平成24年司法試験予備試験論文式刑法
出題趣旨検討と参考答案

問題文及び出題趣旨は、こちら

多論点、事例処理一部論理混在型

刑法は、長文の事例問題だった。
このような問題は、多論点、事例処理型の問題であることが多い。
予備校答練も、このような問題がほとんどだ。
その意味では、答練慣れしている人は、解き易いと感じたはずである。
逆に、演習不足の初学者は、かなりの難問と感じたのではないか。

本問は、基本的には多論点型のアプローチで問題ない。
すなわち、個々の論述を極端にコンパクト化し、なるべく論点を拾う。
特に予備では、解答用紙が4ページしかない。
油断すると、すぐ紙幅切れになってしまう。
(予備校の解答例は、答案用紙に手書きで書くと、とても収まらないことが多い。)
個々の論証の厚みは度外視して、事例処理に徹することになる。
ただ、注意すべきポイントがある。
それは、一部事例処理における論理性が問われている点である。
出題趣旨には、そのことが明示されている。

(出題趣旨より引用、下線は筆者)

 本問は,甲,乙及び丙が,故意に人身事故を発生させ,保険金をだまし取ろうと企てたが,丙は,犯罪に関与することを恐れて実行行為に参加せず,甲,乙が故意に人身事故を惹起して,乙及び通行人Aに傷害結果を生じさせ,乙の慰謝料及び休業損害について保険金請求を行ったものの保険金は支払われなかったという事案を素材として,事案を的確に分析する能力を問うとともに,被害者の承諾,方法の錯誤,共謀の意義,共犯関係からの離脱,傷害罪における「人」の意義等に関する基本的理解とその事例への当てはめが論理的一貫性を保って行われているかを問うものである。

(引用終わり)

論点が列挙され、最後に「論理的一貫性」という語が来る。
刑法では、これは比較的よくある。
「論理的整合性」や「整合的に論述」などという言い回しも、よく使われる。
いずれも、大体同じ意味である。
論理を問うポイントで矛盾を犯すと、大きな減点となりやすい。
事例処理型は、個々の論点処理に追われがちだ。
知らず知らずのうちに、論理矛盾を犯してしまいやすい。
この点は、書き出す前に、構成段階でチェックすべきである。
もっとも、本問では、結果的にあまり評価に影響がなかったようだ。
(詳細は後述する。)

それから、平成23年に引き続き、総論と各論の両方が出題された。
各論は論点が少なく、総論メインという点も、平成23年と同様である。
旧試験では2問出せたが、予備だと1問しか出題できないので、こうなるのだろう。
このことは、本問がかなりの長文になっていることの一因にもなっている。
今後も、この傾向は続きそうである。

同意傷害と共犯なき正犯の処理

甲の罪責では、まず乙に追突してケガをさせた点。
これにつき、同意傷害を論じることになる。
ここは、有名な判例(最決昭55・11・13)がある。
保険金詐取目的という点まで、類似している。
従って、この論点は、ほとんどの人が拾ってくる。
落とせない論点、ということになる。

上記判例は、考慮要素を複数挙げている。

最決昭55・11・13より引用、下線は筆者)

 被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものであるが、本件のように、過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的をもつて、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせたばあいには、右承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであつて、これによつて当該傷害行為の違法性を阻却するものではない。

(引用終わり)

しかし、こんなものを挙げて当てはめる余裕はない。
端的な理由を挙げて、簡単に処理すべきである。

理由付け自体は、それほど気を遣わなくてよい。
例えば、「社会的相当性を欠くから」くらいでも、十分である。
これは、学説上あいまいだと批判される理由付けであるが、減点されることはない。
また、同意により法益が消滅するのか、要保護性がなくなるのか。
通常、前者であれば構成要件に該当せず、後者なら違法性阻却である。
従って、「同意により法益が消滅するから、違法性が阻却される」とする答案。
あるいは、「同意により要保護性を欠くから、構成要件に該当しない」とする答案。
これらは、厳密には問題がある。
しかし、こういうところでも、減点されることはないだろう。

