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最高裁判所第二小法廷判決平成24年06月29日

【事案】

1.上告人が,いずれも貸金業者である株式会社A(同社が合併により権利義務を承継した会社を含む。以下同じ。その後,株式会社B,株式会社Cと順次商号変更した。)及びその完全親会社である被上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引における弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しているとして,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,上記過払金の返還等を求める事案。上告人は,Aが被上告人に対して上告人とAとの間の金銭消費貸借取引における約定利息を前提とする残債権(以下「約定残債権」という。)を譲渡したことにより,被上告人が上記金銭消費貸借取引により発生した過払金の返還に係る債務を承継したなどと主張するのに対し,被上告人は,これを争っている。

2.事実関係の概要等

(1) 上告人は,Aとの間で,金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結し,これに基づき,平成6年4月15日から平成19年9月17日まで,継続的な金銭消費貸借取引を行った(以下,この取引を「第1取引」という。)。第1取引につき,制限超過部分を元本に充当すると,同日時点で過払金が発生していた。

(2) 被上告人は,グループ会社のうち,国内の消費者金融子会社の再編を目的として,平成19年6月18日,被上告人の完全子会社であったA外1社との間で上記再編に係る基本合意書を取り交わし,Aが顧客に対して有する貸金債権を被上告人に移行し,Aの貸金業を廃止することとした。この債権移行の実行のため,被上告人は,Aとの間で,同日,業務提携契約(以下「本件業務提携契約」という。)を締結し,その中で,Aの顧客のうち被上告人への債権移行を勧誘する顧客は,被上告人及びAの協議により定めるものとし,そのうち希望する顧客との間で,被上告人が金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結することなどを定めたが,上告人は,被上告人との間で,上記基本契約を締結することはなかった。

(3) 被上告人は,Aとの間で,平成19年10月16日,Aが有する貸付債権のうち,被上告人との間で上記(2)の基本契約を締結していない顧客に係る貸付債権であって別途特定するものをAから譲り受ける旨の合意をした(以下,この合意を「本件債権譲渡基本契約」という。)。
 本件債権譲渡基本契約には,Aが譲渡債権に係る顧客に対して負担する利息返還債務,同債務に附帯して発生する経過利息の支払債務その他Aが上記顧客に対して負担する一切の債務(以下「過払金等返還債務」という。)については,被上告人が併存的に引き受ける旨の条項(以下「本件債務引受条項」という。)がある。しかし,本件債権譲渡基本契約には,譲渡債権に係るAの貸主としての地位自体を被上告人に移転する旨又はAの負担する過払金等返還債務が当然に被上告人に承継される旨を定めた条項はない。

(4) 被上告人は,Aとの間で,本件債権譲渡基本契約に基づき,平成19年10月17日をもって第1取引における約定残債権をAから譲り受ける旨の合意をした(以下,この合意を「本件譲渡」という。)。
 被上告人から本件譲渡に係る通知を受けた上告人は,被上告人に対し,平成19年11月6日から平成20年11月2日まで,第1審判決別紙「利息制限法による計算書」の番号267から279までの「弁済額」欄記載のとおりの弁済をするとともに,同日,被上告人との間で,新たに金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結した。この基本契約は,上告人と被上告人との上記弁済に係る取引により過払金が発生していれば,当該過払金を同基本契約に基づく取引に係る借入金債務に充当する旨の合意を含むものであった。そして,上告人と被上告人とは,同基本契約に基づき,同日から平成21年2月13日まで,上記別紙の番号280から286までの「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおりの取引をした(以下,本件譲渡後の上告人と被上告人との取引を「第2取引」という。)。

(5) 被上告人とAとは,平成20年12月15日,本件債権譲渡基本契約のうち本件債務引受条項を変更し,過払金等返還債務につき,Aのみが負担し,被上告人は譲渡債権に係る顧客に対し何らの債務及び責任を負わないことを内容とする契約(以下「本件変更契約」という。)を締結した。

3.原審は,上記事実関係の下において,被上告人は,本件債権譲渡基本契約及びこれに基づく本件譲渡により第1取引によって発生した過払金等返還債務を承継するものではないと判断し,上告人の請求を第2取引のみによって発生した過払金15万5000円及び民法704条前段所定の利息の支払を求める限度で認容した。

【判旨】

1.所論は,被上告人は,本件債権譲渡基本契約及びこれに基づく本件譲渡により,第1取引によって発生した過払金等返還債務を承継したものであり,これを否定することは信義則に反するというものである。

