平成24年司法試験予備試験論文式民訴法
出題趣旨検討と参考答案

問題文及び出題趣旨は、こちら

民訴は単発論点、論理型

民訴法は、単発論点、論理型だった。
民訴は、旧試験、新試験を通して、論理を問う傾向が強い。
本問も、その傾向どおりだったということができる。

今年の民事は、民法と民訴が単発論点、論理型。
商法が、多論点、事例処理型だった。
前者は、論理的思考力、分析力が問われる。
だから、論理を丁寧に示す。
後者は、論点を拾い、正確に処理することを要する。
だから、要点を簡潔かつ正確に示す。
このことは、出題趣旨を比較して読むと、わかりやすい。

(出題趣旨より引用、下線は筆者)

【民法】

 本問は,民法の財産法と家族法の基本的な制度について,正確な理解と応用能力とを問うものである。まず,設問1は,人的担保である保証に認められる検索の抗弁(民法第453条)と事前求償権(民法第460条)が,物的担保である物上保証にも認められるかについて,保証と物上保証との異同に着目しつつ保証についての規定の類推適用の可能性を検討すること等を通じて,法的知識の正確性と論理的思考力を試すものである。また,設問2は,遺留分減殺請求権に関して,基本的な理解とそれに基づく事案分析能力を試すものである。

【商法】

 本問は,取締役会設置会社における利益相反取引及び重要な業務執行,商人間の売買契約における検査・通知義務並びに約束手形における人的抗弁の切断に関する基本的な知識・理解等を問うものである。解答に際しては,@会社法第356条第1項第2号(会社法第365条第1項)の利益相反取引の該当性及び取締役会の承認を受けない利益相反取引の効力,A会社法第362条第4項の取締役会による決定を要する場合の該当性及びこの場合において代表取締役がその決定を経ないで業務執行をしたときの効果,B商法第526条の適用要件,C手形法第17条ただし書(手形法第77条第1項第1号)の「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ」の意義について,正しく論述することが求められる。

【民訴法】

 設問1は,既判力の作用等に関する理解を問うものであり,金銭債権の数量的一部請求についての判決確定後に残部請求がされた事例を取り上げることにより,明示された一部請求部分を前訴の訴訟物とする判例の考え方を踏まえ,既判力が生ずる範囲とその作用の仕方等に関する正確な理解や,それに基づく分析能力,論理的思考能力を試すものである。設問2は,民事訴訟における相殺の抗弁の特殊性に関する理解を前提に,その特殊性が裁判所の判断の仕方にどのような影響を与えるかを問うものである。

(引用終わり)

民法と民訴は、論理的思考力、分析能力という語が使われている。
他方、商法にそのような語はなく、論点を列挙して「正しく論述」とされるに過ぎない。
考査委員のこの要求の違いに、問題文を見た瞬間に気付くことが必要である。
論理型と事務処理型は、頭の使い方が違う。
どちらか区別しないままに、漫然と構成に入ると、ピントのずれた答案になりやすい。
特に、予備校答練では、その辺りの区別を理解しないまま作問されることが多い。
そのため、答練では優秀者なのに、本試験で合格できない、ということが起こる。
答練は、本試験との違いを把握した上で利用しないと、逆効果になることもある。
注意したい。

信義則や争点効の出番はない

設問1は、先決関係となる場合の後訴への作用の仕方を問うものである。
明示的一部請求説に立つ場合、第1訴訟と第2訴訟の訴訟物は異なる。
しかし、だからといって、既判力が作用しないわけではない。
既判力は、前訴訴訟物に対する確定判決の判断についての後訴への拘束力である。
従って、前訴訴訟物に対する判断内容が後訴で問題になる場合は、当然作用する。

上記場合としては、通常2つに分けて説明される。
一つは、矛盾関係である。
例えば、XがYに、Xの甲土地所有権確認の訴えをなし、勝訴したとする。
その後に、YがXに、Yの甲土地所有権確認の訴えをした、という場合である。
この場合、一物一権主義から、両訴の訴訟物は法律上両立し得ない。
そのため、既判力が作用する、と説明される。

もう一つは、先決関係である。
例えば、XがYに、Xの甲土地所有権確認の訴えをなし、勝訴したとする。
その後に、XがYに、所有権に基づく甲土地明渡訴訟を提起する場合である。
この場合、前訴の結果が、後訴の判断の論理的前提をなしている。
そのため、既判力が作用する、と説明される。

