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最高裁判所第二小法廷決定平成24年11月06日

【事案】

1(1) A及びB(以下「Aら」という。)は,平成22年5月26日午前3時頃,愛媛県伊予市内の携帯電話販売店に隣接する駐車場又はその付近において,同店に誘い出したC及びD(以下「Cら」という。)に対し,暴行を加えた。その態様は,Dに対し,複数回手拳で顔面を殴打し,顔面や腹部を膝蹴りし,足をのぼり旗の支柱で殴打し,背中をドライバーで突くなどし,Cに対し,右手の親指辺りを石で殴打したほか,複数回手拳で殴り,足で蹴り,背中をドライバーで突くなどするというものであった。

(2) Aらは,Dを車のトランクに押し込み,Cも車に乗せ,松山市内の別の駐車場(以下「本件現場」という。)に向かった。その際,Bは,被告人がかねてよりCを捜していたのを知っていたことから,同日午前3時50分頃,被告人に対し,これからCを連れて本件現場に行く旨を伝えた。

(3) Aらは,本件現場に到着後,Cらに対し,更に暴行を加えた。その態様は,Dに対し,ドライバーの柄で頭を殴打し,金属製はしごや角材を上半身に向かって投げつけたほか,複数回手拳で殴ったり足で蹴ったりし,Cに対し,金属製はしごを投げつけたほか,複数回手拳で殴ったり足で蹴ったりするというものであった。これらの一連の暴行により,Cらは,被告人の本件現場到着前から流血し,負傷していた。

(4) 同日午前4時過ぎ頃,被告人は,本件現場に到着し,CらがAらから暴行を受けて逃走や抵抗が困難であることを認識しつつAらと共謀の上,Cらに対し,暴行を加えた。その態様は,Dに対し,被告人が,角材で背中,腹,足などを殴打し,頭や腹を足で蹴り,金属製はしごを何度も投げつけるなどしたほか,Aらが足で蹴ったり,Bが金属製はしごで叩いたりし,Cに対し,被告人が,金属製はしごや角材や手拳で頭,肩,背中などを多数回殴打し,Aに押さえさせたCの足を金属製はしごで殴打するなどしたほか,Aが角材で肩を叩くなどするというものであった。被告人らの暴行は同日午前5時頃まで続いたが,共謀加担後に加えられた被告人の暴行の方がそれ以前のAらの暴行よりも激しいものであった。

(5) 被告人の共謀加担前後にわたる一連の前記暴行の結果,Dは,約3週間の安静加療を要する見込みの頭部外傷擦過打撲,顔面両耳鼻部打撲擦過,両上肢・背部右肋骨・右肩甲部打撲擦過,両膝両下腿右足打撲擦過,頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負い,Cは,約6週間の安静加療を要する見込みの右母指基節骨骨折,全身打撲,頭部切挫創,両膝挫創の傷害を負った。

2.原判決は,以上の事実関係を前提に,被告人は,Aらの行為及びこれによって生じた結果を認識,認容し,さらに,これを制裁目的による暴行という自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思の下に,一罪関係にある傷害に途中から共謀加担し,上記行為等を現にそのような制裁の手段として利用したものであると認定した。その上で,原判決は,被告人は,被告人の共謀加担前のAらの暴行による傷害を含めた全体について,承継的共同正犯として責任を負うとの判断を示した。

【判旨】

 所論は,被告人の共謀加担前のAらの暴行による傷害を含めて傷害罪の共同正犯の成立を認めた原判決には責任主義に反する違法があるという。
 そこで検討すると,事案1の事実関係によれば,被告人は,Aらが共謀してCらに暴行を加えて傷害を負わせた後に,Aらに共謀加担した上,金属製はしごや角材を用いて,Dの背中や足,Cの頭,肩,背中や足を殴打し,Dの頭を蹴るなど更に強度の暴行を加えており,少なくとも,共謀加担後に暴行を加えた上記部位についてはCらの傷害(したがって,第1審判決が認定した傷害のうちDの顔面両耳鼻部打撲擦過とCの右母指基節骨骨折は除かれる。以下同じ。)を相当程度重篤化させたものと認められる。この場合,被告人は,共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については,被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。原判決の事案2の認定は,被告人において,CらがAらの暴行を受けて負傷し,逃亡や抵抗が困難になっている状態を利用して更に暴行に及んだ趣旨をいうものと解されるが,そのような事実があったとしても,それは,被告人が共謀加担後に更に暴行を行った動機ないし契機にすぎず,共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問い得る理由とはいえないものであって,傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する上記判断を左右するものではない。そうすると,被告人の共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果を含めて被告人に傷害罪の共同正犯の成立を認めた原判決には,傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する刑法60条,204条の解釈適用を誤った法令違反があるものといわざるを得ない。
 もっとも,原判決の上記法令違反は,一罪における共同正犯の成立範囲に関するものにとどまり,罪数や処断刑の範囲に影響を及ぼすものではない。さらに,上記のとおり,共謀加担後の被告人の暴行は,Cらの傷害を相当程度重篤化させたものであったことや原判決の判示するその余の量刑事情にも照らすと,本件量刑はなお不当とはいえず,本件については,いまだ刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。

