているのであれば受取人は自分に決まっているし,1000万円くらいの保険金が出るのではないかと考えており,あとは,犯行をどうやって成功させるのかということを考えている時間が長かったので,保険証書を見てBの保険内容を確認することまで頭が回らなかったというものである。しかし,実母を殺害して保険金を手に入れようとし,その際に実妹や実子らが巻き込まれて死んでも仕方がないとまで考えている人間が,そこまでして手に入れようとしている生命保険契約やその保険金について,実に漠然とした認識しかなかったばかりか,それ以上のことを知ろうとすらしなかったというのは,明らかに不自然,不合理である。そして,被告人の自白において述べられている犯行動機の形成過程が,当初は自殺願望であったものが死刑願望に変わり,次いで一転して保険金取得目的に変わったという不自然なものであることを併せ考慮すると,被告人の自白の信用性に看過できない疑いを抱かせる。

(2) 犯行に当たりB方に灯油をまいた状況についての被告人の自白は,ポリタンク内の灯油(約1.5c)を,ベッド上に横たわり胸の少し下辺りまで掛け布団が掛かっていたBの体(ただし顔を除く)やその周辺にまき,さらに,ファンヒーターから取り出したカートリッジ内の灯油(約4c)を,ベッドの近くのミシン上に置いた灰皿,たんすの前面,Bの体(顔を含む)及びベッド上,ベッドの周りのカーペットやファンヒーター本体にまいたというものであるが,このような灯油撒布の態様で,被告人の手だけに灯油が付着し,その着衣等に灯油が付着しなかったというのは不自然である。そして,事件当日の午後に警察官が被告人を取り調べ,また,被告人の自動車内を調べているのに,被告人がその手で相当時間握ったはずの自動車のハンドルを含め,灯油の臭いに気付かなかったように,被告人の周辺のいずれにも灯油が付着した形跡を示す証拠がないことからすれば,被告人の自白の信用性に看過できない疑問を生じさせる。

 そして,原判決は,結論として,第1審判決が,本件殺人,放火事件及びその犯人が被告人であることを前提とする本件保険金等詐欺事件のいずれについても犯罪の証明がないとして被告人を無罪としたことに事実の誤認はないとした。

【判旨】

1.上記原判断に論理則,経験則等に照らして不合理な点があるかについて検討する。原判断が,被告人の自白以外に本件殺人,放火事件の犯人が被告人であると認定できるほどの有力かつ確実な情況証拠は存在しないとした点は,関係証拠によればこれを是認できるから,以下,原判断が被告人の自白の信用性を否定した点について検討する。

(1) 被告人の自白の概要は,「平成13年1月17日午前2時30分頃,自動車でB方に向かい,午前3時頃,B方に入り,1階6畳間のベッドで寝ていたBの首を両手で絞めて殺害した。Bを殺害した後,寝たばこによる失火を偽装するため,台所にあった灰皿,たばこの箱,ライターを,ベッドの脇に置かれていたミシンの上に置いたり,ファンヒーターの異常作動による失火を偽装するため,台所にあったファンヒーターを1階6畳間に移動したりした。台所の掃出窓の下にあったポリタンクに入っていた灯油や,ファンヒーターのカートリッジに入っていた灯油を,灰皿,Bの死体の首,顔面等,ベッドの周り,たんすなどにまき,空になったポリタンクやカートリッジは元あった場所に戻し,灰皿にあった吸いがらに,前記ライターで点火した。大きな炎が上がり,気が動転したことから,B方の玄関を施錠しないまま自動車で逃走した。」というものである。
 所論は,被告人の自白は,具体的,詳細で犯人しか語り得ない迫真性に富み,客観的な証拠関係とも符合していることなどから,信用できるものであり,その信用性を否定した原判断は,経験則,論理則に違反する旨主張する。

(2) まず,上記被告人の自白については,その信用性を肯定する方向に作用する事情として,次のものが指摘できる。

ア.客観的な証拠関係との符合

 被告人の自白は,Bの死因が頚部圧迫による窒息死であること,B方1階6畳間からたばこの箱,灰皿の破片及び石油ファンヒーターが発見されたこと,1階6畳間から採取された残焼物から灯油成分が検出されたこと,Bの死体は頭部の焼けが強く,顔面は白骨化し,頚部の皮膚は消失して軟部組織の表面が炭化していたこと,火災後B方の玄関の鍵が施錠されていなかったことなどに符合するものである。