2.貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転するものではなく,また,譲受業者が上記金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務を当然に承継するものでもない(最高裁平成22年(受)第1238号,同年(オ)第1187号同23年3月22日第三小法廷判決・裁判集民事236号225頁最高裁平成22年(受)第1405号同23年7月8日第二小法廷判決・裁判集民事237号159頁等)。前記事実関係によれば,本件譲渡は,Aから被上告人への債権譲渡について包括的に定めた本件債権譲渡基本契約に基づくものであるところ,同基本契約には,契約上の地位の移転や過払金等返還債務の当然承継を定める条項はないというのであるから,本件譲渡により,直ちに,被上告人が,第1取引に係る契約上の地位の移転を受け,又は第1取引に係る過払金等返還債務を承継したということはできない。
 また,前記事実関係によれば,本件債権譲渡基本契約中の本件債務引受条項は,譲渡債権に係るAの顧客を第三者とする第三者のためにする契約の性質を有するところ,本件変更契約の締結時までに,上告人は,被上告人に対し,本件譲渡に係る通知に従い弁済をした以外には,第1取引に係る約定残債権につき特段の行為をしておらず,上記弁済をしたことをもって,本件債務引受条項に係る受益の意思表示をしたものとみる余地はない。そうすると,本件債務引受条項は,上告人が受益の意思表示をする前にその効力を失ったこととなり,被上告人が本件債務引受条項に基づき上記過払金等返還債務を引き受けたということはできない。最高裁平成23年(受)第516号同年9月30日第二小法廷判決・裁判集民事237号655頁は,被上告人が,本件業務提携契約を前提としてその完全子会社の顧客に対し被上告人との間で金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結することを勧誘するに当たって,顧客と上記完全子会社との間に生じた債権を全て承継し,債務を全て引き受ける旨の意思表示をしたものと解するのが合理的であり,顧客も上記の債権債務を被上告人において全てそのまま承継し,又は引き受けることを前提に,上記勧誘に応ずる旨の意思表示をしたものと解される場合につき判断したものであり,上告人の意思を考慮することなくAと被上告人との間で本件譲渡がされたにすぎない本件とは,事案を異にすることが明らかである。
 以上によれば,被上告人は,本件債権譲渡基本契約及びこれに基づく本件譲渡により,第1取引によって発生した過払金等返還債務を承継したとはいえない。また,前記事実関係によれば,被上告人において上記過払金等返還債務の承継を否定することが信義則に反するともいえない。

3.以上と同旨の原審の上記判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成24年07月09日

【事案】

 児童ポルノのURLをホームページ上に明らかにした行為は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項の「公然と陳列した」には当たらないとする反対意見が付された事案。

