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最高裁判所第二小法廷判決平成24年04月27日

【事案】

1.交通事故により後遺障害が残った上告人X1及びその両親又は子であるその余の上告人らが,上告人X1との間で自動車保険契約を締結していた保険会社である被上告人に対し,上記保険契約に適用される普通保険約款の無保険車傷害条項に基づき,保険金及びこれに対する商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。

2.事実関係等の概要

(1)ア.上告人X1は,平成16年7月3日,普通乗用自動車を運転中,Aの運転する普通乗用自動車に衝突される事故(以下「本件事故」という。)に遭い,同上告人には,頚髄損傷による四肢麻痺の後遺障害が残った。

イ.上告人X2及び同X3は,上告人X1の両親であり,上告人X4は,上告人X1の子である。

(2) 上告人X1は,本件事故当時,被上告人との間で,自動車保険契約を締結しており,上記保険契約に適用される普通保険約款(以下「本件約款」という。)には無保険車傷害条項が置かれているところ,上告人X1は上記条項に係る被保険者であり,Aの運転していた普通乗用自動車は上記条項にいう無保険自動車に当たる。
 上記条項は次のア及びイのようなものであり,また,本件約款には次のウのような定めがあった。

ア.被上告人は,無保険自動車の使用等に起因して,被保険者の身体が害され,その直接の結果として後遺障害が生じること等によって被保険者又はその父母,子等(以下「被害者等」という。)の被る損害に対して,賠償義務者がある場合に限り,保険金(以下「無保険車傷害保険金」という。)を支払う。

イ.無保険車傷害保険金の額は,被害者等の被る損害の額から,@自動車損害賠償責任保険からの支払額,A賠償義務者以外の第三者が負担すべき金員で被害者等が既に取得したものの額等(以下「自賠責保険金等」という。)の合計額を差し引いた額とする。

ウ.被上告人は,被保険者又は保険金請求権者が保険金請求の手続をした日から30日以内に保険金を支払う。

(3) 本件約款には,被上告人が被害者等の被る損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めはない。

(4)ア.本件事故により上告人X1の被った損害の額は,無保険車傷害保険金の内払金311万8612円を差し引くと,1億5669万5310円である。

イ.上告人X1は,平成19年4月10日,自動車損害賠償責任保険から4000万円(以下「本件自賠責保険金」という。)の支払を受け,また,平成17年8月15日から平成21年4月15日にかけて,国民年金法に基づく障害基礎年金合計467万1772円(以下「本件障害基礎年金」という。)の支給を受けた。

(5) 本件事故により上告人X2及び同X3の被った損害の額は各205万円,上告人X4の被った損害の額は105万円であり,これらが同上告人らに支払われる無保険車傷害保険金の額となる。

(6) 上告人らの代理人弁護士は,平成18年2月18日,被上告人に対し,無保険車傷害保険金の支払を請求した。

3.原審は,上記事実関係の下において,次の(1)ア及びイ並びに(2)のとおり判断して,@上告人X1の請求を,無保険車傷害保険金の残元本1億1583万6731円のほか,無保険車傷害保険金の元本のうち休業損害及び逸失利益を填補する部分に対する弁済期の翌日である平成18年3月21日から平成21年4月15日までの民法所定の年5分の割合による確定遅延損害金の未払額304万3884円,上記部分の残元本である4465万2618円に対する平成21年4月16日から支払済みまでの上記割合による遅延損害金,無保険車傷害保険金の元本のうち上記部分以外の部分である7118万4113円に対する平成18年3月21日から支払済みまでの上記割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,Aその余の上告人らの各請求を,無保険車傷害保険金(上告人X2及び同X3につき各205万円,同X4につき105万円)及びこれに対する平成18年3月21日から支払済みまでの上記割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した。

(1)ア.上告人X1に支払われる無保険車傷害保険金の額を算定するに当たっては,上記2(4)アの損害の元本の額から,本件自賠責保険金の全額及び本件障害基礎年金のうち平成18年3月20日以前に支給された分の全額を差し引くのが相当である。

イ.本件障害基礎年金のうち平成18年3月21日以後に支給された分については,順次,上記アにより算定された無保険車傷害保険金のうち休業損害及び逸失利益を填補する部分に対する各支給日までの遅延損害金の額,上記無保険車傷害保険金の元本の額から,この順に差し引くのが相当である。

(2) 無保険車傷害保険金の支払請求は,実質において賠償義務者に対する損害賠償請求と同じであるから,無保険車傷害保険金の支払債務に係る遅延損害金の利率は,民法所定の年5分と解するのが相当である。

