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最高裁判所第二小法廷判決平成24年03月16日

【事案】

1.第1審判決別紙物件目録記載1及び2の各土地(以下「本件各土地」という。)につき抵当権の設定を受けていた上告人が,抵当権の実行としての競売を申し立てたところ,本件各土地を時効取得したと主張する被上告人が,この競売の不許を求めて第三者異議訴訟を提起した事案。

2.事実関係の概要

(1) Aは,昭和45年3月当時,平成17年3月に本件各土地に換地がされる前の従前の土地(以下「本件旧土地」という。)を所有していた。同人は,昭和45年3月,被上告人に対し,本件旧土地を売却したが,所有権移転登記はされなかった。
 被上告人は,遅くとも同月31日から,本件旧土地につき占有を開始し,サトウキビ畑として耕作していた。

(2) Aの子であるBは,昭和57年1月13日,本件旧土地につき,昭和47年10月8日相続を原因として,Aからの所有権移転登記を了した。
 また,Bは,昭和59年4月19日,本件旧土地につき,上告人のために,第1審判決別紙登記目録記載1の抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定し,同日付けでその旨の抵当権設定登記がされた。
 しかし,被上告人は,これらの事実を知らないまま,上記換地の前後を通じて,本件旧土地又は本件各土地をサトウキビ畑として耕作し,その占有を継続した。また,被上告人は,本件抵当権の設定登記時において,本件旧土地を所有すると信ずるにつき善意かつ無過失であった。

(3) 上告人は,鹿児島地方裁判所名瀬支部に対し,本件各土地を目的とする本件抵当権の実行としての競売(以下「本件競売」という。)を申し立て,平成18年9月29日,競売開始決定を得た。これに対し,被上告人は,本件競売の不許を求めて本件訴訟を提起した。なお,本件競売手続については,被上告人の申立てにより,平成20年7月31日,停止決定がされた。

(4) 被上告人は,平成20年8月9日,Bに対し,本件各土地につき,所有権の取得時効を援用する旨の意思表示をした。

【判旨】

1.所論は,時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登記をした者との関係は対抗問題となり,時効取得者は,抵当権の負担のある不動産を取得するにすぎないのに,これと異なり,被上告人の取得時効の援用により本件抵当権は消滅するとした原審の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというのである。

2(1) 時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登記をした者との関係が対抗問題となることは,所論のとおりである。しかし,不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者は,上記不動産を時効取得し,その結果,上記抵当権は消滅すると解するのが相当である。その理由は,以下のとおりである。

ア.取得時効の完成後,所有権移転登記がされないうちに,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了したならば,占有者がその後にいかに長期間占有を継続しても抵当権の負担のない所有権を取得することができないと解することは,長期間にわたる継続的な占有を占有の態様に応じて保護すべきものとする時効制度の趣旨に鑑みれば,是認し難いというべきである。

イ.そして,不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者に上記不動産が譲渡され,その旨の登記がされた場合において,占有者が,上記登記後に,なお引き続き時効取得に要する期間占有を継続したときは,占有者は,上記第三者に対し,登記なくして時効取得を対抗し得るものと解されるところ(最高裁昭和34年(オ)第779号同36年7月20日第一小法廷判決・民集15巻7号1903頁),不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者が上記不動産につき抵当権の設定を受け,その登記がされた場合には, 占有者は,自らが時効取得した不動産につき抵当権による制限を受け,これが実行されると自らの所有権の取得自体を買受人に対抗することができない地位に立たされるのであって,上記登記がされた時から占有者と抵当権者との間に上記のような権利の対立関係が生ずるものと解され,かかる事態は,上記不動産が第三者に譲渡され,その旨の登記がされた場合に比肩するということができる。また,上記判例によれば,取得時効の完成後に所有権を得た第三者は,占有者が引き続き占有を継続した場合に,所有権を失うことがあり,それと比べて,取得時効の完成後に抵当権の設定を受けた第三者が上記の場合に保護されることとなるのは,不均衡である。

