処分性要件と実効的な権利救済の合理性

1 今回は、司法試験定義趣旨論証集(行政法)における「段階的処分における処分性の判断基準」の論点について、その趣旨を補足しておきたいと思います。
 近時、処分性の要件として、従来からの公権力性、直接法効果性に加えて、実効的な権利救済の合理性も考慮すべきである、というように言われます。
 そのきっかけは、土地区画整理事業計画決定の処分性を認めた最大判平20・9・10です。

 

最大判平20・9・10より引用、太字強調は筆者)

 以上によれば,市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は,施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって,抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって,上記事業計画の決定は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。

(引用終わり)

 

 従来の判例の規範からすれば、「抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有する」の部分だけで、処分性肯定の結論が出るはずです。にもかかわらず、最高裁はさらに実効的な権利救済の合理性を追加しています。
 形式的にみると、上記判例は、処分性要件に新たに実効的な権利救済の合理性という要件を追加したようにも読めます。しかし、単純に要件を加重したと考えるのはおかしいでしょう。なぜなら、この判例は、従来処分性を認めていなかったものを認めた。すなわち、処分性を広げる判断をしたものだからです。単純に要件を加重すれば、むしろ処分性は狭くなるはずです。
 従って、本判例の上記部分は、むしろ、従来よりも直接法効果性の要件を緩和したので、不当に処分性の範囲が拡大しないようにするために、補充的要件として、実効的な権利救済の合理性を要求したと考えることになるわけです。

2 これまで、実効的な権利救済の合理性を考慮した判例としては、以下のようなものが挙げられます。

 

最判平21・11・26より引用、太字強調は筆者)

 公の施設である保育所を廃止するのは,市町村長の担任事務であるが(地方自治法149条7号),これについては条例をもって定めることが必要とされている(同法244条の2)。条例の制定は,普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから,一般的には,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでないことはいうまでもないが,本件改正条例は,本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって,他に行政庁の処分を待つことなく,その施行により各保育所廃止の効果を発生させ,当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して,直接,当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから,その制定行為は,行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる。
 また,市町村の設置する保育所で保育を受けている児童又はその保護者が,当該保育所を廃止する条例の効力を争って,当該市町村を相手に当事者訴訟ないし民事訴訟を提起し,勝訴判決や保全命令を得たとしても,これらは訴訟の当事者である当該児童又はその保護者と当該市町村との間でのみ効力を生ずるにすぎないから,これらを受けた市町村としては当該保育所を存続させるかどうかについての実際の対応に困難を来すことにもなり,処分の取消判決や執行停止の決定に第三者効(行政事件訴訟法32条)が認められている取消訴訟において当該条例の制定行為の適法性を争い得るとすることには合理性がある
 以上によれば,本件改正条例の制定行為は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。

(引用終わり)

 

最判平24・2・3より引用、太字強調は筆者)

 都道府県知事は,有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合において,当該施設を設置していた者以外に当該施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者,管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)があるときは,当該施設の使用が廃止された際の当該土地の所有者等(土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)13条括弧書き所定の場合はその譲受人等。以下同じ。)に対し,当該施設の使用が廃止された旨その他の事項を通知する(法3条2項,同施行規則13条,14条)。その通知を受けた当該土地の所有者等は,法3条1項ただし書所定の都道府県知事の確認を受けたときを除き,当該通知を受けた日から起算して原則として120日以内に,当該土地の土壌の法2条1項所定の特定有害物質による汚染の状況について,環境大臣が指定する者に所定の方法により調査させて,都道府県知事に所定の様式による報告書を提出してその結果を報告しなければならない(法3条1項,同施行規則1条2項2号,3項,2条)。これらの法令の規定によれば,法3条2項による通知は,通知を受けた当該土地の所有者等に上記の調査及び報告の義務を生じさせ,その法的地位に直接的な影響を及ぼすものというべきである。

