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最高裁判所大法廷判決平成24年10月17日

【櫻井龍子補足意見】

 私は,多数意見に賛同するものであり,本件選挙当時の投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと考えるものである。
 もとより,投票価値の平等が憲法の直接要請するところであり,参議院であってもその要請が後退すべきでないことはいうまでもないことであり,その要請が一定の限度で譲歩を求められることが憲法上許容されるのは,二院制に係る憲法の趣旨や参議院の衆議院に対する位置付け等を踏まえて,あるべき参議院の姿にふさわしいものとして国会が選択した選挙制度に国会の裁量権の行使としての合理性が認められることを要するものと解される。かかる観点から,本件選挙及び過去の参議院議員通常選挙の推移を見ると,多数意見において示されているように,選挙区間の較差が1対5前後あるいはそれ以上に及ぶ状態が既に40年以上を経過してきているのであり,今日の国政における参議院の役割等も踏まえると,二院制に係る憲法の趣旨や参議院の衆議院に対する位置付け等を勘案しても,本件選挙当時の投票価値の不均衡は,もはや早急に是正すべき状態に達しているといわざるを得ないと考えるものである。そして,都道府県間の人口較差の拡大が続く中で,現状の仕組み,すなわち都道府県を単位とする選挙区選挙を採用する限り,選挙区間の投票価値の較差を適切に是正することが困難であることは自明のこととなってきている。平成18年の公職選挙法改正が本来は本件選挙をも射程にして行われたものであったにもかかわらず,本件選挙時には平成19年の前回選挙の時から更に較差が拡大し,最大較差が5に達する結果になってしまったことからも,当面の弥縫的な措置では適切に対応し得なくなっていることが十分にうかがえるところである。したがって,参議院の選挙区選出議員の選挙については,もはや都道府県を単位とする現行制度の仕組みの見直しという抜本的改正を行うことが避けて通れないところまできているといわざるを得ないものである。
 なお付言するに,参議院における比例代表選挙と選挙区選挙の組合せという方式については,従前の全国区選挙と地方区選挙の組合せと同様に,その運用面において,前者は全国的な観点からの広い視野や識見を備えた人材を選出し,後者はそれぞれの地域の実情・状況に精通した人材を選出するのに適した機能を持ち得るものと考えられ,これまでの国会における改正論議を踏まえると,例えば,比例代表選挙と選挙区選挙の組合せという方式自体は維持しながら後者の仕組みについて選挙区の単位の都道府県からより広域な区域への変更等の見直しを検討するなど,改正の方向については様々な選択肢が考えられよう。立法府においては,投票価値の平等の要請に沿った選挙制度の見直しに当たり,二院制に係る憲法の趣旨等との調和の下に,今後の二院制の在り方も念頭に置き,上記のような改正案を含めて多様な選択肢を視野に入れつつ,相応の時間をかけても21世紀の日本を支えるにふさわしい参議院議員選挙制度の在り方について十分な議論の上,国民の期待に応える改革を行う叡智を期待してやまないものである。

【金築誠志補足意見】

 私は,多数意見に全面的に賛同するものであるが,多数意見が投票価値の著しい不平等状態を解消するために選挙制度の仕組み自体の見直しが必要である旨説示している点等に関し,若干の私見を付加しておくこととしたい。

1.投票価値の較差と憲法上の平等原則に関する私の考え方は,多数意見の引用する平成21年9月30日大法廷判決の補足意見において述べたとおりであり,そこに述べた見解に照らし,本件選挙当時の投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとの多数意見の判断に賛成する。

