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最高裁判所第三小法廷判決平成24年11月27日

【事案】

1.被上告人らが,上告人をいわゆるアレンジャーとするシンジケートローンへの招へいを受けて上告人と共にAに対し合計9億円のシンジケートローンを実行したところ,程なくして同社の経営が破綻して損害を被ったことにつき,この損害は,上告人がアレンジャーとしての情報提供義務を怠ったために生じたものであるなどと主張し,上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案。

2.事実関係の概要

(1) Aは,石油製品の卸売等を目的とする株式会社であり,平成19年当時の代表取締役は,Bであった。

(2) 上告人は,平成17年2月頃からAと銀行取引を行っていたが,平成19年8月29日,Aの委託を受けて,総額10億円を予定するシンジケートローンのアレンジャーとなって,被上告人らを含む合計10の金融機関に対しその参加を招へいし,被上告人らについては,同月30日又は31日に上告人の担当者が各店舗を訪問して上記シンジケートローンの説明をするなどした。この際,上告人は,招へい先金融機関に対し,Aの同年3月期決算書のほか,上記シンジケートローンの条件の概要等を記載した参加案内資料及び上記シンジケートローンの必要性,返済見込み等を記載した補足資料を交付したが,このうち参加案内資料には,留意事項として,資料に含まれる情報の正確性・真実性について上告人は一切の責任を負わないこと,資料は必要な情報を全て包含しているわけではなく,招へい先金融機関で独自にAの信用力等の審査を行う必要があることなどが記載されていた。

(3) 他方,AのいわゆるメインバンクであったCは,平成19年3月,他の11の金融機関と共に,Aに対し総額約30億円のシンジケートローン(以下「別件シ・ローン」という。)を組成し,実行するとともに,別件シ・ローンにおいて他の参加金融機関の代理人(いわゆるエージェント)となっていたところ,同年8月28日又は29日頃,Bに対し,Aの同年3月期決算書において不適切な処理がされている疑いがある旨を指摘し,同決算書に関して専門家による財務調査を行う必要があり,これを行わなければ,同年9月末以降の別件シ・ローンの継続ができない旨を告げた。
 Bは,上記財務調査の実施を承諾し,別件シ・ローンの各参加金融機関に対し,上記決算書において一部不適切な処理がされている可能性があるため,Dに同決算書の精査を依頼する予定である旨を記載したA名義の平成19年9月10日付けの書面(以下「本件書面」という。)を送付した。

(4) 上告人による上記(2)の参加招へいに対し,被上告人らは,それぞれ,Aの決算書等を検討し,上告人に質問するなどして,平成19年9月20日頃までに参加の意向を示したことから,上告人及び被上告人らによる総額9億円のシンジケートローン(以下「本件シ・ローン」という。)が組成され,実行されることとなった。そして,上告人岡崎支店の行員で本件シ・ローンの担当者であったEは,本件シ・ローンの契約書調印手続のため,同月21日,Aに赴いた。

(5) ところが,上記調印手続に先立ち,Bは,Eに対し,本件書面を示し,CがAの平成19年3月期決算書に不適切な処理がある旨の疑念を有しており,別件シ・ローンの参加金融機関に本件書面を送付した旨の情報(以下「本件情報」という。)を告げた。これは,Bとしては,本件シ・ローンのアレンジャーである上告人ないしその担当者であるEに,本件シ・ローンの組成・実行手続の継続の是非について判断を委ねる趣旨であった。
 これに対し,上告人ないしEは,本件情報を被上告人らに一切告げることなく,本件シ・ローンの組成・実行手続を継続した。

(6) 上告人及び被上告人らは,平成19年9月28日,Aに対し,本件シ・ローンの実行として,上告人が4億円,被上告人X1及び同X2が各2億円,同X3が1億円の合計9億円を,平成20年3月28日を第1回返済日とし,半年ごとに9000万円ずつ10回払で返済し,各回の返済額は本件シ・ローンの参加割合に応じて案分するなどとの条件で貸し付けた。もっとも,上記9億円のうち3億円は,上告人のA及びその関連会社に対する貸付金の返済に回された。
 そして,本件シ・ローンの実行に伴い,平成19年9月28日,上告人は,Aからアレンジャーフィーないしエージェントフィーとして3780万円の支払を受け,被上告人らは,参加手数料(パーティシペーションフィー)として,被上告人X1及び同X2が各210万円,同X3が105万円(いずれも上記個別貸付額の1%及び消費税相当額)を受領した。

