平成24年司法試験予備試験論文式刑訴法
出題趣旨検討と参考答案

問題文及び出題趣旨は、こちら

単発論点型

刑訴は、短い事例問題だった。
しかも、事例1の捜査の適法性しか、問われていない。
(事例2についても解答してしまった人は、設問の読解が足りない。)
書くべき論点は、限られていた。
将来捜査(犯罪の存在)、おとり捜査、秘密録音、秘密録画の4つである。
(私人を用いた点は論点ではない。後記最決平16・7・12でも、何ら問題にされていない。)
そのうち、将来捜査は、やや細かい論点だ。
また、後記のとおり、正面から問われたとはいえない。
実際にも、書いた人は少なかったようである。
それ以外の3つをきちんと書いていれば、A評価になっている。
出題趣旨にも、論点としては上記の3つが挙がっている。

(出題趣旨より引用、下線は筆者)

 本問は,覚せい剤取締法違反被疑事件における内偵捜査を題材として,おとり捜査及びその際のビデオカメラによる録音録画の適法性を検討させることにより,強制捜査の意義,おとり捜査秘密録音及び秘密録画のそれぞれの問題点,許容されると考えた場合の適法性の判断基準について,基本的な知識の有無及び具体的事案に対する応用力を試すものである。

(引用終わり)

ただ、本問では、一連の捜査の中に上記3つが混在している。
そのため、分けて認識できなかった人が、多かったようだ。
秘密録音・録画をおとり捜査の当てはめで使ってしまった。
これは、おとり捜査しか書いていないという評価となりやすい。
あるいは、録音・録画を区別できなかった。
これも、両方区別した場合より、評価を落としている。
異なる論点は、できる限り区別して書く。
これが、鉄則である。
事例処理型で忙しい場合は別だが、本問は十分分けて書ける。
そうである以上、きちんと区別し、整理して書くべきだった。
本問で一番差が付いたのは、この点だった。

捜査の枠組みに乗せて説明する

事例処理型では、論証の中身は、ほとんど問われない。
一応の理由が付されていれば、十分である。
しかし、本問のような単発論点型では、論述の中身が問われる。
ただ、同じ平成24年の民法のように、論理が問われているわけではない。
出題趣旨にも、論理性を示す言葉は、入っていない。
本問で問われているのは、捜査の適法性に関する基本的な枠組み。
すなわち、まず強制処分に当たるか否か。
強制処分の意義を示して、当てはめる。
強制処分に当たれば、明文規定がないから許容されない。
(新しい強制処分説からは、一応許容される余地はある。)
強制処分でない場合には、任意処分として許容され得る。
もっとも、任意処分の限界を超えれば、違法となる。
そこで、その判断基準を示して、当てはめる。
この手順に沿って、説明できるかという点である。

(出題趣旨より引用、下線は筆者)

 本問は,覚せい剤取締法違反被疑事件における内偵捜査を題材として,おとり捜査及びその際のビデオカメラによる録音録画の適法性を検討させることにより,強制捜査の意義,おとり捜査,秘密録音及び秘密録画のそれぞれの問題点,許容されると考えた場合の適法性の判断基準について,基本的な知識の有無及び具体的事案に対する応用力を試すものである。

(引用終わり)

論点が拾えているのに、評価が伸びなかった。
そういう人は、上記の視点から説明できていない。

特に、おとり捜査を雑に書くと、評価を下げる。
AAレベルの重要論点で、多くの人がきちんと書いてくるからだ。
おとり捜査に関しては、判例がある。

最決平16・7・12より引用、下線は筆者)

 おとり捜査は,捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が,その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け,相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するものであるが,少なくとも,直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において,通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に,機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは,刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである。

(引用終わり)

上記判例をただ引用して、当てはめる。
事例処理型なら、それでいい。
しかし、単発論点型の本問では、それでは足りない。
前記の手順を踏んで、説明する必要があった。
このように判例が詳細に示さない点を論じさせるのは、本試験ではよくある。
判例が雑だから、自分も雑でよいというものではない。

ただ、ここは基本書等では、実はそれほど明確には説明されていない。
犯意誘発型と、機会提供型に分け、前者は違法、後者は適法といわれる。
また、機会提供型でも、働きかけが執拗だと違法とされることが多い。
しかし、それは前記の枠組みとの関係でどういう整理になるのか。
そこまでは、必ずしも明示されていないことが多い。
従って、自分なりの整理を示す必要がある。