2.いかなる仕組みの選挙制度を採用するかについて,憲法上,国会に広範な裁量権があること,また,制度の見直しに当たっては,二院制の下における参議院の役割,在り方を踏まえるべきであることは,いうまでもない。衆議院と参議院との役割分担が明確であり,選挙制度もそれぞれの役割にふさわしいものとなっていることが望ましいことに,異論は少ないであろう。
 この観点から憲法の定めるところを見ると,内閣総理大臣の指名,予算の議決,条約の承認等について衆議院が優越するものとされていること,衆議院に解散があるのに対し,参議院には解散がなく,議員の任期も衆議院議員のそれに比して長くかつ半数改選とされていることに照らせば,衆議院について,民意が時宜にかなって反映されやすいシステムとするとともに,国政の最重要事項の決定における優越的な地位を認める一方,参議院については,国政に継続性,安定性をもたらす役割を,憲法が期待していることは確かであろう。また,両院相互のチェック・アンド・バランスが期待されていることも,二院制を採っている以上,当然であろう。しかし,参議院に期待される上記のような役割は,甚だ抽象的であり,どのような選挙制度がその役割にふさわしいかも,憲法の規定からは判然としない。
 現在,参議院も衆議院とほぼ同様な政党化が進み,選挙制度も似通ったものとなっているが,両議院の議員がいずれも国民の直接選挙とされ,議員の選ばれ方に基本的な差異がないこと,憲法上読み取れる参議院に期待される役割が抽象的であることに加え,国政の運営にとって必要欠くべからざる法律案の議決において参議院の存在が極めて重いところから,与党も野党も参議院において多数を占めることを目指さざるを得ないのであって,好むと好まざるとにかかわらず,参議院の政党化は自然の趨勢であったように思われる。
 そうしてみると,憲法の規定からも,また,民主主義的政治体制の在り方からしても,参議院の性格ないし役割に,衆議院よりも格段に大きな投票価値の較差を許容する根拠を見いだすことは,困難であるといわざるを得ない。

3.選挙制度の仕組み自体の見直しの方向に関し,多数意見は,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式を,しかるべき形で改めることも考慮すべきである旨示唆している。投票価値の著しい不平等を解消する方法は,理論上はこれ一つに限られるわけではないが,選挙区選挙を存置する限り,その選出議員の総数と選挙区割りという二つの要素を変動させるしかないのであるから,現実の選択肢が多いわけではない。議員定数削減の流れの中で,逆にこれを増加させることは考え難く,また,選挙区選挙を廃止して比例代表のみとしたり,比例代表を廃止ないし大幅に減少させてその分選挙区選挙の定数を増やすといった方法も採用できないとすれば,事実上,選挙区を現在より大きな単位に拡大するという方法しか残らないのではなかろうか。前参議院議長から,選挙制度見直しのたたき台として,都道府県の枠を超えるブロック単位の選挙区が提案されたのは,この意味で頷けるものといえよう。
 都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有していることを認めるに吝かではないが,国会に対しその代表を派遣できる地位を憲法上保障されているというわけではなく,選挙区単位の見直し以外の選択肢を排除する場合には,都道府県を選挙区単位とする意義ないし合理性は,投票価値の著しい不平等の解消という憲法上の要請に,一歩を譲らざるを得ないと考える。各地方・地域の実情を国政に十分に反映させることが重要なのはもちろんであるが,それを実現する方策として,都道府県単位の選挙区が唯一のものでないことは明らかである。実情のきめ細かな反映ということならば,より狭い地域を選挙区とする衆議院の選挙区の方が優っているともいえるし,広域的な地方行政の観点から,道州制の方が望ましいという議論も,従来から盛んである。要は,投票価値に係るいわゆる違憲状態の解消を前提とした上で,衆議院の選挙制度ともあいまち,地方の実情も含め,民意が公正かつ効果的に国政に反映される選挙制度を設計することが必要とされているということであろう。

4.選挙制度の仕組み自体の見直しは,容易な作業ではなく,相当程度の時間を要することはやむを得ない。しかし,投票価値の平等が憲法上の要請であることに鑑み,仕組みの見直しによるいわゆる違憲状態の是正の可及的に早期の実現に向けて,真摯かつ具体的な検討が進められることが強く期待されるところである。

【千葉勝美補足意見】

 私は,多数意見に賛同するものであるが,参議院議員選挙制度と人口比例原則との関係及び二院制に係る憲法の趣旨と投票価値の較差が許容される場合について,次の点を補足しておきたい。

