刑訴とは異なる違法性の承継

1 混同されがちな論点

 司法試験定義趣旨論証集(行政法)の違法性の承継の論証は、一部予備校等の説明とは異なるために、違和感を感じた人もいるかもしれません。ここは、刑訴の違法性の承継や公定力についてのかつての適法性推定説からの説明と混同しがちなところです。今回は、この点を説明したいと思います。

2 刑訴における違法性の承継

 刑訴における違法性の承継は、違法な先行手続を同一目的により直接利用する後行手続によって証拠が採取されたような場合に、後行手続も違法とする理論です。そして、後行手続の違法について違法収集証拠排除法則の要件(重大違法及び排除相当性)を充足すれば、後行手続の違法によって証拠排除される。そのことを示したのが、最判昭61・4・25最判昭63・9・16と理解できます。

 

最判昭61・4・25より引用、太字強調は筆者)

 本件においては、被告人宅への立ち入り、同所からの任意同行及び警察署への留め置きの一連の手続と採尿手続は、被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という同一目的に向けられたものであるうえ、採尿手続は右一連の手続によりもたらされた状態を直接利用してなされていることにかんがみると、右採尿手続の適法違法については、採尿手続前の右一連の手続における違法の有無、程度をも十分考慮してこれを判断するのが相当である。そして、そのような判断の結果、採尿手続が違法であると認められる場合でも、それをもつて直ちに採取された尿の鑑定書の証拠能力が否定されると解すべきではなく、その違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり、右鑑定書を証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められるときに、右鑑定書の証拠能力が否定される

(引用終わり)

最判昭63・9・16より引用、太字強調は筆者)

 本件所持品検査は、被告人の承諾なく、かつ、違法な連行の影響下でそれを直接利用してなされたものであり、しかもその態様が被告人の左足首付近の靴下の脹らんだ部分から当該物件を取り出したものであることからすれば、違法な所持品検査といわざるを得ない。次に、(8)の採尿手続自体は、被告人の承諾があつたと認められるが、前記一連の違法な手続によりもたらされた状態を直接利用して、これに引き続いて行われたものであるから、違法性を帯びるものと評価せざるを得ない(最高裁昭和六〇年(あ)第四二七号同六一年四月二五日第二小法廷判決・刑集四〇巻三号二一五頁参照)。
 所持品検査及び採尿手続が違法であると認められる場合であつても、違法手続によつて得られた証拠の証拠能力が直ちに否定されると解すべきではなく、その違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり、証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められるときに、その証拠能力が否定されるというべきである(最高裁昭和五一年(あ)第八六五号同五三年九月七日第一小法廷判決・刑集三二巻六号一六七二頁参照)。

(引用終わり)

 

 もっとも、近時の学説は、毒樹の果実論で処理すれば足りるから、違法性の承継を考える必要はないとするのが有力です。判例も、違法収集証拠排除法則の適用範囲を違法な手続と密接に関連する証拠にまで広げているようにみえます。このように考えれば、後行手続によって採取された証拠は、先行手続の違法によって排除されることになります。

 

最判平15・2・14より引用、太字強調は筆者)

 本件の経緯全体を通して表れたこのような警察官の態度を総合的に考慮すれば,本件逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものであると評価されてもやむを得ないものといわざるを得ない。そして,このような違法な逮捕に密接に関連する証拠を許容することは,将来における違法捜査抑制の見地からも相当でないと認められるから,その証拠能力を否定すべきである(最高裁昭和51年(あ)第865号同53年9月7日第一小法廷判決・刑集32巻6号1672頁参照)。

(引用終わり)

 

 上記で引用されている最判昭53・9・7は、違法収集証拠排除法則を判示した判例です。これを密接関連する証拠について引用することは、違法収集証拠排除法則の適用範囲を、密接関連性を有する証拠にまで拡大したことを意味するとみることができるわけです。
 もっとも、上記のことは、密接関連性を有することによって後行手続に違法性が承継し、その後行手続の違法性によって証拠排除されることによると考える余地があります。上記最判平15・2・14と、近時の最決平21・9・28では、関連性が密接である等の事情が関連証拠の収集手続の重大違法を基礎付けるかのような判示となっているからです。

 

最判平15・2・14より引用、太字強調は筆者)

 本件覚せい剤は,被告人の覚せい剤使用を被疑事実とし,被告人方を捜索すべき場所として発付された捜索差押許可状に基づいて行われた捜索により発見されて差し押さえられたものであるが,上記捜索差押許可状は上記 (2)の鑑定書を疎明資料として発付されたものであるから,証拠能力のない証拠と関連性を有する証拠というべきである。
 しかし,本件覚せい剤の差押えは,司法審査を経て発付された捜索差押許可状によってされたものであること,逮捕前に適法に発付されていた被告人に対する窃盗事件についての捜索差押許可状の執行と併せて行われたものであることなど,本件の諸事情にかんがみると,本件覚せい剤の差押えと上記(2)の鑑定書との関連性は密接なものではないというべきである。したがって,本件覚せい剤及びこれに関する鑑定書については,その収集手続に重大な違法があるとまではいえず,その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると,その証拠能力を否定することはできない

(引用終わり)

最決平21・9・28より引用、太字強調は筆者)