大きく分けて、二つの整理が考えられる。
一つは、強制処分性のところで、犯意誘発型を切る方法である。
人格的自律権侵害を根拠とする考え方と親和的な筋である。
人格的自律という重要な権利侵害だから、強制処分だ、と考えるわけである。
そして、任意処分の限界のところで、執拗な働きかけの場合を切る。
すなわち、執拗な働きかけは、相当性を欠く、と処理するのである。

もう一つは、強制処分性はあっさり否定する。
その上で、任意処分の限界で、犯意誘発と執拗な働きかけの両方を切る。
犯意を誘発し、又は働きかけが執拗な場合は、相当性を欠くという処理である。
一応自己の意思で行動しているのだから、人格的自律権侵害とまではいえない、という考え方と親和的である。

以上のように、通説的見解をうまく整理して論述できたか。
この点は、同じように論点を拾った人の中で、評価を分ける要因だった。

当てはめが評価に影響する場合とは

当てはめは、上記の論点抽出、論証の内容と比べると、比重は低い。
多少おかしな当てはめをしても、それ自体は評価には影響していない。
ただ、本問を犯意誘発型と認定するのは、無理があったと思う。

(問題文より引用、下線は筆者)

1 ・・平成24年3月10日午前10時頃,喫茶店において,甲に「覚せい剤100グラムを購入したい。」と申し込み,甲は,「100グラムなら100万円だ。今日の午後10時にここで待つ。」と答えた。Aは,Aと会話している甲の姿及び発言内容を密かに前記ビデオカメラに録音録画し,Kは,Aからその提供を受けた。

2 Kは,同日正午頃,Aから提供を受けた前記ビデオカメラを疎明資料として裁判官から甲の身体及び所持品に対する捜索差押許可状の発付を受け,甲の尾行を開始したところ,甲が同じ暴力団に所属する組員の自宅に立ち寄った後,アタッシュケースを持って出てきたため,捜索差押許可状に基づく捜索を行った。すると,甲の所持していたアタッシュケースの中から覚せい剤100グラムが入ったビニール袋が出てきたことから,Kは,甲を覚せい剤取締法違反で現行犯逮捕した。

(引用終わり)

甲は、Aの申込みに対し、即座に承諾している。
しかも、朝の10時の申込みに対し、同日夜10時に持ってくるという。
そして、実際に物を用意して現れている。
(問題文2は、この点を示すために存在している。)
あまりにも、用意が良すぎるだろう。
Aの申込みによって、初めて甲に覚せい剤売買の犯意が生じた。
そうだとしたら、普通は少し考えてから応答するはずである。
また、その時から準備を始めるのだから、当日の受渡しは考えにくい。
こういった事実を、正しく評価できているか。

前記のとおり、この当てはめ自体は、比重は低い。
しかし、ここで犯意誘発として、簡単に違法とすると、その後の論点。
すなわち、任意処分の限界との関係が、落ちてしまうことになる。
そうすると、ここは論点落ち、と評価され易い。
当てはめ自体の評価による減点よりも、当てはめを誤った結果としての論点落ち。
それによる減点の方が、怖いといえる。
当てはめ方によって論点が減る場合には、慎重に当てはめをするべきである。
不安であれば、「仮に〜としても」として、その後の論点を一応書いておく。
事例処理型で忙しい問題では、難しい場合もある。
しかし、本問のような単発論点型では、そういう書き方も十分できるだろう。
一つのテクニックとして、知っておきたい。

録音と録画の違い

録音と録画は、ビデオカメラによる一つの行為である。
そのため、分けずにまとめて論じた人が多かった。
しかし、まとめて論じると、評価を下げている。

録画と録音は、似ているようで、性質が異なる。
まとめた人は、どちらも漠然とプライバシーとの関係を論じた人が多い。
しかし、録画は肖像権。
録音は、会話内容の秘匿性に対する期待が問題となる。
そうすると、両者の許容される根拠も、自ずから異なってくる。
この点を示せているかどうかが、評価を分けていた。

