平成26年司法試験論文式公法系第2問参考答案

 

第1.設問1

1.本件要綱は、採石法(以下「法」という。)及び同施行規則の委任を受けて採石認可に関する細目を定める法規命令(行手法2条8号イ)ではない。従って、法規範性のない行政規則である。そうである以上、B県知事が、本件要綱に反するとして採石認可申請を拒否することが、当然に適法となるわけではない。

2.もっとも、法及び同施行規則に従って判断するに当たり、本件要綱を認可の許否の基準とすることが、都道府県知事の裁量権の行使として許されるのであれば、法令に基づく処分として適法となる。この場合、本件要綱は審査基準(行手法2条8号ロ)としての性質を有することになり、事実上の外部効果を有することになる。

3.そこで、採石認可に係る都道府県知事の裁量の範囲を検討する。

(1)採石認可には、新たに創設された採石権という特殊な権利(1条)の付与という点で講学上の特許としての性質がある。他方、採石による災害防止(1条)のための一般的禁止を個別に解除する(法33条、同条の4、43条3号)という意味において、講学上の(警察)許可としての性質をも有している。
 従来、特許は権利付与処分であるから自由裁量行為であるが、許可は本来自由な行為に対する消極的規制であることから覊束行為であると考えられてきた。しかし、裁量の広狭は国民の自由の制約の程度、規定文言の抽象性・概括性、専門技術性及び公益上の判断の必要性、制度上及び手続上の特別の規定の有無等によるから、特許であるか、許可であるかは裁量の広狭の結論を左右するものではない(群馬バス事件判例参照)。

(2)まず、都道府県知事は、法33条の4の要件に該当するときは採石認可ができない(「認めるときは・・・してはならない」)。
 また、一般に事業の許可制は職業の自由に対する強力な制限である(薬事法事件参照)のに対し、同条が公共の福祉に反する場合を広く拒否理由としていることを考慮すると、同条に当たらない場合には認可を拒否する必要性に乏しい。従って、同条の要件に該当しない場合には、認可をしなければならないと考えられる。
 以上のとおり、法は、都道府県知事の効果裁量を認めていない。

(3)他方、同条の要件をみると、「公共の福祉に反すると認める」という概括的・抽象的文言を用いている。また、採石による災害の危険性、損害の重大性等の評価には、専門的・公益的判断が必要となる一方で、その判断についての他の機関への諮問等特別の制度上・手続上の規定はない。以上を考慮すると、法は、都道府県知事の要件裁量を認めている。

4.では、B県知事は、法33条の4の要件該当性の判断において、本件要綱を審査基準とすることはできるか。

(1)裁量権の行使は、その権限の逸脱・濫用となる場合、すなわち、事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく妥当性を欠く場合に違法となる(行訴法30条)。

(2)本件要綱7条及び8条の趣旨は、跡地防災措置の実施を確実にすることにある。跡地防災措置が確実に実施されない場合には、土砂災害のおそれがある。従って、知事において、跡地防災保証を欠く場合には土砂災害のおそれがあり、法33条の4の要件に該当すると判断することには合理性がある。
 そして、B県では跡地防災措置が適切になされない例が多かったことを考慮すると、常にC組合の保証を要求するとした判断についても、社会通念上著しく妥当性を欠くとはいえない。A側の反論として、資金のある採石業者には保証は不要であるという主張が想定されるものの、跡地防災保証のような互いの資力を補うシステムは、資金力のある業者も含め、多数者が参加して初めて機能するものであるから、上記妥当性の判断を妨げない。

5.以上から、B県知事が本件要綱を基準として認可の許否を判断することは、適法な裁量権の行使として許される。

6.なお、本件要綱8条に基づいて、跡地防災保証を証する書面の添付を求めることは、法33条の3第2項、同施行規則8条の15第2項11号により許される。同項1号から10号までの書類は、採取計画に係るものであるのに対し、同項11号は、採取計画以外の認可に係る裁量判断に必要な資料を広く含む趣旨と考えられるからである。

7.よって、仮にAが採石認可申請の際にC組合から保証を受けていなかった場合において、B県知事が法33条の4の場合に当たるとしてAに対し採石認可拒否処分をすることは、適法である。

第2.設問2

1.法に基づく処分

(1)本件要綱は、採石認可申請時のみならず、跡地防災措置がされるまで保証の継続を要求する趣旨であるから、跡地防災保証の継続は、当然に認可に付された条件(法33条の7)となる。従って、Aが採石認可後に本件保証契約を解除したことは、上記条件の違反となるから、B県知事は、認可の取消し等の処分をすることができる(法33の12第1号)。
 また、法33条8号の遵守義務の対象は、採取計画それ自体のみならず、これと一体をなす前提条件も含まれる。なぜなら、採取計画の前提となる条件を欠くに至った場合には、採取計画が存立の基礎を失うからである。従って、Aが採石認可後に本件保証契約を解除したことは、法33条8号違反となるから、B県知事は、認可の取消し等の処分をすることができる(法33の12第2号)。