1.参議院議員選挙制度と人口比例原則について

(1) 我が国は,全国的に均質性の高い中央集権的な国家であり,広域の普通地方公共団体である都道府県についても,歴史的,社会的に地方自治の担い手として形成された,政治的・行政的にまとまりのある地方組織で,国との間の権限の分配・調整を行う余地はあるものの,連邦国家における米国の州(state)やドイツのラント(Land)のように,それ自体が固有の統治権を有する独立したものとして国家と並ぶような地方国家的存在とまではいえない。また,我が国の地方は,各地域による産業や文化,歴史,伝統等で一定の特色や個性を有しているが,それを国政レベルで別々の独立した政治的な単位として切り出して扱わなければならないような憲法上の要請はない。そもそも,我が国において,地方における政治的テーマであっても,その地方内部にとどまらず他の地域との関連や全国的な視野からの検討が必要になるものも多い(この点につき,最高裁平成22年(行ツ)第207号同23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁における1人別枠方式の合憲性についての多数意見参照)。そうすると,国政の選挙制度を制定する場合,都道府県(ないしそれと類似する地方の地域)を一つのまとまりとして捉えて選挙区とすることには相応の合理性が認められるとしても,米国の連邦上院議員が州を代表する者として選出されるように,そこを代表する議員を選出して地域の意見として国政に反映させるものとすることは,憲法に規定があれば別であるが,それもなく,我が国の地方自治の理念が要求しているものともいい難い。さらに,我が国は,固定的な身分制度やギルドのような閉鎖的な職業別の団体制度もなく,社会の各層の間の流動化が図られており,人的な構成の観点から見ても,基本的に同質性の高い国家であるといえる。これらの点からすると,国民一人一人が国政に関わる度合いについては,その居住する地域・都道府県や帰属する社会的組織等にかかわらず,全国的に均等に扱われるべきであり,その意味で,基本的には,国政選挙におけるいわゆる投票価値の平等が要請されているといわなければならない。

(2) これまで,参議院議員選挙においては,都道府県を各選挙区の単位とする選挙区選出の選挙が採用されているが,それは,各都道府県を代表する意見を国政にそのまま反映させるものではなく,選挙を実施する地域的範囲を画する一つの方法として選挙区を定めたものであって,相応の合理性があるものとして国会の立法裁量の範囲内の事項であるとされてきた。それを前提とする投票価値の問題としては,参議院議員選挙の制度的・技術的制約等を根拠に,衆議院議員の中選挙区ないし小選挙区における選挙と比べ,憲法上許容される較差についての幅はより広いものとせざるを得ないとされてきた。しかし,今日,大きな較差が解消されない状況が長く続く中で,多数意見は,総定数の大幅な増員は事実上不可能な状況にあることを踏まえ,都道府県を単位とする選挙区選出の制度では,投票価値の大きな較差を是正し平等を実現するためには限界があるため,それ自体の見直しが必要になるとしたものである。
 そして,この都道府県を単位とする仕組み自体を見直すとすれば,今後採用されるべき選挙区については,一定の地域を選挙区として決めたとしても,それは,議員候補者の選挙運動を行う範囲ないし選挙事務を行う範囲を決めるという趣旨での地域的・組織的な単位と位置付けられることになろう。したがって,その場合は,そこでの投票価値の平等の例外を認める理由にはなり得ず,そこでも,定数配分については,原則として人口比例原則が及ぶと解すべきである。そうすると,そこに較差が生じた場合,3年ごとの半数改選への対応,人口の大都市への流入についての今後の数値予測の誤差等といった制度的・技術的な制約や,選挙制度を定める際に当然考慮され得る地理・交通,人口分布・住民構成等の諸事情に由来する範囲を超えてなおそれが許容されるのは,二院制に係る憲法の趣旨からそれが許容されると解することができるような場合に限られるといわなければならない。

(3) 憲法においては,限られた範囲について衆議院の優越を認めているが,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院と同等の権能が与えられており,しかも,参議院には解散がなく,議員の任期も6年と長期であるため,そこでの多数派は,長年にわたり国政に対し影響力の強い権能を行使することができる仕組みともなっている。このことや衆参両院の現状等を見ると,参議院にも,衆議院と同様に,選出の過程における十分な民主的基盤を求めざるを得ないのであり,参議院議員選挙における投票価値の平等がこれまで以上に要請されることとなるものといえる。

2.二院制に係る憲法の趣旨と投票価値の較差が許容される場合について

(1) 以上のとおり,参議院議員選挙(選挙区選出)においても,基本的には人口比例原則が及ぶと解される以上,そこに一定の制度的・技術的な制約や選挙制度を定める際に当然考慮され得る諸事情に由来する範囲を超えて生じた大きな較差がなお許容されるのは,それが二院制に係る憲法の趣旨から許容されると解することができる場合に限られるというべきである。それがどのような場合かは容易には想起し難いところであるが,本件との関係でこれを検討すると,次のとおりである。

