平成25年予備試験論文式試験の結果について(4・完)

口述試験の採点基準

今回論文に合格した人は、次に口述が待っている。
旧試験と違って、落ちたらまた短答からである。
(旧試験では、もう1回口述から受験できた。)
その意味で、厳しい試験である。

口述試験は、実務基礎の民事と刑事で行われる。
各科目、得点は以下のような基準によるとされている。

(「司法試験予備試験口述試験の採点及び合否判定の実施方法・基準について」より引用、下線は筆者)

1.採点方針

 法律実務基礎科目の民事及び刑事の採点は次の方針により行い,両者の間に不均衡の生じないよう配慮する。

(1) その成績が一応の水準を超えていると認められる者に対しては,その成績に応じ,

63点から61点までの各点

(2) その成績が一応の水準に達していると認められる者に対しては,

60点(基準点)

(3) その成績が一応の水準に達していないと認められる者に対しては,

59点から57点までの各点

(4) その成績が特に不良であると認められる者に対しては,その成績に応じ,

56点以下

2.運用
(1) 60点とする割合をおおむね半数程度とし,残る半数程度に61点以上又は59点以下とすることを目安とする。
(2) 61,62点又は58,59点ばかりでなく,63点又は57点以下についても積極的に考慮する。

これをみると、それなりに得点幅が生じるように思える。
しかし実際には、61点、60点、59点以外の点は、ほとんど付かないと言われている。
(2(2)の「積極的に考慮」は死文化している。)
すなわち、半数は60点。
4分の1が61点。
残る4分の1が、59点という感じになっているようだ。

合格点の水準

合否は、民事と刑事の合計点で決まる。
なお、どちらかを欠席すると、それだけで不合格となる。

(「司法試験予備試験口述試験の採点及び合否判定の実施方法・基準について」より引用、下線は筆者)

3 合否判定方法
 法律実務基礎科目の民事及び刑事の合計点をもって判定を行う。
 口述試験において法律実務基礎科目の民事及び刑事のいずれかを受験していない場合は,それだけで不合格とする。

(引用終わり)

実際の合格点は、どうなっているか。
平成23年及び平成24年のいずれも、合格点は119点となっている。
すなわち、118点以下の者が、不合格となる。

前記のとおり、実際には各科目59点より下の点数は付かないと考えてよい。
(58点以下は、考査委員と口論になるとか、途中で泣き出して何もしゃべらない、あるいは勝手に席を立った場合などだろう。)
従って、不合格となるのは、民事も刑事も59点だった場合だけである。
そして、前記のとおり、59点になるのは、全体の4分の1だ。
両方59点を取るのは、16分の1。
すなわち、理論的な合格率は、93.75%である。
実際の合格率は、以下のようになっている。

 

口述
受験者数

口述
合格者数

合格率

平成23

122

116

95.08%

平成24

233

219

93.99%

概ね、近い数字である。
仮に、58点以下の点数が付いていたら、58点−60点の組み合わせなども不合格となる。
従って、93.75%より低い数字になるはずだ。
しかし実際には、93.75%以上の数字になっている。
このことからも、実際には58点以下の点数が付いていないことを推測させる。

今年の論文合格者は、381人。
全員が受験した場合、合格率が93.75%だとすると、381×0.9375≒357人が合格。
24人が不合格ということになる。
実際の合格者数も、概ねその前後の数字になるだろう。

口述のテクニック

上記のことから、落ちるのは、民事と刑事が両方ダメな人である。
どちらか一方でも基準点の60点を取れば、合格できる。
逆に言えば、どちらか一方だけで不合格になることはない。
仮に、初日の民事の出来が悪かったとする。
多くの人が、「これで落ちた」と思ってしまう。
(9割以上受かるとわかっていても、受験直後の感触は最悪であることの方が多い。)
しかし、民事だけで不合格になることはない。
仮に、本当に出来が悪くて民事が59点だったとしよう。
それでも、刑事で普通に60点を取れば、合格できる。
刑事で良い点を取って、「挽回」する必要はない。
従って、民事が悪くても、刑事を普通に切り抜けることを考えるべきである。
間違っても、刑事で細かいことまで答えて、加点を取ろうと思ってはいけない。
そうやって無理をすると、かえって刑事も59点になってしまうおそれがある。

前記のように、各科目で59点になるのは、全体の4分の1である。
すなわち、「下位25%に入らない」が口述の目標となる。
これは、そんなに難しくない。
ただ、ライバルは全員論文合格者である。
しかも、直前期に結構詰め込んでくる。
意外と、細かい条文なども答える人が多い。
油断していると、下位25%に入ってしまう。
前記のとおり、民事と刑事で両方下位25%を取ると、不合格になる。
そう考えると、意外と手ごわい試験である。
やはり、それなりに勉強はしておくべきだ。
(この間の勉強量が、現場での精神の安定に寄与するという意味もある。)
民事、刑事共に手続法が中心となるので、規則も含めて条文を把握しておく。

口述特有のこととして、条文番号を訊いてくることがある。
例えば、

主査「手元にある事例のケースで、Xはどのような請求をしますか。」

受験生「はい、債務不履行に基づく請求をします。」

主査「根拠条文は何条ですか。」

受験生「はい、415条前段です。」

という感じだ。
もちろん、法文を見ればすぐにわかる。
しかし、法文を見ないで答えられるなら、すぐ答えた方がよい。
口述試験では、時間は貴重だ。
上記のような基本的な条文について、一々法文を見るのは避けたい。
(ただし、現場でわからなければ素直に法文をみるべきである(後述)。)
従って、基本的な条文は、条文番号を覚えておこう。
それから、民事については、執行保全の概略程度を知っておきたい。
要件事実も、できる限り復習しておこう。

