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最高裁判所大法廷判決平成24年10月17日

【須藤正彦反対意見】

 私は,参議院に求められる独自性を考慮した上,多数意見の依拠する基本的な判断枠組みの下で考察したところ,多数意見の結論とは異なり,本件定数配分規定は憲法に違反し,したがって本件選挙も違法であるとの見解に至った。その理由は以下に詳述するとおりであるが,骨子は,第1に,現行選挙制度が合理的な理由なく投票価値に不平等を生ぜしめるものとなっているという点において,第2に,これに対し,当審が遅くとも平成18年には現行の選挙制度の枠組みの見直しを促したといえるメッセージを示したにもかかわらず,今日に至るもそれが確としてなされないままで投票価値の著しい不平等状態が維持されているという点において,国会の裁量権の限界を超えているということである。

1.憲法の二つの求め

(1) 憲法は,参議院議員の選挙制度の決定を国会の裁量に委ねているが(44条,47条),同時に,第1に,選挙における投票価値の平等を直接に求めているというべきである(14条1項,44条)。選挙権が主権者たる国民の参政権としてとりわけ重要な権利であることに照らせば,それは民主主義の根幹に関わる根本的な求めであって,それについて譲歩を求めることは特に合理的理由が要求され,それが認められない限り許されないというべきである。第2に,憲法は,国会について二院制を採用しているところ,両議院が立法機関としてほぼ対等の権限を有することで相互の抑制と均衡で立法活動を慎重ならしめることに意義を認めつつも,それらが同じ役割を果たすにしかすぎないのであれば二院制の価値が十分に発揮され難いことに鑑み,参議院と衆議院とで違った役割を果たさせることとし,そのために参議院議員の選挙制度も,参議院が独自の役割を発揮するのにふさわしいものとすべく,衆議院議員の選挙制度とは異なったものとなることを求めているというべきである。

(2) 後者の参議院の独自性に関しては,憲法は,参議院議員の任期を衆議院議員のそれが4年であるのに対し6年とし,かつ,内閣は参議院の解散に係る権能を有しないので,その権能の行使によって参議院議員の任期は短縮されることはなく,しかも,3年ごとに議員の半数を改選するものとしているから(45条,46条,69条),参議院議員を衆議院議員に比して身分を安定させ,かつ,上記の半数改選制により,議院としての活動の継続性を図っているといえる。特に,議員に6年の任期を与え,その短縮を認めないことは,憲法は,選挙民がひとたび議員として選んだ以上は任期満了時までの期間を信任してその身分を失うリスクを生じさせないこととし,その半面,議員は,その間国民の政治的意思から乖離することがないようにしつつも,選挙民等の逐一の望みや党派的利害に適宜の距離を置き,より大局的な観点ないしは多元的な見地から行動することを可能ならしめているというべきである。これらの点に鑑みると,憲法は,参議院の在り方の基本理念の決定について,国会の立法政策としてその合理的裁量に委ねつつも,全国民を代表する機関たる参議院に長期的かつ総合的な視点から国政上の重大問題に対応させ,衆議院(あるいはそこにおける政党)のみでは十分に代表されない国民各層の多種多様な意見を多角的に反映させるようにし(ややもすれば,少数者の声は軽視ないし黙殺されがちである。),これによって独自の役割を発揮することを求めているというべきである(急速に情報化,国際化が進展している中で,我が国の将来にわたり,平和と安全と豊かな自然環境の国土で,経済(地方経済も特に念頭に置かれるべきである。)が活性化し,雇用が確保され,教育や福祉が充実することが大切であると私は思うが,これらはいずれも,上記の意味での国政上の重大な問題であろう。)。

(3) 前者の投票価値の平等に関していうと,衆議院は内閣総理大臣の指名権の行使において参議院に優越し,衆議院のみが内閣不信任の議決権を行使する権能を有し,内閣は衆議院の解散に係る権能を有している(憲法67条,7条3号,69条)。そのことは,憲法が,基本的に,統治の主体(政権)たる内閣(政府)の選択と存立,その結果としての政策の帰すうを衆議院の多数派政党をして決定せしめているといえるから,衆議院議員選挙における投票価値については厳格な人口比例による平等を要求する度合いが特に大きいというべきである。これに対し,憲法は,参議院について,議院内閣制での立ち位置を上記の意味において衆議院とは異ならしめるとともに,前記のとおりの独自性を求めており,他方,これに関連しての参議院議員の3年ごとの改選制に由来する技術的な事由で些少の不平等は不可避的とも思われるので,それらは,参議院議員選挙制度においては,厳格な投票価値の平等に譲歩を求めるに足り,しかも憲法自らが認めている特別の合理的理由に該当し得るものとしてこれを容認するといえる。

