平成24年司法試験予備試験論文式行政法
出題趣旨検討と参考答案

問題文及び出題趣旨は、こちら

違法事由を訊いてきた

本問では、違法事由が問われた。
訴訟要件は、明示的に検討から外されている。

新試験では、前半で本案前の論点。
すなわち、訴訟選択や訴訟要件を問う。
そして後半で、本案の違法事由を問う。
そういうパターンが多かった。
予備では、新試験ほど問題文を長くできない。
解答用紙も、4ページしかない。
そのため、どちらか一方のみを問う。
そういうことに、なっているのだろう。
この傾向は、今後も続きそうである。

新試験で違法事由が問われる場合、2つの要素があった。
一つは、裁量統制や行手法等の知識的要素。
もう一つは、個別法の解釈等の現場思考的要素である。
本問も、その両者の要素が問われている。

多論点型

本問で書くべき事項は、5つ。
処分要件該当性、裁量逸脱濫用(比例原則違反)、聴聞の不実施、理由不備、手続違反の効力である。
これらは、どれがメインという感じでもない。
いずれも、並列的な位置づけ、という感じだ。
(強いて言えば、処分要件該当性が一番配点が高そうだ。)
上記のうちいくつ拾ったかで、基本的には評価が決まる。
予備校答練と同じような評価のされ方である。
すなわち、多論点型の問題ということができる。
多論点型は、コンパクトな論述が必要となる。
特定の論点を大展開すると、紙幅切れ、時間切れになりやすい。
本問でも、4ページで上記5つを全て書くとなると、結構忙しい。
その辺りの時間・紙幅の配分も、考える必要があった。
(もっとも、行政法は知識不足の人が多いので、紙幅切れになった人は少ないかもしれない。)

他方、上記の論点は、問題文から比較的明らかである。
そのため、全部拾っているだけでは、上位にならない。
それなりに、個々の論述がしっかりなされている必要がある。
特に、前提的な条文操作や基本概念の理解が不十分だと、評価を下げる。
易しそうにみえて、意外と上位を取るのは難しい問題である。

処分要件該当性

これは、誰もがすぐ思いついただろう。
Aは、Cが勝手にやったことだと説明している。
それなのに、Aが工事をしたとして、処分がされた。
だから、Aとしては、自分は条例・規則違反をしていない。
そう主張する。
これは、自然なことである。

ただ、答案に書く場合には、順を追って説明する必要がある。
いきなり、「本件工事はAではなくCが行ったから違法である」。
そう書いても、評価はされにくい。

※「個別具体的検討が重要だ」などと言われるために、いきなり事例分析から入る人が最近増えている。
しかし、そのような答案は、低い評価になっていることに注意を要する。

まずは、処分要件が条例、規則違反であること。
本問では、条例9条及び規則7条2項6号違反が問題となること。
これらを、明示する必要がある。
その上で、Aに上記違反があるか否か。
具体的には、本件工事をAがやったと認めることができるか。
それを検討することになる。
出題趣旨の下線部は、上記の意味である。

(出題趣旨、下線は筆者)

 本問は,行政処分の違法事由についての基本的な知識,理解及びそれを事案に即して運用する基本的な能力を試すことを目的にして,排水設備工事に係る指定工事店としての指定を取り消す旨の処分を受けた建設会社Aが当該処分の取消訴訟を提起した場合に主張すべき違法事由について問うものである。処分の根拠となった条例及び規則の仕組みを正確に把握した上で,処分要件規定や比例原則に照らした実体的違法事由及び聴聞や理由提示の手続に係る違法事由について検討し,事案に即して当該処分の違法性に関する受験者の見解を述べることが求められる。

「仕組み」というと何か高度な解釈論を想像するかもしれない。
「仕組み解釈」を連想するからだ。
しかし、ここはそうではない。
単純に、本件処分をするために必要な要件を明示できるか。
その点を、問うているに過ぎない。
言われてみれば、当たり前なことである。
条文を順に読めば、そうなっている。
しかし、現場では、意外と飛んでしまいがちなところである。

