平成26年司法試験の結果について(1)

1.法務省から、平成26年司法試験の結果が公表されました。最も意外だったのは、合格者数です。1810人でした。これは、どのような基準で決まったのでしょうか。以下は、平成21年以降の合格点前後の累計人員分布です。太字部分が、その年の合格点の数字です。

平成21年
得点 累積受験者数
775 2240
780 2140
785 2043
790 1967
795 1884

 
平成22年
得点 累積受験者数
765 2263
770 2155
775 2074
780 1984
785 1886

平成23年
得点 累計受験者数
755 2231
760 2145
765 2063
770 1978
775 1903

平成24年
得点 累計受験者数
770 2276
775 2186
780 2102
785 2023
790 1952

平成25年
得点 累計受験者数
770 2221
775 2138
780 2049
785 1954
790 1853

 例年、合格点は5点刻みで決まっています。そして、平成24年を除けば、5点刻みで最初に2000人を超えた得点が、合格点になっている。これを見る限り、2000人を一つの目安にしているようだ、と考えることができます。当サイトでは、これを「2000人基準」と呼んできました(「平成25年司法試験の結果について(2) 」)。平成24年は、例外的に2100人を目安にした年だった、ということになります。すなわち、近年の合格者数は、先に合格点が決まって、その得点以上の数字で合格者数が決まる、という形ではなく、先に合格者数が決まっていて、その合格者数に対応した得点が合格点になっていた、ということがわかるわけです。

2.では、今年についてはどうだったのか。平成26年の場合をみてみましょう。

平成26年
得点 累計受験者数
760 1971
765 1886
770 1810
775 1729
780 1655

 これをみると、5点刻みで、最初に1800人を超える得点が合格点になっています。これまでの合格点の決まり方から考えれば、これは「2000人基準」から、「1800人基準」への変化と捉えることになるでしょう。

3.しかし、これは予想外なことです。法務省は、現在のところ、直ちに合格者数を絞り込もうという発想には、立っていないからです。

 

法曹養成制度改革顧問会議第3回会議議事録より引用、太字強調は筆者)

○宮﨑顧問 ・・・今回の調査についてですが、調査を待って考えるのだということですが、調査結果でどんなものが出るのかといいますと、総務省の方の調査以上のものが出るのか。また調査しても、合格者は1,850人が妥当ですよとか、そういうことにはならないと思いまして、必ず政策判断で具体的に何人にするかという作業がまた要ると思うのです。調査を行うにしましても、総務省の、かなり詳細な調査が既にありますから、これを踏まえて早期に調査結果を出すようにお願いをしたい。 さらに、今、お聞きしていますと、来年の4月から調査を始めて、1年ぐらいかかると。こういうように聞いておりますので、その間、それではどうするのかということがありまして、その間、今のような就職状況が続く。先ほどまでは予備試験か、法科大学院かということを言っておりましたが、そもそも法学部に入る人まで更に減ってくるということも起きてくるのではないかと思っています。そういう意味で、調査項目については先ほど意見を申し上げましたけれども、調査が出るまでの法曹人口の急増に対する対応策も併せて、調査結果が出てから考えるのではなくて、出てくるまでに当面どうするのかということも御検討いただきたい。このように思うわけであります。 自民党も公明党も、例えば公明党などは、合格者数を現状より相当程度抑制して、弊害の除去・解消に努めるべきではないかということまで提言されているところでありますし、また、総務省の調査結果を見ましても、人数の明言はしていませんけれども、2,000人から抑制的に考えるべきであるという調査結果であることは間違いがないわけでありますから、調査結果が出るまでも、やはり2,000人合格を抑制的に運用するように図るべきではないか。それをできれば顧問会議として提言をするべきではないかなと。このように考えているところであります。

 ○納谷座長 それでは、松本副室長どうぞ。

○松本副室長 宮﨑顧問の御発言の点でございますが、推進室のミッションといたしまして、法曹養成制度検討会議を受けての法曹養成制度関係閣僚会議の決定がございます。そこでは明確に、法曹人口の調査をきちんとやれというオーダーを受けているところでございます。それを抜きに、推進室といたしまして何らかの政策的な提案というものを、その調査を待たずにする予定はございません。 さらに、顧問の方々からこれらの点についていろいろな貴重な御意見をいただくというのは、それを十分、可能な限り反映をしたいと思っておりますが、この点について何らかの、調査と関係ない形で、調査を踏まえない形での法曹人口あるいは司法試験合格者数の提言というところは、この顧問会議の性質上、適切ではないのではないかと考えているところでございます。 以上でございます。

