平成24年司法試験予備試験論文式商法
出題趣旨検討と参考答案

問題文及び出題趣旨は、こちら

多論点、事例処理型

商法は、民法から一転して、多論点型となった。
しかも、会社法、商行為法、手形法から出題されている。
設問1は、「重要な財産」該当性、取締役会決議欠缺の場合の効力、利益相反該当性、商法526条の当てはめ。
設問2は、人的抗弁の切断(河本フォーミュラ)、手形行為の「借財」該当性、「多額」の当てはめ、取締役会決議欠缺の場合の効力である。
まず最初のポイントは、上記論点を拾えたか、ということになる。

第2のポイントは、大局観である。
民法では、丁寧に本質論から論理を示す必要があった。
すなわち、理由付けが雑だと、評価を下げる。
しかし、本問を民法のときと同じように丁寧に解くと、失敗する。
途中で紙幅切れになったり、時間不足になったりする。
また、論文の基本型は、問題提起、論証、規範定立、当てはめ、結論といわれる。
しかし、本問でその型を守っていては、破綻する。
論証等は犠牲にして、事例処理に徹する必要がある。
構成段階でこのことに気付いた上で、書き出す必要があった。

第3のポイントは、問題文の読み方である。
これについては、以下で具体的にみていこう。

「本件売買契約」について論じる

設問1は、論点自体は難しくない。
ただ、ここで手形振出しの有効性を論じた人がいたようだ。
手形と利益相反取引や多額の借財の論点である。
しかし、問題文には、明確に「本件売買契約の効力」と書いてある。
手形振出しの効力は、訊かれていない。

(問題文より引用、下線は筆者)

〔設問1〕
 本件売買契約の効力及び解除に関し,Y社からみて,会社法上及び商法上どのような点が問題となるか。

(引用終わり)

手形振出しの有効性と売買契約の効力は、直接関係がない。
手形振出しが無効だから、本件売買契約も無効である。
これをやってしまうと、大きく評価を下げるだろう。
また、手形振出しの有効性だけを書いて、売買契約の効力に全く触れない。
これも、実質白紙と扱われてもやむを得ない。
こういうところで評価を下げている人が、案外いたようだ。

「Y社からみて」

本問では、X社も取締役会決議欠缺がある。
そこで、X社にとっての無効事由を検討しようとする。
これも、評価を下げているようだ。
(他の記述が雑になったことが、直接の原因ではあるが。)
問題文をみると、「Y社からみて」と書いてある。

(問題文より引用、下線は筆者)

〔設問1〕
 本件売買契約の効力及び解除に関し,Y社からみて,会社法上及び商法上どのような点が問題となるか。

(引用終わり)

厳密には、X社の無効事由をY社が援用できるか。
そのように構成すれば、なお「Y社からみて」といえることにはなる。
しかし、そうだとしても、Y社の無効事由と比べると、迂遠である。
結論的にも、否定することになるだろう(最判平21・4・17参照)。
だとすれば、書く意義はあまりない。
本問では、書くことが多い。
そんなときに、X社の無効事由を書いて、Y社の援用を否定する。
そんなまどろっこしいことは、書くべきではなかった。

「商法上」の問題点を書く

本問で、染色の不具合による解除は、債務不履行解除(541条又は543条)か。
それとも、担保責任に基づく解除(民法570条、566条1項前段)か。
担保責任の法的性質論が、問題になりうる。
しかし、これは民法の議論である。
問題文は、「商法上」の問題を書いてくれと言っている。

(問題文より引用、下線は筆者)

〔設問1〕
 本件売買契約の効力及び解除に関し,Y社からみて,会社法上及び商法上どのような点が問題となるか。

(引用終わり)

従って、法定責任説と契約責任説の対立を論じるべきではない。
(余裕があれば書く選択肢もあるが、本問では余裕がない。)
単純に、商法526条によって解除が制限されるか。
その当てはめだけを、淡々とすれば足りる。

なお、商法526条は、解除の根拠条文ではない。
債務不履行又は担保責任による解除を、制限する規定である。

(商法526条)