【判旨】

1.所論は,本件約款上,無保険車傷害保険金の額を算定するに当たり被害者等の被る損害の額から差し引くものとされている自賠責保険金等の額とは,被害者等に支払われた自賠責保険金等の額のうち,損害の元本に対する遅延損害金に充当された額を控除した残額をいうものと解すべきであり,また,無保険車傷害保険金の支払債務に係る遅延損害金の利率は商事法定利率である年6分であると解すべきであって,これと異なる原審の上記3(1)ア及び同(2)の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというのである。

2.そこで検討すると,原審の上記3(1)アの判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) まず,本件約款によれば,無保険車傷害保険金は,被害者等の被る損害の元本を填補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を填補するものではないと解されるから,本件約款に基づき被害者等に支払われるべき無保険車傷害保険金の額は,被害者等の被る損害の元本の額から,被害者等に支払われた自賠責保険金等の全額を差し引くことにより算定すべきであり,自賠責保険金等のうち損害の元本に対する遅延損害金に充当された額を控除した残額を差し引くことにより算定すべきものとは解されない。このことは,自賠責保険金等が無保険車傷害保険金の弁済期後に支払われた場合であっても,異なるものではない(なお,原審の上記3(1)イの判断は相当でないこととなる。)。
 原審の上記3(1)アの判断は正当として是認することができ,この点に関する論旨は理由がない。

(2) 次に,無保険車傷害保険金の支払債務は,商人である被上告人との間で締結された保険契約に基づくものであるから,商行為によって生じた債務(商法514条)に当たるというべきであって,無保険車傷害保険金の支払請求が賠償義務者に対する損害賠償請求に代わる性質を有するとしても,そのことは,上記支払債務に係る遅延損害金の利率を賠償義務者に対する損害賠償請求の場合と同様に解すべき理由にはならない。したがって,無保険車傷害保険金の支払債務に係る遅延損害金の利率は,商事法定利率である年6分と解すべきである。
 以上と異なる原審の上記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,この点に関する論旨は理由がある。

3.以上説示したところによれば,上告人X1に支払われるべき無保険車傷害保険金の額は,事案2(4)アの損害の元本の額から,本件自賠責保険金及び本件障害基礎年金の全額を差し引いた1億1202万3538円となり,上告人らの請求は,無保険車傷害保険金(上告人X1につき上記同額,上告人X2及び同X3につき各205万円,上告人X4につき105万円)及びこれに対する弁済期の翌日である平成18年3月21日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成24年05月10日

【事案】

 会社の代表取締役である申立人が,共犯者らと共謀の上,同社の業務に関し,法人税合計3600万円余りを免れたとされる被疑事実について,刑訴規則27条に基づき,弁護人の数を3人を超えて6人とすることの許可を求める旨の請求がされたところ,原々審がこれを却下する決定をし,申立人の抗告申立てに対し,原審が抗告棄却決定をしたので,特別抗告がされた事案。

(参照条文)

刑事訴訟法35条 裁判所は、裁判所の規則の定めるところにより、被告人又は被疑者の弁護人の数を制限することができる。但し、被告人の弁護人については、特別の事情のあるときに限る。

刑事訴訟規則27条 被疑者の弁護人の数は、各被疑者について三人を超えることができない。但し、当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員の所属の官公署の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所が特別の事情があるものと認めて許可をした場合は、この限りでない。
2 前項但書の許可は、弁護人を選任することができる者又はその依頼により弁護人となろうとする者の請求により、これをする。
3 第一項但書の許可は、許可すべき弁護人の数を指定してこれをしなければならない。

【判旨】

 刑訴規則27条1項ただし書に定める特別の事情については,被疑者弁護の意義を踏まえると,事案が複雑で,頻繁な接見の必要性が認められるなど,広範な弁護活動が求められ,3人を超える数の弁護人を選任する必要があり,かつ,それに伴う支障が想定されない場合には,これがあるものと解されるところ,本件においては,税務申告書に架空の減価償却費用を計上するなどして多額の所得を秘匿したという事件につき,犯意,共謀等を争っている複雑な事案であること,申立人は被疑事件につき接見禁止中であり,弁護人による頻繁な接見の必要性があること,会社の従業員,税理士事務所職員ら多数の関係者が存在し,これらの者と弁護人が接触するなどの弁護活動も必要とされることなどの事情が認められ,上記のような支障も想定されないから,刑訴規則27条1項ただし書に定める特別の事情があるものというべきである。
 そうすると,原決定は,特別の事情があるとは認められないとして上記請求を却下した原々決定を是認したものであるから,刑訴規則27条1項ただし書の解釈適用を誤った違法があると言わざるを得ない。そして,3人を超えて何人の弁護人を許可するのが相当であるか改めて検討する必要がある。
 よって,刑訴法411条1号,434条,426条2項により,原決定を取り消した上,本件を原裁判所に差し戻す。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成24年05月28日

