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最高裁判所第一小法廷決定平成24年10月15日

【事案】

 原判決の認定した本件収賄罪の犯罪事実の要旨は,「被告人Aは,福島県知事として,同県の事務を管理し執行する地位にあり,同県が発注する建設工事に関して,一般競争入札の入札参加資格要件の決定,競争入札の実施,請負契約の締結等の権限を有しており,被告人Bは,被告人Aの実弟であり,縫製品の製造,加工,販売等を業とするC株式会社の代表取締役として同社を経営していたものである。福島県は,同県東部の木戸川の総合開発の一環として行う木戸ダム本体建設工事(以下「木戸ダム工事」という。)について,一般競争入札を経て,平成12年10月16日,D株式会社ほか2社の共同企業体に発注した。被告人両名は,共謀の上,Dが木戸ダム工事を受注したとき被告人Aから有利便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨で,D副会長のEが下請業者であるF株式会社取締役副社長のGに指示をした結果,Fが買取りに応じるものであることを知りながら,被告人Bが,Gに対し,FにおいてCの所有する福島県郡山市の16筆の土地合計約1万1101uを8億7372万円余で買い取るように求め,Fが前記土地を同価額で買い取ることを承諾させた。その結果,平成14年8月28日,Fから,その売買代金として,福島県郡山市の株式会社H銀行本店のC名義の当座預金口座に8億7372万円余が振込送金された。このように,被告人Bは,被告人Aとの前記共謀に基づき,前記土地売却による換金の利益の供与を受けて,同県知事の職務に関し,賄賂を収受した。」というものである。

【判旨】

 所論は,本件土地の売買は,時価と売買代金額との間に差のない通常の不動産取引であるから,賄賂には当たらないと主張する。
 しかしながら,原判決の認定によれば,被告人Aは福島県知事であって,同県が発注する建設工事に関して上記の権限を有していたものであり,その実弟である被告人Bが代表取締役を務めるCにおいて,本件土地を早期に売却し,売買代金を会社再建の費用等に充てる必要性があったにもかかわらず,思うようにこれを売却できずにいる状況の中で,被告人両名が共謀の上,同県が発注した木戸ダム工事受注の謝礼の趣旨の下に,Fに本件土地を買い取ってもらい代金の支払を受けたというのであって,このような事実関係の下においては,本件土地の売買代金が時価相当額であったとしても,本件土地の売買による換金の利益は,被告人Aの職務についての対価性を有するものとして賄賂に当たると解するのが相当である。 これと同旨の原判断は正当である。

 

最高裁判所大法廷判決平成24年10月17日

【事案】

1.平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について,東京都選挙区の選挙人である上告人らが,公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第2を含め,「参議院議員定数配分規定」という。)は憲法14条1項等に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟。

2.事実関係等の概要

(1) 参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,各選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は,以上のような選挙制度の仕組みに基づく参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後,沖縄返還に伴って沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)まで,上記議員定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正(以下「昭和57年改正」という。)により,従来の個人本位の選挙制度から政党本位の選挙制度に改める趣旨で,参議院議員選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,比例代表選出議員は,全都道府県を通じて選出されるものであって,各選挙人の投票価値に差異がない点においては,従来の全国選出議員と同様であり,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。

(2) 選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,参議院議員選挙法制定当時は1対2.62(以下,較差に関する数値は,全て概数である。)であったが,その後,次第に拡大した。昭和52年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「昭和52年選挙」という。)における選挙区間の投票価値の較差は最大1対5.26に拡大し,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)は,いまだ違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示したが,平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成4年選挙」という。)における選挙区間の投票価値の較差が最大1対6.59に拡大するに及んで,最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁(以下「平成8年大法廷判決」という。)は,結論において同選挙当時における上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ない旨判示した。
 他方,平成6年改正は,上記のように1対6.59にまで拡大していた選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差を是正する目的で行われ,前記のような参議院議員の選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,直近の平成2年10月実施の国勢調査結果に基づき,できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし,かつ,いわゆる逆転現象を解消することとして,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で定数を8増8減したものであり,上記改正の結果,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対6.48から1対4.81に縮小し,いわゆる逆転現象は消滅することとなった。その後,平成6年改正後の参議院議員定数配分規定の下において平成7年7月及び同10年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.97及び1対4.98であったところ,こうした国会における較差の縮小に向けた措置を踏まえ,最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁及び最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁は,上記の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は,投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえず,上記改正をもって立法裁量権の限界を超えるものとはいえないとして,当該各選挙当時における上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。