(7) 平成19年10月29日まで行われたDによる財務調査の結果,Aの同年3月期決算書には,実在しない売掛金や前渡金の計上等があり,純資産額が約40億円過大となる粉飾のあることが判明した。このため,Cは,Aに対し,同年10月31日,別件シ・ローンの継続はできない旨及び自行単独融資分につき期限の利益喪失を通知した。
 結局,Aは,平成20年4月11日,自らの申立てに基づき名古屋地方裁判所から再生手続開始の決定を受けた。

【判旨】

1.所論は,被上告人らは金融機関として貸付取引に精通しており,上告人が本件シ・ローンのアレンジャーであるからといって,被上告人らに対する情報提供義務を負うものではないと解すべきであり,上告人の情報提供義務違反に基づく不法行為責任を認めた原審の判断は,民法709条の解釈適用を誤っているというものである。

2.前記事実関係によれば,本件情報は,AのメインバンクであるCが,Aの平成19年3月期決算書の内容に単に疑念を抱いたというにとどまらず,Aに対し,外部専門業者による決算書の精査を強く指示した上,その旨を別件シ・ローンの参加金融機関にも周知させたというものである。このような本件情報は,Aの信用力についての判断に重大な影響を与えるものであって,本来,借主となるA自身が貸主となる被上告人らに対して明らかにすべきであり,被上告人らが本件シ・ローン参加前にこれを知れば,その参加を取り止めるか,少なくとも上記精査の結果を待つことにするのが通常の対応であるということができ,その対応をとっていたならば,本件シ・ローンを実行したことによる損害を被ることもなかったものと解される。他方,本件情報は,別件シ・ローンに関与していない被上告人らが自ら知ることは通常期待し得ないものであるところ,前記事実関係によれば,Bは,本件シ・ローンのアレンジャーである上告人ないしその担当者のEに本件シ・ローンの組成・実行手続の継続に係る判断を委ねる趣旨で,本件情報をEに告げたというのである。
 これらの事実に照らせば,アレンジャーである上告人から本件シ・ローンの説明と参加の招へいを受けた被上告人らとしては,上告人から交付された資料の中に,資料に含まれる情報の正確性・真実性について上告人は一切の責任を負わず,招へい先金融機関で独自にAの信用力等の審査を行う必要があることなどが記載されていたものがあるとしても,上告人がアレンジャー業務の遂行過程で入手した本件情報については,これが被上告人らに提供されるように対応することを期待するのが当然といえ,被上告人らに対し本件シ・ローンへの参加を招へいした上告人としても,そのような対応が必要であることに容易に思い至るべきものといえる。また,この場合において,上告人が被上告人らに直接本件情報を提供したとしても,本件の事実関係の下では,上告人のAに対する守秘義務違反が問題となるものとはいえず,他に上告人による本件情報の提供に何らかの支障があることもうかがわれない。
 そうすると,本件シ・ローンのアレンジャーである上告人は,本件シ・ローンへの参加を招へいした被上告人らに対し,信義則上,本件シ・ローン組成・実行前に本件情報を提供すべき注意義務を負うものと解するのが相当である。そして,上告人は,この義務に違反して本件情報を被上告人らに提供しなかったのであるから,被上告人らに対する不法行為責任が認められるというべきである。

3.以上によれば,所論の点に関する原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

【田原睦夫補足意見】

 本件は,シンジケート・ローンにおけるアレンジャーの不法行為責任が問われた初めての事案であり,原審判決を巡って種々の論議がなされていることに鑑み,以下のとおり補足意見を述べる。