【事案】

1.6名の破産者の各破産管財人である承継前上告人らが,それぞれ,被上告人に対し,各破産者と被上告人との間の当座勘定取引契約を解約したことに基づく払戻金及び遅延損害金の支払を求める事案。被上告人は,各破産者の破産手続開始前に,その委託を受けないで,各破産者の債務について,その債権者との間において保証契約を締結し,破産手続開始後に同契約に基づき保証債務を履行して各破産者に対し求償権を取得したとして,同求償権を自働債権とする相殺を主張している。なお,原審口頭弁論終結後に,承継前上告人らは破産管財人をいずれも辞任し,新たに破産者の各破産管財人に選任された上告人らが本訴の訴訟手続を受継した。

(参照条文)破産法

1条 この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。

2条5項 この法律において「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(かっこ書略)であって、財団債権に該当しないものをいう。

67条1項 破産債権者は、破産手続開始の時において破産者に対して債務を負担するときは、破産手続によらないで、相殺をすることができる。

72条1項 破産者に対して債務を負担する者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。
一  破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき。
2号以下略。

2.事実関係の概要等

(1) B,C,D,E,F及びG(以下,併せて「Bら」ということがある。)は,銀行業を営む会社である被上告人との間で,それぞれ当座勘定取引契約(以下,併せて「本件各当座勘定取引契約」という。)を締結していた。

(2) 被上告人は,平成18年4月28日,Bらの委託を受けないで,Bらの取引先であるHとの間で,Bらが同日から平成19年4月27日までの間にそれぞれHに対して負担する買掛債務及び手形債務につき,極度額を定めてそれぞれ保証する旨の保証契約(以下,併せて「本件各保証契約」という。)を締結した。極度額は,Bについて2400万円,Cについて1200万円,Dについて800万円,Eについて200万円,Fについて200万円,Gについて200万円であった。

(3) Bらは,いずれも,平成18年8月31日,破産手続開始の決定を受け,承継前上告人らが,それぞれ,破産管財人に選任された。

(4) 被上告人は,平成19年3月27日及び同月28日,本件各保証契約に基づく保証債務の履行として,Hに対し,Bの債務2400万円を,Cの債務723万0428円を,Dの債務270万2700円を,Eの債務73万2615円を,Fの債務47万0985円を,Gの債務200万円をそれぞれ弁済した。

(5) 承継前上告人らは,平成19年5月9日,それぞれ,本件各当座勘定取引契約に定められた手続により,本件各当座勘定取引契約を解約した。

(6) 被上告人は,平成19年6月12日,承継前上告人らに対し,前記弁済により取得した求償権と本件各当座勘定取引契約に基づきBらが被上告人に対して有する債権とをそれぞれ対当額において相殺する旨の意思表示をした。上記の各債権がそれぞれ対当額において相殺されると,被上告人の債務は,Bに係る債務につき23万9509円が,Cに係る債務につき721万3218円が,Dに係る債務につき41万9052円が,Eに係る債務につき73万2615円が,Fに係る債務につき47万0985円が,Gに係る債務につき200万円が,それぞれ消滅することとなる(以下,上記の各相殺を併せて「本件各相殺」という。)。

3.原審は,本件各相殺の効力につき次のとおり判断するなどして,承継前上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。

(1) 保証人が,主たる債務者の破産手続開始前に締結された保証契約に基づき同手続開始後に弁済をして取得するに至った求償権は,当該保証契約が主たる債務者の委託を受けないで締結されたものであっても,破産債権となる。

(2) 破産法72条1項1号にいう破産債権の取得とは,将来の請求権の場合には,現実化する前の将来の請求権を取得することをいうと解されるところ,被上告人は,将来の請求権としての求償権をBらの破産手続開始前である本件各保証契約の締結時に取得したと解すべきであるから,本件各相殺につき,同号は類推適用されず,被上告人による本件各相殺が許される。

【判旨】

1.原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。

(1) 保証人は,弁済をした場合,民法の規定に従って主たる債務者に対する求償権を取得するのであり(民法459条,462条),このことは,保証が主たる債務者の委託を受けてされた場合と受けないでされた場合とで異なるところはない(以下,主たる債務者の委託を受けないで保証契約を締結した保証人を「無委託保証人」という。)。このように,無委託保証人が弁済をすれば,法律の規定に従って求償権が発生する以上,保証人の弁済が破産手続開始後にされても,保証契約が主たる債務者の破産手続開始前に締結されていれば,当該求償権の発生の基礎となる保証関係は,その破産手続開始前に発生しているということができるから,当該求償権は,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」(破産法2条5項)に当たるものというべきである。したがって,無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は,破産債権であると解するのが相当である。