 都道府県知事は,法3条2項による通知を受けた当該土地の所有者等が上記の報告をしないときは,その者に対しその報告を行うべきことを命ずることができ(同条3項),その命令に違反した者については罰則が定められているが(平成21年法律第23号による改正前の法38条),その報告の義務自体は上記通知によって既に発生しているものであって,その通知を受けた当該土地の所有者等は,これに従わずに上記の報告をしない場合でも,速やかに法3条3項による命令が発せられるわけではないので,早期にその命令を対象とする取消訴訟を提起することができるものではない。そうすると,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,同条2項による通知がされた段階で,これを対象とする取消訴訟の提起が制限されるべき理由はない
 以上によれば,法3条2項による通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。

(引用終わり)

 

最判平24・2・9より引用、太字強調は筆者)

 本件職務命令も,教科とともに教育課程を構成する特別活動である都立学校の儀式的行事における教育公務員としての職務の遂行の在り方に関する校長の上司としての職務上の指示を内容とするものであって,教職員個人の身分や勤務条件に係る権利義務に直接影響を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないと解される。なお,本件職務命令の違反を理由に懲戒処分を受ける教職員としては,懲戒処分の取消訴訟等において本件通達を踏まえた本件職務命令の適法性を争い得るほか,後述のように本件に係る事情の下では事前救済の争訟方法においてもこれを争い得るのであり,本件通達及び本件職務命令の行政処分性の有無について上記のように解することについて争訟方法の観点から権利利益の救済の実効性に欠けるところがあるとはいえない

(引用終わり)

 

 上記各判例に共通しているのは、明らかに処分となり得る手続の前段階の手続について、処分性が認められるかが問題となっているという点です。
 そもそも、処分に直接法効果性が必要とされてきたのは、効果の生じていないものを取り消す意味がない、という素朴な理由でした。これは、民法で、まだ契約が成立していないのに、詐欺取消しや錯誤無効を認める必要がないのと同じです。ところが、A→B→Cという手続の流れにおいて、Cは明らかに直接法効果性のある処分であるが、この段階で争っても権利救済が果たされない、という場面が生じた。そこで、Bの段階で処分性を認めて争うことができないか。そういうことが、問題になってきた。そこで、Bの場合にも処分性を認めるようになってきたのが、現在の判例の傾向です。
 ただ、その反面で、いつもBの段階で争えるとすると、今度は逆に広すぎることになる。そこで、その歯止めとして、実効的な権利救済の合理性が要求された。そのように理解することができます。このことは、上記各判例のうち、処分性を肯定するものは、常に直接法効果性と実効的な権利救済の合理性の両方を認めているのに対し、処分性を否定した最判平24・2・9においては、直接法効果性を否定した時点で処分性否定の結論が出るから、権利救済の実効性に関する判示部分は、「なお」として付言されているに過ぎないことからもわかります。

3 もっとも、段階的処分における前段階の手続に処分性を認めるという場面で、常に実効的な権利救済の合理性が独立の要件となるかは微妙です。問題となっている前段階の手続の性質、とりわけ、その時点で生じる法的効果との相関関係で考慮すべきであるともいえるからです。そのため、司法試験定義趣旨論証集(行政法)では、「段階的処分における処分性の判断基準」において、「考慮すべき」という表現にとどめています。
 それに対して、やや踏み込んでいるのが、「行政指導の直接法効果性」の論点です。ここでは、病床数削減勧告の処分性に関する判例を引用していますが、この判例自体は明示していない実効的な権利救済の合理性を、要件として加えています。行政指導には何ら法的効果はありませんから、従来の判断基準によれば処分でないことが明らかなものであるために、実効的な権利救済の合理性を独立して要求する必要性が強いからです。この判例の事案も、保険医療機関の指定を争ったのではそれまでの病院開設準備が無駄となるために、勧告段階で争うことに実効的な権利救済の合理性が認められる場合であり、判示もそれを当然の前提としていました。同判例がこれを明示しなかったのは、最初にこの要件を判示した前記最大判平20・9・10より前の判例だったからだ、と理解できます。この要件を入れていないと、行政指導不遵守と他の制度における申請に対する処分又は不利益処分が事実上結びつく場合一般が広く含まれてしまいますから、これは必須の要件でしょう。こういうところは、事例判例を一般化して使う際には気をつけなければならない点です。

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