平成25年司法試験論文式民事系第2問参考答案

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第1.設問1

1.譲渡の会社に対する効力

 甲社は、株券発行会社である(会社法(以下条数のみ示す。)117条6項かっこ書、甲社定款7条)。従って、EのFに対する甲社株式の譲渡は、株券交付により効力が生じる(128条1項本文)。
 もっとも、甲社株式は譲渡制限株式である(2条17号、甲社定款5条)。従って、EのFに対する甲社株式の譲渡につき同社取締役会の承認がないから、甲社に対しては譲渡の効力は生じない(134条本文、ただし書1号及び2号参照)ことになりそうである。
 しかし、甲社は、株式譲渡承認請求から2週間が経過しても譲渡を承認するか否かの決定に係る通知をしていない。従って、譲渡は承認したものとみなされる(145条1号)。
 よって、EのFに対する甲社株式の譲渡は、甲社に対する関係でも効力を有する。

2.株主と扱うことの適否

 株式の譲渡を会社に対抗するには、名義書換が必要である(130条1項)。Fは、名義書換をしていないから、甲社に譲渡を対抗できない。
 もっとも、同項の趣旨は会社の事務処理の便宜であり、対抗できないとは株主の側から主張できないというに過ぎないから、甲社の側からFを株主と認めることは差し支えない。
 よって、甲社が平成25年総会においてFを株主として取り扱うことに違法はない。

第2.設問2(1)

 株主総会決議取消しの訴え(831条)を検討する。

1.提案の違法

 平成25年総会では取締役の報酬に関する議題はないから、Aが本件報酬決議に係る議案を総会の席上で提案することはできない(304条本文)。従って、決議方法の法令違反がある。

2.共有株式に係る議決権行使の取扱いの違法

 Qが有していたABCによる共有株式に係る権利行使者の指定(106条本文)は、管理行為である(判例)から、B及びCによる持分過半数で決することができる(民法264条本文、252条本文)。従って、共有株式に係る議決権行使を無効とした取扱いは違法であり、決議方法の法令違反がある。

3.結論

 よって、甲社株主であるBは、本件報酬決議の日(平成25年3月16日)から3か月以内に決議取消しの訴えを提起することができる(831条1項1号)。
 この場合において、上記1の違法は軽微又は決議に影響しないとして裁量棄却(同条2項)となる余地がある。しかし、上記2の違法は、議決権行使の機会を奪う重大な違法であり、共有株式に係る議決権行使が有効であれば否決となるから決議に影響することが明らかであって、裁量棄却の余地はない。

第3.設問2(2)

 定款に報酬の定めのない甲社においては、取締役の具体的な報酬請求権は株主総会決議によって初めて生じる(判例。361条1項、330条、民法648条1項参照。)。
 他方、株主総会決議取消しの訴えの認容判決には遡及効がある(839条反対解釈)。
 従って、本件報酬決議の取消しの訴えが認容されれば、当初からA、D及びGの報酬に係る決議は無効となるから、報酬請求権は発生しない。既に支払いを受けた報酬は、すべて不当利得となる。もっとも、必ずしも無給となるわけではない。再度株主総会を開催して事後承認を受ければ、承認を受けた限度で適法に報酬を受けることができる(判例)。
 よって、いまだ再度の株主総会による事後承認のない本問では、甲社は、A、D及びGに対し、既に支払済みの報酬の全部を返還請求できる。

第4.設問3@

 募集株式発行差止請求(210条)を検討する。

1.不公正発行(同条2号)

 募集株式の発行は会社の資金調達の手段であるから、主要目的が資金調達にはなく、特定株主の持株比率の低下にある場合には、不公正発行に該当する。
 本問の募集株式発行は、株主割当てとされ、形式的にはB及びCにも持株比率維持の機会が与えられている。しかし、Aが自己の支配権を確立するため、実際にはB及びCに調達困難な払込金額を設定した上、Aは従前の10倍という異常な報酬増額をもって払込金を捻出し、いわば会社の資金をもって払込みに充てるもので、正当な資金調達目的はなく、B及びCの持株比率を低下させることが主要な目的である。
 従って、本問の募集株式発行は、不公正発行である。

2.結論

 よって、本問の募集株式発行によって持株比率低下の不利益を受けるおそれのある甲社株主であるBは、甲社に対し、募集株式の発行をやめることを請求できる。

第5.設問3A

 株式発行無効の訴え(828条1項2号)を検討する。

1.無効事由

(1)前記第4の募集株式発行差止請求を本案とする仮処分命令(民事保全法23条2項)があったのに、これに違反して発行された場合には、差止めの実効性確保の観点から無効事由となる(判例)。

(2)では、差止請求がされていなかった場合に、前記第4の1の不公正発行が無効事由となるか。
 株式取引に関する法的安定性を考慮すると、無効事由は限定的に考えるべきである。もっとも、非公開会社においては、株式取引の安全よりも、株主の持株比率維持の要請が強い(201条1項参照)。従って、株主総会の特別決議(199条2項、309条2項5号)を欠く株主割当て以外の方法による株式発行は、持株比率保護の観点から無効である(判例)。
 そして、特別決議の不要な株主割当てによる方法(202条1項、3項2号、5項)による場合であっても、実質的に株主の持株比率が害される特段の事情がある場合には、持株比率を保護する趣旨が妥当するから、無効事由になると解すべきである。
 本問で、非公開会社である甲社(2条5号、甲社定款5条)には、202条3項2号の定款の定めがあり(甲社定款6条)、株主割当てによる募集株式発行につき特別決議を要しない(202条3項4号、309条2項5号参照)。もっとも、形式的には株主割当ての方法によっているが、実際にはB及びCに調達困難な払込金額を恣意的に設定してされたから、実質的には、B及びCの持株比率が害される。従って、上記特段の事情がある。
 以上から、前記第4の1の不公正発行は、無効事由となる。

2.結論

 よって、甲社株主であるBは、本問の株式発行の効力発生日(平成25年4月1日)から1年以内に、株式発行無効の訴えをすることができる(828条1項2号かっこ書、2項2号)。

以上

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