平成24年司法試験の結果について(4)

最低ライン未満者の状況

以下は、論文採点対象者に占める最低ライン未満者の割合の推移である。
全科目平均点のかっこ書は、最低ライン未満者も含む数字である。

最低ライン
未満者
割合

前年比

論文試験
全科目
平均点

18

0.71%

---

404.06

19

2.04%

+1.33%

393.91

20

5.11%

+3.07%

378.21
(372.18)

21

4.68%

−0.43%

367.10
(361.85)

22

6.47%

+1.79%

353.80
(346.10)

23

6.75%

+0.28%

353.05
(344.69)

24

8.54%

+1.79%

363.54
(353.12)

昨年、最低ライン未満者割合の増加は、収まったかにみえた。
しかし、今年は、再び増加幅が拡大した。
従来、この数字の増加の原因の説明は、容易だった。
すなわち、全体平均点の下落である。
全体平均点は、全科目の素点の平均点に等しい。
司法試験得点調整の検討参照)
最低ライン未満かどうかの判断は、素点を基準に行われる。

司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準についてより引用、下線は筆者)

2 論文式試験における最低ライン

 最低ラインは,各科目の満点の25%点とする。
 なお,最低ラインに達しているかの判定は,各問ごとに考査委員が採点した素点により次の算式で求めた1科目の点数により行う。

(引用終わり)

素点の平均点の下落は、全体的な素点の分布を下に押し下げる。
そうなると、自動的に最低ライン未満者が増加する。
これまでの最低ライン未満者割合の増加は、これで説明できた。

しかし、今年は、それでは説明がつかない。
全体平均点は、むしろ上昇しているからである。

全体平均点と最低ライン未満者割合の増減が逆転した例は、過去にもある。
平成21年である。
この年は、今年とは逆の傾向を示した。
すなわち、全体平均点は下がったのに、最低ライン未満者割合が減少した。

このような場合、どのような現象が生じているのか。
わかりやすくするために、全体平均点が等しいものとして考えてみよう。
最低ライン未満者割合が増加するのは、どのような場合か。
それは、素点の極端に低い者が増えた場合である。
ただ、単純に低得点の者が増えただけでは、全体平均点も下がるはずだ。
すなわち、素点の極端に高い者も、同様に増えている。
結局、素点のバラつきが大きい場合だ、ということができる。

他方、最低ライン未満者割合が減少するのは、どういう場合か。
これは、先ほどとは逆の場合である。
すなわち、素点の極端に低い者が減った場合である。
ただ、単純に低得点の者が減っただけでは、全体平均点は上がるはずだ。
同様に、素点の極端に高い者も、減っている。
すなわち、素点のバラつきが小さい場合だ、ということができる。

以上をまとめると、最低ライン未満者割合を変動させる要因は、2つである。
1つは、全体平均点。
もう1つは、素点分布のバラつきである。
通常は、前者が主要な要因である。
しかし、後者が異常な変動を示すと、前者の要因を覆す。
それが平成21年であり、今年である。

すなわち、平成21年は、異常に素点のバラつきが小さかった。
そのために、全体平均点の下落にかかわらず、最低ライン未満者割合は減少した。
他方、今年は、異常に素点のバラつきが大きかった。
そのために、全体平均点の上昇にかかわらず、最低ライン未満者割合は増加した。
このように、考えることができる。

上記のとおり、今年の素点分布のバラつきは、異常値である。
従って、今年の最低ライン未満者の増加。
これは、一時的なものだろう。
主要要因である全体平均点は、今後上昇傾向になると予測される。
平成24年司法試験の結果について(1)参照。)
従って、今後は、最低ライン未満者割合は、むしろ減少に向かっていくだろう。

異常なバラつきの原因は刑事系

では、上記の異常なバラつき。
これは、どこで生じたのだろうか。
以下は、5年分の科目別最低ライン未満者割合の推移である。
選択科目については、論文採点対象者のうち当該科目選択者に占める割合を示している。

 

20

21

22

23

24

公法

2.66%

2.35%

2.25%

2.97%

3.74%

民事

0.19%

0.08%

1.00%

2.59%

0.76%

刑事

0.33%

0.77%

2.77%

2.17%

4.98%

倒産

2.28%

0.28%

2.71%

0.63%

2.77%

租税

0.44%

0.00%

0.87%

0.00%

1.85%

経済

1.17%

1.74%

0.53%

2.58%

0.96%

知財

1.42%

1.71%

2.48%

2.59%

1.46%

労働

0.66%

0.18%

2.02%

0.70%

0.72%

環境

0.92%

0.41%

1.28%

1.36%

0.34%

国公

1.53%

0.00%

0.00%

0.00%

1.31%

国私

1.35%

0.66%

0.00%

0.75%

0.76%

公法と倒産法の割合が高めなのは、例年どおりである。
それでも、公法は例年より高い。
また、倒産法は、昨年は例外的に低めの数字だった。
これが、今年は例年並みに戻っている。
バラつきの大きさの一部は、ここで生じている。