(4) しかしながら,前記のとおり,選挙権が参政権としてとりわけ重要な権利であり,投票価値の平等の求めが民主主義の根幹に関わる憲法上根本的なものであることに照らせば,憲法は,国会が参議院議員選挙制度の仕組みについて立法的措置を講じるに当たって,極力,人口比例による投票価値の平等を確保しつつ参議院の独自性を発揮できるような制度設計をすることを求めているというべきであり,また,後者のために余儀なく投票価値の平等に譲歩を求めなければならないとしても,独自性を発揮させることと投票価値の平等を制限することとの間に合理的関連性があることを要求しているというべきである。そのことよりすると,憲法は,その独自性の具体的な内容が客観的に認められ,かつ,その譲歩はそれを発揮させるという目的のために必要最小限度にとどめられるものでなければならず,しかも,国会において,投票価値の平等に譲歩を求めざるを得ないこと及びその平等が制限される程度とその独自性の発揮によって得られる価値とがおおむね均衡を保っていることについて相応の説明をすることを要求しているものというべきである。そのことはまた,投票価値の平等が制限される程度が大きい場合であるほどに,それより低い程度の投票価値の平等の制限をもってしては参議院の独自性を発揮できない所以について常識的に理解可能な説明がなされなければならないことをも意味するといえる。参議院議員の選挙制度の決定は,国会の立法政策としてその裁量に委ねられているが,投票価値の平等が根本的に重要であることに鑑みれば,そこには以上の意味での憲法上の制約があるというべきである。結局,上記の点での説明や前記の技術的事由があるか,又は差異を設けることを正当化する何らかの特別の合理的理由がある場合を除き,結局,参議院議員の選挙制度も,人口比例原則によって定められなければならないというべきであり,また,人口比例原則が,参議院議員の選挙制度についての決定が国会の裁量権を超えているか否か,言い換えれば投票価値の不平等が生じている場合に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否かを評価するに当たって基本的かつ中心的な考慮要素であるというべきである。

2 本件選挙における投票価値の不平等は憲法に違反するか

(1) 違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態について

@ 多数意見は,最大較差が1対5.00の本件選挙は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと判断しており,私もこれに賛同するものである。

A 現行の選挙区選出議員の選挙制度の仕組みは都道府県ごとの地域的特性への配慮に基づくものとされている。この地域的特性への配慮ということは,議員が都道府県代表であるということと捉えられて,憲法43条1項に規定されている「全国民を代表する選挙された議員」と抵触するなどの疑念はあるが(衆議院議員選挙についての最高裁平成22年(行ツ)第207号同23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁における私の補足意見参照),都道府県は歴史的にみて地域社会としてその原型を古い時代に遡ることができ,政治的,経済的,社会的に一定の結び付きあるいは地域住民の住民感情等において固有の事情や独自の意義を認めることが可能であり,その都道府県の選出議員は選挙運動や日頃の政治活動によってその地の実情に精通し専門的知識を有していると考え,この地域的特性への配慮という事由を,例えば過疎関連問題等に直面している人口の少ない県の選出の議員が,多数決原理によれば少数者として顧られないおそれのあるその住民の意見を,一地方の問題ではなく地域経済の活性化などの国政上の重大な課題に還元して,専門的な見地から参議院に反映させることができるとの意味に理解して参議院の独自性の内容を構成するという考えも成り立ち得ないわけではなく,また前記のとおり,参議院の場合は衆議院ほどに投票価値の厳格な平等が要求されないという一面もあることから,投票価値の平等に譲歩を求めるに足りる事由としての参議院の独自性の内容になり得ないではないと思われる。もっとも,そのような専門的意見も,反映されるべき長期的かつ総合的な視点からの専門的意見,あるいは多角的な又は少数者ないし弱者に関わる多くの意見のうちの限定された一部にしかすぎないから,参議院の独自性の一内容としての地域的特性への配慮ということは,投票価値の平等に譲歩を求めるに当たって決して大きくは評価できないというべきであり,しかも,前記のとおり,その譲歩は最小限度にとどめられなければならないから,そのことよりすると,1対2前後程度の最大較差が考えられ得る許容範囲ということになろう(なお,衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条1項参照)。その点からすると,現行制度の前身の参議院議員選挙法を制定した昭和22年当時の最大較差が1対2.62であることが問題となるが,これは,上記数値域から隔たること僅かであり,かつ,独自性としての都道府県ごとの地域的特性への配慮ということとの合理的な関連性も相応に説明がなされたものとして,限界的な意味で許容範囲内にあるということはできよう。

