平成24年司法試験の結果について(2)

短答の比重と論文の合格ラインのイメージ

今年の合格点である780点。
これは、どの程度のレベルなのだろうか。

新司法試験は、短答と論文の総合評価である。
具体的には、以下の算式で決まる。
司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について参照)

短答の得点×0.5+論文の得点×1.75

今年の短答の最低得点は、215点だった。
この場合、合格に必要な論文の得点は、

215×0.5+論文の得点×1.75≧780
107.5+論文の得点×1.75≧780
論文の得点×1.75≧780−107.5
論文の得点≧672.5÷1.75
論文の得点≧384.2・・

すなわち、385点が必要ということになる。
論文は、800点満点だから、385点は、

385÷800≒48.1%

全体のおよそ48%の得点率ということになる。
この、48%の得点率。
これは、どの程度の水準を指すのだろうか。
論文では、評価の目安として、4つの区分が設けられている。
すなわち、優秀、良好、一応の水準、不良である。
それぞれに対応する得点率は、概ね以下のようになっている。

優秀:100%〜75%
良好:74%〜58%
一応の水準:57%〜42%
不良:41%〜0%

司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について参照)

48%は、どこに位置するのか。
一応の水準の、真ん中よりやや下の辺りである。
すなわち、短答でギリギリ合格した。
その場合の、論文の合格ライン。
それは、標準的な一応の水準ということになる。
良好、ましてや優秀のレベルなどは、取る必要がない。
「短答で失敗したから論文は良好・優秀レベルでないと挽回できない」は、ウソである。

では、短答でトップの成績を取った場合はどうか。
今年のトップの得点は、322点である。
そうすると、合格に必要な論文の得点は、

322×0.5+論文の得点×1.75≧780
161+論文の得点×1.75≧780
論文の得点×1.75≧780−161
論文の得点≧619÷1.75
論文の得点≧352.7・・

すなわち、353点取ればよい。
短答ギリギリ合格の場合より、32点低い。
この場合の得点率は、

353÷800≒44.1%

すなわち、全体のおよそ44%ということになる。
これを、上記の区分でみると、一応の水準の下限近くに当たる。
一応の水準は、やはり確保しないと受からない。
ただ、その中では、下の方でもよい、という感じである。

得点率にすると、短答トップと最下位では、4%しか違わない。
しかも、論文で一応の水準を守る必要がある、という基本戦略も変わらない。
短答のアドバンテージとは、その程度のものなのである。

もっとも、短答は、学習効率がよい。
やった分だけ、点数が伸びる傾向にある。
また、今年の公法系のように、油断すると足切りになる。
その意味では、短答で7、8割を確保するまでは、短答の勉強を優先するのがよい。
特に未修者は、後記のとおり短答で差を付けられている。
短答を確実にクリアできるまでは、短答中心で勉強すべきである。

他方、論文は、一応の水準で受かる、という意識を強く持つことが必要だ。
逆に言えば、今年不合格になった人は、一応の水準すら書けなかった。
だから、落ちている。
高度な問題意識とか、事案分析能力とは、あまり関係がない。
そして、上記のとおり、短答の出来とも関係がない。
短答の出来が悪くても、平均的な一応の水準を書けば、受かるからである。

では、具体的には、一応の水準とは、どの程度のレベルの答案なのか。
また、一応の水準をしっかり守るためには、どうすればよいのか。
これは、具体的な設問との関係で、考える必要がある。
平成22年の問題については、司法試験平成22年採点実感等に関する意見の読み方(商法)司法試験平成22年採点実感等に関する意見の読み方(民法)司法試験平成22年採点実感等に関する意見の読み方(民訴法)等で詳細に触れている。

多くの人が、合格水準は優秀、良好のレベルだと誤解している。
また、一応の水準になるために必要な事項。
これは、答案に示さないと無意味である。
当たり前だから、わざわざ答案には書かない。
これは、採点の際には、わかっていないと評価される。

不合格になる原因は、多くの場合、勉強量が足りないからではない。
(勉強量が足りない者は、短答で落ちる。)
上記のことを、知らないだけである。
一応の水準となるために必要な事項を省略して、優秀、良好になるための事項を一生懸命書いている。
(しかも、それは結果的に優秀、良好の事項とも関係のない、単なる余事記載であることが多い。)
それは結局、一応の水準に満たないと評価されて、不良の答案。
すなわち、不合格答案となるのである。

出題趣旨や採点実感等に関する意見には、優秀、良好のレベルに関わる記述が多い。
考査委員のこだわりは、そういうところにあるからである。
しかし、合否はそこでは決まらない。
(その背後に隠された配点調整があり得ることにつき、司法試験平成22年採点実感等に関する意見の読み方(商法)参照)
そのことを理解しないまま、出題趣旨や採点実感等に関する意見を読むと、合格からかえって遠ざかる。
勉強の方向性を誤ると、勉強量をどんなに増やしても、合格できない。

多くの受験生に、共通して陥り易い発想がある。
一応の水準の勉強は、低レベルでつまらない。
だから、こんなものはやるべきでない。
他方、優秀、良好のための勉強は、高尚で楽しい。
だから、これこそが法曹になるために必要な学習だ。
これを、どんどんやろう。
こういう発想である。
これでは、受かり易くなるはずがない。

上記のような発想は、ローの教官や、一部の予備校講師も共通して持っている。
そのため、上記のような発想を、受験生に指導する。
結果として、本来受かるはずの、実力者が落ちていく。
これが、現在生じている不幸な現象である。