【千葉勝美補足意見】

 私は,法廷意見に補足して,次の点について私見を述べておきたい。

1.法廷意見の述べるとおり,被告人は,共謀加担前に他の共犯者らによって既に被害者らに生じさせていた傷害結果については,被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の暴行によって傷害の発生に寄与したこと(共謀加担後の傷害)についてのみ責任を負うべきであるが,その場合,共謀加担後の傷害の認定・特定をどのようにすべきかが問題となる。
 一般的には,共謀加担前後の一連の暴行により生じた傷害の中から,後行者の共謀加担後の暴行によって傷害の発生に寄与したことのみを取り出して検察官に主張立証させてその内容を特定させることになるが,実際にはそれが具体的に特定できない場合も容易に想定されよう。その場合の処理としては,安易に暴行罪の限度で犯罪の成立を認めるのではなく,また,逆に,この点の立証の困難性への便宜的な対処として,因果関係を超えて共謀加担前の傷害結果まで含めた傷害罪についての承継的共同正犯の成立を認めるようなことをすべきでもない。
 この場合,実務的には,次のような処理を検討すべきであろう。傷害罪の傷害結果については,暴行行為の態様,傷害の発生部位,傷病名,加療期間等によって特定されることが多いが,上記のように,これらの一部が必ずしも証拠上明らかにならないこともある。例えば,共謀加担後の傷害についての加療期間は,それだけ切り離して認定し特定することは困難なことが多い。この点については,事案にもよるが,証拠上認定できる限度で,適宜な方法で主張立証がされ,罪となるべき事実に判示されれば,多くの場合特定は足り,訴因や罪となるべき事実についての特定に欠けることはないというべきである。もちろん,加療期間は,量刑上重要な考慮要素であるが,他の項目の特定がある程度されていれば,「加療期間不明の傷害」として認定・判示した上で,全体としてみて被告人に有利な加療期間を想定して量刑を決めることは許されるはずである。本件を例にとれば,共謀加担後の被告人の暴行について,凶器使用の有無・態様,暴行の加えられた部位,暴行の回数・程度,傷病名等を認定した上で,被告人の共謀加担後の暴行により傷害を重篤化させた点については,「安静加療約3週間を要する背部右肋骨・右肩甲部打撲擦過等のうち,背部・右肩甲部に係る傷害を相当程度重篤化させる傷害を負わせた」という認定をすることになり,量刑判断に当たっては,凶器使用の有無・態様等の事実によって推認される共謀加担後の暴行により被害者の傷害を重篤化させた程度に応じた刑を量定することになろう。また,本件とは異なり,共謀加担後の傷害が重篤化したものとまでいえない場合(例えば,傷害の程度が小さく,安静加療約3週間以内に止まると認定される場合等)には,まず,共謀加担後の被告人の暴行により傷害の発生に寄与した点を証拠により認定した上で,「安静加療約3週間を要する共謀加担前後の傷害全体のうちの一部(可能な限りその程度を判示する。)の傷害を負わせた」という認定をするしかなく,これで足りるとすべきである。
 仮に,共謀加担後の暴行により傷害の発生に寄与したか不明な場合(共謀加担前の暴行による傷害とは別個の傷害が発生したとは認定できない場合)には,傷害罪ではなく,暴行罪の限度での共同正犯の成立に止めることになるのは当然である。

2.なお,このように考えると,いわゆる承継的共同正犯において後行者が共同正犯としての責任を負うかどうかについては,強盗,恐喝,詐欺等の罪責を負わせる場合には,共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の結果について因果関係を持ち,犯罪が成立する場合があり得るので,承継的共同正犯の成立を認め得るであろうが,少なくとも傷害罪については,このような因果関係は認め難いので(法廷意見が指摘するように,先行者による暴行・傷害が,単に,後行者の暴行の動機や契機になることがあるに過ぎない。),承継的共同正犯の成立を認め得る場合は,容易には想定し難いところである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成24年11月20日

