処分性要件においてごみ焼却場事件判例を用いなかった理由

1 司法試験定義趣旨論証集(行政法)では、「処分性(行訴法3条2項)の判断基準」という論点名で、処分性要件の論証を掲載しています。処分性要件については、ごみ焼却場事件判例が一般論を示していることから、これを引用するという方法もあります。

 

ごみ焼却場事件判例より引用、太字強調は筆者)

 行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分とは、所論のごとく行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。

(引用終わり)

 

 これを引用して論証するとすれば、以下のような書き方になるでしょう。

「行訴法3条2項の処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為であって、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(ごみ焼却場事件判例参照)。」

 この書き方は、著名な判例を端的に示して論証できる点で優れています。現在でも、基本書等で引用されている判例ですから、これを引いて間違っているということはありません。予備校等で上記のような論証が示されていることが多いのも、十分理由のあることです。

2 しかし、この書き方は、実際に事例問題を解く際には、意外と使いにくいのです。
 一つは、公権力性の意義が明らかになっていないという点です。ごみ焼却場事件の規範では、公権力性は、単に「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為」であれば足りるようにみえます。しかし、これでは主体が国か公共団体であれば、行為の性質とは無関係に公権力性が認められることになる。国が私人と対等の立場で私法上の契約を締結する場合を考えれば、これが誤りであることは明らかでしょう。実際に判例が用いている公権力性のメルクマールは、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行うものであるかどうかです。

 

最判平6・4・19より引用、太字強調は筆者)

 法規の定めやその趣旨等からすると、充当は、国税局長等が、行政機関としての立場から法定の要件の下に一方的に行う行為であって、それによって国民の法律上の地位に直接影響を及ぼすものというべきであり、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

(引用終わり)

最判平15・9・4より引用、太字強調は筆者)

 労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は,法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり,被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

(引用終わり)

 

 また、もう一つの直接法効果性の意義についても、難があります。ごみ焼却場事件判例の規範によれば、「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められている」ことが必要だということになります。しかし、これは実際に事例を当てはめようとすると、相当狭いということに気付くはずです。現在の判例で用いられているメルクマールは、相手方の法的地位に直接の影響を及ぼすか否かです。

 

最判平6・4・19より引用、太字強調は筆者)

 法規の定めやその趣旨等からすると、充当は、国税局長等が、行政機関としての立場から法定の要件の下に一方的に行う行為であって、それによって国民の法律上の地位に直接影響を及ぼすものというべきであり、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

(引用終わり)

最判平15・9・4より引用、太字強調は筆者)

 労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は,法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり,被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

(引用終わり)

最判平21・4・17より引用、太字強調は筆者)

 本件応答は,法令に根拠のない事実上の応答にすぎず,これにより上告人子又は上告人父の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しない。

(引用終わり)

 

3 このように、ごみ焼却場事件判例の規範は、実際の事例問題の当てはめにそのまま使うには、問題があるのです。そこで、上記で示した判例のメルクマールを端的に示したのが、司法試験定義趣旨論証集(行政法)の論証です。

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