B しかるところ,その後,昭和37年の参議院議員通常選挙になると,早くも最大較差は1対4.09に達し,以後本件選挙までの累次の参議院通常選挙も,最大較差が多くは1対5前後で中には6倍前後に達するものもあるという状況で推移した。このような著しい不平等状態はひとえに我が国が社会的,経済的に急激な変化を遂げ,その人口構造において農村部から都市部への流入現象が不断に続いたために惹起されたものとされているのであって,そのことはもちろん参議院の独自性とは関係ないことであり,したがってまた,参議院の独自性との実質的関連性は何ら説明され得ないことである。そうすると,それらの1対4ないし1対5という最大較差(この両者の違いは小数点以下のそれも含めて五十歩百歩である。)のうち前記の許容され得る最大較差を大きく超える部分については,人口比例原則を基本的かつ中心的な考慮要素として評価されるべきものであり,その下では,一般的な常識からみても到底看過し得るものではなく,したがって,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていると評価するよりほかないのである。最大較差1対5.00たる本件選挙も以上述べたような意味で著しい不平等状態に至っているといえるし,更には,およそ最大較差が1対4ないし1対5といった投票価値の著しい不平等状態が当面の選挙制度の枠組みからして不可避であるなら,それ自体を速やかに見直されなければならないと考えられてくるところである。

(2) 当審の判断

@ しかるところ,昭和58年大法廷判決で示され,かつ,本件の多数意見を含めて累次の大法廷判決でも維持されている当審の基本的な判断枠組みによれば,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動による投票価値の著しい不平等状態が相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定は憲法に違反するに至るものと解されている。

A この判断枠組みの下で,まず,前記のとおり生じて来た投票価値の不平等の状態に関しての当審の判断の流れなどをみてみるに,多数意見2(2)及び(4)(※事案2(2)及び(4))に記されているとおり,当初以来,最大較差が6.59の平成4年参議院議員選挙についての平成8年大法廷判決を除いては,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとはせず,また,到底看過することができないと認められる程度の著しい不平等状態に達していることも否定して来たが,平成16年大法廷判決に至ると,最大較差が1対5.06の平成13年選挙について,6名の裁判官が憲法に違反するとする反対意見を述べたほか,4名の裁判官が,同選挙では投票価値の平等が大きく損なわれ,参議院議員選挙法立法当初の較差からはあまりにもかけ離れた較差が生じているとの認識の下に,都道府県を唯一の単位とする選挙制度の在り方の変更について言及し,漫然と同様の状況が維持されるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘する「補足意見2」を付するに至ったのである。この平成16年判決において,当審では,上記の意味での多数を占めるに至った裁判官の個別意見において,投票価値の平等が厳格に解され,投票価値の1対5前後の不平等状態及びそれが長期にわたり固定化されることに否定的評価がされるに至ったのであり,立法府への一つのメッセージが示されたといえるものである。

B 果たして,参議院では,この平成16年大法廷判決を受け,参議院改革協議会が設けられ,平成17年10月にはその下に設置された選挙制度に係る専門委員会によって同判決,特にその「補足意見2」を踏まえたことがうかがわれる報告書が提出され,現行選挙制度の仕組みを維持する限り,較差を1対4以内に抑えることは相当の困難がある旨が指摘された。

