平成25年司法試験予備試験論文式刑法参考答案

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第1.甲の罪責

1.Vに現金50万円を振り込ませた行為について

 甲がVを欺いて、A名義の預金口座に50万円を振り込ませた時点で、1項詐欺(246条1項)は既遂となるか。
 預金の占有は正当な払戻権限を有する者に認められるところ、本問では、預金口座の譲渡は取引停止事由であり、甲はA名義の預金の正当な払戻権限を有しない。従って、A名義の預金につき甲の占有は認められない。
 従って、A名義の預金口座に現金50万円を振り込ませた時点では、いまだ甲への占有移転があったとはいえない。よって、1項詐欺は既遂に至っていない。

2.現金自動預払機から現金50万円を引き出そうとした行為について

(1)一般に、欺罔行為によって財物を放棄させて後からこれを拾う行為は、全体的にみて1個の詐欺となる。同様に、他人名義の預金口座に振り込ませて後からこれを引き出そうとする行為も、全体として1個の詐欺と評価すべきである。
 そして、甲は、自ら預金の引出行為をしていないが、丙に事情を明かして報酬の約束もした上でこれを行わせているから相互利用補充関係があり、共同正犯(60条)となる。従って、丙の行為について甲も責任を負う。
 もっとも、結局現金50万円を引き出すことができなかったから、上記1の行為と併せて、1項詐欺未遂罪(250条)が成立するにとどまる。

(2)また、取引停止事由該当口座に係る預金の占有は、正当な払戻権限者がいない以上、これを管理する銀行の担当者にあると解すべきである。従って、A名義の口座の預金をD銀行E支店のATMから引き出そうとする行為は、当該預金を管理する支店長Fに対する窃盗を構成する。
 もっとも、引出しを試みた時点では既に取引停止措置が採られていたから、不能犯とならないか。
 不能犯か否かは、実行行為性の判断であるから、構成要件の行為規範性から、行為時に行為者が特に認識した事情及び一般人に認識可能な事情を基礎に、法益侵害惹起の具体的危険の有無を判断すべきである。
 本問では、取引停止措置は偶然Vの息子から電話があったことに起因し、引き出そうとするわずか10分前にされたから、行為時に丙は認識しておらず、一般人にも認識不能であった。従って、取引停止措置の存在は判断の基礎とならないから、占有移転の具体的危険は生じていたというべきである。従って、不能犯とはならない。
 もっとも、結果的に現金を引き出すことはできなかったから、未遂(243条)にとどまる。

3.以上から、甲は、詐欺未遂及び窃盗未遂の罪責を負い、両罪は法益主体を異にするから実体法上2罪となるが、前者の一連の行為に後者の行為が含まれているから、観念的競合(54条1項)として科刑上一罪となる。

第2.丙の罪責

1.丙は、現金自動預払機から現金50万円を引き出そうとする行為に加功したから、前記第1の2(2)の窃盗未遂について共同正犯が成立する。

2.他方、丙は、Vに現金50万円を振り込ませる行為には加功していないが、前記第1の1の詐欺未遂についても共同正犯は成立するか。

(1)そもそも、共犯の処罰根拠は、正犯を介して結果に因果的寄与を及ぼすことにある。加功前の行為については、遡って因果的寄与を及ぼすことはできないから、共犯は成立しない。もっとも、既に欺く行為により錯誤に陥っている被害者から財物の交付を受けることは、財産罪である詐欺罪の本質的部分であるから、この部分にのみ加功した者であっても、詐欺罪の共犯となる。

(2)よって、本問の丙には、詐欺未遂の共同正犯が成立する。

3.以上から、丙は、詐欺未遂及び窃盗未遂の罪責を負い、観念的競合となる。

第3.乙の罪責

1.問題文2以下の甲による犯行は、問題文1の犯行に係る共謀に基づくものとはいえない。なぜなら、甲は振り込まれた現金全額を自分のものにすることを計画し、乙に無断で問題文2以下の犯行を行っている以上、問題文1の犯行に係る共謀の相互利用補充関係は崩れているからである。
 従って、乙に問題文2以下の甲及び丙の犯行についての共同正犯は成立しない。

2.乙が問題文1の犯行を甲と共に繰り返したことが、甲に問題文2以下の犯行に係る犯意を生じさせ、又は犯行を容易にしたといえるから、乙は客観的には教唆又は幇助に当たる行為をしたといえる。
 しかし、本問で明らかな事実からは、甲及び丙が問題文2以下の犯行に及ぶことについて、乙に未必的にも認識、認容があったことを認めるに足りない。よって、教唆及び幇助の故意は認められない。

3.以上から、乙は何ら罪責を負わない。

以上

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