本案の違法事由では、例年個別法の条文操作が問われている。
これが、違法事由における現場思考的要素である。
こういったところを丁寧に処理できるよう、普段から条文を自分で読むクセをつける。
基本書に書いてあるとおりの意味を、条文自体から読み取れるか。
面倒なようでも、毎回確認する作業をしておくと、こういうところで役に立つ。

あとは、当てはめをしたかどうか。
そこで、差が付いてくる。
休日、自宅の下水道という点から、C個人の行為であること。
役員でないということから、C個人の行為をAの行為と解する余地がないこと。
この二つを、示せばよいだろう。

裁量逸脱濫用(比例原則違反)

これも、比較的思い付き易いだろう。
過去に処分歴もなく、工事によって実害が生じたという事実もない。
それなのに、いきなり指定取消しは重過ぎないか。
問題文を読めば、直感的に思いつくことである。
これを法律構成すると、裁量逸脱濫用(比例原則違反)ということになる。

ただ、これも、いきなり裁量逸脱濫用だ。
そう書いても、評価は伸びない。
まずは、処分をするか、どの処分をするか。
すなわち、効果裁量があることを、示す必要がある。
条文上、「することができる」となっていること。
処分の要否・選択につき政策的・専門技術的判断が必要となること。
この2つを指摘して、裁量処分であることを示す。
その上で、行訴法30条を指摘して裁量論に入る。
この前提的な理解が示せているかが、意外と評価に影響する。
(最近では、この辺りを受験生は異常に軽視している。)

あとは、確認制度の趣旨からの必要性と、被処分者の不利益の衡量。
その当てはめから、違法の結論を導けばよい。
(問題文上「Jの立場に立って」とあるので、安易に適法とすると、評価を落とすだろう。)

なお、処分要件の点も、裁量処分だと考えた人が多かったようだ。
すなわち、裁量処分だが事実の基礎を欠くから逸脱濫用で違法だ。
そういう構成である。
しかし、処分要件を基礎付けるのは、確認なく工事をした、という事実である。
その有無の判断は、裁量事項とはいえないだろう。
純粋な事実認定の問題である。
実際にはCがやったのだが、政策的判断から、Aが工事をしたことにしよう。
そんなことは、およそ許されない。
また、素人がみるとCがやったようにみえるが、専門的技術的見地からは、Aがやっていると判断できる。
そういう判断も、本問では無理だろう。
これに対し、処分の内容については、政策的・専門技術的配慮をする余地がある。
今後、当該業者に指定工事店として業務をさせるべきか。
他に指定工事店として適切な業者がいないなどの政策的理由で、処分をしない。
専門技術的見地からは、違反の程度は軽微と評価して、処分をしない。
あるいは、逆に重大とみて、指定取消しを行う。
こういったことは、ありうることである。
このように、両者には性質の違いがある。
従って、処分要件に係る事実誤認は、裁量論で処理すべきではない。

(裁量統制において「事実の基礎を欠く」場合とは、事実認定+評価の2段階の判断を要するような事項について、後者の評価の当否には立ち入らないが、前者の事実認定の誤りについて違法の問題が生じる、という趣旨である。なお、事実認定自体に専門的技術的判断を要する場合はあるが、裁判所の認定権を排除するのは例外的な場合(実質的証拠法則の適用がある場合等)である。)

聴聞の不実施

これも、容易に気付くだろう。
問題文上、行手法と同じ条例があると書いてある。
だとすれば、行手法上の手続違反が問題になるのだろう。
その意識で条文をみれば、現場で思いつくはずである。