【事案】

1.上告人らが,東広島市都市計画事業西条駅前土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)に関し,東広島市が土地区画整理法78条3項において準用する同法73条3項に基づき上告人ら及び選定者Aを相手方として損失の補償につき行った土地収用法94条2項の規定による裁決の申請は,土地区画整理法77条7項に基づき同市が自ら行うべき建築物等の移転(以下「本件直接施行」という。)が完了していない段階のもので不適法であるから,上記裁決の申請を却下しないでされた広島県収用委員会の平成18年10月24日付け裁決(以下「本件損失補償裁決」という。)は違法であると主張して,被上告人を相手に,本件損失補償裁決の取消しを求める事案。なお,上告人らは,本件と併合審理された訴えにおいて,東広島市の本件直接施行が完了していない以上,本件損失補償裁決に対する上告人ら及び選定者Aの審査請求を棄却した国土交通大臣の平成21年7月22日付け裁決(以下「本件裁決」という。)も違法であると主張して,国を相手に,本件裁決の取消しをも求めていたが,原判決のうちその請求を棄却すべきものとした部分は既に確定している。

(参照条文)

土地区画整理法

77条1項 施行者は、第九十八条第一項の規定により仮換地・・を指定した場合・・において、従前の宅地・・に存する建築物その他の工作物又は竹木土石等(以下これらをこの条及び次条において「建築物等」と総称する。)を移転し、又は除却することが必要となつたときは、これらの建築物等を移転し、又は除却することができる。
2項 施行者は、前項の規定により建築物等を移転し、又は除却しようとする場合においては、相当の期限を定め、その期限後においてはこれを移転し、又は除却する旨をその建築物等の所有者及び占有者に対し通知するとともに、その期限までに自ら移転し、又は除却する意思の有無をその所有者に対し照会しなければならない。
7項 施行者は、第二項の規定により建築物等の所有者に通知した期限後・・においては、いつでも自ら建築物等を移転し、若しくは除却し、又はその命じた者若しくは委任した者に建築物等を移転させ、若しくは除却させることができる。この場合において、・・以下略。
8項 前項の規定により建築物等を移転し、又は除却する場合においては、その建築物等の所有者及び占有者は、施行者の許可を得た場合を除き、その移転又は除却の開始から完了に至るまでの間は、その建築物等を使用することができない。

78条1項 前条第一項の規定により施行者が建築物等を移転し、若しくは除却したことにより他人に損失を与えた場合・・においては、施行者(・・かっこ書き略。)は、その損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償しなければならない。
3項 第七十三条第二項から第四項までの規定は、第一項の規定による損失の補償について準用する。この場合において、同条第四項中「国土交通大臣、都道府県知事、市町村長若しくは機構理事長等又は前条第一項後段に掲げる者」とあるのは「施行者」と、「同項又は同条第六項」とあるのは「第七十七条第一項」と読み替えるものとする。

73条2項 前項の規定による損失の補償については、損失を与えた者と損失を受けた者が協議しなければならない。
3項 前項の規定による協議が成立しない場合においては、損失を与えた者又は損失を受けた者は、政令で定めるところにより、収用委員会に土地収用法 (昭和二十六年法律第二百十九号)第九十四条第二項の規定による裁決を申請することができる。

土地収用法

94条2項 前項の規定による協議が成立しないときは、起業者又は損失を受けた者は、収用委員会の裁決を申請することができる。

133条 収用委員会の裁決に関する訴え(次項及び第三項に規定する損失の補償に関する訴えを除く。)は、裁決書の正本の送達を受けた日から三月の不変期間内に提起しなければならない。
2 収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から六月以内に提起しなければならない。
3 前項の規定による訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならない。

2.事実関係等の概要

(1) 上告人X1,上告人X2及び選定者Aは,亡Bの相続人である。

(2) B所有の広島県東広島市西条本町に所在する木造瓦葺平家(一部2階)建の建物その他工作物及び立竹木土石等(以下併せて「本件建物等」という。)並びに選定者Aを代表者とする上告人X3(以下「上告人会社」という。)所有の同町に所在する工作物等一式(以下「本件工作物等」という。)は,本件事業の平成15年度の移転区域に存していた。