(2) 憲法は二院制を採用しており,参議院には衆議院とは異なる一定の役割・機能が想定されているはずである。この点については,衆議院は議員の任期は4年であるが,憲法上解散総選挙が規定されており,臨機に国民の声を汲み上げ政策に反映させることが想定されているのに対し,他方,参議院は議員の任期は6年と長期で,しかも解散がない。これは,臨機の国民の声というよりも,長期的な観点からの国民の声を国政に汲み上げて,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,政治の安定,継続性を図ることを企図したものであり,そのような二院制に係る憲法の趣旨に沿うような選挙制度が求められるところである。
 その場合,参議院の議員定数配分においても,上記のとおり原則として人口比例原則が及び,その点では基本的には衆議院と異なるところはないが,そのことによって参議院議員の選出基盤が衆議院議員のそれと必然的に類似したものになるという関係にはない。人口比例原則を踏まえた上で,どのような選出基盤(それは地域を基準とするものに限られない。)や選出方法等を考えて長期的な観点からの国民の声を国政に汲み上げる選挙制度を作るかは,様々な選択肢の中から立法府が適切な裁量権を行使すべきものであろう。

(3) ところで,現行の選挙区選出は,地域の住民を都道府県単位で捉えて国民の声を汲み上げる方法を採るものであるが,これは,衆議院の採用した方法(都道府県を細分化した地域を基本単位とする小選挙区制)と類似し,また,政党中心のマニフェスト選挙が行われていることもあり,その結果,衆議院とほぼ同様の観点から国民の声を汲み上げる結果となる可能性が大きい。特に,二つの選挙が時期を接着してされた等の場合にはなおさらである。また,上記の現行の方法は,長期的な観点からの国民の声を国政に汲み上げて,政治の安定を図ることにどの程度資することになるかは必ずしも明らかでない。そうすると,この方法は,二院制に係る憲法の趣旨を直接反映したものとまではいい難く,これにより大きな投票価値の較差が存在し継続することの合理性を説明することはできないといわなければならない。多数意見が,本件選挙当時の選挙区間の最大較差1対5.00は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと判断したのも,以上の趣旨を踏まえてのものということができる。

(4) また,人口の少ない地域において深刻な政治的なテーマであっても,その地域にとどまらず他の地域との関連や全国的な視野から検討する必要が生ずることが多いのであり,国政選挙によって選出される議員は,いずれの地域の選挙区から選出されたかを問わず,全国民を代表して国政に携わることが要請されており,人口の少ない地域に対する配慮は,そのような議員の活動の中で全国的な視野から法律の制定等に当たって考慮されるべき事情というべきである。したがって,上記のようなテーマであっても,人口比例原則とはそぐわない形でその地域から一定数の議員を選出しなければ解決できないものではなく(また,そのような形で解決すべきものでもなく),そのことのために殊更にその地域の選挙区に相当数の定数を配分して投票価値の較差を生じさせることが二院制に係る憲法の趣旨によって許容されるものと解することはできない。

(5) 多数意見の述べるとおり,今後の選挙制度の見直しに当たっては,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であり,弥縫策では足りず,立法府においては,短兵急に結論を出すのではなく,法原理的な観点からの吟味に加え,二院制に関する政治哲学や諸外国の二院制議会の現状分析と評価等が不可欠であり,さらに,グローバルな視点を保持した上での日本の社会,産業,文化,歴史等についての構造的な分析が求められるなど,専門的で多角的な検討が求められるところである。新しい選挙制度については,それが地域を基準にする場合でも,それ以外の基準による場合でも,立法府が,このような検討を十分に行った上で,二院制に係る憲法の趣旨や参議院の果たすべき役割,機能をしっかりと捉えて制度設計を行うなど,相応の時間をかけて周到に裁量権を行使する必要があるというべきである。

【竹内行夫意見】

 私は,多数意見が,本件選挙当時の投票価値の不均衡はこれを正当化する特別の理由も見いだせない以上違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはないとする点について,これに賛同するものであるが,考え方等において異なるところがあるので,私の意見を次のとおり述べることとする。

