平成25年司法試験論文式民事第3問参考答案

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第1.設問1

1.昭和47年判決の趣旨

 過去の法律関係の確認は、その後の変動可能性から、現在の紛争解決に適切でなく、原則として訴えの利益が認められない。
 同判決は、上記を前提にした上で、遺言無効確認の訴えにつき過去の法律行為の効力の確認を求めるものではなく、遺言が有効であるとすればそれから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解釈して適法としたものである。

2.同判決と訴訟Tにおける事案の違い

 同判決の事案では、係争中の相続財産が多数であり、原告の主張によれば遺言において全財産を相続すべきとされた者が明らかでなく、権利関係が不明であって、現在の法律関係の確認の訴えとして請求の趣旨を特定するのが困難であった。そのために、現在の法律関係の記載に代えて、形式上過去の法律行為の確認を求めるものとして請求の趣旨を記載することが許されたものである。
 これに対し、訴訟Tの事案では、遺言@の目的となる財産は甲1だけであり、遺贈の相手方がBであることも明らかである。従って、現在の法律関係の確認の訴えとして請求の趣旨を特定することは容易である。そうである以上、敢えて過去の法律行為の確認を求める形式をもって請求の趣旨を記載する必要はない。端的に、甲1がEに帰属することの確認を求める等の現在の法律関係を対象とする訴えとして請求の趣旨を記載すべきである。

3.結論

 よって、昭和47年判決を前提としても、訴訟Tは確認の利益を欠き、不適法である。

第2.設問2

1.訴訟Uの被告適格者

 被告適格は、原告の主張する訴訟物たる法律関係の帰属主体となるべき者にある。
 訴訟Uの訴訟物は、所有権移転登記抹消登記手続請求である。既に遺贈の執行として甲2についてCに所有権移転登記手続がなされた以上、甲2は相続財産から逸出してCに帰属するから、上記抹消登記手続請求に応ずべき帰属主体もCである。
 よって、訴訟Uの被告適格者は、Dではなく、Cである。

2.結論

 よって、訴訟Uは被告適格のないDを被告とするから不適法であり、訴えは却下されるべきである。

第3.設問3

1.小問(1)

 相続は被相続人の死亡によって生じる(民法882条)から、Fの死亡が請求原因となる。
 そして、相続開始の時から、相続人は被相続人の財産を包括承継する(同法896条本文)。従って、Gが相続人、すなわちFの子(同法887条1項)であること及び土地乙が被相続人の財産であったこと、すなわち、Fが土地乙をもと所有していたことが請求原因となる。

2.小問(2)

(1)問題の所在

 上記1の請求原因のうち、Fの死亡及びGがFの子であることについては、前訴におけるGの主張中「Gの父F」「その生前に」という部分に顕れている。
 他方、Fが土地乙をもと所有していた事実については、前訴におけるHの主張中、「Jから土地乙を買い受けたのは…Fであり」とする部分に顕れている。そこで、Gの主張しない上記Hの主張中に含まれる請求原因事実を裁判所は判決の基礎とすることができるかが問題となる。

(2)不利益陳述の斟酌の可否

 そもそも、当事者の主張しない事実は判決の基礎にすることができない(弁論主義の第1原則)ところ、弁論主義は当事者と裁判所の役割分担の問題であって、当事者間の役割分担ではない。従って、裁判所は、一方当事者の主張した事実を他方当事者に有利な事実として判決の基礎とすることができる(主張共通)。
 従って本問では、裁判所は、Fが土地乙をもと所有していた事実についても判決の基礎とすることができる。
 もっとも、G及びHが単独所有権の主張しかしていないことを考慮すると、裁判所としては、上記事実を斟酌するに当たり、不意打ち防止の観点から、Gに対し、相続による共有持分権の取得に基づく主張をするか否か明確にされたい旨釈明を求めるのが適切である。

(3)結論

 以上から、裁判所は、適切に釈明権を行使した上で、上記1の請求原因を判決の基礎とすることができる。

第4.設問4

1.平成10年判決の趣旨

 平成10年判決は、実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであることを主要な根拠として、訴訟物の範囲を超える部分につき信義則による遮断効の拡張を認めている。
 上記判決は、既判力の機能が紛争の蒸返し防止にあることを実質的に考慮し、形式的に既判力が及ばない部分についても、信義則を用いて妥当な結論を導くべきであるとする趣旨である。

2.遮断効の縮小の肯否

 上記平成10年判決の趣旨からすれば、形式的に既判力が及ぶ部分についても、紛争の蒸返しとならない例外的場合には、信義則を用いて遮断効を縮小させることが可能である。
 すなわち、前訴の審理・判決から後訴の提起に至るまでの事情から、後訴を提起する者において前訴で争うことが期待できない場合であって、相手方に紛争解決の合理的期待が認められないときは、形式的に既判力の及ぶ範囲に属する事柄であっても、信義則上遮断効は及ばないと考えることができる。

3.本問における適用

(1)前訴で共有持分権の主張は期待できたか

 前訴では、GもHも共に単独所有権を主張しており、相続による共有持分権の有無は全く争われていなかった。数量的一部請求の棄却とは異なり、Gの主張するGJ間売買及びHの主張するFからの贈与のいずれの事実についても、その存否の審理判断の過程において必然的に相続による共有持分権の取得が判断される関係にはない。
 また、共有持分権の主張は単独所有権を否定することになり、一部敗訴を導くことになるから、G自ら主張することは期待し難い。
 しかも、裁判所による適切な釈明権の行使もなかったというのであるから、Gに共有持分権の主張の機会も適切に与えられていなかった。
 以上から、Gにおいて共有持分権を前訴で争うことは期待できなかったといえる。

(2)Hに紛争解決の合理的期待を認めうるか

 上記(1)のとおり、前訴では専ら単独所有権の有無が争われたに過ぎない。従って、Hにおいて、共有持分権の存否について解決済みであるとの合理的期待が生じたとは認め難い。
 また、Hは、前訴で土地乙の明渡しを求める反訴を提起し、棄却されている。確かに、上記反訴の棄却判決の既判力は、Hが土地乙の所有権者でないことには及ばない。しかし、Hの単独所有権は事実上否定されたといえる。にもかかわらず、Hは、その後も贈与による単独所有権の取得を主張した。その態度は、自ら紛争を蒸し返すものといわざるを得ない。そうである以上、Hには、前訴による紛争解決の合理的期待は認められない。

3)結論

 上記のとおり、相続による共有持分権の主張は、Gにおいて前訴で争うことが期待できず、かつ、Hに紛争解決の合理的期待は認められないから、信義則上前訴既判力による遮断効は及ばない
 よって、Gは、後訴において、相続による共有持分権の取得の主張をすることができる。

以上

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