予備憲法の参考裁判例

東京地判平22・3・30(医薬品ネット販売事件第一審)より引用、太字強調は筆者)

 職業活動としての営業は,本質的に社会的かつ経済的な活動であって,その性質上,社会的相互関連性が大きいものであるから,憲法22条1項において保障される営業の自由は,それ以外の憲法の保障する自由,殊にいわゆる精神的自由に比較して,公権力による規制の要請が強く,同項の規定においても,特に「公共の福祉に反しない限り」という留保が明記されている。このように,営業は,それ自身のうちに何らかの制約の必要性が内在する社会的かつ経済的な活動であるところ,その種類,性質,内容,社会的意義や影響が極めて多種多様であるため,その規制を要求する社会的理由ないし目的も千差万別で,その重要性も区々にわたり,これに対応して,現実に営業の自由に加えられる制限としての規制措置も,それぞれの事情に応じて各種各様の形をとることとなるので,当該規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは,これを一律に論ずることができず,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される営業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。そして,上記のような検討と考量をするのは,第一次的には立法機関(立法府の制定した法律により行政立法の権能の委任を受けた行政機関を含む。)の権限と責務であり,その憲法適合性の司法審査に当たっては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上,そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については,上記立法機関の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り,立法政策上の問題としてこれを尊重すべきであるが,その合理的裁量の範囲については,事の性質上おのずから広狭があり得るのであって,裁判所は,具体的な規制の目的,対象,方法等の性質と内容に照らして,これを決すべきものといわなければならない(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。

 ・・・本件規制は,薬局又は店舗販売業といった一般用医薬品の販売を行う業態が許可制になっていることを前提として,薬局又は店舗販売業の許可を得た者による第一類・第二類医薬品の販売において有資格者による対面での販売及び情報提供を義務付け,これに伴い,その販売方法から郵便等販売を除外するもので,それ自体としては,狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するものではなく,営業活動の態様に対する規制の範疇に属するものであると解される。原告らは,インターネット販売による医薬品販売業という職業を想定すべきであり,本件規制は,そのような職業の選択に関する制限である旨主張する・・・が・・・店舗を有しないインターネット販売専業の医薬品販売業といった営業形態は薬事法令上認められておらず,医薬品のインターネット販売という営業については,薬局又は店舗販売業の許可を得た者が一般用医薬品の郵便等販売を行うという薬事法令上認められている場合の販売方法の一態様として位置付けられているところ,薬局又は店舗販売業の許可を得た者は郵便等販売が認められなくなっても通常の販売方法による医薬品の販売ができなくなるわけではないから,本件規制は,その法的性質としては,営業活動の態様に対する規制であると解するのが相当である。原告らは,本件規制は,前掲最高裁昭和50年4月30日大法廷判決が職業選択の自由そのものに対する規制であるとした適正配置規制以上の規制であり,職業選択の自由そのものに対する規制と解すべきであると主張するが上記最高裁判決の事例は,許可を得られないことにより薬局としての営業が全くできない場合であるのに対し,本件規制の場合は薬局又は店舗において全区分の一般用医薬品を販売することが可能であり,上記のとおり,薬事法令上,インターネット販売は郵便等販売という販売方法の一態様であってそれ自体が独立した職業と位置付けられているものではないことからすれば,本件規制は上記最高裁判決の場合とは事例を異にし,同判決の適正配置規制以上の規制であるということもできないもっとも,各種商品のインターネット販売を主要な事業内容とする業者が,医薬品のインターネット販売を目的として店舗販売業の許可を受け,医薬品の販売方法として,実際には通常の店舗における販売を行わず,専ら郵便等販売の一態様としてのインターネット販売を行っている場合に,当該業者としては,事実上,医薬品の販売に係る営業活動そのものを制限される結果となることを考慮すると,上記のとおり本件規制はその法的性質としては営業活動の態様に対する規制ではあるものの上記の業態の業者に関する限り,当該規制の事実上の効果としては,規制の強度において比較的強いものということができる。

 ・・・営業活動の態様に対するより緩やかな制限を内容とする規制手段によっては上記の規制目的を十分に達成することができないと認められる以上・・・職業活動の内容及び態様に関する規制として,あるいは狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課する規制に準じて,広狭のいずれに解するか・・・にかかわらず,その合理的裁量の範囲を超えるものではないというべきであり,本件規制及びこれを定める本件各規定を薬事法施行規則に加える改正省令中の本件改正規定は,憲法22条1項に違反するものということはできない。 

(引用終わり)

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