1.私は,多数意見の3項(※判旨1)において要約されている昭和58年大法廷判決において示されそれ以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決により維持されてきた基本的判断枠組みに賛同するものである。そして,昭和58年判決以降,変化が認められるのは社会の状況であり,この基本的な判断枠組みの憲法上の法理自体を変更する必要は認められないと考える。憲法が法の下の平等の原理(憲法14条1項)の下において投票価値の平等を要求していることはいうまでもないが,累次の大法廷判決が指摘してきたとおり,投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会の合理的な裁量権の行使として投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることが許されるという法理は,現在も変わりないのである。そして,憲法が国権の最高機関である国会について一院制ではなく二院制を採用して衆議院と参議院の両議院があいまって機能することを予定している趣旨(憲法42条)からして,両議院における議員の選挙の仕組みにおける選出基盤に関する理念ないし基準が同質でなければならないということはないし,むしろそこに異質性があってこそ二院制の機能が発揮されるものと考える。そして,第一院としての地位を与えられている衆議院の議員選挙については厳格な投票価値の平等が唯一,絶対ではないとしても選出基盤に関する最も重要かつ基本的な理念ないし基準とされるべきであるが,参議院議員選挙については,立法府において,多様化した国民の利害や意見を二院制の下で公正かつ効果的に国会に反映させるという基本的観点に立って,第二院としての参議院の在り方を踏まえて,参議院には多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させるとの考え等の合理的な理由をも考慮して,その選出基盤についての裁量的判断を行うことが,憲法が二院制を採用した趣旨に合致するところであると考える。そのような場合には,衆議院議員選挙の場合に比して,参議院議員選挙において投票価値の平等が他の理念や政策的目的ないし理由により譲歩を求められることになるとしても,それは憲法の認めるところというべきである。
 もっとも,参議院議員選挙の仕組みにおいても投票価値の平等の理念が軽視されてはならない重要な基準となることは当然であり,上記の基本的判断枠組みの下においても,投票価値の平等が他の理念や他の政策的目的ないし理由との関連において,一定の限度で譲歩を求められるのは,そのような他の理念や政策的目的等が参議院議員の選出基盤の基準として提示され,それが投票価値の平等を制約し得る合理性を有するものとして,立法府により選挙制度の仕組みに採り入れられた場合であるというべきである。したがって,二院制の下における参議院議員の選挙の仕組みについてであるからといって,そのような他の理念や政策的目的等が明確に提示されないまま,投票価値に大きな不均衡が存在する現状がただ漫然と維持されている状態は,憲法の許すところではないと考える。
 ところで,参議院議員選挙の仕組みについては,投票価値の不均衡の状態が継続的に存在しその是正が求められるようになってから久しい。もし,その間に,立法府において,社会状況の変化を踏まえて,投票価値の平等を制約する他の憲法上の理念や合理的な政策的目的等を具体的に検討し提示した上で,それらのために投票価値の一定限度の不均衡は許されるべきであるとの考えが示されていたならばともかく,遺憾ながら,これまでの定数配分の改正は選挙区間の投票価値の較差縮小という観点に立った小幅な修正にとどまっているのであり,そのような基本的な問題についての真剣な検討や具体的な提示が行われてきたとはみられない。かかる状況において5倍前後の最大較差が常態化し,本件選挙当時も再び5倍もの最大較差に至っていたのであるから,このような投票価値の大きな不均衡を正当化し許容する理由を見いだすことは困難であるといわざるを得ない。