ただ、乙の罪責との関係で、少し注意すべきポイントがある。
本問で、甲に傷害罪が成立する場合、乙に共同正犯の成否が問題となる。
一般に、自分で自分を傷害しても、自傷行為で不可罰である。
しかし本問では、甲に傷害の違法(不法)を生じさせた点で、共同正犯たりうるのではないか。
すなわち、共犯なき正犯の問題を論じる必要が出てくる。
他方、甲の傷害罪を否定する場合は、どうか。
この場合は、正犯不法も共犯不法もない。
すなわち、共犯なき正犯の論点は、生じない。
乙は、共同正犯になりようがない。
従って、この場合に正犯なき共犯を論じると、評価を落としやすい。
こういうところは、予備校では、逆に論点を書いたという理由で、加点されたりする。
全く逆の結果になるところなので、注意したい。
とはいえ実際には、ここは評価にほとんど影響しなかった。
なぜなら、ほとんどの人が、そもそも共犯なき正犯の論点に気付かなかったからである。

共犯なき正犯については、因果的共犯論(惹起説)内部の対立がある。
純粋惹起と混合惹起なら、乙の共同正犯は否定。
修正惹起なら、乙に共同正犯が成立し得ることになる。
ただ、ここで惹起説内部の議論をする必要はない。
惹起説から素直に考えれば、共犯なき正犯は肯定。
(共犯を否定するということは、「共犯なき」を肯定することを意味する。)
本問で言えば、乙の共同正犯は否定するのが素直である。
惹起説とは、共犯は正犯を介して自ら違法な結果を生じさせる、という考え方だからである。
惹起説の上記本質論からすれば、共犯にとって違法でない場合は、共犯は成立しない。
修正惹起説は、この点を修正するからこそ、「修正」惹起説なのである。
(なお、混合惹起説が正犯不法をも要求するのは、飽くまで処罰の限定要素としてである。)
そうである以上、惹起説の基本的な考え方を示して、簡単に結論を出せば足りる。
わざわざ、純粋惹起か、修正惹起か、混合惹起か。
そういったことを、論じるべきでない。
(そもそも、本問ではそのような紙幅の余裕もない。)

「人」の意義と法定的符合説

予想外にAを負傷させた点は、誰もが方法の錯誤を思いつく。
これも、絶対落とせない論点である。
ただ、ここには、注意すべき論理のワナがある。

多くの人は、錯誤について法定的符合説に立つだろう。
傷害罪という同一構成要件内の錯誤だから、故意は認められる。
第一感は、これで簡単だ、という感じである。

しかし、乙の同意の効果を、構成要件該当性の否定と考えたとする。
その場合、甲は傷害罪の構成要件該当性の認識がない。
だとすると、法定的符合説からは、Aに対する故意も、認め得ないことになる。

※実は、同意を違法性阻却と考えても、微妙な問題が残る。
法定的符合説を採った上で、制限故意説を採る人は、今でも多いだろう。
制限故意説は、違法性阻却事由の錯誤も事実の錯誤とみる。
違法性阻却事由を認識していれば、規範に直面していない、と考えるわけである。
本問の甲は、どうか。
乙の同意という違法性阻却事由を認識している。
だから、甲は規範に直面していない。
法定的符合説は、同一規範に直面したことを根拠にする。
そうすると、制限故意説からは、上記を違法性阻却の範囲にまで拡張させなければ、厳密には筋が通らない。
(消極的構成要件の理論からは、これは当然の帰結となる。)
本問では、甲のAに対する故意は、否定するのが筋である。
理論的に詰めれば、そういうことになる。
ただ、法定的符合説、制限故意説を採る人は、本問では違法性阻却を認めないだろう。
保険金詐取目的の同意の違法性阻却を否定する説を採ることが、多いからである。
そうなると、やはり甲は当初から規範に直面していたことになる。
そのため結果的には、ここはさほど問題にはならなかった。

また、乙の罪責との関係では、さらに気付きにくいワナがある。
乙にとって、当初の認識は、甲を介して自分で自分を傷害するという認識。
すなわち、自傷行為の認識である。
自傷行為が不可罰なのは、どうしてか。
一般には、傷害罪にいう「人」とは自分以外の者をさす。
従って、自分自身は「人」に当たらないからだ、と説明されている。

(刑法204条)

 の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

およそ「人」の傷害を認識した以上、結果的に「人」を傷害すれば故意を阻却しない。
これは、よく法定的符合説で用いられる言い回しである。
ところが、乙は、当初「人」を傷害する認識がなかった。
これでは、Aに対する故意は、認められない。