もっとも、いきなり「聴聞をしていないから違法」とするのでは足りない。
正確な条文操作をする必要がある。
まず、本件処分で取り消される「指定」とは、いかなる性質の行政行為なのか。
指定を受けない場合、排水設備の新設等をすることができない(条例11条1項)。
違反には、罰則もある(条例40条2号)。
すなわち、一般的に排水設備の新設等を禁止した上で、個別の指定によってこれを解除する。
そういう構造になっている。
このような一般的禁止の解除は、許可である。
そうすると、その取消しは、「許認可等を取り消す不利益処分」となる。
従って、本件処分は、行手法13条1項1号イによって、聴聞を要する。
出題趣旨のいう「仕組み」の理解は、こういう意味も含んでいる。

なお、「許認可等」の定義は、2条3号にある。

(行手法2条3号、下線は筆者)

申請 法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。

本件処分は、上記の「許可」に当たるから、許認可等に含まれる。

それから、本問で、なぜ条例の方が適用されるのか。
それは、行手法3条3項で適用除外となるからである。
(なお、同法46条も参照。)
この点も、細かいようであるが、指摘すべき条文操作である。

理由不備

これも、気付くのは難しくない。
わざわざ、問題文上、処分理由が明示されているからである。
現場で条文を引けば、行手法14条を見つけることは難しくない。

ただ、事前の知識がないと、どうしても論述が粗くなる。
ここは、事前に制度趣旨等を知っておきたいところだった。
趣旨から書いたかどうかという点は、評価に影響しただろう。

最判平23・6・7、田原補足意見より引用、下線は筆者)

 行政処分の理由付記に関する判例法理及び学説について昭和30年代後半以降の幾多の判例(最高裁昭和36年(オ)第84号同38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁最高裁昭和57年(行ツ)第70号同60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁最高裁平成4年(行ツ)第48号同年12月10日第一小法廷判決・裁判集民事166号773頁ほか)の積重ねを経て,今日では,許認可申請に対する拒否処分や不利益処分をなすに当たり,理由の付記を必要とする旨の判例法理が形成されているといえる(この判例法理の適用は,税法事件に限られるものではない。)。そして,学説は,この判例法理を一般に以下のとおり整理し,多数説はそれを支持している。その法理は,平成5年に行政手続法が制定された後も基本的には妥当すると解されている。

 @ 不利益処分に理由付記を要するのは,処分庁の判断の慎重,合理性を担保して,その恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせることにより,相手方の不服申立てに便宜を与えることにある。その理由の記載を欠く場合には,実体法上その処分の適法性が肯定されると否とにかかわらず,当該処分自体が違法となり,原則としてその取消事由となる(仮に,取り消した後に,再度,適正手続を経た上で,同様の処分がなされると見込まれる場合であっても同様である。)。

 A 理由付記の程度は,処分の性質,理由付記を命じた法律の趣旨・目的に照らして決せられる。

 B 処分理由は,その記載自体から明らかでなければならず,単なる根拠法規の摘記は,理由記載に当たらない。

 C 理由付記は,相手方に処分の理由を示すことにとどまらず,処分の公正さを担保するものであるから,相手方がその理由を推知できるか否かにかかわらず,第三者においてもその記載自体からその処分理由が明らかとなるものでなければならない。

(引用終わり)

上記判例は、田原補足意見も含めて、司法試験平成23年最新判例ノート(詳細版)に収録していた。

本問では、どの条例、規則に違反したとして処分がされたのか。
Aがしたとされる下水道接続工事とは、いつ、どこで、どうやってされたものなのか。
当該工事をAがしたと認定した根拠は、何なのか。
これらの点が、全く不明のままである。
そうである以上、理由の提示として不十分だ。
そういう当てはめになるだろう。

なお、根拠法令が示されていない点を問題にした人がいたようだ。
すなわち、本件規則11条が理由中に明示されていない。
だから、理由不備である。
そういう指摘である。
しかし、それは出題意図とは外れるだろう。
確かに、理由では、本件規則11条は、明示されていない。
しかし、問題文で「Bは,本件規則第11条に基づき,Aに対する指定工事店としての指定を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)をした」と書いてある。
そうすると、処分通知書の本文において、本件規則11条は明示されていると考えるのが自然である。
イメージとしては、以下のような感じである。