2.多数意見は,現行の参議院議員選挙制度の仕組み自体の見直しの必要性について指摘するところ,昨今の国会の状況,特に二院制の在り方を巡る状況についてみるにつけ,憲法草案審議の当時,金森徳次郎国務大臣が衆議院に加えて参議院を設置することの趣旨を説明し,両院が「平等」になれば「国政が一つの道に帰着することができない」「政治は遅れる」などと危惧を表明していたこと(昭和21年9月20日貴族院帝国憲法改正案特別委員会)が想起される。現在の二院制の状況はこのような危惧が現実化したものであるとの趣旨の指摘が見られるが,これは政治的な問題であると同時に統治機構に関する諸原理を定めた憲法上の問題でもある。かかる問題意識の下,私は現行参議院議員選挙制度の見直しについての適切な検討に関する考えを平成21年大法廷判決における補足意見として述べたところであるが,あえてそれとの重複を辞することなく,仕組みの見直しに関する私の意見を以下のとおり述べておきたい。
 多数意見は,「都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式を改めるなど」と踏み込んで,現行の選挙制度の仕組みを見直す立法的措置の必要がある旨述べる。そのような政治的判断を行うに当たっては,投票価値の平等の重要性を踏まえた検討が必要であることはいうまでもないが,同時に,投票価値の平等は二院制の趣旨といった憲法上のその他の原理との調和の下に実現されるべきものであろう。したがって,単に数字の問題として投票価値の較差を是正するためだけではなく,国会を国権の最高機関として位置付けて二院制を採用した憲法の下における国家の統治機構の在り方に関わる問題として,広い観点から,これを検討する必要がある。国会が,憲法の定めたところの趣旨にのっとり十分にその機能を発揮することが,国民生活にとって重要であると考えるからである。
 既に述べたとおり,憲法が二院制を採用した趣旨からして,選挙の仕組みにおける選出基盤に関する理念ないし基準が両議院の間で同じでなければならないということはなく,むしろ異質なところがあってこそ,二院制の下において国民の多様な民意を国政に反映させることの意味が実現できる。その場合,衆議院議員の選挙については,厳格な投票価値の平等が求められて,それを具現化するために人口比例原則が採用されるが,他方,参議院議員選挙制度の仕組みについては,投票価値の平等は重要な理念ではあるが,国民各層の種々の利害や考えを公正かつ効果的に吸収する多角的民意反映の考えに基づいて,厳格な投票価値の平等以外の合理的な政策的目的ないし理由をも広く考慮することは,二院制の趣旨に合致するものである。
 以上は昭和58年大法廷判決以来の累次の当審判例の趣旨とするところであり,これらの判例法理が認めるように,憲法は投票価値の平等を要求しているが,それが参議院議員選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではないと解される。私は,衆議院議員の選挙においては,投票価値平等の理念を具現化するために人口の多寡に基づいて議員定数を配分すること(人口比例原則)が重視されるのが当然であると考えるが,人口比例原則によるのみでは,少数者の意見を含め多角的な民意を十分にくみ取ることができないおそれがある。参議院が衆議院と同等の厳格な人口比例原則を選出基盤とした議員により構成されることとするならば,両院の議員選出基盤の「同質化」が一層進むこととなりかねず,上記のような少数者の意見を含めた多角的民意の反映という要請は後退せざるを得ないであろう。その帰結は,参議院はいわば「第二衆議院」ともいうべきものになるおそれがあり,憲法が採用した二院制の趣旨が生かされないという別の憲法上の問題を生ずる結果となるのではなかろうか。むしろ参議院議員の選出基盤が衆議院議員のそれと異なる要素を有することによってこそ,両院あいまって,国会が総体として公正かつ効果的に国民を代表する機関たり得ると考えられるのである。二院制が設けられた趣旨の一つが,この点にあることが忘れられてはならない。
 元来,国民の利益は複雑で,意見は多様であるため,人口の多寡を基準にした選出基盤だけでは多様な民意が十分反映されない。また,近年の社会状況の変化は,人口の大都市集中の問題だけではなく,地方経済活性化の必要,高齢化の進行と世代間の負担の公正の問題,情報,通信手段の革新的発達,経済や雇用の構造の変化,環境問題への対応など多分野にわたっており,人口比例原則のみでは十分にはくみ取れない少数者の立場を含めて多角的に国民の利害や意見を政治に反映させることがますます必要になってきている。人口の大都市集中と地方の問題について考えても,人口が集中した大都市地域と人口の少ない地方の間では,異なった問題があり,異なった視点からの解決策が求められることも少なくない。今日の日本においては,全国をカバーする交通網や情報網は著しく発達したものとなったが,大都市と地方の間の種々の面における不均衡の問題はむしろより深刻になったという指摘も見られ,あらためて国政と地方の関係に関する問題意識が「地方主権論」等の議論の中で高まっているのが現状である。