肖像権との関係では、他者の目に晒される場所であるか。
また、撮影場面の私事性はどうか。
あるいは、関係のない第三者の容ぼう等が映り込んでいないか。
特に最後の点は、現行犯に準じる緊急性を要するかを分ける要素となる。

最大判昭44・12・24(京都府学連事件)より引用、下線は筆者)

 警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法二条一項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。
 そこで、その許容される限度について考察すると、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法二一八条二項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになつても、憲法一三条、三五条に違反しない

(引用終わり)

最判昭61・2・14(オービス事件)より引用、下線は筆者)

 速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいつて緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法一三条に違反せず、また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになつても、憲法一三条、二一条に違反しないことは、当裁判所昭和四四年一二月二四日大法廷判決(刑集二三巻一二号一六二五頁)の趣旨に徴して明らかである。

(引用終わり)

※筆者注 オービス事件の引用判例は、京都府学連事件判例である。

すなわち、第三者を除外しないで撮影を要するだけの根拠として、(準)現行犯性が要求されている。
従って、被疑者以外の第三者の容ぼう等が映り込まない場合は、上記(準)現行犯性は要求されない。

最決平20・4・15より引用、下線は筆者)

 所論引用の各判例(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁昭和59年(あ)第1025号同61年2月14日第二小法廷判決・刑集40巻1号48頁)は,所論のいうように,警察官による人の容ぼう等の撮影が,現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではないから,前提を欠き,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 ※筆者注 上記引用判例は、京都府学連事件及びオービス事件である。

 捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ,かつ,前記各ビデオ撮影は,強盗殺人等事件の捜査に関し,防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう,体型等と被告人の容ぼう,体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため,これに必要な限度において,公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し,あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり,いずれも,通常,人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。以上からすれば,これらのビデオ撮影は,捜査目的を達成するため,必要な範囲において,かつ,相当な方法によって行われたものといえ,捜査活動として適法なものというべきである。

(引用終わり)

本問では、第三者が映り込んだという事実はない。
従って、現行犯性、準現行犯性を要求して違法にすれば、評価を下げるだろう。

一方、録音の方は、肖像権のような、権利性自体を認めにくい。
一般に、会話内容を相手方が秘匿することにつき、権利性は認められないからである。
例えば、自分が友人に昨日の夕食について話したとしよう。
その内容を、友人が他の人にしゃべってしまった。
これによって、プライバシー侵害が生じた。
普通は、そうは考えない。
友人にしゃべった以上、内容の秘匿性は保障されない。
友人が、内容につき守秘義務を負うことはないからである。
他人にバラされるのが嫌なら、そもそも友人にしゃべらなければよい。
相手方との関係での会話の秘匿性とは、その程度のものに過ぎない。
そして、相手方の同意のある秘密録音は、これとパラレルに考え得る。
なぜなら、会話の相手が記憶した会話内容を話すことと、録音した媒体を手渡すこと。
これは、正確性に違いはあっても、質的には同じといえるからである。
以上のことからすれば、強制処分性は、録画より容易に否定される。
もっとも、秘密裡に録音されるのは、対象者の意に反する。
また、会話を他者にしゃべることと、録音して刑事手続に利用されることには、一定の差異がある。
そのことから、必要性、相当性を要求する。
こういう流れで、書いていけばよいだろう。

また、捜査の必要性との関係でも、両者は異なる意味を持つ。
録画は、主として犯人と甲の同一性立証に必要である。
しかし、会話内容が覚せい剤取引かどうかは、わからない。
他方、録音は、会話内容が覚せい剤取引であったことの立証に必要である。
しかし、音声だけでは、犯人と甲の同一性の立証は難しい。
このように、両者はそれぞれ立証対象が異なる。

上記のような録音と録画の性質の差異が示されているか。
これが、上位になるかを分けるポイントだった。

新司法試験との重複

おとり捜査と秘密録音の組み合わせは、平成22年の新試験でも出題されている。
他にも、予備と新試験の論点が重なることは多い。
予備の受験生も、新試験の過去問は、解くべきである。
同様に、新試験の受験生も、予備の過去問は、解いておくべきだろう。
問題文の長さは異なるが、本質的な違いはそれほどない。
特に、予備組は合格後に新試験を受ける。
そうである以上、新試験過去問を解くことは無駄にはならない。
新試験では、出題趣旨や採点実感等に関する意見が詳細に書かれている。
それは、予備試験でも、そのまま通用するものが多い。
予備に合格してから、新試験までは、それほど期間がない。
その意味でも、予備受験の段階から、新試験の分析は、しておくべきである。