(3) 東広島市は,平成15年10月30日付けで,上告人X1,上告人X2及び選定者Aに対して本件建物等の移転につき,上告人会社に対して本件工作物等の移転につき,それぞれ期限を同16年2月10日とする土地区画整理法77条2項の通知及び照会をした。
 東広島市は,同年3月24日,同条7項に基づき本件直接施行に着手し,同年9月29日,本件建物等及び本件工作物等を仮換地上に移動した上で,上告人ら及び選定者Aに対し,本件直接施行の完了を通知した。
 東広島市は,平成17年3月17日,同法78条1項の規定による損失の補償について上告人ら及び選定者Aとの間で協議をしたものの,当該協議が成立しなかったとして,同条3項において準用する同法73条3項に基づき,上告人ら及び選定者Aを相手方として,広島県収用委員会に損失の補償に係る裁決の申請をしたところ,同委員会は,同18年10月24日,本件損失補償裁決をした。

(4) 上告人ら及び選定者Aは,平成18年11月20日,本件損失補償裁決を不服として,国土交通大臣に対し審査請求をしたところ,同大臣は,同21年7月22日,上記審査請求を棄却する旨の本件裁決をした。本件裁決の裁決書の謄本は,同月23日,上告人ら及び選定者Aに対して送達された。
 上告人らは,平成22年1月19日,本件裁決の取消しを求める訴えを提起し,同年6月1日,行政事件訴訟法19条1項に基づき,本件裁決の原処分である本件損失補償裁決の取消しを求める訴えをこれに併合して提起した。

3.原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件損失補償裁決の取消しを求める訴えを却下すべきものとした。
 土地収用法133条1項は,収用委員会の裁決に関する訴えは,損失の補償に関する訴えを除き,裁決書の正本の送達を受けた日から3か月の不変期間内に提起しなければならないと規定し,行政事件訴訟法14条所定の出訴期間より短期の出訴期間を定めている。そして,収用委員会の裁決に対して審査請求をした場合の当該収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間についても,土地収用法133条1項の規定が優先して適用される結果,行政事件訴訟法14条3項の定めにかかわらず,当該取消訴訟は,当該審査請求に対する裁決の裁決書の正本の送達を受けた日から3か月以内に提起しなければならない。本件損失補償裁決の取消しを求める訴えは,同法20条により,本件裁決の取消しを求める訴えが提起された平成22年1月19日に提起されたものとみなされるところ,同訴えは,本件裁決の裁決書に係る送達がされた同21年7月23日から3か月を経過した後に提起されたものであり,出訴期間を徒過した不適法な訴えである。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 平成16年法律第84号(行政事件訴訟法の一部を改正する法律。以下「平成16年改正法」という。)により,国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る観点から,出訴期間の定めによる法律関係の安定を考慮しつつ,国民が行政事件訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保するために,行政事件訴訟法14条1項所定の取消訴訟の出訴期間が3か月から6か月に延長された一方,平成16年改正法附則により,土地収用に係る法律関係の早期安定の観点から,土地収用法に「収用委員会の裁決に関する訴え(次項及び第3項に規定する損失の補償に関する訴えを除く。)は,裁決書の正本の送達を受けた日から3月の不変期間内に提起しなければならない。」との短期の出訴期間を定める特例規定(133条1項)が設けられた。しかし,収用委員会の裁決についての審査請求に対する裁決の取消訴訟の出訴期間については,このような不服申立てに対する裁決につき短期の出訴期間の特例を定める立法例がある中で,土地収用法に同様の特例規定が設けられなかったことから,その取消訴訟の出訴期間は,行政事件訴訟法14条1項及び2項により審査請求に対する裁決があったことを知った日から6か月以内かつ当該裁決の日から1年以内とされることとなった。これは,審査請求がされた場合における審査請求に対する裁決の取消訴訟については,同法の一般規定による通例の出訴期間に服させ,訴えの提起の要否等に係る検討の機会を十分に付与するのが相当であるとされたものと解される。
 他方,審査請求をすることができる場合(行政庁が誤ってその旨を教示した場合を含む。以下同じ。)において審査請求がされたときにおける原処分の取消訴訟の出訴期間について,平成16年改正法による改正前の行政事件訴訟法14条4項は,同条1項及び3項(現行の同条1項及び2項に相当)に対する起算点に限った特則として,「第1項及び前項の期間は,…その審査請求をした者については,これに対する裁決があったことを知った日又は裁決の日から起算する。」と規定するにとどめていたが,平成16年改正法による改正後の行政事件訴訟法14条3項は,同条1項及び2項とは別個の規定として,「処分又は裁決に係る取消訴訟は,その審査請求をした者については,前2項の規定にかかわらず,これに対する裁決があったことを知った日から6箇月を経過したとき又は当該裁決の日から1年を経過したときは,提起することができない。」と規定し,審査請求に対する裁決の取消訴訟の出訴期間と起算点を含めて同一の期間と定めている。