多種多様の問題に対応して国土のバランスのとれた発展を期するためには,大都市だけではなく,地方の実情と問題意識等に通暁した者が国政に参画することが必要である。人口の多寡により定数配分が定められる仕組みにおいては,たとえ国会議員が国民全体の代表者としての認識をもって行動するとしても,人口の少ない地域の問題意識等を国会に十分反映させることには実際上の困難が伴う。要するに,単純な人口比例原則だけではカバーしきれないところを補う仕組みを設けることには十分な合理性があり,人口比例原則により選出される議員から成る衆議院とそれとは異なる基準や政策的目的等をも併せた選出基盤を用いる参議院とがあいまって,少数者の意見を含めた多様な民意を二院制の国会に反映させることができるであろう。
 ところで,選挙区と都道府県の関係について,憲法46条は参議院議員の任期を6年とし,その半数を3年ごとに改選することを求めているだけであり,参議院議員の選挙区を都道府県単位としなければならないという憲法上の要請はないことは,多数意見指摘のとおりである。もっとも,そのような憲法上の要請がないということは,選挙区を都道府県単位にすることに合理性がないということを意味するものではない。むしろ,現行制度において,選挙区が都道府県単位とされ,半数改選を実現するため各選挙区に偶数の定数配分(最小限2人)を行っていることには,累次の大法廷判決が触れたとおりのそれなりの合理性が認められてきたのである。都道府県は普通地方公共団体として地方自治を担い,我が国の政治や行政の実際において重要な役割を果たしているのであり,昭和58年判決も指摘するとおり,都道府県単位の選挙区制は,「都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし,これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能」を持つものであり,長年にわたり国民の間において定着してきたといえる。このような都道府県単位の選挙区に偶数の議席(最小限2議席)が配分される現行の仕組みは,人口比例原則の下では十分に反映し得ないと思われる人口の少ない地方の利益や意見を国政に反映させるという観点からは重要な意味を持つものであり,人口比例原則をある程度制約する合理性を有し得るものであると考えられる。仮に,二院制の下における参議院の役割等について検討することなく,単に選挙区の間における投票価値の平準化のみを基準として都道府県に代わる新たな選挙区単位を設けることとするならば,選挙区間の投票価値の平等は実現するが,参議院議員選挙の仕組みとしては十分なものとなり得ないおそれが強いと考えられる。現在のところ,国政と地域を結ぶ機能と意味を有する選挙区単位として,都道府県と同等あるいはそれ以上の意味のある選挙区単位を見いだすことは容易ではない。なお,このように,都道府県単位の選挙区から地方の事情に通暁した議員を選出するとの考え自体は,議員に対する選挙区からの命令委任を認めるものではなく,国会議員の行動規範ともいうべき国民代表原理と矛盾するものではない(憲法43条1項に定める国民代表原理に関する私の考えは,最高裁平成22年(行ツ)第207号同23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁における私の補足意見に記したとおりである。)。
 もっとも,都道府県単位の選挙区制に上記のような合理性が存在するとしても,上記1で述べたとおり,憲法上の理念や合理的な政策的目的等を明確に提示して根拠付けることもないまま5倍もの投票価値の不平等を常態化させている現状を正当化することは困難な状況に至っているといわざるを得ないのであって,現行の仕組みを改正するとした場合の具体的な改正内容の検討には,二院制に係る憲法の趣旨を踏まえた立法府による高度の政治的判断が必要となることはいうまでもない。
 これまで国会においても参議院の在り方を踏まえた抜本的な検討の必要性が指摘され,何度か是正措置が執られたところであるが,参議院の在り方にふさわしい選出基盤とは何か,参議院の場合に投票価値の平等の要請やこれを具現化するための人口比例原則が譲歩を求められることがあるとして,憲法が二院制を採用した趣旨も含め,これを正当化する他の政策的目的ないし理由として国会は何を考慮しているのか,投票価値の平等の要請と他の理念や政策的目的の調和点をどのあたりに求めるか,といった基本的な諸点については,いまだに国民の議論や理解が進んでいるとは見受けられない。平成21年大法廷判決における補足意見においても述べたところであるが,国会が立法裁量権を行使して参議院議員選挙制度の仕組みを検討するに当たっては,投票価値の平等の観点に加えて,二院制の下における衆議院とは異なった参議院の在り方にふさわしい選挙制度の仕組みの基本となる理念や政策的目的等を国民に対して速やかに提示し,具体的な検討を行うことが強く望まれる。

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