C 次いで,平成18年大法廷判決は,最大較差が1対5.13の平成16年選挙について,較差是正のための国会における不断の努力が求められるが,都道府県選挙区,偶数配分という選挙制度の仕組みの下ではそれは容易でない旨指摘した上,「国会においては…これまでの制度の枠組みの見直しをも含め,選挙区間における選挙人の投票価値の較差をより縮小するための検討を継続することが,憲法の趣旨にそうものというべきである。」と末尾に述べるに至った。同判決は平成16年大法廷判決の前記補足意見2の立場を取り込んだものと評価することができるとの指摘もなされているところであるが,当審判示として選挙制度の枠組みの見直しに言及したのは初めてであり,しかも,その検討を継続することについて「憲法の趣旨にそうものというべきである」とまでの言辞を用いているところよりすれば,国会における立法的措置を伴う選挙制度の枠組みの見直しを婉曲的にせよ促したか,促したに等しいと解されるものである。

D さらに,平成21年大法廷判決は,最大較差が1対4.86の平成19年選挙について「現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できない。」とし,「国会において,速やかに…適切な検討が行われることが望まれる。」とまで判示し,選挙制度の仕組みの見直しを一層強調するものとなっている(なお,平成18年大法廷判決は「選挙制度の枠組み」という言葉を用い,平成21年大法廷判決は「選挙制度の仕組み」という言葉を用いているが,本件の問題では同義と考えてよいと思われる。)。

(3) 選挙制度の仕組みの見直し及びその基準時について

@ 次に,前記の基本的な判断枠組み中,国会が不平等状態の是正措置を講ずべき相当期間という点であるが,その起算点ともいうべき基準時に関して述べる。既に述べたとおり,一般的な常識からすれば,最大較差が1対4ないし1対5に達している昭和37年以来の累次の参議院議員選挙は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に達していると評価されざるを得ないと考えられるものの,当審は,前記のとおり,平成16年大法廷判決に至るまでは,平成8年大法廷判決を除いては,多数意見において到底看過することができないかあるいは違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたことは肯定していないし,選挙制度の仕組みの見直しを求めているわけでもない以上,昭和37年からの平成16年までの42年間については国会の立法不作為を問擬するのは不相当と思われる。
 しかしながら,前記のとおり,平成16年大法廷判決は,前記の意味での多数を占めるに至った裁判官の個別意見において,投票価値の1対5前後の不平等状態及びその長期の固定化につき否定的な評価を示し,平成18年大法廷判決は,当審として初めて選挙制度の枠組みの見直しを促すといえる判示をし,更には,平成21年大法廷判決はそのことを一層強調する判示をしたのである。そうすると,国会としては,平成16年大法廷判決の時点をもって参議院議員選挙制度における投票価値の不平等状態の是正に向けての仕組みの見直しに着手すべきであったということは十分に可能であり,現に,前記のとおり,参議院内で選挙制度の仕組みの見直しがされ始めたのである。その場合,仮にその時点からの1,2年間を準備期間ないしは助走期間とするとしても,少なくともそのことを判決文をもって促したといえる平成18年大法廷判決時を基準時として,その時点から本格的にそれに取りかかるべきであったと思われる。

A 思うに,いかなる選挙制度とするか,これにつきどのような仕組みを構築するかは,元来は国会の広い裁量権に委ねられる事柄である(憲法44条,47条)。そうすると,立法府と司法との関係において,裁判所がこのような立法的措置を伴う制度の見直しを促すようなことはよくよくのことであると考えられるところであるが,平成18年大法廷判決が,前記のとおり,あえて見直しを促すといえる判示を行うに至ったのは,立法府も憲法の下にある一方において,憲法は最高法規であり(憲法98条),最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である(同81条)ことに鑑み,当審において,当時のような投票価値の不均衡がその後も継続すれば近い将来に立法府の不作為が憲法に抵触する状態に至る可能性が大きいと考えたからこそであろう。しかるところ,少なくとも今後その不均衡状態が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に達するおそれがあるとの評価を踏まえなければ,憲法に抵触する状況に至る可能性があると考えることも想定し難いと思われるから,平成18年大法廷判決もおおむねそのような評価を前提として前記の見直しを促したものと私は考えるものである。同判決は,前記平成17年専門委員会報告を踏まえ,人口の都市部への偏在傾向が続く状況の中でこの著しい不平等状態が生じているという事実を認めた上で,これを解消し違憲の問題を生じさせないようにするためには,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図るという平成18年改正におけるような方法をもってしては十分とはいえず,選挙制度の仕組みそのものを改めることが憲法の趣旨に沿うとの認識に立って,立法府に対しその作為を促すメッセージを示したと解されるべきものと思われる。
 このように考えると,国会が社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動による投票価値の著しい不平等状態につき,その是正措置としての選挙制度の仕組みの見直しを講ずべき相当期間において,その起算点たる基準時は,遅くとも平成18年大法廷判決が出された同年10月頃とするのが相当である。

