「平成25年司法試験状況」から読み取れること(中)

既修未修別、法学部非法学部別合格率

以下は、既修未修別、法学部非法学部別の短答、論文合格率である。
短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字である。

 

短答
合格率

論文
合格率

既修法学部

82.86%

47.21%

既修非法学部

88.41%

36.39%

未修法学部

56.05%

29.68%

未修非法学部

58.29%

28.43%

まず、未修と既修の顕著な差が目に付く。
特に、短答での差が大きい。
既修未修の最終合格率の差は、主として短答で生じている。

未修と既修の差は、従来から批判の対象となっていた。
志願者減少の、一つの要因とも考えられている。
未修と既修の差を何とかするには、短答を何とかする必要がある。
そこで法務省が考えたのが、短答の負担軽減である。
本年7月16日の法曹養成制度関係閣僚会議決定で、短答の科目を憲民刑の3科目に削減する方針が決まった。
これは、貸与制や合格者数等の合間を縫って事務方が滑り込ませた未修救済策である。

(「法曹養成制度改革の推進について」より引用)

 短答式試験の試験科目を憲法・民法・刑法の3科目に限定するために、所要の法案を1年以内に提出する。

(引用終わり)

もっとも、憲民刑になれば、楽になるのは既修も同じである。
単純に考えると、やはり既修が未修より上位になるだろう。
試験である以上、実力のない者を実力のある者より上位にするのは難しい。
そこで、何らかの工夫をする必要が生じる。

知識で差が付かないようにする工夫は、既に旧試験で採られていた。
当時は、若年化を図るため、知識のない者でも受かる試験にする趣旨であった。
具体的には、難易差の極端化、ミスの誘発、そしてパズルを使う方法である。

難易差の極端化とは、簡単な問題と難しい問題の差を極端にするという方法である。
簡単な問題は、誰でも解ける問題。
他方、難しい問題は、誰も解けないような難しい問題にする。
あるいは、文章の読み方次第で正しいとも誤りとも読める肢を作る。
(新試験でも、憲法のab見解対応型で時折みられる。)
そうすると、当然だが、差は付きにくくなる。
むしろ、難しい問題でランダムに選んだ解答が、たまたま正解であるか。
その運の要素で、合否が左右され易くなる。
これは、現在でも民法と商法で緩やかに使われている。
未修の学習する民法は易しく、未修の手が回らない商法は難しい。
既修者でも、商法はなかなか取れないようになっている。
ただ、7科目だと、簡単な問題でも未修が落としてしまい、効果が薄い。
3科目化は、この点で意味がある。

ミスの誘発とは、ケアレスミスの生じやすい問題文にする方法である。
例えば、「誤っている肢の組み合わせとして正しいものを選べ」とする。
「正しい」の文字のイメージが残り、うっかり正しいものを選んでしまう。
あるいは「1.2個 2.3個 3.4個 4.5個 5.6個」のように数字をズラす。
「正解は2個だ」と思って2をマークすると、間違える。
このようにすれば、ミスの差で知識のない者が逆転するチャンスが生じる。

もう一つのパズルとは、以下のような問題である。

平成11年度旧司法試験短答式第54問)

 後記アからカまでの文章の(  )内に語句群から適切な語句を入れた上で,これらの文章を次の【@】から【E】までに正しく入れると,賄賂罪の保護法益に関する学生AとBの意見が完成する。このうち【A】,【C】,【D】の(  )内に入る語句のうち,使用回数の最も多い語句と最も少ない語句の使用回数の差は何回か。

A 「刑法の規定を見ると,【@】のであるから,【A】と解される。したがって,【B】。」

B 「君の見解は,【C】。むしろ,僕は,【D】と考える。したがって,具体的結論としては,【E】。」

ア (  )か,(  )かのどちらか一方というのではなく,その両方を保護法益として考慮しており,現実に(  )が害されなくても(  )に対する社会の信頼を損なう行為をすれば処罰に値する

イ (  )により(  )が害されるか,少なくともその危険がある場合のみ処罰の対象とすべきであって,飽くまでも(  )が保護法益である

ウ たとえ(  )でも,(  )に関して金銭等の授受が行われるならば,(  )に対する社会の側の信頼は同じように動揺することから,職務との関連性を(  )することができる