指定取消通知

 乙市下水道排水設備指定工事店に関する規則第11条に基づき,Aの指定工事店としての指定を取り消すこととしましたので,通知致します。

処分の理由

 Aが,本市市長の確認を受けずに,下水道接続工事を行ったため。

明示されていないのは、規則11条の要件である条例・規則違反。
その違反した具体的な条項である。
従って、規則11条が明示されていないことだけを問題にすれば、評価を下げただろう。
やや不親切な感じはするが、やむを得ないところである。

手続違反の効力

出題趣旨には、明示的に触れられていない。
ただ、それなりに書いている人は多い。
書いていないと、やはり評価を落とすという印象だ。

この点は、問題文だけからは読み取れない。
事前の知識がないと、落としてしまうだろう。

手続の違法は、直ちに処分の取消事由とはならない。
重大な違法の場合にのみ、取消事由となる。
これが、概ね一般的な理解である。

では、なぜそうなるのか。
この点については、意外とテキスト等では説明されていない。

理由は、主として2つである。
一つは、手続は、実体の適正を担保するに過ぎない、ということである。
例えば、聴聞や理由の提示。
これは、言い分を聞いて事実誤認等を防止する。
あるいは、理由のない処分をさせないようにするためである。
要は、実体的瑕疵を防ぐための、事前の防止策である。
すなわち、実体の適正が主で、手続は従ということである。
だとすれば、訴訟において実体的瑕疵がないと認められる場合。
その場合に、手続の瑕疵のみを理由に、処分を取り消すべきでない。
また、手続の瑕疵が実体的違法を生じさせている場合。
その場合には、実体的違法を理由にして、処分を取り消せば足りる。
従って、手続の瑕疵を、独自の取消事由とする必要がない。
このようにも、考えられる。
比喩的にいえば、抵当権侵害があっても、被担保債権が弁済されれば、問題は生じない。
抵当権は、あくまで担保に過ぎないからである。
それと同じ発想、ということになる。

もっとも、手続の履践の有無で、裁量判断の内容が変わる場合がある。
Aという処分をしたが、聴聞をしていれば、Bという処分をするはずだった。
言い分をきちんと聞いていなかったために、異なる判断になったわけである。
それでも、Aという処分が、裁量の逸脱濫用とまではいえない、という場合もあるだろう。
そういう場合、取消訴訟において、実体面だけでは違法とはならない。
こういうケースでは、手続違法を問題にする独自の意義がある。
個人タクシー事件や、群馬中央バス事件の判例は、上記の意味で理解できる。

最判昭46・10・28(個人タクシー事件)より引用、下線は筆者)

 被上告人に対する聴聞担当官は、被上告人の転業の意思その他転業を困難ならしめるような事情および運転歴中に含まるべき軍隊における運転経歴に関しては被上告人に聴聞しなかつたというのであり、これらの点に関する事実を聴聞し、被上告人にこれに対する主張と証拠の提出の機会を与えその結果をしんしやくしたとすれば、上告人がさきにした判断と異なる判断に到達する可能性がなかつたとはいえないであろうから、右のような審査手続は、前記説示に照らせば、かしあるものというべく、したがつて、この手続によつてされた本件却下処分は違法たるを免れない
  以上説示するところによれば、本件処分を取り消すべきものとした原判決の判断は正当として首肯することができ、所論は、ひつきよう、以上の判示と異つた見解に立脚して原判決を攻撃するものというべきである。所論はすべて理由がなく、採用することができない。

(引用終わり)

 

最判昭50・5・29(群馬中央バス事件)より引用、下線は筆者)