(2)跡地防災保証を欠くだけでは、直ちに土砂災害のおそれが生じたとはいえないから、災害の防止のための緊急の必要があるということはできない。よって、B県知事は、法33条の13第1項による緊急措置命令をすることはできない。
 もっとも、上記(1)のとおり、Aによる本件保証契約の解除は法33条8号違反となるから、B県知事は、Aに対し、再度C組合と跡地防災保証契約を締結するまで採石を止めるよう命ずることができる(法33条の13第2項)。

2.法に基づかない処分

(1)本件認可は当初適法であったから、職権取消しの余地はない。そこで、その後の本件保証契約の解除を原因とする本件認可の撤回の可否を検討する。

(2)行政行為の撤回とは、瑕疵のない行政行為の効力を行政庁が将来に向かって失わせることをいい、行政行為の公益適合性の観点から、法律の根拠を要しない。もっとも、授益的行為を撤回する場合には、本来瑕疵のない行政行為の効力を否定する以上、相手方の信頼保護の要請が強く働くから、相手方の同意があるか、又は相手方の帰責事由により撤回の必要性が生じた場合を除いては、原則として撤回は許されない。

(3)本問では、Aは、自ら本件保証契約を解除している。C組合の保証を要求することがB県知事の裁量判断として適法である以上、A独自の判断でこれを不要として解除することは許されない。この点において、Aには帰責性がある。従って、Aの帰責事由によって撤回の必要性が生じた場合に当たるから、B県知事は本件認可を撤回できる。

第3.設問3

1.考えられる手段は、設問2の処分についての非申請型義務付けの訴え(行訴法3条6項1号、37条の2)である。以下、その訴訟要件を満たすか否かを検討する。

2.原告適格(行訴法37条の2第3項)

(1)行訴法37条の2第3項にいう法律上の利益を有する者とは、当該処分がされないことにより自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分の根拠法令が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護する趣旨を含む場合には、このような利益も上記法律上保護された利益に当たる。そして、処分の相手方以外の者について上記の判断をするに当たっては、同法9条2項所定の要素を考慮すべきである(同法37条の2第4項、小田急線高架訴訟判例参照)。

(2)法33条の4によれば、採石により土砂災害が生じ、認可の相手方以外の第三者に対して危害が及ぶ場合には、認可をしてはならず、認可後であっても、上記のおそれが生じた場合にはこれを防止する措置を執るべきことになる(法33条の12、同条の13)。これに違反するときは、土砂災害により付近の住民及び土地所有者等に直接に危害が生じる。上記各規定による災害防止は、反射的なものではなく、法の本来の目的である(1条)。そして、土砂災害によって直接かつ著しい危害を受ける者は、一定の範囲の者に限られる。そうである以上、土砂災害による危害を受けない利益は、一般的公益に吸収解消させることのできない個別的利益である。従って、採石によって生じる土砂災害によって直接かつ著しい危害を受ける者は、前記1の訴えについて原告適格を有する。

(3)本問で、Dは、本件採石場から下方に約10メートル離れた土地に、森林を所有し、林業を営んでいるから、土砂災害により土地が土砂に覆われ、林業を営むことができなくなり、生計の手段を奪われるおそれがある。したがって、Dは、土砂災害により直接かつ著しい危害を受ける者といえるから、前記1の訴えの原告適格が認められる。

3.重大な損害を生ずるおそれ(行訴法37条の2第1項)

 重大な損害とは、社会通念上金銭賠償による事後的回復では十分ではないと認められる損害をいい、一般に生命・身体に対する損害はこれに当たるが、財産に対する損害は、事後の金銭賠償で十分である。もっとも、財産に対する損害であっても、生業を奪われる場合には、事後の金銭賠償ではその支払いまでの生活手段の保障が不十分であるから、重大な損害に当たる。
 本問で、Dは、居住していないから生命・身体に対する損害のおそれはなく、土地に対する財産的損害が問題となるにとどまる。もっとも、林業を営むことができなくなるから、生業を奪われる場合に当たり、重大な損害を生ずるおそれがあると認められる。

4.他に適当な方法がないとき(同項)

 法は、土砂災害により被害を被るおそれのある者の救済手続を規定しておらず、本件認可時点においては採石認可の要件を充足していた以上、取消訴訟等の他の抗告訴訟によることはできないから、他に適当な方法がない。

5.以上から、前記1の訴えは、訴訟要件を満たす。

以上

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