(2) 次に,このような破産債権による相殺の可否について検討する。

ア.相殺は,互いに同種の債権を有する当事者間において,相対立する債権債務を簡易な方法によって決済し,もって両者の債権関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする合理的な制度であって,相殺権を行使する債権者の立場からすれば,債務者の資力が不十分な場合においても,自己の債権について確実かつ十分な弁済を受けたと同様の利益を得ることができる点において,受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た機能を営むものである(最高裁昭和39年(オ)第155号同45年6月24日大法廷判決・民集24巻6号587頁参照)。上記のような相殺の担保的機能に対する破産債権者の期待を保護することは,通常,破産債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする破産制度の趣旨に反するものではないことから,破産法67条は,原則として,破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺を認め,同破産債権者が破産手続によることなく一般の破産債権者に優先して債権の回収を図り得ることとし,この点において,相殺権を別除権と同様に取り扱うこととしたものと解される。
 他方,破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺であっても,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においては,上記基本原則を没却するものとして,破産手続上許容し難いことがあり得ることから,破産法71条,72条がかかる場合の相殺を禁止したものと解され,同法72条1項1号は,かかる見地から,破産者に対して債務を負担する者が破産手続開始後に他人の破産債権を取得してする相殺を禁止したものである。

イ.破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始前に債務者である破産者の委託を受けて保証契約を締結し,同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合には,この求償権を自働債権とする相殺は,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においても,他の破産債権者が容認すべきものであり,同相殺に対する期待は,破産法67条によって保護される合理的なものである。しかし,無委託保証人が破産者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合についてみると,この求償権を自働債権とする相殺を認めることは,破産者の意思や法定の原因とは無関係に破産手続において優先的に取り扱われる債権が作出されることを認めるに等しいものということができ,この場合における相殺に対する期待を,委託を受けて保証契約を締結した場合と同様に解することは困難というべきである。
 そして,無委託保証人が上記の求償権を自働債権としてする相殺は,破産手続開始後に,破産者の意思に基づくことなく破産手続上破産債権を行使する者が入れ替わった結果相殺適状が生ずる点において,破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始後に他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上同債権を自働債権としてする相殺に類似し,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続上許容し難い点において,破産法72条1項1号が禁ずる相殺と異なるところはない。
 そうすると,無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が取得する求償権を自働債権とし,主たる債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とする相殺は,破産法72条1項1号の類推適用により許されないと解するのが相当である。

2.以上によれば,被上告人による本件各相殺が許されるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,承継前上告人B破産管財人Aの請求中23万9509円の金員の支払を求める部分,承継前上告人C破産管財人Aの請求中721万3218円の金員の支払を求める部分,承継前上告人D破産管財人Aの請求中41万9052円の支払を求める部分,承継前上告人E破産管財人Aの請求中73万2615円の支払を求める部分,承継前上告人F破産管財人Aの請求中47万0985円の金員の支払を求める部分及び承継前上告人G破産管財人Aの請求中200万円の支払を求める部分並びにこれらの金員に対する平成19年5月10日から支払済みまで年6分の金員の支払を求める部分につき,原判決は,破棄を免れない。そして,同部分につき,原審口頭弁論終結後に生じた上告人らによる権利の承継に基づき訴えを変更するため,本件を原審に差し戻すこととする。

【須藤正彦補足意見】

 私は,法廷意見の結論及び理由に同調するものであるが,なお,実質的平等という観点を中心に私見により理由を付加的に補足しておきたい。

1(1) 本件の相殺の許否は,詰まるところ,一方における,破産手続開始前に無委託保証人である者が同手続開始後に弁済したことにより同人が主たる債務者に対して取得した求償権(以下,この場合の求償権を「破産開始後求償権」ということもある。)が破産債権であるということによる平等弁済の要求と,他方における,相殺は担保権ではないが自働債権を有する者が受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た機能を営むものであるということによる優先弁済の要求という二つの相反する要求の交錯において,破産法67条はどのように解釈されるべきかという問題である。しかして,破産法等の倒産法は,債務者の利害関係人を中心とする取引界の支配的通念と無関係ではあり得ず,その反映であるともいえるから,同条の解釈に当たってもこの観点で検討することが必要かつ有用であると思われる。