もっとも、両者の間に本質的な違いがあるわけではない。
単に、前訴の訴訟物に対する判断で確定したもの。
それと、矛盾する判断ができない、というだけである。
上記のどちらの例も、単にXが前訴基準時に甲土地を所有していた。
その事実が、動かせなくなる、というに過ぎない。
先の例では、いずれも、Yは前訴基準時後の事情を主張して争える。
この点に、違いはない。
ただそのことの意味が、後訴の訴訟物との関係で異なるというだけである。
とはいえ、一般には上記のように分けて説明される。
答案でも、その整理に沿って書くべきだろう。

さて、本問では、どうか。
第1訴訟と第2訴訟の訴訟物を比較してみる。
第1訴訟の訴訟物に対する判断は、本件売買契約に基づく代金400万円のうち150万円の支払請求権の存在である。
他方、第2訴訟の訴訟物は、本件売買契約に基づく代金400万円のうち250万円の支払請求権の存否ということになる。
本件売買契約に基づく代金400万円のうち150万円の支払請求権が存在した。
さらに、本件売買契約に基づく代金400万円のうち250万円の支払請求権が存在する。
これは、あり得ることである。
両者が両立することは、明らかだ。
従って、矛盾関係にはない。
他方、後訴では、本件売買契約に基づく代金400万円のうち150万円の支払請求権の存在は、もはや争えない。
すなわち、本件売買契約に基づく代金400万円のうち150万円の支払請求権が存在することを前提に、残部があるかが判断される。
従って、先決関係にある、ということになる。

これについては、疑問に思うかもしれない。
判例は、明示的一部請求の場合は既判力が及ばないと言っていたのではないか。
確かに、判例は以下のように言っている。

最判昭37・8・10より引用、下線は筆者)

 一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合は、訴訟物となるのは右債権の一部の存否のみであつて、全部の存否ではなく、従つて右一部の請求についての確定判決の既判力は残部の請求に及ばないと解するのが相当である。

(引用終わり)

しかし、上記判例が言っているのは、残部請求が遮断されない、ということである。
「残部の請求に及ばない」とは、そういう意味である。
従って、残部を請求する後訴に、前訴の既判力が全く作用しない。
すなわち、前訴の主文と矛盾する判断を後訴がやって構わない、という意味ではない。

設問1は、このことだけで、勝負がつく。
Yの主張@は、本件売買契約の成立自体を否定する主張である。
本件売買契約の成立が否定されれば、150万円の支払請求権は、存在しようがない。
従って、第1訴訟の訴訟物に対する判断内容と矛盾する。
だとすれば、そのような主張は許されないということになる。

※疑問を感じる人がいるかもしれない。
契約の成立は、判決理由中の前提問題に過ぎないのではないか。
例えば、土地明渡訴訟の認容判決の既判力は、所有権の帰属に及ばない。
それは、所有権の帰属が、判決理由中の前提問題に過ぎないからである。
これと、同じなのではないか。
そういう疑問である。
しかし、物権的請求権の存否と、所有権の帰属は、一応別個の問題である。
すなわち、物権的請求権の存在が、所有権の帰属と常にイコールの関係にはない。
(対抗問題や共有が絡む場合や、物権変動的登記請求のような場合を考えるとよい。)
これに対し、売買代金支払請求権は、当該売買契約が成立しないとおよそ発生し得ない。
従って、売買代金支払請求権の存在は、常に必ず当該売買契約の成立を意味する。
すなわち、売買代金支払請求権の存在は、イコール当該売買契約の成立ということになる。
土地明渡と所有権の帰属の例と対応するのは、売買代金支払請求権の存在と買主・売主が誰かという問題である。
XのYに対する売買代金支払請求が認容されても、Xが売主であることには既判力は及ばない。
そういうことである。

もう一つの疑問として、請求棄却の場合との比較を考えた人もいるかもしれない。
売買契約に基づく代金支払請求が契約不成立で棄却されても、契約不成立の点に既判力は及ばない。
これと比較して、不整合ではないか、という疑問である。
しかし、代金支払請求が棄却される場合は、契約不成立だけではない。
契約の無効や弁済の場合も、代金支払請求は棄却され得る。
だから、裁判所は、契約不成立、契約の無効、弁済のいずれかを認定できれば、すぐ判決してよい。
すなわち、契約成立が判断できなくても、弁済が認定できれば、それで棄却してよい。
その代わり、契約の成立、有効性や弁済の事実には既判力は及ばない。
従って、買主側は、契約不成立や錯誤無効等を後訴で主張できる。
しかしながら、請求認容の場合は、契約成立以外の可能性はおよそ存在しない。
前記のとおり、契約が成立していないのに、なぜか当該契約に基づく代金支払請求権が存在している。
そんなことは、およそあり得ない。
ここに、請求棄却の場合との大きな違いがある。
敗訴後の残部請求が既判力で遮断されず、信義則で処理される(最判平10・6・12)のは、そのためである。
しかし両者を混同して、「一部請求後の残部請求は全部信義則」と思い込んでいた人が多かったようである。