上記の点に気付くことなく、簡単にAへの故意を認めれば、評価を落としやすい。
出題趣旨で、傷害罪における「人」の意義が挙がっているのは、上記の意味である。

(出題趣旨より引用、下線は筆者)

 本問は,甲,乙及び丙が,故意に人身事故を発生させ,保険金をだまし取ろうと企てたが,丙は,犯罪に関与することを恐れて実行行為に参加せず,甲,乙が故意に人身事故を惹起して,乙及び通行人Aに傷害結果を生じさせ,乙の慰謝料及び休業損害について保険金請求を行ったものの保険金は支払われなかったという事案を素材として,事案を的確に分析する能力を問うとともに,被害者の承諾,方法の錯誤,共謀の意義,共犯関係からの離脱,傷害罪における「人」の意義等に関する基本的理解とその事例への当てはめが論理的一貫性を保って行われているかを問うものである。

(引用終わり)

出題趣旨に挙がっているのは、「人」の意義が重要な解釈論だからではない。
本問では、錯誤との関係で論理上意味を持ちうるからである。
ただ、この論理性は、気付きにくい。
考査委員も、ここで大減点するのは、酷と感じたのだろう。
引っかかっても、そこまで減点にはなっていないようだ。
他の論点がきちんと拾えていれば、引っかかっても上位になっている。
とはいえ、場合によっては、極端な減点事由となることもある。
今後は、気をつけたい。

ここで、具体的符合説を採ると、全く別の問題になる。
甲のAに対する故意は否定され、過失犯が成立することになる。
甲は運転中なので、自動車運転過失致傷ということになるだろう。
そして、乙につき、これとの共同正犯の検討ということになる。
これは、厄介である。
運転者の地位は、身分なのか。
身分であるとすれば、共犯と身分の論点が生じる。
その際、これは構成的身分、加減的身分のどちらなのか。
身分犯でないとして、乙にも自動車運転過失を肯定する余地はあるのか。
これらは、本筋ではなさそうな論点である。
また、過失の共犯を否定するとしても、単独犯の余地がある。
乙は直接追突行為をしていないが、計画に参加し、追突される役割にある。
すなわち、結果予見・回避可能な(かつ予見・回避すべき)地位にあったといいうるからである。
そう考えると、乙の単独過失犯を検討することになる。
ここでも、運転者の地位の身分性が問題となるだろう。
仮に身分犯なら、乙に自動車運転過失致傷の単独犯は成立し得ない。
(Y車を運転したから運転者である、という解釈もあり得るが、苦しいだろう。)
他方、非身分犯なら、乙に自動車運転過失がある限り、同罪は成立しうる。
もっとも、自ら運転していない者に、そもそも自動車運転過失は観念できるのか。
できないと考えるのが、素直なように思われる。
(そう考えるなら、そもそも身分犯と解すべきではあるが。)
仮にできると考えたとして、非運転者の自動車運転過失における予見可能性とは、どの程度なのか。
乙については、どの時点の予見可能性を考えればよいのか。
自動車運転過失を観念できないとしても、通常の過失について上記と同様の問題は生じ得る。
これらのことは、おそらく大して配点はなさそうな、瑣末な論点である。
こういうどうでもいい論点をたくさん抱える構成は、筋が悪い。
仮に具体的符合説を採る場合、上記をうまく端折って書く必要がある。
本問では、具体的符合説からの構成は、難点が多かった。
実際、出題趣旨には、上記具体的符合説からの論点は、一つも挙がっていない。
かえって、具体的符合説からは「人」の意義の論点を落とすことになる。
具体的符合説に対して、考査委員は冷淡だったといえる。

故意を否定すると不都合な場合、具体的符合説には裏技がある。
それは、未必の故意を認めてしまう方法だ。
例えば、本問では交差点の追突を計画する以上、誰かにぶつけるかもしれない。
そう思うのが当然だから、未必の故意がある、という認定をする方法である。
しかし、本問では、それはおよそ採り得ない手段である。

(問題文より引用、下線は筆者)