 上告人の本件申請計画における右の諸難点については、すでに、右公聴会において、一応、他の利害関係人からの指摘がなされており、また、運輸審議会の委員からも、上告人の申請計画に関して乗車回数の推定根拠、乗車密度、平均乗車粁、道路舗装状況等について質問がなされたというのであるから、上告人においても、右申請の問題点が何であるかについては、おおよそ推知することができたものと考えられるのであるが、さらに進んで問題をより具体化し、上告人の事業計画並びにその根拠資料における上記運賃、輸送時間の比較及びこれとの関係における輸送需要(見込)量と供給力との均衡等に関する問題点ないしは難点を具体的に明らかにし、上告人をして進んでこれらの点についての補充資料や釈明ないしは反駁を提出させるための特段の措置はとられておらず、この点において、本件公聴会審理が上告人に主張立証の機会を与えるにつき必ずしも十分でないところがあつたことは、これを否定することができないしかしながら、原審が当事者双方の完全な主張・立証のうえに立つて認定したところによれば、運輸審議会が重視した上記のごとき既設輸送機関との運賃及び輸送時間の比較については、本件処分当時においても、申請路線によるそれが、所要時間において相当に劣り、また運賃も太田、草津間を除いては計画自体においてもすでに他の輸送機関のそれよりも高額であるのみならず、上告人が申請路線について旅客に対し適切な役務を提供するに足りる企業の採算性を維持しようとするためには、遠距離逓減率を考慮しても申請にかかる運賃を根本的に修正しなければならないこととなり、既設交通機関を選択した場合の運賃と比較すれば、その差異は、太田、草津間においても、またその他の区間においても相当の懸隔を生ずることが明らかであるというのであり、原審が右認定の理由として説くところから見ても、仮に運輸審議会が、公聴会審理においてより具体的に上告人の申請計画の問題点を指摘し、この点に関する意見及び資料の提出を促したとしても、上告人において、運輸審議会の認定判断を左右するに足る意見及び資料を追加提出しうる可能性があつたとは認め難いのである。してみると、右のような事情のもとにおいて、本件免許申請についての運輸審議会の審理手続における上記のごとき不備は、結局において、前記公聴会審理を要求する法の趣旨に違背する重大な違法とするには足りず、右審理の結果に基づく運輸審議会の決定(答申)自体に瑕疵があるということはできないから、右諮問を経てなされた運輸大臣の本件処分を違法として取り消す理由とはならないものといわなければならない。

(引用終わり)

また、手続は、単なる実体の担保とのみ考えることはできない。
適正手続は、国民の権利でもある。
適正手続の趣旨に反する(重大な)手続違反は、国民の権利侵害という側面もある。
そうだとすると、それ自体、独自の違法事由とすべきだ。
そのような理解も、可能である。
上記各判例は、そういう観点からも理解できる。

最判昭46・10・28(個人タクシー事件)より引用、下線は筆者)

 道路運送法においては、個人タクシー事業の免許申請の許否を決する手続について、同法一二二条の二の聴聞の規定のほか、とくに、審査、判定の手続、方法等に関する明文規定は存しない。しかし、同法による個人タクシー事業の免許の許否は個人の職業選択の自由にかかわりを有するものであり、このことと同法六条および前記一二二条の二の規定等とを併せ考えれば、本件におけるように、多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して免許の許否を決しようとする行政庁としては、事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが客観的にもつともと認められるような不公正な手続をとつてはならないものと解せられる。すなわち、右六条は抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用すべく、とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するようなものである等の場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきである。免許の申請人はこのような公正な手続によつて免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有するものと解すべく、これに反する審査手続によつて免許の申請の却下処分がされたときは、右利益を侵害するものとして、右処分の違法事由となるものというべきである。

(引用終わり)

 

最判昭50・5・29(群馬中央バス事件)より引用、下線は筆者)