主張Aは、要は反対債権で相殺できるか、ということである。
これは、できるに決まっている。
別個の訴訟物ということを理解していれば、当然の帰結である。
ここで、250万円を超える部分について、前訴既判力と抵触するのではないか。
そう心配した人も、いたかもしれない。
確かに本問では、相殺適状時が第1訴訟の基準時前である。

(問題文より引用、下線は筆者)

 受訴裁判所は,平成23年1月13日に口頭弁論を終結し,同年3月3日にXの請求を全部認容する判決をしたところ,同判決は同月17日の経過をもって確定した。

 (中略)

〔設問1〕

 裁判官Aと司法修習生Bの会話を踏まえ,第2訴訟において,Yは,次のような主張をすることが許されるか検討しなさい。

@ Xから本件機械を買ったのはYではなく,Zであるとの主張

A 本件機械には隠れた瑕疵があり,その修理費用として平成22年10月10日に300万円を支払ったことにより,これと同額の損害を受けたので,瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権と対当額で相殺するとの主張

(引用終わり)

そのため、相殺の遡及効(民法506条2項)で、第1訴訟の基準時の金額と抵触する。
すなわち、第1訴訟の時点で残額が100万円だけだったことにならないか。
だとすれば、150万円存在するという第1訴訟の既判力と抵触する。
そういう心配である。
しかし、それは杞憂だ。
なぜなら、訴訟上の相殺は、訴訟物と対抗する範囲でしか考慮されないからである。

(民訴法114条2項)

 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。

本問では、第2訴訟の訴訟物である250万円の部分に対して相殺を対抗している。
従って、超過部分50万円が遡って第1訴訟に作用するということは、あり得ない。
(後記のとおり、第1訴訟の確定判決で執行してきた際に、残る50万円の相殺を対抗できるかは、時的限界の問題となる。)

また、一部請求と相殺に関しては、内側説、外側説、按分説の対立がある。
しかし、それは残部請求で相殺した場合には、問題にならない。
残部請求では、対抗しうる部分が、当該残部しかないからである。
(既に150万円は確定済みで、250万円よりさらに外側はもはや存在しない。)
上記対立は、本問でいえば第1訴訟で相殺した場合の問題だ。
従って、本問でこれを論点として書いても、無意味である。

さらに、いわゆる相殺と時的限界の問題も生じない。
時的限界との関係は、確定した部分を後から相殺で争う場面である。
本問では、第2訴訟はまだ確定していない。
だから、第2訴訟で相殺を主張するのは、できて当たり前だ。
本問で時的限界を論ずる必要があるのは、第1訴訟の確定判決を執行された場合。
その場合に、相殺を請求異議事由とできるか、という場面である。

以上のように、設問1は、専ら既判力の作用を問う問題である。
すなわち、信義則や争点効の出番はない。
出題趣旨にも、信義則や争点効の話は出てこない。

(出題趣旨より引用、下線は筆者)

 設問1は,既判力の作用等に関する理解を問うものであり,金銭債権の数量的一部請求についての判決確定後に残部請求がされた事例を取り上げることにより,明示された一部請求部分を前訴の訴訟物とする判例の考え方を踏まえ,既判力が生ずる範囲とその作用の仕方等に関する正確な理解や,それに基づく分析能力,論理的思考能力を試すものである。

(引用終わり)

しかし、ほとんどの人が、信義則をメインで書いたようだ。
また、主張Aでは、相殺と時的限界を大展開した人が、ほとんどだったようである。
特に、第1訴訟の既判力は第2訴訟に作用しないと言いながら、時的限界を論じている答案が多かった。
時的限界とは、基準時前の事由とされれば既判力で遮断される、という問題である。
すなわち、既判力が及んでいる場合にしか、問題になりえない。
既判力が及ばないのに、どうして時的限界が問題になるのか。
論理矛盾である。
これらの答案は、本来、点のつけようがない。
本問の出来は、極めて悪かったといえる。

答えが問題文に書いてある

確かに、本問のようなことは、普段考えない。
だから、なじみのある信義則や、相殺と時的限界を書く。
それも、わからないではない。
しかし、問題文をよく読むべきである。

まず、訴訟物が異なっても既判力が及ぶ場合がある。
だから、それについて検討せよ。
問題文には、そう書いてある。

(問題文より引用、下線は筆者)