将来捜査(対象犯罪の存在)について

捜査は、「犯罪がある」と思料する場合になし得る(189条2項)。
しかし、おとり捜査では、これから生じる犯罪を対象とする場合がある。
そうすると、「犯罪がある」とはいえないのではないか。
それが、将来捜査を問題にする意味である。

ただ、本問では、この点は意識的には論点になっていなかったようだ。
そう読み取れるのは、問題文2の記述である。

(問題文より引用、下線は筆者)

2 Kは,同日正午頃,Aから提供を受けた前記ビデオカメラを疎明資料として裁判官から甲の身体及び所持品に対する捜索差押許可状の発付を受け,甲の尾行を開始したところ,甲が同じ暴力団に所属する組員の自宅に立ち寄った後,アタッシュケースを持って出てきたため,捜索差押許可状に基づく捜索を行った。すると,甲の所持していたアタッシュケースの中から覚せい剤100グラムが入ったビニール袋が出てきたことから,Kは,甲を覚せい剤取締法違反で現行犯逮捕した

(引用終わり)

問題文からは、捜索差押許可状の対象犯罪が明示されていない。
捜索差押えにおいては、令状には罪名のみで、被疑事実の記載はない。
しかし、令状請求段階で犯罪事実の要旨の記載を要する。
(逮捕状と異なり被疑者以外に呈示されることがあるので、被疑者のプライバシー等の保護のため令状に記載しない趣旨と説明されている。)

刑訴法219条1項 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者、捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

刑訴規則155条1項 差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証のための令状の請求書には、次に掲げる事項を記載しなければならない
一 差し押さえるべき物、記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者又は捜索し若しくは検証すべき場所、身体若しくは物
二 請求者の官公職氏名
三 被疑者又は被告人の氏名(被疑者又は被告人が法人であるときは、その名称)
罪名及び犯罪事実の要旨
五 七日を超える有効期間を必要とするときは、その旨及び事由
六 法第二百十八条第二項の場合には、差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、その電磁的記録を複写すべきものの範囲
七 日出前又は日没後に差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をする必要があるときは、その旨及び事由

仮に問題文2の捜索差押えの対象犯罪が、その後の現行犯逮捕に係る覚せい剤所持だとしよう。
そうすると、上記刑訴規則155条1項4号の犯罪事実は、どのように記載するのか。
まだ行われていない犯罪を、予想して書くのか。
まさに、将来捜査の論点が、顕在化する。
ただ、本問の甲は、過去にも覚せい剤取引をやっていたと疑われる。

(問題文より引用、下線は筆者)

1 警察官Kは,覚せい剤密売人Aを取り調べた際,Aが暴力団組員甲から覚せい剤の購入を持ち掛けられたことがある旨供述したので,甲を検挙しようと考えたが,この情報及び通常の捜査方法のみでは甲の検挙が困難であったため,Aに捜査への協力を依頼した。

(引用終わり)

そうすると、過去の覚せい剤売買の証拠として、甲の身体及び所持品の捜索をすることも、考えられる。
本問の捜索差押えの対象犯罪が、過去の覚せい剤取締法違反であれば、将来捜査は問題にならない。
本問では、その点の明示がない。
そのことから、将来捜査は正面から問われていないと判断できる。

同様に、問題文2の逮捕は、現行犯逮捕である。
なぜ、Kは逮捕状を取っておかなかったのか。
それは、被疑事実の要旨をどう書くのか。
その点で、前記と同様の困難があるからである。
また、過去の覚せい剤取締法違反との関係では、ビデオカメラの内容は、捜索はできても、逮捕できるほどの疎明資料とはいえない。
(捜索(222条1項、102条1項)と、逮捕(199条1項)の要件は異なる。)
だから、問題文では、現行犯逮捕になっている。
この点からも、将来捜査は正面から論点とはなっていない。
そう判断できた。
(問題文2は、無意味なようで、こういうところで地味に意味がある。)
従って、将来捜査は書いてもよいが、コンパクトにまとめる必要があった。