(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,昭和55年3月31日の経過により,被上告人のために本件旧土地につき取得時効が完成したが,被上告人は,上記取得時効の完成後にされた本件抵当権の設定登記時において,本件旧土地を所有すると信ずるにつき善意かつ無過失であり,同登記後引き続き時効取得に要する10年間本件旧土地の占有を継続し,その後に取得時効を援用したというのである。そして,本件においては,前記のとおり,被上告人は,本件抵当権が設定されその旨の抵当権設定登記がされたことを知らないまま,本件旧土地又は本件各土地の占有を継続したというのであり,被上告人が本件抵当権の存在を容認していたなどの特段の事情はうかがわれない。
 そうすると,被上告人は,本件抵当権の設定登記の日を起算点として,本件旧土地を時効取得し,その結果,本件抵当権は消滅したというべきである。

【古田佑紀補足意見】

 法廷意見は,取得時効の完成後所有権移転登記をする前に,第三者が抵当権の設定を受けその登記がされた場合,抵当権が実行されると占有者は所有権を失うことになることに着目して権利の対立関係を認め,第三者が譲渡を受けてその登記がされた場合と同様に,登記の時から取得時効の進行を認めるものである。確かに,抵当権の実行により占有者が所有権を失うことがあるという意味においては,第三者が譲渡を受けて登記をした場合と共通性が認められる。
 しかしながら,第三者が抵当権設定を受けた場合に,これが譲渡を受けた場合と「比肩する」として,占有者について取得時効の進行を認めるためには,占有者の法的状況について上記の共通性が認められるだけでは足りず,第三者の法的状況も観察して,双方の観点から,第三者が譲渡を受けた場合と同様の状況といえるかどうかを検討する必要がある。占有者が所有権(時効の援用によって取得される所有権又は所有権を取得できる地位)を失うこととなるのは,抵当権により履行が担保されている債務の不履行があって抵当権が実行された場合であるから,抵当権が設定されても,そのことによって直ちに占有者の所有権が失われることとなるわけではなく,両者は併存する。第三者側からすると,第三者が不動産の譲渡を受け登記を経た場合であれば,占有者は確定的にその所有権を失い,第三者は占有者に対して所有権に基づきその明渡しを求めるなど,その権利を行使して取得時効の完成を妨げ,取得した所有権の喪失を防止できるのに対し,抵当権の設定を受けた場合は占有者の所有権が失われることにならないところ,抵当権は債務不履行がないにもかかわらず実行することはできないし,また占有権原や利用権原を伴うものではないからこれらの権原に基づいて占有を排除することもできないのであって,所有権のように前記のような権利の消滅を防止する手段が当然には認められない。この点は,譲渡を受けた場合と抵当権の設定を受けた場合とで大きく相違する点であって,このような差があることを踏まえても,取得時効の進行に関し,なお法的状況が同様であるといえるためには,抵当権の設定を受け登記を経た第三者において,抵当権の実行以外に,占有者に抵当権を容認させる手段など,取得時効期間の経過による抵当権の消滅を防止する何らかの法的な手段があることが必要と考える。このような手段がないとすれば,抵当権者は,本来の権利保全の仕組みからすれば自らにその権利を対抗できない者との関係で,防止する手段がないまま自己の権利が消滅することを甘受せざるを得ないことになり,均衡を失するものといわざるを得ない。法廷意見はこの点について明示的に触れるところがないが,抵当権者において抵当権の消滅を防止する手段があることを前提としているものと解され,その理解の下で法廷意見に与するものである。
 なお,法廷意見は被上告人が本件旧土地を時効取得した結果抵当権が消滅する旨判示する。この点については,従来の一般的理解に沿うものであり,また取得時効期間の進行を認めるならばその結果としての取得時効の完成も認めることが論理的であるという考えもあり得ないわけではなく,本件の結論に影響するものではないので,あえて異を唱えるものではない。しかしながら,第三者に所有権が移転された場合には,占有者が確定的に所有権を失うのに対して,第三者に抵当権が設定された場合には,そのような事情はないから,取得時効が完成している状態が変わるものではないにもかかわらず,抵当権が消滅する理由として,再び取得時効の完成を認めることは技巧的で不自然な感を免れない。第三者が所有権を取得した場合は,占有者が再度所有権を取得するためには改めて取得時効が完成することが必要であるが,第三者が抵当権の設定を受けた場合は,民法397条の規定から取得時効期間占有が継続されたこと自体によって抵当権が消滅すると解することが可能である。原始取得であることをもって他の権利が当然に消滅するとはいえないのであって,法は所有権以外の物権について所有権の時効取得によって当然にこれが消滅すべきものとしているとは必ずしもいえず,占有に関わらない物権については個別に消滅するかどうかを判断すべきものとしていると見る余地があり(民法289条,290条参照),複数の担保権が存在する場合の調整やこれらの権利の消滅を防止する手段などに関して,そのような観点からの検討をすることが適切な場合があるのではないかと思われることを付言しておきたい。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成24年03月23日