エ (  )があったというだけで,職務行為の正・不正にかかわらず処罰することを原則とし,(  )職務行為があったときには刑を加重している

オ たとえ(  )でも(  )に関して金銭等の授受があれば(  )に対する社会の信頼は害されるという理由で,賄賂罪の成立を(  )することはできない

カ (  )に対する社会の信頼というような漠然としたものを保護法益と解することにより,賄賂罪の成立範囲を無限定なものとするおそれがある

【語句群】 A 賄賂の授受等  B 職務の公正  C 正当な
  D 不正な  E 職務の不可買収性  F 職務に属さない行為
  G 肯定  H 否定  I 職務と密接な関係のある行為

1.1回  2.2回  3.3回  4.4回  5.5回

穴埋めをさせ、文章を並べ替えさせ、語句の数を数えさせて引き算させる。
どこかでケアレスミスをすれば、そこでアウトである。
ミスをしないようにとゆっくり解くと、時間切れになる。
これなら、知識の十分な者を、引っ掛けて落とすことができる。
これは、知識のない者を受からせる工夫としては、とても効果的だった。
しかし、あまりに露骨に使いすぎた。
受験テクニック偏重の象徴して指弾され、新司法試験では使うことを封じられている。

司法試験における短答式試験の出題方針について、下線は筆者)

 司法試験の短答式による筆記試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが,その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わないものとする。

従って、現在では、難易差の極端化とミスの誘発しか使えない。
新しい工夫を編み出してくる可能性はあるが、当面はこれらを用いてくるだろう。
短答3科目化が実現する場合、この点に注意する必要がある。
どうみても取れない難問が、意識的に出題される。
そういうものまで取ろうとして勉強するのは、効率的でない。
あるいは、知識的には難しくないが、正しいとも誤っているとも読めるもの。
こういうものは、一見すると解けそうなので時間をロスしがちだ。
時間をロスした結果、他の簡単な問題が取れなくなる。
こういう問題に遭遇したら、意図的に作られたワナだと見切って、早く飛ばす。
そして、簡単な問題を確実に取る。
問題文を慎重に読み、ケアレスミスをしない。
ミスの誘発という点では、問題数と試験時間をタイトにしてくる可能性がある。
現在はそれほど意識しなくてもよいが、時間管理が重要になってくるかもしれない。
そうなると、捨て問の作り方や早解きのテクニックが、また必要になってくる。
まだ確実なことはわからないが、3科目化が実現した場合、警戒が必要である。

短答は非法学部が強い

不思議なことに、短答では非法学部が強い。
既修と未修、いずれも非法学部の方が短答合格率が高い。
特に、既修では6%以上も差が付いている。
非法学部が短答に強いのは、例年の確立した傾向である。
(平成21年既修、平成23年を除く、「司法試験・司法修習について」19頁以下参照。)
今のところ、この原因はよくわからない。
法学部出身だと、油断して短答プロパーの勉強を怠りがちになる。
そういうことも考えられるが、それだけでこの差を説明するのは難しいだろう。

既修にみられる論文における法学部の強さ

もう一つ、不思議なことは、論文で生じる既修法学部の強さである。
既修の論文合格率をみると、法学部が非法学部より10%以上高い。
これは、顕著な差といえる。
一方で、未修では、そこまでの差はない。
これも、毎年のように生じている現象である。
原因は、よくわからない。
(単に既修法学部が優秀だ、というなら、短答合格率も高いはずである。)

非法学部は短答に強く、論文に弱い。
その傾向は、既修未修に共通する。
この傾向を持つ層は、高年齢者層である。
だとすると、非法学部は高年齢者層が多いのではないか。
そういう予測が成り立つ。
法学部以外を卒業して一度社会人等を経験した30代以降の層。
こういった人たちが、非法学部には多いのかもしれない。
もっとも、それだけでは、既修と未修の差を説明しにくい。
なぜ、既修の場合だけ、顕著な差が付くのか。
今のところ、これは謎である。

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