1.Aの被上告人らに対する情報提供義務について

 一般に,金融機関に融資を申し込む者は,その申込みに際して誠実に対応すべき義務を信義則上負っているものといえ,融資の可否の判断に大きな影響を与え得る情報を秘匿して融資の申込みを行い,その結果融資した金融機関に損害を与えた場合には,不法行為責任を負うものというべきである。
 本件においては,Aのメインバンクが,同社の平成19年3月期決算書において不適切な処理が行われている疑がある旨を指摘し,同決算書に関して専門家による財務調査を行う必要があり,これを行わなければ,同年9月末以降の別件シンジケート・ローンの継続ができない旨告げたというのであるところ,その事実は同社の信用の根幹に関わる重要な情報であるから,同社が金融機関に融資を申し込むに際して信義則上当該金融機関に提供すべき情報に該当するものであり,また,融資申込み後その融資実行前に判明した場合においても,同様に提供すべき情報であるといえる。
 殊に,Aが上告人に対して本件シンジケート・ローンの組成を委託するに際して提出したいわゆるインフォメーション・メモランダムにおいて,同社が提供する資料について「その内容が真実かつ正確であることを保証」しているところ,そこで提供される決算資料の正確性について,メインバンクが疑念を抱き,専門家による財務調査を求めているとの事実は,シンジケート・ローンへの参加を招聘されている金融機関にとって,その参加の可否を決する上での重要な情報である。
 従って上記の事実は,Aにおいて,本件シンジケート・ローンへの参加の呼び掛けに応じようとしている金融機関に対して信義則上開示すべき重要な情報であるといえる。

2.アレンジャーとしての上告人の被上告人らに対する本件情報提供義務について

(1) アレンジャーと借受人との関係は,一般に準委任と解されているところ,シンジケート・ローンへの招聘を受けた金融機関において参加の可否の判断に重大な影響を与えるべき事実を借受人が秘匿していることをアレンジャーが知った場合に,敢えてその事実を秘匿したままアレンジャーの業務を遂行し,その結果シンジケート・ローンの参加者が損害を被った場合には,アレンジャーは借受人の情報提供義務違反に加担したものとして,共同不法行為責任が問われ得るといえる(アレンジャーがかかる事実を知った場合には,受託者としての善管注意義務の一環として,借受人に対して,その情報を参加を招聘する金融機関に開示するよう助言すべきであり,借受人がその助言に応じない場合には,アレンジャーとしての受任契約を解約することが検討されて然るべきであろう。)。

(2) 次にアレンジャーとシンジケート・ローンへの参加を希望する金融機関との間には,契約関係は存しないが,アレンジャーはシンジケート・ローンへの参加を呼び掛けるに当っては,一般にアレンジャーとしてその相手方に対して提供が求められる範囲内において,誠実に情報を開示すべき信義則上の義務を負うものというべきであり,殊にアレンジャーがその業務の遂行過程で得た情報のうち,相手方が参加の可否を判断する上において影響を及ぼすと認められる一般的に重要な情報は,相手方に提供すべきものであり,それを怠った場合には,参加希望者を招聘する者としての信義則上の誠実義務に違反するものとして,不法行為責任が問われ得ると言える。

(3) 上告人の本件情報提供義務

 本件情報は,前記のとおり本件のインフォメーション・メモランダムにて確約されたAの提供した資料の真実性,正確性を揺るがす情報であって,被上告人らの本件シンジケート・ローンにかかる融資契約の締結前に明らかになったものであり,被上告人らが融資契約締結の可否を判断するうえで重要な影響を及ぼし得る情報である。また,上告人は本件情報をアレンジャー業務の遂行過程で入手したものであるから,上告人は上記(1),(2)の何れの点からしても,被上告人らに直ちに本件情報を開示すべき信義則上の義務を負っていたものということができるのであり,その違反に対しては不法行為責任が問われて然るべきである。

3.上告人の守秘義務について

 一般に金融機関は,取引先から入手した情報については第三者に対する守秘義務を負っていると言える。しかし借受人が金融機関にシンジケート・ローンのアレンジャー業務を委託した場合において,その業務の遂行に必要な情報は,借受人とアレンジャーとの間で別段の合意がない限り,当然に招聘先に開示されるべきものであり,借受人はアレンジャーに対し,守秘を求める利益を有しないものというべきである。
 そして,本件情報は,前記のとおりAとして,当然に被上告人ら参加金融機関に対して開示すべきものであり,また,本件記録上Aと上告人間で本件情報の秘匿に関する特段の合意がなされたことは窺えないのであるから,本件情報の提供に関し,上告人の守秘義務が問題となる余地はないものというべきである。

4.追って,上告受理決定の論旨外であるが,上告人は,上告受理申立理由書において,本件においては,過失相殺がなされるべき旨縷々主張しているので,その点について補足的に以下に触れておく。
 確かに本件記録によれば,参加金融機関に開示されたAの過去3期の決算書を瞥見するだけでも幾つかの計数上の問題点が浮び上るのであり,事実審において過失相殺の有無が問われても然るべき事案であることが窺える。しかし,上告人は,原審迄に過失相殺の主張をしていない以上,当審で採り上げるべき論点でないことは言う迄もない。

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