【事案】

1.上告人らが,インターネット上のウェブサイトに被上告人が掲載した記事により名誉を毀損されたと主張して,被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案。

2.事実関係の概要等

(1) X1(以下「上告人会社」という。)は,九州地区を中心として日刊新聞の発行,販売を行っている会社である。X2,X3及びX4(以下「X2ら」という。)は,いずれも上告人会社の従業員で,X2は法務室長の地位にあり,X3及びX4は販売局に勤務している。

(2) 被上告人は,フリーのジャーナリストであり,インターネット上に自ら開設した誰でも閲覧可能なウェブサイト(以下「本件サイト」という。)等において,新聞社の新聞販売店への対応や新聞業界の体質を批判的に報道している。

(3) 被上告人が平成20年3月1日に本件サイトに掲載した「臨時ニュース」と題する記事(以下「本件記事」という。)には,「X1は1日,福岡県久留米市にあるA販売店のB所長に対して,明日2日から新聞の商取引を中止すると通告した。現地の関係者からの情報によると,1日の午後4時ごろ,X1のX2法務室長,X3担当,X4担当の3名が事前の連絡なしに同店を訪問し,B所長に取引の中止を伝えたという。」との記載に続いて,「その上で明日の朝刊に折り込む予定になっていたチラシ類を持ち去った。これは窃盗に該当し,刑事告訴の対象になる。」との記載(以下「本件記載部分」という。)がある。

(4) 平成20年3月1日にX2らがA販売店(以下「本件販売店」という。)を訪問して取引中止を伝えた事実はあるが,その後に本件販売店から翌日の朝刊に折り込む予定であったチラシ類(以下「折込チラシ」という。)を持ち帰ったのは,X2らではなく,新聞折込広告代理業を営むC社(以下「訴外会社」という。)の従業員であり,同従業員は,本件販売店の所長の了解を得た上で,これを持ち帰ったものであった。

(5) 上告人らは,本件記載部分が上告人らの社会的評価を低下させる事実を摘示するものであると主張するのに対し,被上告人はこれを争っている。

3.原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
 本件記載部分のうち,第1文である「その上で明日の朝刊に折り込む予定になっていたチラシ類を持ち去った。」という部分は,本件販売店を訪れて取引中止を伝えたX2らが退出する際に店内にあった折込チラシを持ち帰った旨の事実を摘示するものであり,第2文である「これは窃盗に該当し,刑事告訴の対象になる。」という部分は,第1文で摘示した事実関係を前提とした被上告人の法的見解を表明するもので,本件記事を閲読した一般の閲覧者は,被上告人が突然の取引中止の通告等を批判する趣旨で殊更に誇張した法的評価を加えていると受け止めるのが自然であって,直ちにX2らが現に「窃盗」に該当する行為を行ったものと理解する可能性は乏しかったから,本件記載部分によって上告人らの社会的評価が低下したということはできない。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
 前記事実関係によれば,本件記事は,インターネット上のウェブサイトに掲載されたものであるが,それ自体として,一般の閲覧者がおよそ信用性を有しないと認識し,評価するようなものであるとはいえず,本件記載部分は,第1文と第2文があいまって,上告人会社の業務の一環として本件販売店を訪問したX2らが,本件販売店の所長が所持していた折込チラシを同人の了解なくして持ち去った旨の事実を摘示するものと理解されるのが通常であるから,本件記事は,上告人らの社会的評価を低下させることが明らかである。

(2) そして,前記事実関係によれば,本件販売店の所長が所持していた折込チラシは,訴外会社の従業員が本件販売店の所長の了解を得た上で持ち帰ったというのであるから,本件記載部分において摘示された事実は真実ではないことが明らかであり,また,被上告人は,上告人会社と訴訟で争うなど対立関係にあったという第三者からの情報を信用して本件サイトに本件記事を掲載したと主張するのみで,本件記載部分において摘示した事実が真実であると信ずるにつき相当の理由があったというに足りる事実を主張していない。