(参照条文)児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項

 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。

【大橋正春反対意見】

 私は,原判決の法令の解釈について刑訴法411条による職権判断を示さない多数意見には賛成することができず,原判決には,判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり,破棄しなければ著しく正義に反するものとして,同条1号により破棄すべきものと考える。
 原判決の認定によると,被告人は,共犯者と共謀の上,共犯者がインターネット上に開設したウェブページに,第三者が他のウェブページに掲載して公然陳列した児童ポルノのURLを,その「bbs」部分を改変した上で掲載したものであるというのである。
 原判決は,被告人の行為は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条4項の「公然と陳列した」に該当するとして,児童ポルノ公然陳列罪の成立を認めた。
 刑法175条にいうわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないとするのが当審の判例(最高裁平成11年(あ)第1221号同13年7月16日第三小法廷決定・刑集55巻5号317頁)であり,その趣旨は,児童ポルノ法7条4項の「公然と陳列した」にも該当するものである。
 しかし,「公然と陳列した」とされるためには,既に第三者によって公然陳列されている児童ポルノの所在場所の情報を単に情報として示すだけでは不十分であり,当該児童ポルノ自体を不特定又は多数の者が認識できるようにする行為が必要で,この理は,所在場所についての情報が雑誌等又は塀に掲示されたポスター等で示される場合に限らず,インターネット上のウェブページにおいてなされる場合にも等しく妥当する。ウェブページ上で児童ポルノが掲載されたウェブサイトのURL情報が示された場合には,利用者が当該ウェブページの閲覧のために立ち上げたブラウザソフトのアドレスバーにURL情報を入力して当該児童ポルノを閲覧することが可能となり,そのために特段複雑困難な操作を経る必要がないといえるが,このことは,パソコンで立ち上げたブラウザソフトに雑誌等で示されたURL情報を入力して閲覧する場合においても同様であり,両者の間に特段の違いがあるものではない。
 平成13年決定の判旨の後段部分は,当該事件の内容から明らかなように,被告人自身が開設・運営していたパソコンネット上において,そのホストコンピュータに記憶,蔵置させた画像データの閲覧について,再生閲覧のために通常必要とされる簡単な操作に関し述べるものであり,本件のように,被告人によって示されたURL情報を使って閲覧者が改めて画像データが掲載された第三者のウェブサイトにアクセスする作業を必要とする場合まで対象とするものではないと解される。
 そうすると,本件について被告人の行為は児童ポルノ法7条4項の「公然と陳列した」には当たらず,公然陳列罪が成立するとした原判決には法令の違反があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかであり,原判決はこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるから,刑訴法411条1号により原判決を破棄し,本件については幇助罪が成立する余地もあることから,同法413条本文により,幇助罪の成否について更に審理を尽くさせるため,本件を原審である大阪高等裁判所に差し戻すべきものと考える。
 なお,被告人の行為は社会的には厳しく非難されるべきものであり,また,新たな法益侵害の危険性を生じさせるものであるという原判決の指摘も理解できないではない。しかし,そのことを強調し,URL情報を単に情報として示した行為も,「公然と陳列した」に含まれると解することは,刑罰法規の解釈として罪刑法定主義の原則をあまりにも踏み外すもので,許されるものではなく看過できない。被告人の行為については児童ポルノ公然陳列罪を助長するものとして幇助犯の成立が考えられるのであり,その余地につき検討すべきであって,あえて無理な法律解釈をして正犯として処罰することはないと考えられる。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成24年07月24日

【事案】

1.抗告人が,抗告人の相手方に対する金銭債権を表示した債務名義による強制執行として,相手方の第三債務者株式会社群馬銀行に対する特定の普通預金口座に係る普通預金債権の差押えを求める申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案。抗告人は,その申立書(訂正に係るもの)において,差し押さえるべき債権(以下「差押債権」という。)として,上記普通預金債権のうち差押命令送達時に現に存する部分(以下「現存預金」という。)だけでなく,同送達時後同送達の日から起算して1年が経過するまでの入金によって生ずることとなる部分(以下「将来預金」という。)も表示し,差押えの順序を当該入金時期の早いものから差押債権目録記載の金額に満つるまでとしている。

(参照条文)

民事執行法143条
 金銭の支払又は船舶若しくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く。以下この節において「債権」という。)に対する強制執行(第百六十七条の二第二項に規定する少額訴訟債権執行を除く。以下この節において「債権執行」という。)は、執行裁判所の差押命令により開始する。

民事執行規則133条
 債権執行についての差押命令の申立書には、第二十一条各号に掲げる事項のほか、第三債務者の氏名又は名称及び住所を記載しなければならない。
2 前項の申立書に強制執行の目的とする財産を表示するときは、差し押さえるべき債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項並びに債権の一部を差し押さえる場合にあつては、その範囲を明らかにしなければならない。

2.原審は,次のとおり判断して,本件申立てを却下すべきものとした。

(1) 将来預金を差押債権とする差押命令の申立ては,第三債務者が差し押さえられた債権を識別することができるとはいえず,差押債権の特定を欠く。

(2) 本件申立ては,現存預金だけでなく将来預金についても差押債権として表示することによって,差押債権そのものの特定が不十分となっているから,本件申立ての全部が不適法である。

【判旨】

1.原審の上記2(1)の判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定は,債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものでなければならないと解するのが相当である(最高裁平成23年(許)第34号同年9月20日第三小法廷決定・民集65巻6号2710頁参照)。