(2) 債務者の責任財産が複数の債権者の総債権の満足に不足するという支払不能の状態(倒産)に陥った場合,各債権者においては最大限の回収が切実な課題となり,実力を行使してでも自己の債権だけは回収しようと先を争い,無秩序で不公平な事態になり得る。そこで,倒産法は,債務者の清算または再建に向けての債権債務関係の処理に関して,基本的に,担保権付ではない一般債権については債権額に応じた比例的平等弁済という意味での債権者平等の原則の実現を図り,担保権付債権については優先的弁済を受けることができるように定める。それは,我々の一般的法感情が無秩序で不公平な事態を許容しないからであり,特に,債務者の利害関係人を中心とした取引界(以下,「取引界」を債務者の利害関係人を中心とした取引界の意味で用いる。)の支配的通念が,基本的に,一たび倒産手続が開始された以上は,債権額に応じた比例的平等弁済を要求するとともに,それとは異なる優劣のある取扱いには合理的理由の存在を要求するという意味での実質的平等の実現を一般的に要求するからである。すなわち,取引界の支配的通念は,民法等の実体法上で同じ性質の債権が互いに平等であることに基づき比例的平等弁済を要求し,また,担保権付債権については,債務者が平常時にその負担する債務のために保有する財産について担保を設定するという担保取引の自由を有するとともに,他方において,債務者に倒産手続が開始されたがゆえに担保権として優先的に弁済を受けることができる関係が覆滅させられたら,債権者は安んじて担保取引をすることができず,そのことは社会の経済活動を害することになるから,倒産手続が開始されても優先的回収をすることに合理的理由を認め,これについて実質的平等であるとして容認するものといえる。

(3) かくて,破産法等倒産法の諸規定は,取引界の支配的通念の反映ともいえるのであって,したがって,逆に,債権者平等の原則における比例的平等弁済や担保権付債権の優先的取扱いということも,取引界の支配的通念に照らし実質的平等に反すると認められる各局面では,民法等の実体法を一部修正する立法によって,また,倒産処理を管轄する裁判所や管財人等の実務における運用上の工夫によって変容を受け得るのである(少額債権者の優先弁済,破産者経営者の破産者に対する債権の行使の制限,会社更生法での担保権の更生担保権としての処遇はその一例)。そうであれば,破産法等倒産法の解釈においても,倒産手続開始時以後の取引界の支配的通念に照らしてなされるべきであるといい得,したがって,破産法67条等の解釈においても,この実質的平等という観点を根底に置いて解釈がなされるべきであるといえる。そうすると,破産者に対する債務を受働債権とする相殺に関しては,同法67条は破産手続開始時以後の取引界の支配的通念に照らして実質的平等に合致するとみられる場合にその効力を認める趣旨の規定,また,同法71条,72条は同じく実質的平等に反するとみられる場合について相殺の効力を否定する趣旨の規定であると解すべきである。そうして,債権者の相殺についての合理的期待は保護されるべきであるといわれるが,取引界の支配的通念に照らして実質的平等に合致するとみられる場合が合理的期待がある場合に当たるといえる。また,そのことよりすれば,逆に実質的平等に合致しない結果を生じさせるとみられるような場合については,形式的には同法67条に該当するようにみえても,合理的な期待を有しないものとして,同条は適用をみないというべきである。結局のところ,相殺は担保権ではないものの担保的機能を営むことに鑑みれば,同条の適用の有無も,取引界の支配的通念からそのような優先的取扱いを生じさせることに合理的理由があるとみられるか否か,つまりは,実質的平等であるとして容認されるためのいわば正当化根拠ともいうべきものが見出されるか否かということに係るといえる。

2.しかるところ,破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺は,破産法72条に該当する場合は別として,多くの場合,取引界の支配的通念から実質的平等であるとして容認されるための正当化根拠を見出すことができ,したがって,相殺に対する期待は合理的で同法67条も適用されるといえるのであるが,本件はそのような場合と同様に解することは困難というべきである。

(1) 第1に,破産開始手続時に既に同種の債権が対立し弁済期にある状態(相殺適状)が現実化している場合については,この場合に相殺の効力を生じさせることが制度として認められている以上,そこに当然に正当化根拠があり,したがって,取引界の支配的通念によって,他の一般の破産債権に優先して債権の回収がなされることになってもなお実質的平等であるとして容認されるといえる。すなわち,相殺に担保的機能を生じさせることは取引の安全,円滑な経済の遂行に資し,逆のときはこれを妨げるのであり,また,この場合には,受働債権が自働債権の引当てになっている関係(自働債権と受働債権との牽連関係)が現実化しているということで一種の公示がなされ,いわば対抗力を獲得するに至っているともいえないわけではないと思われるからである。そうすると,この場合は,債権者の相殺に対する期待は当然合理的なものといえる。破産法67条によって相殺が認められるのは一般的にはこのような場合であろう。また,この意味で,無委託保証人の破産手続開始前の弁済に基づく求償権による相殺においては,破産手続開始時に前記の同種の債権の対立状態という前提が備わっているから,同人の相殺の期待は合理的とみられ,したがって,当然同条が適用されて相殺の効力が認められるわけである。