イ.自白の経過等

 被告人は,平成18年5月22日,本件児童扶養手当詐欺事件(※当サイト注:本件殺人,放火事件及び本件保険金等詐欺事件と併合審理された別事件)により逮捕され,勾留中の同年6月9日,同事件により勾留のまま起訴されたが,同月11日,本件殺人,放火事件についてポリグラフ検査を受け,同月12日,同事件について初めて自白し,その旨の上申書を作成した。その後,被告人は,同月23日に本件殺人,放火事件により逮捕され,同年7月14日に同事件により起訴されたが,この間,動機,犯行態様,その前後の事情のすべてにわたって詳細に自白し,その後も,同年8月23日の本件保険金等詐欺事件に関する検察官調書の作成に至るまで,その自白を基本的に維持している。そして,被告人は,本件殺人,放火事件について自白した翌々日から上記検察官調書の作成に至るまでの間,ほぼ毎日のように,おおむね30分以上,時には1時間を超えて弁護人の接見を受けていたが,弁護人に対して自白が虚偽であると訴えることはなかったばかりか,下記ウのとおり,Cとの接見や手紙,本件児童扶養手当詐欺事件の勾留理由開示手続,本件殺人,放火事件の勾留質問手続においても,自白の核心部分が真実であることを前提とする言動をしている。また,被告人の自白には,その信用性に疑問を抱かせるような変遷は認められない。このように,被告人が自白に至った経過及びその後自白を維持した経過に不自然な点はないというべきである。また,被告人の自白は,その内容からして,被告人が自発的に供述していないのに捜査官が押し付けたり誘導したりして得られたものとは考え難く,前妻のFが別件の詐欺事件で逮捕されないようにするために捜査官に迎合して自白したという被告人の公判廷での供述は信用できるものではない。

ウ.被告人が捜査官以外の者に対してした犯行の告白と解される言動

 被告人は,@本件児童扶養手当詐欺事件で勾留中の平成18年6月14日午後,接見に来た実妹であり被害者でもあるCに対し,涙を流しながら,被告人がB方に放火した旨述べ,A同月23日,同事件の勾留理由開示公判において,同事件による逮捕勾留,その後の取調べ,ポリグラフ検査,その後の説得がなければ,この段階で本件殺人,放火事件を自白することは絶対になかった,また,被告人の自白調書には,冷静に考えられない状態で言われるがままに署名押印したものがあり,そのために犯行動機や計画性など細かい部分に納得できないものがある旨の意見を陳述し,B同月25日,本件殺人,放火事件の勾留質問手続において,裁判官に対し,事実はそのとおり間違いない旨供述し,C同年7月14日本件殺人,放火事件で起訴された後の同月16日付け,同月25日付け,同年8月4日付けで,Cに対し手紙を送付し,その中で,極刑になると思っている,どんな判決が出ても厳粛に受け止め,真の償いができるよう頑張っていこうと思う,口では何とでもいえるが正直まだ心から手を合わせる心境になれているとはいえない,Bは私がやった事自体を悲しんだり怒ったり責任を感じたりしていると思うなどと記載している。
 これら被告人の言動は,いずれも被告人の自白の核心部分が真実であることを前提とするものといえるが,原判決も指摘するとおり,その性質としては飽くまで自白あるいはこれに準ずるものである。しかし,捜査官に対する自白のほかに,捜査官以外の者に対する告白等がある場合には,その存在自体が,捜査官に対する自白を含めた全体としての被告人の自白の信用性判断において重要な要素となり得るというべきである。そして,捜査官以外の者に対する告白等の証明力を判断するに当たっては,捜査官の影響下で捜査官に対する自白の延長として行われたものではないか,言葉の多義性等に照らし,その言動が真に犯行を自認する趣旨のものといえるか,当時の被告人の肉体や精神の状態に鑑みて真しな犯行の告白とみることに疑問はないかなどの点について慎重に検討することが必要である。
 被告人の上記言動についてみると,@は,Cとの接見自体は捜査官が設定したものと認められるものの,発言内容について捜査官から具体的な指示があったとは認められない。A及びBは,裁判所の手続における言動であり,Cも,捜査官の働き掛けにより行われたものではない。また,上記言動の内容は,被告人が本件殺人,放火事件の犯人であることを直接的に表現したものではない部分もあるものの,被告人が同事件の犯人であることを前提にしているという限りにおいては,多義的に解釈され得るものとはいえないし,当時の被告人の肉体や精神の状態に鑑みて真しな犯行の告白とみることに疑問があるともいい難い。そして,被告人は,これらの言動をした理由として,捜査官に迎合した自白の延長である旨述べるほか,@のCとの接見時に涙を流したのは,捜査官にCとの接見を設定されて自分が犯人である旨を話すことになり,そのような形で証拠を積み上げられていくことに対する悔しい思いがあったからである,CのCに対する手紙が上記のような内容になったのは,本件殺人,放火事件について,上申書を作成したり,供述調書を取られたりしている先に待っているのは絶対極刑だと分かっており,Cからの手紙で,償いの日々を送ってほしいなどと書いてあることに対する返事を書かなければいけないと思ったからである旨供述するが,捜査官に対する迎合であるとうかがわれないことは上記のとおりであるし,その余も著しく説得力に欠け,信用できない。そうすると,上記言動は,被告人の自白の信用性を高める事情として,相当に重視されるべきである。原判決は,これらの言動を被告人の自白の信用性を高める事情として適切かつ十分に考慮しているとはいえず,この点は相当とはいい難い。