【参考答案】

第1.対象犯罪の存在

 捜査は、特定犯罪の訴追準備活動であるから、「犯罪がある」(189条2項)場合にのみなしうる。本問では、過去に甲から覚せい剤の購入を持ちかけられた旨のAの供述から、既に甲が覚せい剤取締法違反を犯したと疑われ、また、反復継続的に将来同様の犯罪が行われる蓋然性が認められるから、「犯罪がある」といえる。従って、Kは、甲に対する捜査をなし得る。

第2.おとり捜査の適法性

1.Kの依頼を受けた捜査協力者Aが、その意図を秘して甲に覚せい剤の譲渡を働き掛け、甲が実行に出たところを検挙する手法は、おとり捜査である。このような捜査手法は適法か。

2.強制処分性

(1)強制処分は、法定の場合しかなしえない(197条1項ただし書、強制処分法定主義)。その趣旨は、司法的抑制による権利保護にある。従って、強制処分とは、重要な権利を制約する処分をいう。

(2)おとり捜査のうち、犯意を誘発する態様のものは相手方の人格的自律という重要な権利を害するから、強制処分である。この場合、おとり捜査を許容する明文規定はないから、当該捜査は違法となる。
 他方、犯行機会を提供するにとどまるものは、意思の自由を侵害せず、重要な権利の制約はないから任意処分にとどまる。

(3)本問では、Aの申込みに対し、甲は即座に承諾しており、同日の午後には、目的物を用意している。このことは、既に甲に覚せい剤取引の犯意があったことを示している。従って、本問の捜査は、甲に犯行機会を提供するにとどまるから、強制処分に当たらず、任意処分である。

3.任意処分の限界

(1)一般に、任意処分であっても無制約ではなく、警察比例の原則に従い必要性に見合った相当な限度でのみ許される(197条1項本文)。特におとり捜査は公権力が市民を欺く要素があり、適正手続(憲法31条)の観点から慎重な検討が必要である。従って、通常の捜査方法では検挙が困難であり、働き掛けが穏当な態様にとどまることを要する。

(2)本問では、Aの供述及び通常の捜査方法のみでは甲の検挙は困難であって、働き掛けは喫茶店において購入を申し込むという自然なもので、甲が即座に承諾したところからしても、穏当なものであった。

(3)よって、本問のおとり捜査は任意処分として適法である。

第2.秘密録画の適法性

1.強制処分性

 密かに甲の姿を録画した行為は、みだりに容ぼう等を撮影されない自由(京都府学連事件参照)との緊張を生じる。しかし、喫茶店という公共の場であること、覚せい剤売買という私事性の低い場面であること及び甲以外の第三者が映り込まないことから、上記自由との関係で重要な権利の制約があるとはいえない。従って、強制処分には当たらない。

2.任意処分の限界

 任意処分であるとしても、密かに録画されることは対象者にとって不本意であることから、必要かつ相当な限度でのみ許される。
 本問で、犯人と甲の同一性の立証のためには甲の容ぼう等の録画の必要性は高い。また、具体的な録画手段は、会話している甲の姿のみを録画したにとどまるから、覚せい剤事犯の密行性も考慮すれば、相当なものといえる。
 よって、本問の秘密録画は、任意処分として適法である。

第3.秘密録音の適法性

1.強制処分性

 密かに甲の会話内容を録音した行為は、会話の相手方Aの同意があるから通信の秘密(憲法21条2項後段)を害するとはいえない。また、会話内容を相手方に開示した以上、それを秘匿するか否かは相手方の自由に委ねられるから、会話内容の秘密が重要な権利として保護されるとはいえない。従って、対話者の同意のある秘密録音には重要な権利制約はなく、強制処分に当たらない。

2.任意処分の限界

 任意処分であるとしても、記憶した会話内容の開示と異なり、機械的に記録されることは、録音対象者にとって不本意である以上、必要かつ相当な範囲でのみ許される。
 本問では、会話内容が覚せい剤譲渡に係るものであることを立証するために録音の必要性は高い。また、覚せい剤売買に関する私事性の低い会話を録音したにとどまるから、具体的手段も相当なものといえる。
 よって、本問の秘密録音は、任意処分として適法である。

以上

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