 一般に、行政庁が行政処分をするにあたつて、諮問機関に諮問し、その決定を尊重して処分をしなければならない旨を法が定めているのは、処分行政庁が、諮問機関の決定(答申)を慎重に検討し、これに十分な考慮を払い、特段の合理的な理由のないかぎりこれに反する処分をしないように要求することにより、当該行政処分の客観的な適正妥当と公正を担保することを法が所期しているためであると考えられるから、かかる場合における諮問機関に対する諮問の経由は、極めて重大な意義を有するものというべく、したがつて、行政処分が諮問を経ないでなされた場合はもちろん、これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が右諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、これを経てなされた処分も違法として取消をまぬがれないこととなるものと解するのが相当である。

(引用終わり)

判例は、重大な手続違反があるか否か。
その要素として、結論に影響する瑕疵かどうかを重視している。
しかし、これは飽くまで、手続自体は履践されたが、それに瑕疵ある場合である。
「諮問を経ないでなされた場合はもちろん」とあるように、手続の履践自体がない場合。
その場合は、そのことが重大な手続違反となる。

大阪地判平元・9・12より引用、下線及び※注は筆者)

 本件においては、被告は、道路法七一条三項が明文をもつて定める聴聞手続を懈怠したまま本件中止命令を発したのであつて、このような違法な手続を前提として発せられた本件中止命令もまた違法であつて、取り消しを免れないものというべきである。その理由は、以下のとおりである。
 道路法七一条三項が、同条一項又は二項の処分をするに先立ち被処分者に対する聴聞を行うべきことを定めた趣旨は、同条一項及び二項の処分が、被処分者の所有権等その権利・利益に重大な影響を及ぼす場合のあることにかんがみ、被処分者に意見及び証拠資料を提出する機会を与えることにより、その権利・利益を担保することにあると解される。そして、このような手続が法的に保障されているにもかかわらず、その機会を全く与えられることなく処分がされた場合には、その処分は、被処分者の法的利益を侵害するものとして違法たるを免れ得ないものというべきである。特に、本件においては、前記二7に認定したとおり、原告代表者は、本件中止命令が発せられるに先立ち、その前提となるべき実体的事実関係について被告とは異なる認識を有していることを主張し、これを争う意思を明確に表示していたのであるから、道路法七一条三項に反して原告に対する聴聞を怠つた違法は重大なものといわなければならない。
 この点につき、被告は、最高裁昭和四二年(行ツ)第八四号同五〇年五月二九日第一小法廷判決(民集二九巻五号六六二頁)(※群馬中央バス事件)を引用して、本件では、道路法七一条三項所定の聴聞手続が行われても事実認定が動く可能性が全くなかつたから、聴聞手続に関する手続上の瑕疵は、処分の取消原因とはなり得ない旨を主張するしかし、右判例は、一般乗合自動車運送事業の免許に関し諮問を受けた運輸審議会の公聴会自体は行われたものの、その審理手続に申請計画の問題点につき申請者に主張・立証の機会を与えなかつたという瑕疵のある場合につき、仮に運輸審議会がこのような機会を与えたとしても申請者において運輸審議会の認定判断を左右するに足りる資料及び意見を提出し得る可能性があつたとは認め難いような場合には、右瑕疵は、右諮問を経てされた運輸大臣の免許の拒否処分を違法として取り消す事由とはならない旨を判示したものにすぎず法が処分権者に義務付けた聴聞が全く行われないまま行政処分がされた本件とは、全く事案を異にするものといえる。現に、右判例も、法が行政処分をするに当たつて、諮問機関に諮問すべき旨を定めているにもかかわらず、行政処分が諮問を経ないでされた場合には、当該処分も違法として取消を免れない旨を明言しているのであつて、そうであれば、本件のように、法が、被処分者の権利・利益を担保することを目的として定めた手続(聴聞)を完全に懈怠したまま行政処分がされたような場合には、聴聞が行われれば、被処分者において、処分権者の認定判断を左右するに足りる資料及び意見を提出し得る可能性があつたか否かを問うまでもなく、かかる手続上の瑕疵は、処分の違法事由を構成するものと認めるのが相当である。