エ.本件殺人,放火事件の客観的状況からは,犯人はBと身近な関係を有する者であると考えるのが最も自然であること

 本件殺人,放火事件の客観的状況等をみると,次の事情が認められる。すなわち,@Bが就寝しており,かつ,殺害された場所であるB方1階6畳間は,玄関から廊下を進み,台所を経て板敷きの通路を通らなければならないが,同通路は,幅は狭く,そこに至るまでの間にテーブル等の障害物もあり,初めて来た者に分かりやすいものではない。また,A犯人は,Bの寝たばこによる失火及びファンヒーターの異常作動による火災を偽装しているところ,寝たばこの偽装は,Bが喫煙者でなければ意味を持たない上,仮にBが喫煙者でなかったとすれば,かえって偽装を見破られる危険を増すことになるから,犯人がBが喫煙者であることを知っていたことをうかがわせる。ファンヒーターの異常作動の偽装も,犯人がB方内の様子を全く知らなかったとすれば,深夜,暗い中でこのような偽装工作をするのは相当に困難なことである。しかも,このような手間の掛かる偽装工作は,偶然B方に盗みに入った犯人が,Bに気付かれたために,行きがかり上Bを殺害したような場合に行うものとは考えにくく,犯人が,早期の逃亡よりも,自己の犯罪の発覚の防止や,B方の火災が失火によるものと判断されることの方に重きを置いていたことを示すものであり,少なくとも,犯人が事前にBの殺害を計画していた者であることをうかがわせる。そして,BB方の灯油は,ファンヒーターのカートリッジ内と,台所の掃き出し窓の外側に置かれていたポリタンクの中にしかなく,このうち後者の灯油はB方内の様子をある程度知らなければ発見が困難であるから,このことも,犯人がB方内の様子をある程度知っていた者であることをうかがわせる。これらの事情に照らすと,本件殺人,放火事件の犯人は,Bと身近な関係を有する者であると考えるのが最も自然であり,このことも,被告人の自白の信用性を高める事情というべきである。

(3) このように,被告人の自白には,その信用性を高める複数の事情が認められ,これらによれば,その信用性は相当に高いという評価も可能と思われ,その旨の所論も理解できないものではなく,本件殺人,放火事件の犯人が被告人である疑いは濃いというべきである。

(4) しかしながら,原判決は,被告人の自白の不自然,不合理な点として主に二つの点を指摘しており,これらの指摘は,以下に述べるとおり,いずれも論理則,経験則等に違反するものとはいえず,原判決が結論として被告人の自白の信用性を否定したことが,論理則,経験則等に照らして不合理であるということはできない。