 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。

従って、「商法526条により解除できる」とするのは、誤りである。
また、解除をするには、同条の要件のほか、当然民法上の要件を満たす必要がある。
しかし、本問では、その点を論じようとすると、上記担保責任論が絡まってくる。
その性質論によって、要件が変わってくるからだ。
従って、民法上の要件を積極的に当てはめる必要はなかった。
商法526条だけ当てはめていれば、上位になっている。

それから、526条が不特定物にも適用されるか、という論点がある。
これは、商法上の論点である。
ただ、これも、担保責任論と絡めないように書く必要がある。
書くとしても、「不特定物に適用がないのでは適用領域が狭すぎる」程度の理由付けにとどめるべきである。
本問は、事例処理がメインである。
上記論点は、事例処理と直接かかわらない。
従って、敢えて書く必要もないと思う。

判例の基準が使えるかを現場で判断する

Y社は、本件生地を買い受ける側であるから、「重要な財産の譲受け」を検討すべきである。

※代金債務を負担するから、「借財」となるわけではない。
「多額の借財」は、借入れにより取得した流動性の高い現金の私的流用の危険に着目したものである。
多額の代金債務を負担したからといって、多額の現金を取締役が流用する危険は生じない。
従って、売買は、「借財」には当たらない。
なお、保証は直接の現金取得はないが、対価なく一方的に会社が債務を負担する。
(対価性の点で、売買と異なる。「譲受け」で捕捉できないという事情もある。)
そのことから、「借財」に当たると解されている。

また、会社法362条4項各号に該当しなければ、取締役会決議が不要とは限らない。
「その他の重要な業務執行」に当たる余地があるからである(同項柱書)。
各号は、重要な業務執行の例示に過ぎない。

「重要な財産」に当たるかについては、最判平6・1・20がある。

最判平6・1・20より引用、下線は筆者)

 重要な財産の処分に該当するかどうかは、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である。

(引用終わり)

本問で、これを答案に書いて当てはめた人はいただろう。
それはそれで、よく勉強できている。
しかし、当てはめていて、違和感を感じたのではないだろうか。
上記の判断要素の多くは、本問では事情として挙がっていないからである。
結局、1億円、平均売上高に相当、という程度しか、使わなかったのではないか。
そうなると、延々と判断要素を列挙した意味は、なかったことになる。
本問は、多論点型であり、コンパクトな論述が求められる。
にもかかわらず、意味のない判断要素を列挙するのは、大きなロスである。
判例等の規範を覚えるのはよいが、いつもそれを貼るかどうかは別である。
本問でそれが使えるのか。
現場で、きちんと判断する必要がある。

利益相反の当てはめ

利益相反該当性は、会社法356条1項2号、3号の当てはめである。
しかし、抽象的に「会社と取締役の利益が衝突するか」を論じる人が多い。
条文を、現場でよく読むべきである。

(会社法356条1項)

 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 略。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

条文は、具体的に規定している。
本問のY社について考えてみる。
まず、2号は直接取引の場合である。
Y社についてみているから、「株式会社」とはY社ということになる。
Y社と取引(本件売買契約)をしたのは、誰か。
X社を代表したAである。
しかし、AはY社の「取締役」ではない。
従って、2号には当たらないことになる。
なお、これをX社についてみると、2号該当となる。
すなわち、「株式会社」であるX社と取引したのは、(Y社を代表した)Bである。
そして、Bは、X社の「取締役」である。
従って、「取締役(B)が、第三者(Y社)のために株式会社(X社)と取引」したことになる。
(これは名義説でも計算説でも同じである。)
Bは、X社において、取締役会の承認を得る必要があったことになる。
(ただし、前記のとおり、これは答案上検討を要しないX社の無効事由である。)

次に、3号の間接取引を検討する。
3号は、やや長いが、かっこでくくると分かり易くなる。

(会社法356条1項3号、かっこ挿入は筆者)