(引用終わり)

従って、本問でも、聴聞の不実施はそれ自体、取消を基礎付ける違法となる。
また、理由不備も、一般に重大な手続違反として取消事由とされている。
(前記最判平23・6・7、田原補足意見参照)

もう一つの理由は、取り消しても、また同じ処分をされたら無駄になる。
すなわち、訴訟経済との関係である。
実体要件を欠く場合、通常は、再度同じ処分はできない。
できるのは、事情変更がある場合である。
他方、手続的瑕疵については、再度手続を履践して同じ処分ができる。
実体要件は充たしているからである。
だとしたら、取り消しても、あまり意味がない。
従って、手続的瑕疵は独自の取消事由とすべきでない。
そういう考え方も、可能である。

最判平23・6・7、那須反対意見より引用、下線は筆者)

4.訴訟経済の視点

 本件では,多数意見のように,当審で原判決を破棄し自判により上告人らの請求を認容して本件免許取消処分を取り消すことも,事例判断の一つとして論理的に採り得ない話ではない。しかし,この場合,処分行政庁が前回と同様な懲戒手続により,理由中で処分基準の適用関係を明示した上で,再度同様な内容の免許取消処分を行い,更に訴訟で争われる事態が生じることもあり得る。このような事態も手続的正義の貫徹という視点からは積極的に評価できる面もあろうが,これに要する時間,労力及び費用等の訴訟経済の問題を考慮すれば逆の評価をせざるを得ない面もある。以上のことをも考慮すれば,本件では,原審の判断を維持するのを相当とすべきであり,これと異なる多数意見には賛成できない。

(引用終わり)

これに対しては、行政庁に違法を認識させ、やり直しをさせることに意義がある。
違法の重大性によっては、訴訟経済は譲歩すべきだ。
そのようにも、考えられる。

最判平23・6・7、田原補足意見より引用、下線は筆者)

 那須裁判官は,多数意見のように,当審で原判決を破棄し自判により上告人らの請求を認容して本件免許取消処分を取り消しても,処分行政庁が,前回と同様な懲戒手続により,再度同様の免許取消処分を行うこともあり得るところ,これに要する時間,労力及び費用等の訴訟経済の問題を考慮すれば,逆の評価をせざるを得ない面もある,と主張される
 しかし,そのような諸点をも考慮の対象とした上で,前記1に述べたように行政処分において手続の公正さは貫かれるべきであるとする判例法理が,永年の多数の下級審裁判例や前記1に記載した最高裁判例の積重ねによって形成されてきたのであり,行政処分の正当性は,処分手続の適正さに担保されることによって初めて是認されるのであって,適正手続の遂行の確立の前には,訴訟経済は譲歩を求められてしかるべきである。

(引用終わり)

この観点からも、重大な手続違反は、取消事由になる。

また、手続が履践されていれば、行政庁の判断が違ったかもしれない場合。
その場合は、もう一度、手続を履践させて行政庁に再度判断させる実益がある。
そうすると、この場合は、訴訟経済の観点からも、取り消す意味がある。
このような観点から、前記個人タクシー事件及び群馬中央バス事件を理解することもできる。

実際の答案では、以上のようなことをわざわざ書く必要はない。
単に、制度趣旨等から重大な手続違反であることを示せば足りる。
ただ、なぜ手続違反のときだけ重大性を問題にするのか。
そのことは理解しておかないと、とんでもないことを答案に書く可能性がある。
一度、頭を整理しておくべきである。

【参考答案】

第1.処分要件の欠缺

1.本件規則11条は、条例違反又は本件規則違反を処分要件とする。本件処分に至る経緯及び通知書記載の理由から、本件処分は、Aが本件工事を行ったことによる本件条例9条及び本件規則7条2項6号違反を根拠とすると思われる。