(3) そうすると,被上告人が本件サイトに本件記事を掲載したことは,上告人らの名誉を毀損するものとして不法行為を構成するというべきである。

2.以上と異なる見解の下に,本件記事について,不法行為を構成することを否定し,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上告人らの被った損害について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 

最高裁判所第二小法廷決定平成24年03月28日

【事案】

1.相手方の普通株式を全部取得条項付種類株式とする定款変更に係る株主総会の決議についての反対株主であるとする抗告人らが,相手方に対し,抗告人らの有する株式を公正な価格で買い取ることを請求したものの,その価格の決定につき協議が調わないため,会社法117条2項に基づき,それぞれ当該株式の価格の決定の申立て(以下「本件買取価格の決定の申立て」という。)をした事案。

2.本件の経緯

(1) 相手方は,平成20年10月以前から,大阪証券取引所の市場第二部にその株式を上場していた。その発行に係る株式は,後記(2)アの定款変更の効力発生日以前においては,普通株式のみであり,平成21年1月5日,社債,株式等の振替に関する法律(以下「社債等振替法」という。)128条1項所定の振替株式となった。

(2) 平成21年6月29日に開催された相手方の株主総会において次のアないしウの決議がされ,併せて,同日開催された普通株式の株主による種類株主総会においてイの決議がされた(以下,上記各株主総会を「本件総会」と総称する。)。

ア.残余財産の分配についての優先株式であるA種種類株式を発行することができる旨定款を変更する。

イ.相手方の普通株式を全部取得条項付種類株式とし,その取得対価として全部取得条項付種類株式1株につきA種種類株式を0.000000588株の割合をもって交付する旨定款を変更し,この変更の効力発生日を平成21年8月4日とする。

ウ.相手方は,取得日を平成21年8月4日と定めて,上記の取得対価によりその全部取得条項付種類株式の全部を取得する。

(3) 抗告人X1は,本件総会に先立ち,上記決議に係る議案に反対する旨相手方に通知し,かつ,本件総会において,同議案に反対する旨議決権の行使をした。
 抗告人X2は,本件総会における議決権行使の基準日である平成21年3月31日の時点で,保有する相手方の普通株式を第三者に貸し付けており,本件総会において議決権は行使されなかった。

(4) 抗告人X1は,平成21年7月11日,会社法172条1項に基づき,その当時保有する相手方の株式7万3000株について,全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立てをし,抗告人X2は,同日,その当時保有する相手方の株式8万7000株について,同申立てをした(以下,これらの申立てを「本件取得価格決定の申立て」と総称する。)。

(5) 抗告人X1は,平成21年7月30日,相手方に対し,会社法116条1項に基づき,その当時保有する相手方の株式44万1000株を公正な価格で買い取ることを請求し,抗告人X2は,同日,その当時保有する相手方の株式29万5000株について,同請求をした(以下,これらの請求を「本件買取請求」と総称する。)。

(6) 相手方の株式は,平成21年7月29日に上場廃止となり,同年8月4日,振替機関による取扱いが廃止された。抗告人らは,同日までに,社債等振替法154条3項所定の通知(以下「個別株主通知」という。)の申出をしておらず,抗告人らの申出に係る個別株主通知がされることはなかった。

(7) 平成21年8月4日,前記(2)イの定款変更の効力が生じ,相手方は,同日,全部取得条項付種類株式の全部を取得した。

(8) 抗告人らは,平成21年9月30日,会社法117条2項に基づき,本件買取価格の決定の申立てをした。

(9) 相手方は,本件買取価格の決定の申立てに係る事件の審理において,平成21年11月18日に提出した書面により,抗告人らについて個別株主通知がされていないことを理由に,本件買取価格の決定の申立てが不適法であると主張して争った。

3.原審は,本件買取請求は,相手方の普通株式が全部取得条項付種類株式となったことを前提とする本件取得価格決定の申立てと相矛盾する行為であるから,本件取得価格決定の申立てをした抗告人らが本件買取請求をすることはできず,その結果,本件買取価格の決定の申立ては不適法となると判断して,同申立てを却下すべきものとした。