(2) これを本件についてみると,普通預金債権が差し押さえられた場合,預金残高のうち差押債権の額を超える部分については,第三債務者は預金者からの払戻請求に応ずるべき普通預金契約上の義務を負うものと解されるところ,本件申立ては,将来預金の差押えをも求めるものであり,この部分については,普通預金の性質上,預金残高を構成する将来の入出金の時期及び金額をあらかじめ把握することができないのであるから,本件申立てが認められたとするならば,第三債務者である群馬銀行において,差押命令送達の日から起算して1年の期間内に入出金が行われるたびに,預金残高のうち差押債権の額を超える部分と超えない部分とを区別して把握する作業を行わなければ,後者についての払戻請求に応ずる義務を履行することができない。
 ところが,記録によれば,群馬銀行においては,普通預金口座の入出金は,窓口の営業時間外であっても,現金自動入出機(ATM)又はインターネットを通じていつでも行うことができるのに対し,特定の普通預金口座への入出金を自動的に監視し,常に預金残高を一定の金額と比較して,これを上回る部分についてのみ払戻請求に応ずることを可能とするシステムは構築されていないというのであり,他の方法により速やかにこれを実現することも期待することはできないとみられる。
 そうすると,本件申立てにおける差押債権の表示のうち,将来預金に関する部分については,群馬銀行において,上記の程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものということはできないから,本件申立てのうち当該部分は,差押債権の特定を欠き,不適法であるというべきである。

(3) 他方,本件申立てにおいては現存預金と将来預金とが区別して表示されていると解されるところ,このうち現存預金に関する部分は,上記の識別が可能なものであって,差押債権の特定に欠けるところはないというべきである。

2.以上によれば,本件申立てのうち,将来預金に関する部分について差押債権の特定を欠き不適法であるとした原審の判断は,以上と同旨をいうものとして是認することができる。この点に関する論旨は採用することができない。
 他方,本件申立てのうち,現存預金に関する部分について差押債権の特定を欠き不適法であるとした原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原決定のうち現存預金に関する部分は破棄を免れない。そして,同部分について,原々決定を取り消した上,本件を原々審に差し戻すこととする。

【田原睦夫補足意見】

 私は法廷意見に与するものであるが,差押債権の特定に関して下記のとおり補足意見を述べる。
 普通預金口座に係る普通預金債権について,将来預金に対する差押えの申立ては,差押債権の特定を欠くものであると解すべきことは,その理由をも含めて法廷意見にて指摘するとおりである。
 それに加えて,普通預金口座の場合(当座預金口座においても同様である。),一般に公共料金等の自動引落し口座として利用されることが多く,また事業者たる債務者の場合には,従業員の給与の振替口座(従業員に給与を支給する3〜5日前には口座からの振替手続がなされる。)やリース料債務等の振替口座として利用されるが,かかる場合に,第三債務者にて将来預金の入金状況を常に監視しながら差押えの効力の及ぶ部分を識別し,約定に係る自動引落しや振替の可否を速やかに判断することは困難である。また,普通預金取引と定期預金取引とを一体化して,普通預金口座の残高が不足しても定期預金残高の一定額の範囲で預金者に対して定期預金を担保として貸付けを行って普通預金の払戻しに応ずることを内容とする総合口座(当座預金の残高が不足しても一定額まで貸付けを行って,当座預金口座の支払に応ずる当座貸越契約の場合も同様)が普及し,この場合には,第三債務者は,将来預金の入金について,それに差押えの効力が及ぶのか総合口座に係る定期預金担保の貸付金の返済に充てられるかを,入金の都度確認して処理することが必要とされることとなるのであるが,かかる第三債務者の負担を考慮すると,将来預金についても差押えの効力が及ぶと解することは相当ではないというべく,したがって,将来預金の差押えは差押債権の特定を欠くものというべきである。
 なお,将来預金の差押えを肯定するとの立場に立った場合において,それに伴い生ずる諸問題について民法478条や481条により適切に対応することが困難であることについては,法廷意見引用の最高裁平成23年9月20日決定の私の補足意見を参照されたい。また,将来預金の差押えを肯定すると,差押え後にその普通預金口座に差押禁止債権に係る金員が振り込まれた場合にも差押えの効力が及ぶこととなって,法が差押禁止債権として定めた趣旨に反する結果が生ずるとともに,債務者がその解除を求めるには,差押禁止債権の範囲の変更の申立て(民事執行法153条)をなさねばならないなど,債務者に過大な負担を強いることになる。
 おって,本件の原決定では論点として取り上げられていないが,差押債権が将来生ずるべき債権である場合には,その発生の確実性が求められ,それが認められないときには差押債権の特定を欠くものと一般に解されているところ,差押えの対象たる普通預金口座は,将来生ずるべき債権発生の基礎となる法律関係として現に存在するものの,一般に,債権差押えの申立て時点において,将来,同預金口座に何時,幾らの金額が入金されるかは予測がつかないのであって,発生の確実性を欠くものともいえ,その点からしても差押債権の特定を欠いているのではないかとも解し得る。

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