ア.Bの生命保険契約に関する認識及び犯行動機の形成過程について

 原判決は,被告人の自白は,Bに掛けられた生命保険金を取得することが動機であるというのに,被告人が,肝心要のBの生命保険契約やその保険金について,実に漠然とした認識しかなかったどころか,それ以上のことを知ろうとすらしなかった点で不自然,不合理であるとする。また,被告人の自白において述べられている犯行動機の形成過程が,当初は自殺願望であったものが死刑願望に変わり,次いで一転して保険金取得目的に変わっているのは不自然であり,これらの不自然さを併せ考えると,被告人の自白の信用性に看過できない疑いを抱かせるとする。
 まず,生命保険契約等に関する被告人の認識等の点については,被告人は,Bの生命保険契約の具体的内容を知らず,また,それを知るための行動もとっていないことが認められる。実母であるBを失火に見せかけて殺害し,Bに掛けられている保険金を手に入れよう(さらに,その際に実妹や実子らが巻き込まれても仕方がない)とまで考えている者が,最も重要なBの生命保険契約について漠然とした認識しか有しなかったばかりか,それ以上のことを知ろうとすらしなかったことには,原判決が指摘するとおり,明らかに不自然さ,不合理さがあるといえる。
 これに対して,被告人は,Bが生命保険に入っていることや,保険金の受取人の少なくとも1人が自分であることについて,合理的な根拠をもって,具体的に認識していたとみる余地もないではない。すなわち,Bは,平成11年11月に,被告人を被保険者とする生命保険契約を締結し,以降その保険料を支払っており,被告人も,契約に当たって保険会社の外交員と面談したことなどから,このことを知っていた。Bは,被告人の実母であり,自ら喫茶店を経営し,被告人,C及び被告人の2人の子の生活の面倒も見てきた一家の生活の支柱であり,そのようなBが,被告人を生命保険に入れたのに,自身については生命保険に入らないということは考えにくい。そうすると,被告人が上記の経緯からBが生命保険に入っているのではないかと思ったとしても,特に不自然ではないとみることもできる。しかも,この認識は,上記の事情により裏付けられた,相当に確実性のある認識であったとみることも可能であるから,保険金取得目的で殺人等の犯行に及ぶ犯人の認識として不自然な,漠然としたものであるともいえないとみる余地もある。また,夫のいない被保険者の長男が生命保険金の受取人の少なくとも1人となることは,生命保険契約において一般的なことといえ,そのような立場にあった被告人が受取人(の少なくとも1人)は「自分に決まっている」と相当な確実性をもって考えたとしても特に不自然ではなく,一般的な生命保険契約における事故・災害による死亡の場合の保険金額を考えれば,被告人が「最低でも1000万円くらいの保険金が出るのではないか」と考えたとしても不自然ではないとみることも可能である。これらの事情に加え,他人が契約している生命保険について保険会社にその契約内容を問い合わせても通常教えてもらうことはできないこと,被告人自らがB方で保険証書等を探せば怪しまれるおそれがあることからすれば,被告人がBの生命保険契約の具体的内容を知るための行動をとらず,その結果,被告人がBの死後保険会社の担当者からBの生命保険金の額が約4000万円と聞いて驚いたことも,不自然ではないとみる余地がある。
 しかし,これらは,そのようにみる余地や可能性があるというにとどまるのであって,Bの生命保険契約について漠然とした認識しかなく,Bを殺害しても生命保険金が入るかどうかも確かではないのに,その取得を動機として実母の殺害に及ぶのかという疑問を払しょくし去ることは困難というべきである。そうすると,原判決の指摘する自白内容の不自然さは否定できず,原判決の評価が論理則,経験則等に違反するとはいえない。
 次に,犯行動機の形成過程については,当初自殺願望であったものが,自殺ができないので殺人事件を起こして死刑になろうと考えるようになり,次いで,自分が死刑になるとBが悲しむであろうから,悲しませないようにBを殺し,放火もすることで死刑になろうと思うようになり,その後,前妻のFとやり直せるかもしれないと思うようになって,そのためには被告人自身の借金の問題を解決する必要があったことから,Bを殺害して失火にみせかけて放火することで,Bに掛けられた保険金を手に入れようと考えたという過程は,著しい変転と飛躍があり,原判決が指摘するとおり,不自然さがあるといえる。
 これに対しては,犯行について真実の自白をする場合であっても,犯行動機の形成過程に関しては真実と異なる事情を付け足して述べることもあり得るから,この点の不自然さは直ちに自白の信用性を疑わせるものではないとみることもできる。しかし,原判決は,そのような供述をすることがあり得ることを念頭に置いた上で,Bの生命保険契約に関する認識についての不自然,不合理さと併せ考えたときには,被告人の自白の信用性に看過できない疑いを抱かせるとしているのであって,このような原判断が論理則,経験則等に違反するとはいえないというべきである。