(引用終わり)

 

 ここで、松本副室長の発言が、法務省の立場を反映したものである、ということを、理解しておく必要があります。法曹養成制度改革推進室自体は内閣官房の下にありますが、推進室の執務室は法務省にあり、推進室長は、法務省からの出向ということになっているからです(参考資料3頁参照)。近時、予備試験の受験資格の制限を巡って、推進室が反対の立場を示しているのも、同じ理由によります。

 

法曹養成制度改革顧問会議第8回会議議事録より引用、太字強調及び※注は筆者)

○松本副室長 ・・・いずれの案にいたしましても、受験資格制限をすることで、従来、誰にでも開かれていました予備試験、そして司法試験の受験機会を一定程度閉ざすことになります。しかも法科大学院の現状、つまり司法試験合格率が法科大学院修了者について必ずしも高くない現状において、その道を一定程度閉ざすこととなります。
 ・・・法曹志願者が減少している昨今、法曹志願者には年齢、職業、その他の社会的経験など、様々な背景・事情を持つ者がおり、多様な法曹の急減(※注 「給源」の誤植と思われる)ともなり得るこれらの者が法曹になる道を確保しておく必要があると考えております。
 予備試験の在り方につきまして、現時点での推進室の考え方といたしましては、この予備試験の在り方についての推進室が示す方針・方向性、あるいは結論が、優秀な、あるいは幅広い可能性を有する者が、そのことによって、かえって法曹を目指そうとしなくなってしまうような結果をもたらすものであっては絶対にならないというところを基本スタンスとしているところでございます。

(引用終わり)

 

 法務省は、旧試験時代から、一貫して若くて優秀な人を採りたいという考え方を持っていますから、予備試験は制限したくないわけですね。(なお、このことは、年齢が上がると合格率が顕著に下がるという傾向が作問や採点の工夫による意図的なものであるということにも繋がっていきます)。

 

衆院法務委員会平成元年11月22日より引用、太字強調は筆者)

 ○井嶋政府委員 ・・近年、この試験が非常に異常な状況を呈してまいっておりまして、平均受験回数が六回以上、合格者の平均年齢が二十八・九一歳というようなことに象徴されますように、司法試験の受験を目指す者にとって非常に過酷な試験になっておる・・法務省といたしましても、まず司法試験の現状を改めて、より多くの人がより早く合格できるような試験制度に改めて、若くて優秀な人たちが司法試験に魅力を感じて受けてもらえるようなものにしたい・・まさに現在の司法試験に比べまして、より多くの者がより短期間に合格し得るような試験とするということを目途といたしまして、次のような改革の具体的内容を提言いたしました。

 (引用終わり)

   

4.以上のことを踏まえた上で今回の合格者数をみると、意外性が理解できるでしょう。これは、おそらく法務省の意向によるものではない。むしろ、司法試験委員会の意向によるところが大きいのではないかと推測できます。合格者数を決定する権限は、もともと司法試験委員会が持っていますから、建前論からすれば、これは別におかしなことではありません。

 

法曹養成制度検討会議第14回会議議事録より引用、太字強調は筆者)

○井上正仁委員 これまでも何度か申し上げてきましたけれども,今の司法試験のシステムというのは,政策的に何人と決めて,それに合わせて合格者を決めるという性質のものではありません。受験者の学力といいますか,試験の成績を司法試験委員会のほうで判定して決めているその結果として2,000人なら2,000人という数字になっているということなので,その仕組みを変えない限り,それを何千にするということを言うわけにはいかない性質のものだと思います。ですから,法曹人口の問題については,このぐらいのところを目指すべきだということは言えるかもしれないですけれども,合格者を何人にしろというのは現行の制度では無理で,仮にそうするというのでしたら,現行の司法試験の合格者決定の仕組み自体を変えろという提言をしないといけないということになるだろうと思います。

(引用終わり)

 

 かつて、合格者数3000人の目標を頓挫させたのも、司法試験委員会でした。ここ数年は、2000人基準を比較的おとなしく遵守してきたわけですが、再び伝家の宝刀を抜き始めた、といえるのかもしれません。

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