2.しかし、本件工事は、Cが休日に自宅の下水道について行ったものである。確かに、CはAの従業員であるが、Aの業務として施工したことをうかがわせる事実はない。従って、本件工事の施工者は、Cであって、Aではない。
 なお、Cは、Aの役員ではなく、専ら工事の施工に従事していたに過ぎないから、Aの法人格を否認してCと同一視する余地もない。

3.以上から、Aには本件条例9条及び本件規則7条2項6号違反の事実がない。

4.よって、本件処分は、処分要件を欠いているから違法である。

第2.裁量逸脱濫用

1.本件規則11条は、「することができる」と規定し、また、処分の要否等の判断には、政策的、専門技術的判断を要する。従って、同条は、要件を充足する場合であっても、処分をするか否か、処分をするとしても、指定の取消し又は停止のいずれを選択するかにつき、市長の裁量に委ねている。もっとも、裁量処分も、裁量の逸脱又は濫用があるときは取消しの対象となる(行訴法30条)。

2.本件条例9条及び本件規則7条2項6号が市長の確認を要求した趣旨は、排水設備の公共性から、不適切な施工によって排水設備の機能が害されることを防止する点にある。
 上記を本件工事についてみると、Cは工事を行う技能を身に付けており、本件工事によって排水設備の機能が害され、又は害される危険をうかがわせる事実はない。しかも、Aには過去に処分歴はない。指定取消しの必要性は、低いといえる。他方で、指定の取消しにより、Aは指定工事店としての業務ができなくなる。その不利益は、極めて大きい。そうすると、Bが本件処分を行ったことは、比例原則の観点から著しく妥当性を欠いており、裁量逸脱濫用の違法がある。

第3.聴聞の不実施

1.本件処分については、行政手続法の規律の適用はない(同法3条3項)。もっとも、同内容の乙市行政手続条例の適用がある(以下便宜上、行政手続法の条文番号を示す。)。

2.本件条例11条1項の指定は、排水設備の新設等の工事の一般的禁止を解除する許可に当たる。本件処分は、Aに対する許可を取り消すものであるから、不利益処分であり(行手法2条4号柱書)、事前に聴聞を行う必要があった(同法13条1項1号イ。なお、同条2項各号にはいずれも該当しない。)。しかし、Aに対する聴聞は実施されていない。

3.同条1項1号の不利益処分につき、原則として聴聞を要するとされたのは、公権力による一方的かつ重大な権利制限であることから、憲法31条の適正手続の趣旨が及ぶことによる(成田新法事件判例参照)。また、本問では、事情説明以外の弁明の機会すら与えられていない。そうである以上、聴聞の不実施は重大な手続違反として、処分の取消しを基礎付ける違法事由となる。

4.よって、本件処分につきAに対する聴聞がされなかったことは、取消訴訟における違法事由となる。

第4.理由不備

1.不利益処分をするには、理由の提示を要する(行手法14条1項本文)。その趣旨は、処分庁の恣意を抑制すると共に、相手方の不服申立ての便宜を図る点にある。従って、処分理由は、その記載自体から明らかでなければならない。

2.本件処分の通知書記載の理由においては、本件条例及び本件規則のいかなる条項に違反したかが明示されていない。のみならず、Aが行ったとされる下水道接続工事の日時、場所、態様等が全く特定されていない。仮に、本件工事を指すとしても、いかなる事実及び証拠に基づいてCではなくAを施工者と認定するに至ったか、全く不明である。これでは、Aが不服申立てをするに際し、いかなる事実を争えばよいかわからない。本件処分の理由は、通知書の記載自体から明らかであるとはいえない。

3.そして、上記1の趣旨からすれば、理由不備の違法は、手続の公正性に対する重大な違法であるから、処分の取消事由となる。

4.よって、本件処分には理由不備の違法があり、取消訴訟における違法事由となる。

以上

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