(2) 第2に,破産者は,平常時において経済活動の自由があり,その保有する債権という責任財産について処分の自由を有している。そうすると,債務者が,破産手続開始前にその自らの意思により自己の保有する債権(受働債権)を債権者による将来の相殺のために供することについては,取引界の支配的通念において実質的平等であると容認されるための正当化根拠が見出されるといい得る。この点よりすると,債務者の破産手続開始前の委託による保証(委託保証)に基づき保証人が同手続開始後に弁済した場合の事後求償権による相殺は,破産手続開始前に債務者がその自らの意思により自己の保有する債権(受働債権)を事後求償権を自働債権とする保証人による将来の相殺のために供したことによりなされるといえるから,取引界の支配的通念により実質的平等であるとして容認されるための正当化根拠が見出されるといい得,その結果,この場合の保証人の相殺の期待も合理的とみられる。したがって,この場合は当然破産法67条が適用されて,相殺の効力が認められるわけである。

(3) 第3に,上記のとおり,破産法67条の適用の有無においては取引界の支配的通念である実質的平等という観点が決定的な役割を果たすといえるから,無委託保証人が受働債権を有し,これを引当てにして保証を行うということがいわば信用取引の一種として取引慣行上定着しているならば,その取引慣行が是認され,受働債権が自働債権の引当てになっているという関係(自働債権と受働債権との牽連関係)が一般的になっているといえる。その結果,取引界の支配的通念は,その取引慣行に,実質的平等であるとして容認されるための正当化根拠を見出すことになり得,したがって,無委託保証人の破産開始後求償権による相殺の期待は合理的なものと認められることになり得る。そうすると,それについては,同条が適用され,相殺の効力が認められ得るわけである。

(4) しかしながら,本件の無委託保証人たる被上告人の破産手続開始後求償権を自働債権とする相殺においては,第1に,破産手続開始時には被上告人の弁済による求償権は現実化していないから,同種の債権の対立,つまり,Bらの受働債権が被上告人の求償権の引当てとなっているという関係(自働債権と受働債権との牽連関係)の現実化という前提が欠けており,第2に,Bらは被上告人に保証を委託していなかったのであるから,Bらが自らの意思により自己の保有する預金債権を求償権を自働債権とする被上告人による将来の相殺のために供したという前提も欠けている。また,無委託保証人が受働債権を有し,これを引当てにして保証をしているという慣行が定着しているという事情も全くうかがい得ない。そうすると,本件の無委託保証人の破産開始後求償権を自働債権とする相殺については,以上の点において取引界の支配的通念で実質的平等があるとして容認されるための正当化根拠が見出され得ない。また,この他にも見出し得るわけではない。そうすると,本件における被上告人の相殺の期待は,無委託保証人が破産手続開始前に弁済をした場合や委託を受けた保証人が破産手続開始後に弁済をした場合と同様に解することは困難というべきである。

3.他方,破産法72条1項1号の場合は,破産手続開始時の同種の債権の対立の現実化,債務者自らの意思により自己の保有する債権(受働債権)を債権者の将来の相殺のために供したことという前提を欠き,また,同号に示されている事例が慣行として是認され定着しているわけではないという点で,本件の場合と全く利益状況を共通にする。もとより,破産法の規定をたやすく類推適用して相殺を否定することは,予測可能性を害し,円滑な経済の遂行を妨げるおそれがあるから,それはよくよく慎重でなければならないが,そうであるとしても,本件の相殺に限っては,上記よりすれば,同法67条の適用は否定され,また,同法72条1項1号の場合と利益状況を全く共通にするのだから,同法72条は実質的平等に反する代表的な場合を列挙したもので,少なくとも類推適用を絶対的に許さないほどの厳格な限定挙示とみるべきではないと解した上,本件の無委託保証人の破産開始後求償権による相殺については,同条1項1号の場合に準ずるものとしてその類推適用が許されてよいと思われる。

4.以上よりすると,被上告人の本件各相殺については破産法67条は適用することができず,同法72条1項1号を類推適用するのが相当であるから,その効力は否定されるというべきである。
 なお,念のためいえば,既に述べたとおり,受働債権の存在ないしはそれと破産開始後事後求償権との相殺を前提とする無委託保証が慣行として定着していることは全くうかがわれず,また,将来,例えば,預金等を取り扱う金融機関(預金保険法2条1項,2項参照)が今後この業務に積極的に参入するという傾向も看取され得ない。受働債権との相殺を前提としないと,その業務の遂行を困難にさせ,あるいは業界の発展を妨げるとは思われず,また,この相殺を否定することが債務者の資金調達ないしは与信機会の拡大を著しく妨げることになるというような事態もにわかに考え難いところである。5 なお,以上の理は,民事再生,会社更生の局面でも同様に当てはまると思われる(民事再生法93条の2第1項1号,会社更生法49条の2第1項1号参照)。

