平成26年司法試験予備試験論文式商法参考答案

第1.設問1

1.X社のY社からの借入れ(以下「本件借入れ」という。)の額は5億円と高額であることから、多額の借財(362条4項2号)との関係を検討する。

(1) 多額の借財に当たるかは、会社の規模や借入れの目的等を総合して判断すべきである。
 本件では、経営状態が悪化し、急きょ10億円の資金が必要なX社にとって、5億円の借入れは会社の存続を左右する多額なものといえる。従って、本件借入れは、多額の借財に当たる。

(2) 多額の借財は取締役会の決定に基づいてすることを要する(同項柱書)。本件借入れは取締役会の決定に基づいてされたが、その決議にBが参加している。そこで、特別利害関係取締役の議決参加(369条2項)との関係を検討する。

ア.特別利害関係とは、忠実義務(355条)との衝突を生じる関係をいう。
 本件では、Y社のX社に対する貸付金の原資は、Bが自己の資産を担保に金融機関から借り入れた5億円であり、Bは、この5億円をそのままY社に貸し付けていたから、Bは本件借入れにつき利害関係を有し、忠実義務との衝突を生じる関係にある。従って、Bは特別利害関係取締役に当たる。

イ.特別利害関係取締役が議決に参加した取締役会決議は無効である。ただし、その参加が決議内容に影響しないときは、この限りでない。
 本件では、Bを含む取締役5名が出席し、Bを除いても4名中3名の賛成があるから、決議は成立する(369条1項)。従って、Bの参加が決議内容に影響しないと認められる。よって、本件借入れに係る取締役会決議は、有効である。

(3) 以上から、多額の借財である点は、本件借入れの効力を妨げない。

2.次に、BがX社の取締役であることから、利益相反取引(356条1項2号、3号)との関係を検討する。

(1) Bは本件借入れにつきY社を代表していないから、直接取引(同項2号)には当たらない。

(2) では、間接取引(同項3号)に当たるか。同号の間接取引とは、経済上の利益が取締役に帰属する取引をいう。
 本件では、Bは、Y社の創業者で、その発行済株式総数の90%を有していることから、Y社の事実上の主宰者といえること、Y社のX社に対する貸付金の原資は、Bが自己の資産を担保に金融機関から借り入れた5億円であり、Bは、この5億円をそのままY社に貸し付けていたこと、Y社がX社に貸し付ける際の金利は、Bが金融機関から借り入れた際の金利に若干の上乗せがされたことを考慮すると、本件借入れに係る経済上の利益はBに帰属する。
 よって、本件借入れは、同号の間接取引に当たる。

(3) 取締役が利益相反取引をする場合には、当該取引につき重要事実を開示して取締役会の承認を得なければならない(356条1項柱書、365条1項)。

ア.Bは、間接取引の利益帰属主体であるから、本件借入れの承認に係る取締役会につき特別利害関係取締役に当たるが、前記1(2)イと同様に、取締役会決議の有効性を左右しない。

イ.もっとも、重要な事実の開示がされていないのではないか。
 重要な事実の開示があるというためには、少なくとも利益相反性を基礎付ける事実の開示が必要である。
 本件で、Bは取締役会において、自己の資産を担保に金融機関から借り入れた5億円をそのままY社に貸し付けたこと及びBが金融機関から借り入れた際の金利に上乗せがされたことを説明していない。上記は本件借入れの利益相反性を基礎付ける事実であるから、重要な事実の開示がされたとはいえない。

(4) 重要な事実の開示がない以上、利益相反取引に必要な取締役会の承認があったとは認められない。従って、本件借入れは、取締役会の承認を欠く利益相反取引である。

ア.取締役会の承認を欠く利益相反取引は原則として無効であるが、間接取引の場合には、相手方保護の必要があるから、無効主張には相手方悪意の立証を要する(判例)。

イ.会社の善意・悪意は、原則として代表者の認識による(民法101条1項)。もっとも、会社の事実上の主宰者が存在する場合には、その者の認識を考慮すべきである。
 本件では、Bは、Y社の創業者で、その発行済株式総数の90%を有していることから、Y社の事実上の主宰者といえる。そして、Bの悪意は明らかであるから、本件借入れについてY社を直接に代表した者の善意・悪意にかかわらず、Y社は悪意であるというべきである。

ウ.以上から、上記悪意の立証があれば、本件借入れは無効となる。

3.よって、本件借入れを無効であるとするCの主張には理由がある。

第2.設問2

1.X社のZ社に対する募集株式の発行(以下「本件新株発行」という。)における払込金額が時価を下回ることから、有利発行(201条1項、199条2項、3項)との関係を検討する。

(1) 「特に有利な金額」(199条3項)とは、公正な発行価額と比較して特に低い金額をいい、公正な発行価額とは、資金調達の目的が達成される限度で既存株主に最も有利な金額をいう。
 本件では、募集事項の決定時及び新株発行時のX社の1株当たりの価値は、1万円を下ることはなかった。そうすると、1株当たりの払込金額を5000円とすることは50%以上の減価となる。これは、経営状態の悪化から急きょ資金が必要であったという資金調達の目的を考慮しても、公正な発行価額と比較して特に低い金額であることが明らかである。従って、本件新株発行の払込金額は、「特に有利な金額」に当たる。

(2) 本件新株発行につき、有利発行に必要な株主総会の特別決議(309条2項5号)がない。仮に株主総会を開催したとすると、本件新株発行に反対のB及びBが事実上の主宰者であるY社は、併せてX社の発行済株式総数の34%を保有していたから、特別決議は成立しなかったはずである。
 しかし、新株発行の業務執行に準じる性質、特別決議の有無は内部的要件であり取引の安全が重視されること、公開会社においては株主の持株比率の保護よりも資金調達の機動性が重視されていること等からすれば、特別決議を欠く有利発行も有効である(判例)。

(3) 以上から、有利発行であることは、本件新株発行の効力を妨げない。

2.よって、本件新株発行が無効であるとするBの主張には理由がない。

以上

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