(4) 選挙制度の仕組みの見直し状況について

@ そこで次にはこの基準時とされる平成18年10月より後の選挙制度の仕組みの見直し状況について検討するに,本件選挙までに4年近くが,現在までは6年余が経過している。確かに多数意見2(5)(※事案2(5))で述べるとおり,平成18年改正後は,参議院改革協議会の下に専門委員会が設置されて6回にわたる協議がなされ,また,本件選挙後は参議院に選挙制度の改革に関する検討会が発足し,特に平成23年7月までに参議院議長や各政党から様々な改革案が提出された。しかし,これらはいずれも検討途上のものにとどまるものであった。これらの案は,選挙制度の仕組みの見直しに関わり,あるいは参議院の独自性を明らかにする方向での検討作業と理解できるものもあり,また,人口比例原則に向けてより忠実になることを目指しているという意味で一応の評価を得ていることは疑いないが,それにしても本件選挙時には何らの改革も実現していない。

A のみならず,その時点から2年余も経過した今日に至るも,選挙制度の仕組みの見直しは具体化するに至っていないといえる。本件選挙の直前に提出された上記専門委員会の報告書においては,平成25年参議院議員通常選挙での選挙制度の見直しを行うためには,平成23年中に公職選挙法の改正案を取りまとめ,同年中にそれを国会に提出することが必要であるとの認識の下に,その旨を記した「今後の大まかな工程表(案)」が示されているが,平成24年8月に至って国会に提出された公職選挙法の改正法案(以下「平成24年改正法案」という。)はいわゆる4増4減を内容とするものにとどまり,結局,平成25年選挙は現行の仕組みのままで実施されることになっただけで,その仕組みの見直しは先送りされてしまっている。

B 平成18年改正時,平成19年選挙と本件選挙とが抜本的改革へ向けての当面の措置と位置付けられたという事情は看取されるとしても,このような現状では,当面の措置とはいえなくなってしまったというべきである。およそ,選挙制度の仕組みの見直しを行うことは,参議院の在り方をも踏まえた複雑かつ高度な政策的な考慮と判断も必要であり,事柄の性質上各議員の資格の得喪や政党のありようにかかわるなど,難題も少なくなく,したがって,多大な時間が不可欠で,恐らく想像し難いほどの難作業と思われる。そのことに鑑みると,仕組みの見直しに向けて真摯な検討作業が不断に進められなければならないと思われるが,上記の取組状況は,前後や中間に長い空白期間が存在するなど,いわば間欠的とも評価せざるを得ない。

(5) 本件選挙時の立法不作為の違憲性

@ 他面,もしも平成18年から今日まで仕組みの見直しに向けての真摯な努力が不断に続けられてきたのであれば,今日ではかなり異なった様相を呈していると思われるし(実際,既に平成17年に参議院で開始された前述の取組は,参議院議員の6年任期制及び半数改選制によって議院としての継続性が図られていることからすれば,そのまま継続し得たはずであるとみられ,この点からしてもその感を深くさせられる。),また,そのような真摯な努力にもかかわらず,本件選挙時において改革が実現しておらず,また,平成25年選挙時までに現行の仕組みの見直しを経た本件定数配分規定の改正が実現するという見通しが立っていない状況であるというのであれば,そのような事態になるについて合理的理由があることが認められ,相当期間是正措置を講じていないということにはならないであろう。しかしながら,平成18年から今日までの長期間の経過の中で選挙制度の見直しに向けての上記の取組状況からすると,投票価値の平等の根本的重要性に照らし,むしろ,著しい不平等状態が慢性的に維持されてきているとさえいわざるを得ない。