裁判官A:そうですね。ところで,先ほどの数量的一部請求の訴訟物に関する判例の考え方を前提とすると,第2訴訟の訴訟物は,第1訴訟の訴訟物とは異なることになりますが,訴訟物が異なるという理由だけで,第2訴訟において,第1訴訟の確定判決の既判力が及ぶことはないと言い切れますか。例えば,第2訴訟において,裁判所は,第1訴訟の確定判決で認められた売買代金債権の発生そのものを否定する判断をすることもできるのでしょうか。

修習生B:前訴と後訴の訴訟物が異なる場合でも,前訴の確定判決の既判力が後訴に及ぶ場合はあったと思いますが,どのような場合がこれに当たるかについては,正確には覚えていません。

裁判官A:そうですか。それでは,第1訴訟と第2訴訟とで訴訟物が異なるにもかかわらず,第1訴訟の確定判決の既判力が第2訴訟にも及ぶことがあるのかどうか,さらには,それを踏まえ,第2訴訟において,Yは,どのような主張をすることが許されるか考えてみましょう

(引用終わり)

それなのに、「訴訟物が異なるから第2訴訟に既判力は及ばない」という答案が多かった。
これは、問題文の誘導を無視している。

また、代金債権の発生自体の否定は既判力と抵触すると書いてくれ。
問題文のニュアンスから、これも読み取るべきだった。

(問題文より引用、下線及びかっこ書追加部分は筆者)

裁判官A:そうですね。ところで,先ほどの数量的一部請求の訴訟物に関する判例の考え方を前提とすると,第2訴訟の訴訟物は,第1訴訟の訴訟物とは異なることになりますが,訴訟物が異なるという理由だけで,第2訴訟において,第1訴訟の確定判決の既判力が及ぶことはないと言い切れますか。例えば,第2訴訟において,裁判所は,第1訴訟の確定判決で認められた売買代金債権の発生そのものを否定する判断をすることもできるのでしょうか(できるわけないですよね)

(引用終わり)

前後の文脈から、信義則ではなく、既判力で切れ、と言っている。
そして、その代金債権発生自体を否定する主張とは、何か。
これも、問題文に書いてある。

(問題文より引用、下線は筆者)

 Yは,本件売買契約の成立を否認し,Xから本件機械を買ったのは売買契約締結の際にYとともに同席していた息子のZであると主張した

 (中略)

〔設問1〕

 裁判官Aと司法修習生Bの会話を踏まえ,第2訴訟において,Yは,次のような主張をすることが許されるか検討しなさい。

@ Xから本件機械を買ったのはYではなく,Zであるとの主張

(引用終わり)

これを読み合わせれば、@が契約成立を否定する主張だとわかる。
(代理構成などは、訊いていない。)
成立を否定すれば、代金債権は発生しない。
すなわち、@を既判力で切れ、と問題文が言っている。
それに沿って、答案を構成すれば足りた。

新司法試験でも、この種の誘導は多い。
特に、行政法と民訴法で、顕著である。
新試験では、受験生もそれがわかっている。
そのため、誘導に乗らないと、それだけで評価を落とす。
本問の場合、ほとんどの人が誘導を無視した。
そのため、致命傷にはなっていない。
むしろ、信義則で書いても、A評価になっている。
しかし、今後は、気をつけるべきことである。

配点に気をつける

設問2は、ほとんどの人が、問題点には気付いていた。
要は、弁済分を先に充当しないと、Yが損をする、という話である。
ただ、ここはあまり書きすぎてもいけない。
3割しか、配点がないからである。

(問題文より引用)

[民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,7:3)

(引用終わり)

旧司法試験の時代には、配点を明示することはなかった。
しかし、新試験では、時折配点が明示される。
予備試験でも、同様である。
うっかりすると見落としてしまうので、最初に確認して印をつけるようにしておくとよいだろう。

再現答案分析の際の注意

前記のとおり、本問は、全体の出来がとても悪かった。
全体の出来が極端に悪いと、素点では差が付かない。
しかし、得点調整(採点格差調整)で、強引に得点差が付けられる。
その結果、ささいなことが、大きな差となってしまう。
司法試験得点調整の検討31ページ、図表14参照)
そのため、今回の再現答案は、合理的に成績と内容を説明するのが難しい。
はっきりしているのは、設問1で先決関係、矛盾関係を挙げているか。
すなわち、前記誘導に最初だけでも乗ったかどうか、という点である。
また、明示的一部請求肯定説を延々と論証するようなものは、はっきり評価を下げる。
ただ、それ以上に、何を書けば上位になるか、という目でみても、なかなか共通点は見出せないだろう。
あるいは、間違ったことを書いても、むしろ上位になるようにすらみえる。
赤信号、みんなで渡って、A評価。
そういう現象が、生じている。
確かに、現場で考えて全くわからない。
そういう場合の対策として、みんなが書きそうなものを書いておく。
本問の場合は、結果的にそれでもよかった。
しかし、いつもそうなる、というわけではない。
試験現場では、他の人も赤信号を渡っているのか。
それは、はっきりとはわからない。
自分だけ赤信号を渡り、無残に轢かれてしまった。
これは、避けるべきことである。
本問の場合、問題文にはっきりしたヒントがあった。
ほとんどの人がそれを拾えなかったのは、不思議な感じもする。
これが予備ではなく、司法試験であったなら、拾った人もそれなりにいたはずである。
今回、ほとんどの人が無視したからといって、いつもヒントは無視してよい。
そういう態度は、危険である。