【判旨】

第1.職権による検討

1.会社法116条1項所定の株式買取請求権は,その申立期間内に各株主の個別的な権利行使が予定されているものであって,専ら一定の日(基準日)に株主名簿に記載又は記録されている株主をその権利を行使することができる者と定め,これらの者による一斉の権利行使を予定する同法124条1項に規定する権利とは著しく異なるものであるから,上記株式買取請求権が社債等振替法154条1項,147条4項所定の「少数株主権等」に該当することは明らかである。そして,会社法116条1項に基づく株式買取請求(以下「株式買取請求」という。)に係る株式の価格は,同請求をした株主と株式会社との協議が調わなければ,株主又は株式会社による同法117条2項に基づく価格の決定の申立て(以下「買取価格の決定の申立て」という。)を受けて決定されるところ,振替株式について株式買取請求を受けた株式会社が,買取価格の決定の申立てに係る事件の審理において,同請求をした者が株主であることを争った場合には,その審理終結までの間に個別株主通知がされることを要するものと解される(最高裁平成22年(許)第9号同年12月7日第三小法廷決定・民集64巻8号2003頁参照)。上記の理は,振替株式について株式買取請求を受けた株式会社が同請求をした者が株主であることを争った時点で既に当該株式について振替機関の取扱いが廃止されていた場合であっても,異ならない。なぜならば,上記の場合であっても,同株式会社において個別株主通知以外の方法により同請求の権利行使要件の充足性を判断することは困難であるといえる一方,このように解しても,株式買取請求をする株主は,当該株式が上場廃止となって振替機関の取扱いが廃止されることを予測することができ,速やかに個別株主通知の申出をすれば足りることなどからすれば,同株主に過度の負担を課すことにはならないからである。

2.これを本件についてみるに,本件買取請求を受けた相手方において抗告人らが株主であることを争っているにもかかわらず,本件買取価格の決定の申立ての審理終結までの間に個別株主通知がされることはなかったのであるから,抗告人らは自己が株主であることを相手方に対抗するための要件を欠くことになり,本件買取請求は不適法となる。
 そうすると,本件買取価格の決定の申立ては,適法な株式買取請求をした者ではない者による申立てとして不適法である。

第2.抗告人らの抗告理由について

1.所論は,抗告人らが既に本件取得価格決定の申立てをしていることを理由に本件買取価格の決定の申立てを不適法であるとした原審の判断には,会社法116条の解釈適用を誤った違法があるというのである。

2.会社法172条1項が全部取得条項付種類株式の取得に反対する株主に価格の決定の申立て(以下「取得価格決定の申立て」という。)を認めた趣旨は,その取得対価に不服がある株主の保護を図ることにあると解され,他方,同法116条1項が反対株主に株式買取請求を認めた趣旨は,当該株主に当該株式会社から退出する機会を付与することにあるから,当該株主が取得対価に不服を申し立てたからといって,直ちに当該株式会社から退出する利益が否定されることになるものではなく,また,当該株主が上記利益を放棄したとみるべき理由もない。したがって,株主が取得価格決定の申立てをしたことを理由として,直ちに,当該株式についての株式買取請求が不適法になるものではない。
 しかしながら,株式買取請求に係る株式の買取りの効力は,同請求に係る株式の代金の支払の時に生ずるとされ(同法117条5項),株式買取請求がされたことによって,上記株式を全部取得条項付種類株式とする旨の定款変更の効果や同株式の取得の効果が妨げられると解する理由はないから,株式買取請求がされたが,その代金支払までの間に,同請求に係る株式を全部取得条項付種類株式とする旨の定款変更がされ,同株式の取得日が到来すれば,同株式について取得の効果が生じ(同法173条1項),株主は,同株式を失うと解される。そして,株式買取請求及び買取価格の決定の申立ては,株主がこれを行うこととされており(同法116条1項,117条2項),株主は,株式買取請求に係る株式を有する限りにおいて,買取価格の決定の申立ての適格を有すると解すべきところ,株式買取請求をした株主が同請求に係る株式を失った場合は,当該株主は同申立ての適格を欠くに至り,同申立ては不適法になるというほかはない。

3.これを本件についてみるに,抗告人らの有する本件買取請求に係る普通株式は,平成21年8月4日,全部取得条項付種類株式となり,相手方がこれを全部取得し,抗告人らは,同日,同株式を失ったのであるから,抗告人らは,同株式の価格の決定の申立て適格を欠くに至り,同申立ては不適法というべきである。そうすると,本件買取価格の決定の申立てが不適法であるとして同申立てを却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

第3.結論

 以上によれば,本件買取価格の決定の申立てを却下すべきものとした原審の判断は,いずれにせよ結論において是認することができるから,抗告は棄却するのが相当である。

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