A また,いずれも違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態であると評価すべき平成16年選挙と平成19年選挙について合憲判断を行った平成18年大法廷判決及び平成21年大法廷判決との比較において若干触れると,(ア)平成18年大法廷判決については,対象とする平成16年選挙が,投票価値の平等の観点から従前より厳格に解するようになったとみられる同年大法廷判決の日から約6か月しか経過しておらず,かつ,平成16年大法廷判決の前記「補足意見2」及びこれを基にしたといえる前記平成17年専門委員会報告を踏まえたことがうかがわれ,更に過渡的な当面の措置として抜本的な改革へ向けての道程の一歩を進めたと評価され得た平成18年改正が平成18年大法廷判決の直前に実現したなどの事情があり,また,(イ)平成21年大法廷判決については,対象とする平成19年選挙が平成18年改正の1年2か月後で最初に行われたもので,しかも,当審が立法府による選挙制度の仕組みの見直しに関して初めて判示した平成18年大法廷判決から約9か月しか経過していない選挙であったことなどの事情があることからして,それぞれ憲法上要求される合理的期間内に是正する措置を講じなかったと判断するには躊躇させる事情があったといえるのである(平成18年及び平成21年の各大法廷判決における藤田宙靖裁判官の各補足意見参照)。しかしながら,前記(3)@の基準時から4年近くも経過した本件選挙では,そのような事情は見いだされないから同列には考えられない(本件選挙より9か月前の平成21年大法廷判決は,前記のとおり,国会による選挙制度の仕組みの見直しを促したといえる平成18年大法廷判決をより一層強調した表現となってはいるものの,基本的にはそれと同趣旨のものと解されるから,上記のような躊躇させる事情には当たらない。)。むしろ,現時点では,遺憾ながら,平成18年改正も平成24年改正法案も,結局,目先の必要に応じた小幅な修正にとどめて問題を先送りしたものではないか,そして,今や選挙制度の仕組みの見直しに向けた姿勢は消え失せてしまったのではないか,との疑念にさえ行き着かざるを得ないのである。

B 以上からすると,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間経過しているにもかかわらず国会がこれを是正する立法的措置を講じなかったといえるから,かかる立法不作為は,憲法で認められた立法裁量権の限界を超えると評価せざるを得ないと思われる。

3.結論

(1) これを要するに,本件定数配分規定は,本件選挙当時,合理的理由なく投票価値の著しい不平等を生じさせているという点においても,それについて相当期間是正する立法的措置を講じなかったという点においても,国会の裁量権の限界を超えており,憲法に違反するに至っていたものというべきである。

(2) ただし,本件選挙については,前記のとおり,平成18年改正時において,平成19年選挙と本件選挙とが「当面の措置」との位置付けがなされ,本件選挙でそれが「完了」することと観念されていたということが看取されることから,その事情を斟酌し,いわゆる事情判決の法理を適用して違法宣言にとどめることが相当である。

(3) しかしながら,平成25年選挙に至ってもなお現状のままで選挙制度の枠組みの改変について見るべき取組も見いだされない状態であるならば,同選挙における選挙無効訴訟の提起された選挙区の選出議員の選挙に限っては無効とせざるを得ないというべきである。この場合,参議院は,同選挙におけるその余の選挙区選出議員,非改選の選挙区選出議員及び比例区選出議員のみによって審議がなされるということが避けられないことになる。

(4) 付言するに,参議院選挙制度については,参議院の独自性が国民の前に明らかにされ,それにふさわしい制度が構築されることが望まれるが,その場合においても,選挙権が主権者たる国民の参政権であり,民主主義の根幹に関わることよりすれば,投票価値の平等を確保することをまず基本として選挙制度の仕組みが定められるべきである。国会がそのための立法的措置を講じるについては,幾多の困難があることは想像に難くないが,衆議院とともに唯一の立法機関として憲法上最も枢要な任務を担う参議院が,一日も早くその構成員の選出の在り方において曇りなき国権の最高機関となることを強く期待するものである。

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