3 甲及び乙は,事故を偽装することにしていた交差点付近に差し掛かった。乙は,進路前方の信号機の赤色表示に従い,同交差点の停止線の手前にY車を停止させた。甲は,X車を運転してY車の後方から接近し,減速した上,Y車後部にX車前部を衝突させ,当初の計画どおり,乙に加療約2週間を要する頸部捻挫の怪我を負わせた。
 甲及び乙は,乙以外の者に怪我を負わせることを認識していなかったが,当時,路面が凍結していたため,衝突の衝撃により,甲及び乙が予想していたよりも前方にY車が押し出された結果,前記交差点入口に設置された横断歩道上を歩いていたAにY車前部バンパーを接触させ,Aを転倒させた。Aは,転倒の際,右手を路面に強打したために,加療約1か月間を要する右手首骨折の怪我を負った。

(引用終わり)

「認識していなかった」と明示的に書いてある以上、「未必的には認識していた」という認定はできない。
本問で未必の故意を認めれば、評価を落とすだろう。

なお、Aに対する傷害については、因果関係も問題になる。
路面凍結を基礎事情に含むか否か。
一応、この点が問題になるからである。
もっとも、これを触れた人は少なかったようだ。
出題趣旨にも挙がっておらず、触れなくても問題はなかった。

詐欺罪関連

各論部分は、比較的単純だった。
いずれも、詐欺罪が問われている。
医師に大げさに自覚症状を訴えた点は、法益関係的錯誤でないという点。
保険金請求については、詐欺の着手、既遂時期である。
前者は気付きにくく、後者は気付き易い。
他にも、通院が財産上の利益といえるか等の論点はあるが、そこまで書く余裕はない。
ここは保険金請求が詐欺未遂という点だけでも、十分合格レベルという感じだ。
出題趣旨には、各論の論点は、一つも挙がっていない。
やや、各論軽視の傾向といえそうだ。

若干気をつけたいのは、医師に自覚症状を訴える行為は、保険金請求の欺罔とはなり得ない点である。
医師は、保険金について三角詐欺の成立に必要な処分権限を持っていないからだ。
(そもそも、医師は保険金の交付者ではないから、欺罔に基づく交付がないともいえる。)

なお、問題文上診断書の交付を受けた旨記述があれば、その点に係る詐欺罪。
(その場合は、診断書の財物性が問題になるだろう。)
それから、虚偽診断書作成の間接正犯を論じる余地がある。
しかし、本問ではそのような記述はないから、上記を論じる必要はない。

着手前の離脱

丙については、着手前の離脱を書く。
これも、気付くのが容易な、落とせない論点である。
一般に、着手前の離脱は、離脱の意思表示と、他の共犯者の了承が要件とされる。
本問では、離脱の意思表示はあるが、他の共犯者の了承がない。
この点を、どう考えるか。
因果性の切断という点からすれば、了承は必須でないとするのが、一つの筋である。
もう一つは、本問では黙示の了承があったとする筋だろう。
あるいは、離脱を否定して共同正犯を成立させるのも、あり得る筋である。
ただ、その場合は共同正犯の成立する罪についてその後の処理を論じる必要がある。
紙幅の厳しい本問では、ちょっと筋の悪い構成、という感じはする。

類似の判例として、最決平21・6・30がある。
強盗着手前に離脱意思を告げても、共謀関係の解消を認めない。

最決平21・6・30より引用、下線は筆者)

 被告人は,共犯者数名と住居に侵入して強盗に及ぶことを共謀したところ,共犯者の一部が家人の在宅する住居に侵入した後,見張り役の共犯者が既に住居内に侵入していた共犯者に電話で「犯行をやめた方がよい,先に帰る」などと一方的に伝えただけで,被告人において格別それ以後の犯行を防止する措置を講ずることなく待機していた場所から見張り役らと共に離脱したにすぎず,残された共犯者らがそのまま強盗に及んだものと認められる。そうすると,被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり,たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し,残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても,当初の共謀関係が解消したということはできず,その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である。

(引用終わり)

※判例は、講学上の離脱を、「共謀関係の解消」と表現する傾向がある。
「離脱」は、犯行をやめて立ち去る等の事実上の行為を指す語として用いている。
そのため、「被告人が離脱した」と「共謀関係が解消したということはできず」が両立する。

ただ、これは住居侵入後の離脱の事案である。
まだ計画が実行されていない段階の本問とは、直ちに同じには考えられない。
いずれにせよ、ここは判例を引いて当てはめるようなところではない。
基本的な枠組みを踏まえつつ、うまく事案を拾いながら無難に論述すれば足りるだろう。