イ.被告人の周辺から灯油成分が検出されたことを示す証拠がないことについて

 原判決は,被告人の自白する犯行態様で,被告人の手だけに灯油が付着し,その着衣等に灯油が付着しないのは不自然であるところ,被告人の周辺のいずれにも灯油が付着した形跡を示す証拠がないことは,被告人の自白の信用性に看過できない疑問を生じさせるとする。
 この点,被告人の自白する犯行態様は,暗く,狭い室内で,合計約5.5cの灯油を,ベッドの近くのミシン上に置いた灰皿,たんすの前面,Bの体(顔を含む)及びベッド上,ベッドの周りのカーペットやファンヒーター本体にまいたというものであって,このような灯油撒布により被告人の手だけに灯油が付着し,その着衣等に灯油が付着しなかったというのは,原判決が指摘するとおり,不自然さがあるといえる。また,事件当日の午後に警察官が被告人を取り調べ,被告人の自動車内を調べている(被告人は,第1審公判で,事件当日に自動車内を調べられたと明確に供述しているところ,この点について検察官は特段の反証を行っていない。)が,それまで被告人は着替えをしなかったというのに,警察官が,被告人の身体,着衣や自動車について,灯油の臭いを感じ取っておらず,そのほか,被告人の周辺のどこからも灯油が付着した形跡を示す証拠が発見されていないことも,原判決が指摘するとおり,不自然といえる。
 これに対しては,@原判決は,捜査段階で行われた再現実況見分において,被告人が灯油に見立てた墨汁をまいたところ,履いていたズボンのすそや長靴にもかなり墨汁が付着したことを根拠としているが,上記実況見分は,まいた灯油の量を再現させることと,それをBの寝室に見立てたセットにまいて犯行を再現させることを目的とするものであって,被告人の着衣に灯油が付着したかどうかは,その直接の目的とはされていなかった上,被告人の説明によっても,上記実況見分で被告人がまいた墨汁の量は,実際に犯行の際にまいた灯油の量(合計約5.5c)よりも多かったこと,A他方,被告人の自白する犯行態様は,ズボンや服,靴下などを処分する事態を避けるため,ズボンや服に灯油がかかったり,灯油をまいた箇所を踏んで靴下に灯油が染み込んだりしないように細心の注意を払いながら灯油をまいたというものであることからして,上記実況見分の結果をもって着衣に灯油の痕跡のないことが不自然であるとは断定できないとみる余地があること,Bそして,被告人は,その自白において,犯行後手に付いた灯油の臭いが気になり,2か所で手を洗ったとも供述していることなどからすると,被告人の周辺から灯油成分が検出されたことを示す証拠がないことが特に不自然とはいえないという見方も全く成り立たないわけではない。
 しかしながら,これらも,そのようにみる余地や可能性があるというにとどまるのであって,被告人の身辺,特に,灯油の臭いが気になって2度も洗ったという手で相当時間握ったはずの自動車のハンドル等からもその形跡が発見できなかったという不自然さは否定しきれないというべきである。そうすると,この点も被告人の自白の信用性に疑問を生じさせるものであって,原判決の評価が論理則,経験則等に違反するとはいえない。

ウ.以上のとおり,被告人の自白については,その信用性を肯定する方向に作用する複数の事情が認められ,その信用性は高いとみる余地も十分にあるものの,原判決が被告人の自白について不自然,不合理であると指摘する点は,いずれも論理則,経験則等に違反するものとはいえない。そして,原判決が,これらの点と,客観的情況証拠を含む,被告人の自白の信用性を高める諸事情を総合的に評価した上で,結論として被告人の自白の信用性を否定したことも,論理則,経験則等に照らして不合理であるということはできない。

2.以上によれば,本件殺人,放火事件及びその犯人が被告人であることを前提とする本件保険金等詐欺事件について,犯罪の証明がないとして被告人を無罪とした第1審判決に事実の誤認はないとした原判決に,重大な事実誤認をした疑いがあるとまでは認められないというべきである。

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