【参考答案】

第1.設問1

1.既判力は確定判決の有する後訴への通用力であり、主文に包含される事項に生じる(114条1項)。主文は、訴訟物に対する判断であるから、既判力は訴訟物に対する判断内容について生じる。
 従って、第1訴訟と第2訴訟とで訴訟物が異なるにもかかわらず、第1訴訟の確定判決の既判力が第2訴訟にも及ぶのは、第1訴訟の訴訟物に対する判断が、第2訴訟の訴訟物と法律上両立しない関係(矛盾関係)又は第2訴訟の訴訟物の判断の論理的前提となる関係(先決関係)にある場合である。

2.本問における検討

(1)本問で、第1訴訟の訴訟物は、本件売買契約に基づく代金400万円中150万円の支払請求権である。他方、第2訴訟の訴訟物は、本件売買契約に基づく代金400万円中250万円の支払請求権である。
 両訴訟物は法律上両立するから、矛盾関係にはない。
 他方、第2訴訟では、少なくとも本件売買契約に基づく150万円の代金支払請求権が存在することを論理的前提として、残部の250万円が存在するかを判断することになるから、第1訴訟の訴訟物に対する判断と先決関係にある。従って、第1訴訟の既判力は、少なくとも本件売買契約に基づく150万円の代金支払請求権が存在することと矛盾した判断が許されないという限度で、第2訴訟に及ぶ。

(2)Yの各主張について

ア.Yの主張@は、第1訴訟における本件売買契約成立の否認理由とされていることから、第2訴訟においても本件売買契約の成立を否定する趣旨のものと解される。
 一般に、売買契約が成立しなければ、当該契約に基づく売買代金支払請求権はおよそ存在し得ない。従って、訴訟物である売買代金支払請求権の存在を認める判断には、売買契約の成立も含まれている。
 従って、主張@は、本件売買契約に基づく150万円の代金支払請求権が存在するという第1訴訟の既判力と抵触するから、主張自体失当なものとして排斥される。
 よって、Yは、@の主張をすることは許されない。

イ.では、主張Aはどうか。確かに、相殺の効果は相殺適状時である平成22年10月10日に遡る(民法506条2項)。従って、主張Aは、第1訴訟の基準時である口頭弁論終結時(民事執行法35条2項)、すなわち平成23年1月13日より前の事情であると理解しうる。しかし、主張Aは、第2訴訟の訴訟物の額である250万円について相殺を対抗するにとどまる(114条2項)。そうすると、第1訴訟の訴訟物である150万円の代金支払請求権の存否には影響し得ないから、第1訴訟の既判力との抵触を論じる余地はない。
 よって、Yは、Aの主張をすることは許される。

第2.設問2

1.Yの主張がいずれも認められる以上、裁判所はXの請求を棄却すればよい。もっとも、弁済額と相殺に供した反対債権の額が訴求額の400万円を超えることから、その充当関係の取扱いが問題となる。

2.確かに、上記充当関係は請求棄却の結論に影響しないから、裁判所は上記充当関係を考慮する必要がないとも思える。
 しかし、弁済の事実は主文に包含されないから既判力は及ばないのに対し、相殺については、対抗した額につき判決理由中の判断に既判力が生じる(114条2項)。仮に、反対債権全額の300万円を相殺に供すると、その消滅を争えないだけでなく、180万円のうち非債弁済となる80万円を後訴で訴求する場合、その支払いの事実を再度立証しなければならない。従って、Yの主張を合理的に解釈すれば、両主張が認められる場合には、相殺で対抗する額は220万円であるということになる。裁判所としては、上記の点に疑義が生じることのないよう配慮する必要がある。

3.以上から、裁判所は、請求棄却判決をするに当たり、判決理由中の判断において、相殺をもって対抗した額が220万円であることを明示すべき点に留意すべきである。

以上

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