【参考答案その1】

第1.甲の罪責

1.X車をY車に衝突させた行為について

(1)衝突により乙に怪我をさせた行為は、傷害罪(204条)の構成要件に該当する。当該行為には乙の同意(問題文1第2段落A)がある。しかし、これは保険金詐取目的でされた(問題文1第1段落)から、社会的相当性を欠く。従って、違法性は阻却されない。
 よって、乙に対する傷害罪が成立する。

(2)路面凍結のため、衝突の衝撃でY車が押し出されてAに接触し、Aを転倒させて怪我を負わせた点につき、さらに傷害罪は成立するか。

ア.路面の凍結は少なくとも一般人に認識可能である。凍結した路面において信号待ちの車両に追突すれば追突された車両が押し出されて歩行者に接触し、負傷させることは社会通念上相当であるから、因果関係がある(折衷的相当因果関係説)。

イ.また、甲は、乙すなわち「人」を傷害するなという規範に直面してこれを踏み越えた以上、「人」であるAの傷害結果につき非難可能であるから、故意は認められる(法定的符合説)。

ウ.よって、Aに対する傷害罪が成立する。

2.保険金支払請求について

 真実は保険金を請求し得ないのに、保険金支払請求をする行為は、詐欺罪(246条1項)の欺く行為である。もっとも、結局保険金支払いを受けられなかったから、未遂(250条)にとどまる。

3.大げさな自覚症状を訴えた行為について

 乙が医師に大げさな自覚症状を訴えた行為は、甲乙の共謀(問題文1第2段落B)に基づくから、上記行為につき甲も共同正犯の責任を負う。上記行為は、医師が真実を知れば通院させなかった以上、欺く行為である。上記行為により医師を錯誤に陥らせて必要以上に長期間の通院という財産上の利益を受けたから、詐欺罪(246条2項)が成立する。

4.結論

 以上から、甲は、乙及びAに対する2つの傷害罪、詐欺未遂罪及び2項詐欺罪の罪責を負う。2つの傷害罪は観念的競合(54条1項)となり、その余の罪は併合罪(45条前段)となる。

第2.乙の罪責

1.甲による乙に対する傷害罪につき、共謀(問題文1第2段落@及びA)に基づく共同正犯(60条)は成立しない。なぜなら、乙との関係では適法な自傷行為であって、違法な結果への因果的寄与が認められないからである(因果的共犯論)。

2.甲によるAに対する傷害罪については、どうか。確かに、上記共謀に基づく行為から、Aの傷害結果が生じている。しかし、傷害罪にいう「人」とは自分以外の者をいう。乙は、自分自身の傷害結果しか認識、認容していない。従って、乙には「人」の傷害につき認識・認容がない。そうである以上、傷害の故意は認められない。
 また、乙はX車の同乗者でもなく、X車の運転上同一の注意義務を負っていたとは認められない以上、過失犯の限度で共同正犯関係を認めることもできない。
 よって、Aの傷害についても、共同正犯は成立しない。

3.前記第1の2の詐欺未遂罪及び同3の2項詐欺は、甲との共謀(問題文1第2段落B、C及びD)に基づく罪であるから、乙は、甲と共同正犯となる。

4.結論

 以上から、乙は、詐欺未遂罪及び2項詐欺罪の罪責を負う。両罪は併合罪となる。

第3.丙の罪責

1.丙は、甲及び乙のした罪に係る謀議に参加した(問題文1第2段落)。X車を運転してY車に衝突させる役割(@)及び利益分配を受ける地位(D)からして、上記謀議は、丙について共同正犯性を基礎付け得る共謀といえる。もっとも、問題文2の事情から、着手前の離脱が認められるのではないか。

2.丙は、甲及び乙に電話で「俺は抜ける」と離脱の意思を告げているが、甲及び乙の明示の了承はない。もっとも、丙の計画上の役割は、当日のX車の運転だけである。他に道具の提供等はしていない。また、丙は計画の首謀者でもなく、積極的に犯行計画等を提案したわけでもない。丙が離脱の意思を告げても、甲及び乙はためらうことなく犯行に及んでいる。以上を考慮すると、甲及び乙の黙示の了承があったと評価すべきである。従って、上記電話の時点で、丙は共犯関係から離脱する。