(3) 平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により,比例代表選出議員の選挙制度がいわゆる非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減されて242人とされた。定数削減に当たっては,選挙区選出議員の定数を6人削減して146人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした上,選挙区選出議員の定数削減については,直近の平成7年10月実施の国勢調査結果に基づき,平成6年改正の後に生じたいわゆる逆転現象を解消するとともに,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差の拡大を防止するために,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。平成12年改正の結果,いわゆる逆転現象は消滅したが,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.79であって,上記改正前と変わらなかった。

(4) 平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成13年7月に施行された参議院議員通常選挙当時において,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.06であったところ,最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下「平成16年大法廷判決」という。)は,その結論において,同選挙当時,上記議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決には,裁判官6名による反対意見のほか,漫然と同様の状況が維持されるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘する裁判官4名による補足意見が付された。また,上記議員定数配分規定の下で平成16年7月に施行された参議院議員通常選挙当時において,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.13であったところ,最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁(以下「平成18年大法廷判決」という。)も,その結論において,同選挙当時,上記議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると,投票価値の不平等の是正については国会における不断の努力が望まれる旨の指摘がされた。
 平成16年大法廷判決を受けて,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会は,「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を設けて協議を行ったが,平成16年7月に施行される参議院議員通常選挙までの間に較差を是正することは困難であったため,同年6月1日,同選挙後に協議を再開する旨の申合せをした。これを受けて,同選挙後の同年12月1日,参議院議長の諮問機関である参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設けられ,同委員会において各種の是正案が検討されたが,当面の是正策としては,較差5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区について較差の是正を図るいわゆる4増4減案が有力な意見であるとされ,同案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律(平成18年法律第52号)が平成18年6月1日に成立した。同改正(以下「平成18年改正」という。)の結果,平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.84に縮小した。そして,平成18年改正後の参議院議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)の下で平成19年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成19年選挙」という。)当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.86であったところ,最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁(以下「平成21年大法廷判決」という。)は,その結論において,同選挙当時,本件定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決においては,上記のような較差は投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がされた。
 なお,上記の専門委員会が平成17年10月に参議院改革協議会に提出した報告書に示された意見によれば,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとしても,較差を1対4以内に抑えることは相当の困難があるとされている。また,同報告書においては,平成19年選挙に向けての較差の是正の後も,参議院の在り方にふさわしい選挙制度の議論を進めていく過程で,較差の継続的な検証等を行う場を設け,調査を進めていく必要があるとされた。

(5) 平成18年改正後の平成20年6月に改めて参議院改革協議会の下に専門委員会が設置され,同委員会において同年12月から同22年5月までの約1年半の間に6回にわたる協議が行われたが,同年7月に施行される参議院議員通常選挙(本件選挙)に向けた較差の是正は見送られる一方,同25年に施行される参議院議員通常選挙に向けて選挙制度の見直しを行うこととされ,本件選挙後にその見直しの検討を直ちに開始すべき旨を参議院改革協議会において決定する必要があるとされるとともに,同23年中の公職選挙法の改正法案の提出を目途とする旨の工程表も示された。

(6) 平成22年7月に本件定数配分規定の下での2回目の参議院議員通常選挙として施行された本件選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対5.00に拡大した。
 なお,本件選挙後,参議院に選挙制度の改革に関する検討会が発足し,その会議において参議院議長から改革の検討の基礎となる案が提案され,平成23年以降,各政党からも様々な改正案が発表されるなどし,上記検討会及びその下に設置された選挙制度協議会における検討を経て,平成24年8月に公職選挙法の一部を改正する法律案が国会に提出されたが,成立には至っていない。同法律案の内容は,同25年7月に施行される参議院議員通常選挙に向けた改正として選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減するものであり,その附則には,同28年に施行される参議院議員通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行う旨の規定が置かれている(同法律案による改正が行われたとしても,同22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.75である。)。

【判旨】

1.憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
 憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。事案2(1)においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは,このような観点から,参議院議員について,全国選出議員と地方選出議員に分け,前者については全国の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである(この仕組みは,昭和57年改正後の比例代表選出議員と選挙区選出議員から成る選挙制度の下においても基本的に同様である。)。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
 以上は,昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり,後記2(2)の点をおくとしても,基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。
 もっとも,最大較差1対5前後が常態化する中で,平成16年大法廷判決において,複数の裁判官の補足意見により較差の状況を問題視する指摘がされ,平成18年大法廷判決において,投票価値の平等の重要性を考慮すると,投票価値の不平等の是正については国会における不断の努力が望まれる旨の指摘がされ,さらに,平成21年大法廷判決においては,投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって較差の縮小が求められること及びそのためには選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることが指摘されるに至っており,これらの大法廷判決においては,上記の判断枠組み自体は基本的に維持しつつも,投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたところである。