【千葉勝美補足意見】

 私は,無委託保証人が主債務者の破産手続開始後に取得する事後求償権を破産債権とした上で,これを自働債権として行う相殺につき,破産法72条1項1号の類推適用により許されないとする法廷意見との関係で,次の点を補足しておきたい。

1.主たる債務者の委託を受けないで締結された保証契約(以下「無委託保証契約」という。)と事務管理

 無委託保証契約の締結は,主債務者の関与していない領域の出来事であり,債務者が自己の責任の及ぶことを自覚している経済活動とは評価できないものであって,その点で主債務者の委託を受けて締結された保証契約(以下「委託保証契約」という。)の締結とは異なる面がある。そこで,このことを理由に,無委託保証契約により主債務者の破産手続開始後の弁済によって取得した事後求償権については,そもそも破産者の領域外の原因によるものとして破産債権にも当たらない,すなわち,「通常の条件付債権と同様に,無委託保証契約を債権発生の原因であると捉えて事後求償権が条件付に既に発生している」と考える必要はない,とする見方があり得ないではない。これによれば,無委託保証契約が破産者との間で債権的な関係を発生させるのは,本件では,破産手続開始後に保証債務を弁済した時であり,その意味で,弁済という事務管理によりその時点(破産手続開始後)で事後求償権が生じたという見解が主張されることになる。この見解は,本件において,結論として,事後求償権を破産債権と扱わないことになり,その結果当座預金債権との相殺を認めないことになるが,そのための巧みな理論的工夫であろう。
 しかしながら,無委託保証契約であっても,更にはその締結を債務者が望んでいるのか不明な場合であっても,結果的には,契約締結により一定程度債務者に対する与信の付与の効果は生ずるのであり,事務管理という観点からみても,保証債務弁済の時ではなく,保証契約締結の時点で主債務者のための事務管理がされたといわざるを得ない。また,委託保証契約においては,一定の場合,委託を受けた保証人に事前求償権が生じ,その発生原因は保証契約であるということになるが,事後求償権の発生原因も,これと別異に解する理由はなく,同様に保証契約であって,弁済前に弁済を条件とする事後求償権(条件付債権)が発生していると解すべきであろう。そうなると,無委託保証契約が債務者の領域外の出来事であったとしても,事後求償権は,委託保証契約の場合と同様の構造で発生するのであるから,その発生原因も同様に,保証契約と捉えるしかなく,無委託保証契約の場合に限って,その発生原因を保証契約でなく,保証債務の弁済であるとするのは,根拠がないといわざるを得ない。そうすると,解釈論として,本件事後求償権の発生原因は,無委託保証契約であり,破産手続開始前に債権発生の原因があるので条件付破産債権であるということになるので,事後の弁済こそが債権発生の原因であるとする解釈は,やはり採り難いところである。

2.無委託保証契約における事後求償権と相殺

 無委託保証契約が破産手続開始前に締結された場合には,その開始後の弁済により生じた事後求償権については,上記のとおり,破産債権でないとまではいえないとしても,破産手続における扱い,特に相殺の許否においては,委託保証契約により生じた事後求償権とは異なる評価がされるべきであろう。その理由は次のとおりである。
 委託保証契約と無委託保証契約との違いは,前者は,債務者の関与・意思によりされるものであり,契約締結によって一定の場合事前求償権が発生している点からみても,債務者が与信の付与のために望んだものであり,将来,必要が生ずれば相殺処理を想定したものでもあって,一種の担保的機能を債務者が容認したものといえる。主債務者に破産手続の開始等の倒産状態が生じたとしても,前者により生じた求償権を相殺処理することは,他の破産債権者も容認せざるを得ないと考えるのは,このような理由からである。破産法67条は,このような考えの下で,法廷意見が述べるとおり,相殺に対する期待は保護される合理的なものであるとして,相殺処理が可能であるとしたものと解される。
 ところが,後者の無委託保証契約では,そもそも事前求償権は生ぜず,一定の条件が整った場合に事後求償権が生ずるだけであり,前記のとおり,主債務者の関与していない領域の出来事であり,債務者が自己の責任の及ぶことを自覚している経済活動とは評価できないものであるから,債務者にとっては,結果的に自己の利益になることはあっても,将来必要が生ずれば相殺処理されることを想定していたり,担保的機能を初めから容認しているとはいえず,その点で他の破産債権者も,これを容認せざるを得ないものとは考えないというべきである。破産手続においては,破産財団からすべての破産債権者に全額の配当がされることは期待できない場合がほとんどであるから,一般の破産債権者同士では,一部の者のみが優先的に債権回収をすることは許されず,お互いに,平等取扱いを要求するものであって,そこでは強い平等原則が支配する場面である。そして,無委託保証契約による事後求償権については,その相殺処理は他の破産債権者にとって容認できないという強い不平等感を抱くはずであり,これは,単なる破産債権者の感情や願望ではなく,破産手続の基本原則に背馳する処理となることから生ずるものであって,その点で,委託保証契約による事後求償権と法的な扱いに差を設ける合理的な理由があるというべきである。すなわち,無委託保証契約による事後求償権に対するこのような評価は,それを破産債権と扱わない理由とまではならないとしても,破産者の意思により設定された別除権や委託保証契約による事後求償権の相殺処理のようないわば破産手続外での処理は認めない,あるいは優先的な債権回収は認めない,という限度での差別の合理的な理由となり得るものである。