(2) 行政事件訴訟法14条3項は,審査請求をすることができる場合において審査請求がされたときにおける原処分の取消訴訟の出訴期間の一般原則を定めるものであり,特別法の規定の解釈により例外的にその短縮を認めることについては,国民が行政事件訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保するという同条の改正の趣旨に鑑み,慎重な考慮を要する。
 土地収用法に,収用委員会の裁決につき審査請求がされた場合における当該審査請求に対する裁決の取消訴訟について短期の出訴期間を定める特例規定が設けられなかったのは,上記(1)のとおり,当該審査請求に対する裁決の取消訴訟について訴えの提起の要否等に係る検討の機会を通例と同様に確保する趣旨であると解され,そうすると,収用委員会の裁決につき審査請求がされなかった場合に法律関係の早期安定の観点から出訴期間を短縮する特例が定められているとしても,収用委員会の裁決につき審査請求がされた場合における収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間について,これと必ずしも同様の規律に服させなければならないというものではない。収用委員会の裁決につき審査請求をすることができる場合において審査請求がされたときにおける当該裁決の取消訴訟の出訴期間と当該審査請求に対する裁決の取消訴訟の出訴期間については,両者とも行政事件訴訟法14条3項を適用して同一の期間と解することができるところ,むしろその解釈によることが,国民が行政事件訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保するという同条の改正の趣旨に沿ったものであるといえる。のみならず,行政事件訴訟法20条は,同法19条1項前段の規定により処分の取消しの訴えをその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えに併合して提起する場合について,出訴期間の遵守については処分の取消しの訴えは裁決の取消しの訴えを提起した時に提起されたものとみなす旨を規定しており,これは,同法10条2項が裁決の取消しの訴えにおいては処分の違法を理由として取消しを求めることができないとしていることを看過するなどして処分の違法を理由とする裁決の取消しの訴えを提起した者につき,原処分の取消訴訟の出訴期間の徒過による手続上の不利益を救済することに配慮したものと解されるところ,審査請求をすることができる場合において審査請求がされたときにおける原処分の取消訴訟の出訴期間と裁決の取消訴訟の出訴期間につき,仮に特別法により前者が後者より短期とされれば,一定の範囲で行政事件訴訟法20条による救済がされない場合が生ずることとなるのに対し,同法の一般規定のとおり両者が同一の期間であれば,同条による救済が常に可能となるのであって,上記のように両者を同一の期間と解することが同条の趣旨にも沿うものというべきである。
 したがって,収用委員会の裁決につき審査請求をすることができる場合において,審査請求がされたときは,収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間については,土地収用法の特例規定(133条1項)が適用されるものではなく,他に同法に別段の特例規定が存しない以上,原則どおり行政事件訴訟法14条3項の一般規定が適用され,その審査請求に対する裁決があったことを知った日から6か月以内かつ当該裁決の日から1年以内となると解するのが相当である。

(3) 以上によれば,本件損失補償裁決の取消しを求める訴えの出訴期間は,本件裁決があったことを知った日から6か月以内かつ本件裁決の日から1年以内(行政事件訴訟法14条3項)となるところ,本件損失補償裁決の取消しを求める訴えは,本件裁決の裁決書の謄本が送達されて当該裁決があったことを知った日から6か月以内であって本件裁決の日から1年以内の平成22年1月19日に提起された本件裁決の取消しを求める訴えに,同法19条1項前段の規定により追加的に併合して提起されたものであり,同法20条によって同日に提起されたものとみなされることから,出訴期間を遵守して提起されたものというべきである。

2.以上のとおり,本件損失補償裁決の取消しを求める訴えが出訴期間を徒過した違法なものであるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち被上告人に関する部分は破棄を免れない。そして,同部分につき,第1審判決を取り消し,@ 本件直接施行が土地区画整理法77条の規定に従って行われ,同法78条1項の「前条第1項の規定により施行者が建築物等を移転し,若しくは除却したことにより他人に損失を与えた場合」に当たるものとして,かつ,A 同法78条3項において準用する同法73条3項の「前項の規定による協議が成立しない場合」に当たるものとして,施行者である東広島市が広島県収用委員会の裁決を申請することができるのか否か等,本件損失補償裁決の適法性について審理させるため,本件を第1審に差し戻すべきである。