2.上記の見地に立って,本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。

(1) 憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認め(59条ないし61条,67条,69条),その反面,参議院議員の任期を6年の長期とし,解散(54条)もなく,選挙は3年ごとにその半数について行う(46条)ことを定めている。その趣旨は,議院内閣制の下で,限られた範囲について衆議院の優越を認め,機能的な国政の運営を図る一方,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与え,参議院議員の任期をより長期とすることによって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映し,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。いかなる具体的な選挙制度によって,上記の憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め,国会の合理的な裁量に委ねられているところであるが,その合理性を検討するに当たっては,参議院議員の選挙制度が設けられてから60年余,当裁判所大法廷において前記1の基本的な判断枠組みが最初に示されてからでも30年近くにわたる,制度と社会の状況の変化を考慮することが必要である。
 参議院議員の選挙制度の変遷は事案2のとおりであって,これを衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると,両議院とも,政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上,選挙の単位の区域に広狭の差はあるものの,いずれも,都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と,より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ,その結果として同質的な選挙制度となってきているということができる。このような選挙制度の変遷とともに,急速に変化する社会の情勢の下で,議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなってきているということができる。加えて,衆議院については,この間の改正を通じて,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として,選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められている。これらの事情に照らすと,参議院についても,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に,更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである。
 参議院においては,この間の人口移動により,都道府県間の人口較差が著しく拡大したため,半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に,都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという現行の選挙制度の仕組みの下で,昭和22年の制度発足時には2.62倍であった最大較差が,昭和58年大法廷判決の判断の対象とされた昭和52年選挙の時点では5.26倍に拡大し,平成8年大法廷判決において違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態と判断された平成4年選挙の時点では6.59倍にまで達する状況となり,その後若干の定数の調整によって是正が図られたが,基本的な選挙制度の仕組みについて見直しがされることはなく,5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。

(2) さきに述べたような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。昭和58年大法廷判決は,参議院議員の選挙制度において都道府県を選挙区の単位として各選挙区の定数を定める仕組みにつき,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し,政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ることに照らし,都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものと解することができると指摘している。都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であるという点は今日においても変わりはなく,この指摘もその限度においては相応の合理性を有していたといい得るが,これを参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を選挙区の単位として固定する結果,その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では,上記の仕組み自体を見直すことが必要になるものといわなければならない。また,同判決は,参議院についての憲法の定めからすれば,議員定数配分を衆議院より長期にわたって固定することも立法政策として許容されるとしていたが,この点も,ほぼ一貫して人口の都市部への集中が続いてきた状況の下で,数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている。さらに,同判決は,参議院議員の選挙制度の仕組みの下では,選挙区間の較差の是正には一定の限度があるとしていたが,それも,短期的な改善の努力の限界を説明する根拠としては成り立ち得るとしても,数十年間の長期にわたり大きな較差が継続することが許容される根拠になるとはいい難い。平成16年,同18年及び同21年の各大法廷判決において,前記1のとおり投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたのも,較差が5倍前後で推移する中で,前記(1)においてみたような長年にわたる制度と社会の状況の変化を反映したものにほかならない。

(3) 現行の選挙制度は,限られた総定数の枠内で,半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に,都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという仕組みを採っているが,人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,このような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは,もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである。このことは,事案2(4)の平成17年10月の専門委員会の報告書において指摘されていたところであり,前回の平成19年選挙についても,投票価値の大きな不平等がある状態であって,選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることは,平成21年大法廷判決において特に指摘されていたところである。それにもかかわらず,平成18年改正後は上記状態の解消に向けた法改正は行われることなく,本件選挙に至ったものである。これらの事情を総合考慮すると,本件選挙が平成18年改正による4増4減の措置後に実施された2回目の通常選挙であることを勘案しても,本件選挙当時,前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。
 もっとも,当裁判所が平成21年大法廷判決においてこうした参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性を指摘したのは本件選挙の約9か月前のことであり,その判示の中でも言及されているように,選挙制度の仕組み自体の見直しについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど,事柄の性質上課題も多いためその検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないこと,参議院において,同判決の趣旨を踏まえ,参議院改革協議会の下に設置された専門委員会における協議がされるなど,選挙制度の仕組み自体の見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていたこと(なお,本件選挙後に国会に提出された事案2(6)の公職選挙法の一部を改正する法律案は,単に4選挙区で定数を4増4減するものにとどまるが,その附則には選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行う旨の規定が置かれている。)などを考慮すると,本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。

3.参議院議員の選挙制度については,限られた総定数の枠内で,半数改選という憲法上の要請を踏まえて各選挙区の定数が偶数で設定されるという制約の下で,長期にわたり投票価値の大きな較差が続いてきた。しかしながら,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることや,さきに述べた国政の運営における参議院の役割に照らせば,より適切な民意の反映が可能となるよう,単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある。

4.以上の次第であるから,本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできないとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

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