 本件覚せい剤等は,同年6月25日に発付された各捜索差押許可状に基づいて同年7月2日に実施された捜索において,5回目の本件エックス線検査を経て本件会社関係者が受け取った宅配便荷物の中及び同関係者の居室内から発見されたものであるが,これらの許可状は,4回目までの本件エックス線検査の射影の写真等を一資料として発付されたものとうかがわれ,本件覚せい剤等は,違法な本件エックス線検査と関連性を有する証拠であるということができる。
 しかしながら,本件エックス線検査が行われた当時,本件会社関係者に対する宅配便を利用した覚せい剤譲受け事犯の嫌疑が高まっており,更に事案を解明するためには本件エックス線検査を行う実質的必要性があったこと,警察官らは,荷物そのものを現実に占有し管理している宅配便業者の承諾を得た上で本件エックス線検査を実施し,その際,検査の対象を限定する配慮もしていたのであって,令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったとはいえないこと,本件覚せい剤等は,司法審査を経て発付された各捜索差押許可状に基づく捜索において発見されたものであり,その発付に当たっては,本件エックス線検査の結果以外の証拠も資料として提供されたものとうかがわれることなどの諸事情にかんがみれば,本件覚せい剤等は,本件エックス線検査と上記の関連性を有するとしても,その証拠収集過程に重大な違法があるとまではいえず,その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると,その証拠能力を肯定することができる

(引用終わり)

 

 上記判例が、いずれも「その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると」としている点も重要です。現在の司法試験では、法律構成よりも事実の評価が重視されていますから、「違法性の承継」なのか「毒樹の果実」なのか、という抽象論よりも、関連性があるか、関連性が密接である等の事情により収集過程に重大違法があると評価できるか、証拠の重要性等証拠として許容すべき事情があるかといった点を幅広く具体的に評価して結論を出すことの方が、配点を取りやすいでしょう。

3 行政法における違法性の承継

 以上みてきたように、刑訴における違法性の承継論は、専ら適法性の問題です。その背後にあるのは、「独立の手続だから適法性は別個に判断するのが原則だが、適正手続の観点から一定の場合には先行手続の違法がそのまま後行手続の違法となることを認める」という考え方です。
 これに対し、行政法における違法性の承継は、有効性の問題だ、ということが、一般によく理解されていない点です。「違法性の承継が生じるのは、先行行為が「処分」である場合である」とされるのは、処分には公定力が生じるために、当該処分の取消訴訟によらない限りその効力を否定できないということに根拠があるからです。公定力が専ら有効性の問題であることは、前回記事(「公定力関連の論点について」)で述べたとおりです。これを適法性の問題と混同するのは、従来の適法性推定説の残滓といえます。すなわち、「先行処分の公定力により、先行処分の取消訴訟によらなければその適法性を争えないから違法は承継しないのが原則である」という説明は、現在では誤っているのです。
 では、なぜ、「違法性の承継」が問題となるのか。すなわち、先行処分の違法を後行処分の抗告訴訟において主張できるか、という問題が生じるのでしょうか。それは、先行処分が有効であることが、後行処分の適法要件となっているからです。
 最判平21・12・17は、違法性の承継を認めた著名な判例ですが、これは、安全認定の効力によって東京都建築安全条例4条1項の適用が排除されることによって、建築確認の要件を具備することになるという事案でした。従って、安全認定の効力が否定されれば、建築確認がその適法要件を欠いて違法になる。そういう関係があったわけです。

 

最判平21・12・17より引用、太字強調は筆者)

 東京都建築安全条例(昭和25年東京都条例第89号。以下「本件条例」という。)4条1項は,法43条2項に基づき同条1項に関して制限を付加した規定であり,延べ面積が1000㎡を超える建築物の敷地は,その延べ面積に応じて所定の長さ(最低6m)以上道路に接しなければならないと定めている。ただし,本件条例4条3項は建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合においては,同条1項の規定は適用しないと定めている(以下,同条3項の規定により安全上支障がないと認める処分を「安全認定」という。)。

(引用終わり)

 

 すなわち、安全認定の違法が、そのまま建築確認に「承継」されるわけではない。この点に注意すべきです。一般に違法性の承継の問題とされている課税処分と滞納処分、事業認定と収用裁決の関係も同様です。「先行処分の違法が後行処分に承継される」という表現は、「先行処分が違法であることからその効力が否定されることによって、後行処分の適法要件が欠けることになるために、結果的に後行処分も違法になること」を(やや極端に)端折った表現といえます。
 ですから、「先行処分と後行処分は独立の処分であるから、原則として違法性は承継されないが~という場合には、例外的に違法性が承継される」というような刑訴の場合と同様の論証は、誤りなのです。手続の独立性が理由なら、先行行為は処分である必要はない。行政法でいうところの違法性の承継が問題になるのは、「公定力により先行処分の有効性を後行処分の抗告訴訟では争えないのが原則」だからです。司法試験定義趣旨論証集(行政法)では、その点を明確にした論証になっています。
 なお、刑訴と同様の「独立の手続だから違法性は別個に判断すべきであるが、先行手続の違法が重大なときは適正手続の観点から例外的に後行手続も違法になる」という考え方は、行政法にも存在します。司法試験定義趣旨論証集(行政法)でいえば、「違法な行政調査を基礎にした処分の適法性」の論点がそれに当たります。この場合の違法な行政調査は、必ずしも処分である必要はありません。

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