3.破産法67条と同法71条,72条の規律領域

 そもそも,相殺処理は,相対立する債権が存在する場合に相殺適状となることにより認められるものであり,本来,民法が規定する条件を満たせば可能なものではあるが,破産債権者に対する公平・平等な取扱いを基本原則とする破産手続においては,他の破産債権者よりも優先的な債権の回収を図る結果となるものであることから,それが許されるか,どのような場合に許されるかは,破産手続において一大関心事というべきであろう。破産法はこの点について,67条と71条,72条の規定を設けて規律しており,本件のような無委託保証契約による事後求償権を自働債権とする相殺処理についての扱いが,どちらの規律領域に入るのかが検討されることになる。
 すなわち,本件事後求償権による相殺については,前記のとおり,委託保証契約の事後求償権と異なり,相殺処理を認めない処理をする合理的理由があるとしても,それが破産法67条による規律の領域ではなく,相殺を禁止している同法71条,72条の規律領域に入るということが,67条等の立法の基礎にある考えについての理解のみからではなく,条文の解釈論としていえなければならない。
 そこで,特に根拠となり得る破産法72条1項1号についてみると,これは,破産債権者が破産手続開始後になって破産者の意思に基づくことなく他人の破産債権を取得し,その結果,破産者に対する債務と相殺適状を生じさせて相殺処理をすることは,破産手続における公平・平等取扱い原則に反するものであることから,これを禁ずるものである。そして,本件については,破産者に対して債務を負担する無委託保証人が破産手続開始後になって保証債務の弁済を行い,それによって事後求償権を取得し,その結果,相殺適状を生じさせたものであり,その構造は,破産手続開始時には受働債権とは相殺適状にはないのに,法廷意見が述べるとおり,正に,破産者の意思に基づくことなく破産手続上破産債権を行使する者が入れ替わった結果相殺適状を作出させたものである。この点において,破産者に対し債務を負担する者が,破産手続開始後に他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上,同債権を自働債権として行う相殺に類似するものであって,破産債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続上許容し難い点において,同法72条1項1号が禁ずる相殺のケースと異なるところがない。このように考えれば,本件の相殺の許否は,同法67条ではなく同法72条1項1号の規制領域に入るものと考えるべきであろう。

4.破産法72条1項1号の類推適用の可否等

 民法上認められる相殺処理を一定の場合に禁止することは,一種の財産権の侵害という側面を有するため,本来,明確な法令上の根拠が求められるところであるが,様々な新規の商取引が次々に展開される取引社会において,相殺処理が問題になる類型的事例を直ちに捕捉して速やかに破産法の改正等の立法的手当をすることは容易ではなく,既存の破産法の解釈で対応が可能な場合には,その類推適用(ないし準用)を認める解釈手法が許容されるものと考える。破産債権の公平・平等な扱いという破産法の基本原則を前提にすると,それに背馳する本件各相殺は,前記のように考えることが可能であるので,法廷意見が破産法72条1項1号の禁ずる相殺と異なるところがないとしてその類推適用を認めたのも,この見解によるものであって,不当に拡大適用を志向するものとはいえず,正に許容できる解釈論の範囲内のものというべきである。
 なお,無委託保証契約を締結した金融機関等が,主債務者に破産手続が開始された後に保証債務を弁済して事後求償権を取得したとしても,破産法72条1項1号の類推適用により,破産者に対する(預金)債務との相殺処理は許されないとすることは,無委託保証のビジネス自体を阻害するのではないかが問題になろう。しかし,無委託保証人は,今後,このように相殺処理が許されないことを前提にして,債権者から取得する対価をあらかじめ相応の価格に設定することは可能であり,また,そもそも,本件のように,預金債権が当座預金債権である場合には,預金額には日々増減があり,特に倒産時には相殺等の対象として利用できる程度の額が残存しているかは予想し難いところであろうから,上記相殺処理を禁止することが無委託保証ビジネス自体を阻害することになるおそれはないものと思われる。

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