3.よって、丙は、その後甲及び乙のした罪につき共同正犯の罪責を負うことはない。

4.結論

 以上から、丙は何らの罪責も負わない。

以上

【参考答案その2】

第1.甲の罪責

1.乙の傷害について

 乙の傷害は、甲の追突行為に起因する。もっとも、これは乙の同意に基づくものである(問題文1)。そして、傷害結果は軽度の頸部捻挫という軽微なもので、かつ当初の同意の範囲内にある。従って、同意により要保護性が失われるから、違法性が阻却される。なお、保険金詐取の手段であることは、身体的利益の要保護性とは無関係であるから、上記判断を左右しない。
 よって、乙に対する傷害罪(204条)は成立しない。

2.Aの傷害について

(1)因果関係

 構成要件の客観性から、路面凍結は当然に因果関係の相当性判断の基礎となる(客観的相当因果関係説)。そうすると、路面の凍結した交差点で前の車に追突すれば、その前を横断する歩行者と追突された車が接触して歩行者が負傷することは社会通念上相当である。
 よって、甲の追突行為とAの傷害には因果関係がある。

(2)故意

 傷害罪の故意を認めるためには、行為者の認識した「その人」に傷害結果が生じる必要がある(具体的符合説)。なぜなら、傷害罪の保護法益は、個々人ごとに別個のものだからである。
 本問では、甲の認識した客体は乙であって、Aではない。従って、甲には傷害罪の故意はない。

(3)よって、Aに対する傷害罪は成立しない。もっとも、甲の追突行為は自動車運転上必要な注意を怠るものであるから、自動車運転過失致傷罪(211条2項本文)が成立する。

3.不要な通院について

 問題文1の共謀に基づき、乙が医師に大げさに自覚症状を訴えた行為は、詐欺罪の欺罔行為には当たらない。なぜなら、自覚症状に係る錯誤は、医師及び病院の財産的利益と関係がないからである(法益関係的錯誤説)。従って、甲につき詐欺罪の共同正犯(60条)は成立しない。

4.保険金支払請求について

 上記請求は、事故の偶発性、乙の勤務関係及び通院の必要性につき保険会社担当者Bを誤信させるものである。上記事項は保険金支払請求権の有無という財産関係に係る錯誤を生じさせるから、詐欺罪の欺罔行為である。もっとも、保険金の支払いは受けられなかった。よって、1項詐欺未遂罪(246条1項、250条)が成立する。

5.結論

 以上から、甲は、自動車運転過失致傷罪及び1項詐欺未遂罪の罪責を負う。両罪は併合罪である(45条前段)。

第2.乙の罪責

1.Aの傷害について

(1)Aの傷害は、甲の追突に起因する。もっとも、乙は、甲の追突について問題文1の事前共謀により心理的因果性を及ぼしている。また、犯行当日も自己所有のY車を運転して追突される役割を果たしており、物理的因果性もある。乙は、Aの傷害につき正犯性を基礎付ける重要な因果的寄与をしたといえる。もっとも、乙には甲と同様、Aに対する傷害の故意はない。よって、乙は、Aの傷害につき過失犯の共同正犯となる。

(2)もっとも、乙は自動車運転者という責任身分を有しないから、重過失致傷罪(211条1項後段)が成立するにとどまる(65条2項)。

2.保険金支払請求について

 前記第1の4の1項詐欺未遂罪は、問題文1の共謀に基づいてされたから、乙は同罪の共同正犯となる。

3.結論

 以上から、乙は、重過失致傷罪及び1項詐欺未遂罪の罪責を負う。両罪は併合罪である。

第3.丙の罪責

1.丙は、甲及び乙によるAの傷害及び保険金支払請求に関して共同正犯としての重要な因果的寄与をしたといえるか。

2.丙は、問題文1の共謀においては、Y車を運転する役割が割り当てられていた(問題文1@)。しかし、当日はその役割を放棄している。他に、丙は道具の提供等の物理的因果性を及ぼすべき行為をしていない。
 また、丙は問題文1の共謀に参加したが、当日になって甲及び乙に「俺は抜ける」と電話をし、甲及び乙は、丙が犯行に参加しないことを認識した上で、犯行を行っている(問題文2)。そうである以上、丙が甲及び乙の犯行を心理的に促進したとは考えられない。
 以上のとおり、丙には重要な因果的寄与を認めることができないから、甲及び乙の惹起した犯罪結果につき共同正犯は成立しない。

3.以上から、丙は何らの罪責も負わない。

以上

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