 株式会社が(取締役の債務を保証することその他)取締役以外の者との間において(株式会社と当該取締役との利益が相反する)取引をしようとするとき。

さらにかっこ部分を省略すると、以下のようになる。

 株式会社が・・取締役以外の者との間において・・取引をしようとするとき。

「株式会社」とは、Y社である。
取引(本件売買契約)の相手方は、(Aの代表する)X社である。
AもX社もY社の取締役ではないから、「取締役以外の者」である。
そうすると、後は、かっこの要件を満たすかである。
すなわち、「取引」が、「株式会社と当該取締役との利益が相反する」ものかどうか。
ここで、「当該取締役」とは、Bを指す(Y社の他の取締役は登場しない)。
そこで、本件売買契約が、Y社とBの利益が相反する取引かどうか。
そのことを考える際にヒントになるのが、前のかっこの例示である。
すなわち、「取締役の債務を保証すること」と同様の利益相反性があるか。
その観点から検討するとよい。
例えば、Y社がBの債務を保証する場合。
この場合、Y社は保証債務の負担を負う反面、Bは担保の利益(信用)を得る。
このことが、「利益が相反する」ことを意味している。
では、本件売買契約は、そのような要素があるか。
本件売買契約で、Y社は代金債務を負い、X社が本件生地の引渡義務を負う。
Bは、法律上何らの権利も、利益も受けない。
だとすれば、例示された保証のような要素は、ないということになる。
このことから、3号該当性もない。
そう判断してよいだろう。
以上のように丁寧に考えれば、「ABが旧知の友人だから利益相反性がある」。
あるいは、「本件生地は多額で、Y社が買い取るとX社は助かるから利益相反性がある」。
などとして安易に利益相反を認めてしまうことには、ならないはずである。
X社の利益から利益相反性を基礎付けることは、一応不可能ではない。
ただ、その場合は、X社の利益が保証のケースと同程度に取締役Bの利益に直結する。
そのことを、説明する必要があるだろう。
例えば、BがX社の全株式を保有していたとする。
その場合は、X社の利益はBの利益と同視できる。
従って、利益相反性を肯定できるだろう。
しかし本問では、そのような事情は見当たらない。

無難に人的抗弁の切断を書けばよかった

設問2は、手形法からの出題である。
新司法試験では、論文で手形が問われたことはない。
そのため、旧試験の受験経験がない人は、手形はお手あげという感じだったかもしれない。
その意味では、旧試験組に有利だったといえる。
とはいえ、旧試験組でも、手形は忘れてしまっていた、という人も多かったのではないか。

本問は、ある程度手形を勉強していれば、論点自体は易しい。
特に、設問1が、大きなヒントになっている。
設問1は、本件売買契約の効力及び解除が問われた。
これらは、いずれも手形の原因関係上の抗弁となるものである。
だとすれば、人的抗弁の切断、すなわち河本フォーミュラを書けばいいのだろう。
そのように決め打ちすれば、無難に上位を取ることができた。
河本フォーミュラを書いて当てはめていれば、ここはA評価になっている。

ただ、実際には、その他の論点もある。
仮に設問1で利益相反を肯定する場合、手形振出しも無効となる余地が生じる。
利益相反と手形振出しは典型論点(最大判昭46・10・13)だから、書きたい。
しかし、普通は利益相反を否定するから、この論点は出てこない。

他方、多額の借財の問題は生じるだろう。
手形振出しは、「借財」に当たるか。
利益相反と同様、原因関係と別個に、より一層厳格な支払義務を負うことを強調すれば、当たるということになる。
その上で、Aの悪意ないし有過失により無効と考えた場合、これは物的抗弁か、人的抗弁か。
これは、色々な考え方があり得る。
振出しが無効と考えると、物的抗弁になるとするのが自然である。
交付欠缺と同じに考えるということである。
この場合は、権利外観理論で処理することになる。
また、直接の相手方以外の所持人との関係では、人的抗弁になるという考え方もある。
手形面上明らかにならない瑕疵は、当事者間しかわからない。
だから、人的抗弁になるという発想である。
判例は、これに近い考え方である(最判昭44・4・3)。
二段階創造説からは、まず、Y社の債務負担を検討する。
Bは一応代表権を有するとして、取締役会決議を欠いても、Y社の債務負担は肯定するのが普通である。
(会社法上の代表権制限は、債務負担行為に適用されない、と考えてもよい。)
他方で、X社への振出(権利移転)には取締役会決議欠缺の無効が及ぶ(有因論)。
すなわち、権利不移転ということになる。
結果として、Zは善意取得で保護される。
ただ、ここは長々論じる余裕がない。
自説の立場から、簡単に結論だけ書けばよいだろう。