優秀、良好という区分は、ほとんどの受験生にとって、無関係な領域である。
例えば、一応の水準の上限は、得点率57%である。
800点満点だと、800×0.57=456点。
これは、今年の論文では、どのくらいの順位だろうか。
337位である。
上位合格者といってよい順位だろう。
現在では、ここまでが一応の水準のレベルである。

逆の方向から考えてみよう。
今年の論文トップの得点は、596点である。
これは、受験経験のある人なら、考えられない高得点だとわかる。
しかし、これは得点率にすると、74.5%。
優秀の水準は、得点率75%以上である。
すなわち、総合でみたとき、優秀の区分に入る人は、1人もいない。
もちろん、系別だと、優秀に属する者は存在する。
公法で、9人。
民事で、4人。
刑事で、11人存在する。
しかし、その程度である。
少なくとも、不合格と合格の狭間にいるような受験生は、意識すべき領域ではない。
にもかかわらず、不合格になった人は、そういう領域ばかり気にする。
これが、「受かりにくい人は、いつまでも受からない法則」の原因になっている。

修了年度別未修既修別合格率

以下は、各修了年度別、未修既修別の合格率である。

 

受験者数

合格者数

受験者
合格率

19未修

629

33

5.2%

19既修

180

14

7.7%

20未修

746

48

6.4%

20既修

164

24

14.6%

21未修

958

187

19.5%

21既修

425

136

32.0%

22未修

1223

273

22.3%

22既修

855

302

35.3%

23未修

1515

332

21.9%

23既修

1607

695

43.2%

例年、以下の二つの法則が成り立っていた。

1:同じ年度の修了生については、常に既修が未修より受かりやすい。
2:既修者・未修者の中で比較すると、常に年度の新しい者が受かりやすい。

このうち、1は、主として短答の影響による。
これは、未修・既修の短答・論文の合格率の差を比較するとわかる。

短答受験者合格率

年度

未修受験者
短答合格率

既修受験者
短答合格率

短答合格率
既修未修差

19

63.0%

84.8%

21.8%

20

61.8%

87.9%

26.1%

21

53.9%

87.9%

34.0%

 

短答合格者の論文合格率

年度

未修短答合格者
論文合格率

既修短答合格者
論文合格率

論文合格率
既修未修差

19

51.3%

54.2%

2.9%

20

36.4%

50.4%

14.0%

21

41.1%

55.4%

14.3%

上記は、新司法試験短答・論文・総合成績(平成18年〜21年)を元に作成したものである。
未修と既修の差が、短答では大きく、論文では小さいことがわかる。
短答は、知識量がダイレクトに結果に影響する。
そのために、勉強量の不足しがちな未修に不利になっている。

2は、論文の影響による。
短答は、受験回数が増えると、受かり易くなる。
勉強量が増えるから、受かり易くなるのである。
しかし論文は、受験回数が増えるほど、受かりにくくなる。
勉強量を増やしても、かえって受かりにくくなるのである。
これが、前記の「受かりにくい人は、いつまでも受からない法則」である。

平成23年
受験回数別
合格率

新試験
受験回数

短答
合格率

論文
合格率

1回

61.4%

44.9%

2回

66.3%

30.6%

3回

69.5%

26.6%

上記は、平成23年新司法試験受験状況を元に作成したものである。
短答合格率は、受験者ベース。
論文合格率は、短答合格者ベースのものである。
短答と論文が、全く逆の傾向を示していることがわかる。

今年は、1箇所だけ例外が生じている。
それは、23年未修と22年未修である。
23年未修の方が、合格率が低い。
すなわち、上記2の法則の例外である。
これは、短答、とりわけ公法の足切りの影響だろう。
今年の短答では、公法で943人もの足切りが生じた。
その多くが、勉強時間の不十分な23年未修であったと考えられる。
そのために、ここだけは逆転現象が生じたのだろう。
いかに、今年の公法が異常だったかがわかる。
しかし、それ以外では、上記の法則が成り立っている。

また、4年目(19、20年修了生)に入ると、格段に合格率が落ちる。
これも、例年の傾向である。
受控えをしない場合、3年で受験資格を失う。
従って、4年目に入った受験生は、確実に受控えをした層である。
この層は、絶望的なほどに受かりにくい。
受控えが戦略として有効でない統計的根拠は、この点にある。

ここからわかることは、未修者はとにかく短答をやる。
受控えはしない。
論文で一度不合格になった人は、勉強法、合格答案のイメージを切り替える。
そうでないと、かなりの確率で、三振に至ることになる。

とりわけ、論文の恐ろしさは、冒頭で述べたとおりである。
世間の噂に惑わされると、どんどん受かりにくくなる。
良かれと思って頑張ったことが、むしろ不合格の要因となったりする。
早い段階で気付き、修正する必要がある。
逆に、その点に気付けば、必要な勉強量は、実は多くない。
合格ラインである平均的な一応の水準。
これは、後から聞けば「バカにするな」というような内容である。
しかし、試験現場では、それが見えない。
また、出題趣旨や再現答案をみても、重要な配点がどこにあるのかが見えにくい。
そこを見抜くためには、適切な問題文、出題趣旨、再現答案等の読み方が必要になる。
確実に、一応の水準を守る答案戦略。
これこそが、論文攻略に一番必要なことである。
余裕で一応の水準が確保できるようになって初めて、良好を狙えばよい。
しかし、多くの人が、それ以前の段階でつまづいている。

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