【田原睦夫補足意見】

 本件は,差戻審において,本件損失補償裁決の適法性が一から審理されることになるところ,その審理の参考に供する趣旨で,本件記録から認められる若干の問題点について私の考えるところを以下に補足的に指摘しておくこととする。

(1) 本件直接施行の瑕疵の有無について

 本件損失補償裁決が適法か否かの判断をなすに当たっては,その裁決と前提となる各手続の瑕疵の有無が問われるところ,本件においては,本件直接施行が土地区画整理法77条の規定に基づくものと評価できるか否かが問われることとなる。
 ところで,上告人らの主張によれば,東広島市が上告人らに対して,平成15年10月30日付で,同16年2月10日を期限とする同条2項に基づく本件「通知及び照会」をした時点では,その移転先たる本件仮換地は,同地上に存したパチンコ店等の取壊し,撤去が未だなされておらず,その後に行われる宅地造成工事等の完成予定日も未定であったというのである(原判決の認定によれば,仮換地の造成工事の完成検査は,本件「通知及び照会」で移転期限とされた平成16年2月10日より後の同年3月30日である。)。
 上告人らの上記主張どおりの事実が認められる場合には,本件「通知及び照会」に定められた期限内に上告人らにて本件建物等を移転することは物理的に可能であったか否か自体に疑問が存し,仮に,その期限内に移転することが物理的に困難であったと認められる場合には,本件「通知及び照会」の瑕疵は重大なものといわざるを得ず,ひいては本件直接施行をもって同条に基づくものと評価することができるか自体に疑問が生じるといわざるを得ない。
 また,上告人らは,本件建物は,建築基準法施行前の建物であって,その移転工事をするには,同法に基づき建築確認手続が必要である旨主張しているところ,仮に上告人ら主張どおり建築基準法の手続が必要であるならば,本件における移転期限を定めるに当たっては,その手続に必要な期間をも考慮する必要があるといえるのであって,かかる観点からも,本件「通知及び照会」の瑕疵の有無及び程度が検討される必要があるといえよう。

(2) 土地区画整理法78条1項の移転の完了の有無について

 上告人らは,本件建物の移転は,建築基準法に定められた手続を経ていないから,土地区画整理法78条1項の移転の完了とはいえないと主張しているのに対し,原判決は,同項の移転の完了の有無は施行者の判断に委ねられているところ,直接施行による移転が完了したとするには,施行者が物理的に移転したものと判断し,その旨を客観的に明らかにすれば足りる旨判示する。
 しかし,同法77条7項による移転が行われる場合,その建築物等の所有者及び占有者は,その移転の開始から完了に至るまでの間は,その建築物等を使用することができないとされ(同条8項),その完了後にはその使用をすることができるところ,それは,移転前において適法な状態の建物として使用することができていた場合には,移転後においても適法な建物として使用できることが予定されているといえるのであって,単に物理的に移転を終えただけでは,直ちには,同法78条1項の移転の完了とは評価し得ないものというべきである。
 ところで,上告人らは,曳家工法で移転がなされた本件建物は,その移転前は建築基準法施行の際に現に存する建物として同法は適用されない建物であったところ(同法3条2項),曳家工法による移転であっても,その移転には同法の適用がある旨主張している。
 上告人らの主張するとおり本件建物の移転にも同法が適用されるならば,移転した建物が同法に違反する場合には,同法9条により除却,修繕,使用禁止,使用制限等の措置を命じられる可能性が存するのであり,仮に本件移転後の建物に対して上記措置が命じられる現実の可能性が存するときには,物理的に移転したことのみをもって移転が完了したと評価できるかは疑問であるといわざるを得ない。
 原判決の如く,移転後の建物につき建築基準法が適用されるか否か,適用される場合には,本件建物が同法の定める基準に適合しているか否か,適合していない場合に上記措置が命じられる可能性の有無,程度等について何らの検討を加えることなく,物理的な移転の完了をもって,土地区画整理法78条1項の移転が了したと解するのは,粗雑な解釈であるといわざるを得ない。
 また,仮に移転した建物が建築基準法上の違法な建築物として是正命令の対象たり得るような建物である場合に,土地区画整理法78条1項の定める「通常生ずべき損失」を適正に算定することができるかについては,大いに疑問である。
 差戻審においては,以上の諸点をも参考にして,更に審理が尽くされることを望むものである。

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