とはいえ、合否は意外と知識では決まらないところがある。
考査委員は、丁寧に誘導してくれる。
最初に答えられなくても、「○○できる制度はなかったっけ」などとヒントをくれる。
場合によっては、「○○条をみてごらん」などと、ほとんど答えを教えてくれる。
このような誘導に普通に乗れれば、59点を取ることはない。
まずいのは、以下のような場合だ。

主査「無断転貸があった場合、賃貸人はどのようなことができますか。」

受験生「はい、賃貸借契約を解除できます。」

主査「根拠条文は何条ですか。」

受験生「はい、541条です。」

主査「えっ。本当に?」

受験生「はい。債務不履行ですので。」

主査「他に条文はなかったかな。」

受験生「ないと思います。」

主査「法文で確認してもいいですよ」

受験生「いえ、結構です。」

主査「・・・そうですか。わかりました。次の質問に行きます。」

上記は極端な例だが、似たようなことは、思わずやってしまうことがある。
最後の「いえ、結構です」は、普通に考えて絶対やらないと思うだろう。
しかし、変に緊張していると、条件反射でおかしな挙動をしてしまう。
(口述の緊張感は、論文とは比較にならない。)
言った後に、「しまった」と思っても、もう次の質問が始まっている。
この時点では、もはや撤回できない。
上記でまずいのは、条文を間違えたことではない。
その後の撤回のチャンスを、全部逃していることである。
基本的なところで、こういうひどい受け応えをすると、59点になってしまう。

それから、もう一つ最悪なのは、黙ってしまうことだ。
ただ黙っているだけの相手には、考査委員もヒントを出しにくい。
とにかく、思いついたものを言ってみる方がよい。
それに対する考査委員の反応を見つつ、対応する。
仮に間違っていても、「そうではなくてね、もっと直接的な根拠がありませんでしたか?」などとヒントが出る。
口述では、間違ったことを言ったから減点、ということはない。
それは、前記の採点基準(事実上3段階しかない)から明らかだろう。
むしろ、考査委員と対話しながら最終的に正解に到達しうる力があるか、が問われている。

よくあるのは、「あなたが言いたいのは○○(正解)ってことですね。はい、わかりました」と勝手に考査委員が答えを言うケースだ。
これは、受験生としては、「しまった先に言われた」と思うだろう。
しかし、どうやらこのケースは正解を答えた扱いのようだ。
(考査委員の心理としては、「この人は意味としてはわかっているから早く次の質問に行きたい」という場合である。)
だから、このケースで不安になる必要はない。

もう一つ、以下のように聞き返す方法もある。

主査「この事例でXの取り得る手段として何かありますか。」

受験生「えー・・・、これは実体法上の手段でしょうか・・それとも・・」

主査「もう判決は出てる事例ですから、執行の場面を考えてください。」

受験生「あ、はい、甲債権を差し押さえます。」

抽象的に「手段」と言われて、何を答えていいか分からない。
そういうときに、とりあえず「実体法上の手段ですか」などと聞き返してみる。
(この場合、困ったような顔で聞き返した方が、親切に教えてもらいやすい。)
そこで、「執行の場面」と言われれば、パッと浮かんだりする。

※ただし、質問をそのままオウム返しに聞き返すのはさすがにダメだ。
例えば、

主査「この場合、明渡請求はできますか。」

受験生「えっ?明渡請求できるんですか?」

主査「私が訊いているんですよ。」

という気まずい流れになる。

いずれにせよ、このような流れは、沈黙からは絶対生じない。
この当たりの臨機応変さの方が、知識より重要だろう。

友人にも論文合格者がいる場合は、考査委員の役と受験生の役を交互にやってみるとよい。
考査委員の役をやると、誘導する側の気持ちがわかる。

法文は、机上に用意されている。
しかし、勝手に見てはいけない。
考査委員に一言、「法文を見てもよろしいでしょうか」と許可を取ってから見る。
法文は、「できれば見ないで答えるが、必要なら躊躇なく見る」が基本だ。
自信がなければ、きちんと法文で確認すべきだろう。
一番良くないのは、自信満々で間違いを答えることである。
(法文を確認すればすぐわかることを、確認もしないで間違えるというのは、法曹として失格だという感覚だろう。)
自信がない場合は、自信なさげに、「○○条だったと思いますが・・」と答えるとよい。
考査委員が「うーん。もうちょっと後だね」などと教えてくれたりもする。
(自信満々に間違えた場合、考査委員の態度は冷たい。)
それでもわからないようなら、「どうぞ、法文で確認してみてください」と言われたりする。
その時点で、法文を見るということでもよいだろう。
ただ、口述では、時間は貴重である。
上記のやり取りで時間を使ってしまい、先の質問に行けない場合もある。
いきなり法文を見るのに抵抗があるということもあるとは思うが、必要なら早く見た方が良いだろう。

予備校では、口述再現集などを市販したり、ガイダンスで配布したりしている。
これらを入手して、雰囲気を掴むのもよいだろう。
ただ、再現は後から整理して作られている。
(都合の悪いやり取りは、恥ずかしいから書かない人もいる。)
文章でみると、スラスラ答えているように、みえるものである。
しかし、実際はもう少し、しどろもどろになっているのが普通だ。
その辺りは、割り引いて読むようにした方がよい。

法曹倫理に関しては、前日に弁護士職務基本規程に目を通す程度でよい。
会場での待ち時間に確認してもよいだろう。

なお、試験会場では、電子機器は使用できない。
電子書籍リーダーなどに情報を一元化している人は、注意すべきである。
場合によっては、会場内での待ち時間が長時間に及ぶこともある。
その間に目を通す教材は、予め用意しておくべきだろう。

戻る