【参考答案】

第1.設問1

1.本件売買契約の効力

(1)利益相反該当性

 Bは、X社の取締役でもあるが、X社を代表してY社と取引したわけではないから、356条1項2号には当たらない。
 また、本件売買契約によってBには法律上何らの権利利益も発生しない以上、同項3号の取引にも該当しない。
 以上から、本件売買契約は、Y社からみて利益相反取引には該当しない。

(2)重要な財産の譲受け

ア.会社法362条4項1号該当性

 本件生地の代金はY社の直近数年の平均的な年間売上高に相当し、過剰在庫のリスクを負う。従って、本件売買契約は、取締役会決議の必要な経営上の重要性を有するから「重要な財産の譲受け」に当たる。

イ.取締役会決議を欠く場合の効力

 AはBと旧知の友人であり、BはX社の取締役でもあることからすれば、相手方X社を代表するAにおいて、Y社の取締役会決議の有無を問い合わせることは容易であったから、その欠缺を知ることができた。
 よって、本件売買契約は、無効である(民法93条ただし書類推適用)。

2.本件売買契約の解除

(1)商人間売買による解除の制限

 X社・Y社は、いずれも商人である(会社法5条、商法4条1項)。従って、買主であるY社は商法526条1項の検査及び通知の義務を負う。そこで、同条2項によって解除が制限されるかを検討する。

(2)商法526条2項の検討

ア.Y社が受領の際に行った検査についてみると、詳細な検査は一部のみで、その余は外観上の検査にとどまっている。しかし、大量の物品の全てに詳細な検査をするには過大なコストがかかる。商取引の迅速性を図る同条の趣旨からすれば、同条1項の検査は、上記の程度で足りる。
 また、本件生地の染色の不具合は数回洗濯して初めて生じるもので、外観上判別できないのみならず、一部の抜取りの際には不具合のない生地が選別される場合もあることからすれば、上記検査では直ちに発見できない瑕疵(同条2項)であったといえる。

イ.そして、本件売買契約(平成23年9月1日)から6か月以内である平成24年2月に瑕疵を発見したY社は、直ちにX社に通知の上、解除している。
 よって、X社は、商法526条により解除を制限されることはない。

第2.設問2

1.本件手形の有効性

(1)会社法362条4項2号該当性

ア.手形の振出しは原因関係とは別個の一層厳格な債務負担であるから、「借財」に当たる。

イ.手形金額1億円はY社の直近数年の平均的な年間売上高に相当するもので、同号の会社財産保護の趣旨から「多額」である。

(2)取締役会決議を欠く場合の効力

ア.AはY社取締役会決議欠缺を知ることができた(前記第1の1(2)イ)から、本件手形の振出しは無効である(民法93条ただし書類推適用)。そうすると、Zは、X社から無効な手形の裏書を受けても、手形上の権利を取得できないとも思える。

イ.しかし、本件手形は有効に振り出された外観を有する。取締役会決議欠缺はX社の内部手続の瑕疵であり、その意味でX社に本件手形の流通について帰責性がある。また、Zにおいて、手形振出しにつきY社取締役会決議欠缺につき悪意又は重過失であったことをうかがわせる事実はない。よって、Zは本件手形の券面記載どおりの権利を取得する(権利外観理論、手形法10条参照)。

2.原因関係上の抗弁

(1)Y社は、本件売買契約の無効(前記第1の1(2))又は解除(前記第1の2)を主張して支払いを拒めるか。

(2)本件売買契約は、本件手形の原因関係である。従って、その無効及び解除は人的抗弁である。

(3)Zは、手形取得時において本件売買契約の支払いのための振出しであることを知っていたに過ぎず、Y社の取締役会決議欠缺及び本件生地の染色の不具合につき知っていたと認めるべき事実はない。従って、Y社が満期において本件売買契約の無効又は解除を主張して支払いを拒むことが確実であるとの認識はないから、「害スルコトヲ知リテ」(手形法77条、17条ただし書)本件手形を取得したとはいえない。
 よって、Y社は、Zに対して売買契約の無効又は解除を主張して支払いを拒むことはできない(手形法77条、17条本文)。

以上

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