しかし、主要な要因となっているのは、刑事である。
ほぼ5%。
すなわち、20人に1人が最低ラインを下回っている。
これが、全体の最低ライン未満者割合の増加に大きく貢献している。
仮に、今年の刑事が、例年なみの2%程度だったとしよう。
そうすると、刑事の最低ライン未満者は、5339×0.02≒106人となる。
実際の刑事の最低ライン未満者は、266人。
差し引きは、160人となる。
これを、単純に今年の最低ライン未満者総数の456人から差し引くと、296人。
この場合、最低ライン未満者割合は、29÷5339≒5.54%となる。
これは、昨年の6.75%より低い数字である。
上記のバラつきの異常さの原因は、刑事にあったということができる。
(実際には、複数科目で最低ライン未満の者がいるから、影響はもう少し小さい。)

今年の刑事は、いずれも簡単に解こうと思えば簡単。
難しく解こうとすると、難しくなる問題だった。
この種の問題では、正面から難しい部分に取り組むと評価される。
そのように誤解している人が多い。
だから、後者の道を選んだ人が多かったのだろう。
しかし、後者の道を進むことは、大変に危険である。
基本事項を書かずに、何を言っているかわからないことを書き並べることになるからだ。
実際には、前者の道を歩めば、簡単に合格答案になる。
刑事の最低ライン未満者は、後者の道に向かって玉砕した可能性が高い。
その詳細については、個別の検討で取り上げたいと思う。
(憲法では、毎年そのような問題が出るから、例年公法の最低ライン未満者が多い。)

得点調整からわかる公法と刑事のバラつきの大きさ

最低ライン未満者の人数は、素点ベース、得点調整後ベースで異なる。
そのことから、得点調整(採点格差調整)の影響をうかがい知ることができる。
そして、素点ベースの数字は、最低ライン未満者の実人員数から。
得点調整後ベースの数字は、得点別人員調から、集計することができる。
そこで、両者の比較表を示したのが下の表である。

 

素点
ベース

調整後
ベース

公法

200

193

民事

41

183

刑事

266

271

倒産

39

91

租税

13

経済

21

知財

23

労働

12

81

環境

国公

国私

26

ほとんどの科目で、調整後に飛躍的に数が増える。
他方、公法だけが減少、刑事はわずかな増加にとどまっている。
ここに、公法・刑事の素点のバラつきの大きさが現れている。
(その詳細な原理については、司法試験得点調整の検討第4章参照。)

公法のバラつきが大きいのは、例年の現象である。
他方で、刑事のバラつきの大きさは、今年の特徴だ。
このことは、今年の刑事の問題を検討するに際し、注意すべき点である。

他方、選択科目の倒産法は、調整後に数が増える。
つまり、バラつきは小さい。
にもかかわらず、選択科目中最も最低ライン未満者割合が高い。
これは、得点調整前の倒産法の平均点が、他科目より低いことを意味する。
倒産法は、公法・刑事とは異なる理由で最低ライン未満者を生じさせている。
すなわち、倒産法の採点は、他の科目より厳しく、点差が付きにくい。
得点調整が入ると、平均点は引き上がる一方で、点差が拡がる。
例年の傾向となっているだけに、科目選択の際には、一応留意したい。

選択科目別合格率

以下は、選択科目別の短答・論文合格率等をまとめたものである。

科目

短答
受験者数

短答
合格者数

短答
合格率

倒産

1965

1403

71.3%

租税

583

377

64.6%

経済

840

518

61.6%

知財

1020

615

60.2%

労働

2601

1666

64.0%

環境

501

292

58.2%

国公

129

76

58.9%

国私

693

392

56.5%

 

科目

論文採点
対象者数

論文
合格者数

論文
合格率

倒産

1403

566

40.3%

租税

377

135

35.8%

経済

518

222

42.8%

知財

615

238

38.6%

労働

1666

662

39.7%

環境

292

107

36.6%

国公

76

28

36.8%

国私

392

144

36.7%

倒産法選択者は、短答合格率が顕著に高い。
これは、例年の傾向である。
短答では、どの科目を選択したかは全く関係がない。
それなのに、これだけはっきり差が付いている。
実力者が倒産法を選択する傾向がある、ということだ。
しかし、その理由は、現在のところ、まだよくわからない。
また、前述のように、論文の倒産法の素点の平均点は、低い傾向にある。
実力者が選択しているのに、厳しく評価されている。
この点も、不思議な部分である。

他方、国際公法、国際私法選択者は、短答合格率が低い。
これも、例年の傾向である。

それから、論文でも差は付くが、短答ほど顕著ではない。
これも、例年の傾向である。
特に、今年は倒産法が経済法に抜かれている。
それでも、国際公法、国際私法の弱さは、安定している。

受験者数が多く、特性的にもニュートラルなのが、労働法である。
最低ライン未満者割合も低めで、短答・論文合格率も普通である。

なぜ、上記のような傾向になっているのか。
それは、よくわからない。
しかし、とにかく毎年そうなっている。
このような科目別の特性は、選択の際に一応考慮しておきたい。

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