平成26年司法試験予備試験論文式民事実務基礎参考答案

第1.設問1

1.小問(1)

 被告は、原告に対し、甲土地について、平成15年12月1日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

2.小問(2)

 請求を理由づける事実(民訴規則53条第1項)、すなわち、広義の請求原因とは、訴訟物である権利又は法律関係を発生させるために必要な最小限の事実をいい、請求を特定するのに必要な事実(同項括弧書、狭義の請求原因)を含む。
 本件で、訴訟物である贈与契約に基づく所有権移転登記請求権を発生させるために必要な最小限の事実は、贈与契約締結の事実である。具体的には、狭義の請求原因として当事者及び契約締結日と、贈与契約の要素として目的物の記載を要するところ、Pはこれらを全て主張している。よって、訴状記載の事実のみで足りる。

第2.設問2

1.小問(1)

(1) アについて

 Xは、平成25年12月1日経過時、甲土地を占有していた。

(2) イについて

 甲土地について、昭和58年12月1日売買を原因とするY名義の所有権移転登記(詳細省略)がある。

2.小問(2)

(1) 時効取得に基づく所有権移転登記請求の請求原因として、Xの甲土地所有及び甲土地についてのY名義登記を主張する必要がある。

(2) Xの甲土地所有権の取得原因として、短期取得時効の要件事実を主張立証することになる。
 短期取得時効の実体法上の要件は、民法162条2項によれば、10年間の占有、所有の意思、平穏公然性、物の他人性及び占有開始時の善意無過失である。もっとも、自己物の時効取得も認められる(判例)から、解釈上、物の他人性は要件ではない。また、時効の効果は援用(同法145条)により確定的に生じる(判例)から、時効援用の意思表示も要件として必要である。
 上記のうち、所有の意思、平穏公然性及び善意は推定される(同法186条1項、暫定真実)。また、前後両時点の占有の証明により、中間の占有が推定される(同条2項、法律上の事実推定)。そして、無過失は規範的要件であるから、その評価根拠事実が主張立証の対象となる。
 以上から、前後両時点の占有、無過失の評価根拠事実及び時効援用の意思表示の各事実の主張が必要であるところ、本件では、①、②、③及び④がこれに当たる。

(3) 所有権に対する妨害があることの主張として、Y名義の登記が必要であるところ、本件では、⑤の事実がこれに当たる。

(4) 以上から、①から⑤までの事実を主張する必要があり、かつ、これで足りる。

3.小問(3)

 ③の無過失の評価根拠事実の基準時は、占有開始時(平成15年12月1日)である(民法162条2項)。「Xは平成16年から現在まで甲土地の固定資産税等の税金を支払っている」ことは基準時以降の事実であるから、③の無過失の評価根拠事実として主張することは、それ自体失当である。

第3.設問3

 追加的請求原因(時効取得)に対する他主占有権原の抗弁。

第4.設問4

1.贈与契約書等の書類は存在せず、X供述中の「ただでやる」とのYの発言は存否不明であるし、使用貸借を意味すると解する余地もある以上、贈与を直接証明する証拠は存在しない。

2.そこで、贈与を推認できる間接事実が必要であるところ、以下のとおり、そのような間接事実は存在しない。

(1) 登記済証(権利証)の交付

 親が同居の子に登記済証(権利証)の保管を依頼することは自然なことである以上、贈与を推認できない。

(2) 甲土地の固定資産税等の税金をXが支払ったこと

 親が定年になった等の理由で同居の子が親に代わって税金等の納付をすることは自然なことである以上、贈与を推認できない。

(3) 新建物の建築費用をXが負担したこと

 YがXに甲土地を無償で使用させる見返りに建築費用の負担をXに求めることは自然であるから、贈与を推認できない。

3.かえって、贈与がないことと整合する以下の事実がある。

(1) Xは、固定資産税等の税金はきちんと支払っているのに、贈与税の申告をしないことは、贈与がなく、固定資産税等はYに代わって支払っていると考えて初めて整合的に理解できる。

(2) Y死亡時に相続財産を構成する甲土地を生前に贈与するのであれば、当然X以外の推定相続人であるAとも相談するはずであるが、そのような形跡がない。

(3) 贈与があったのであれば、相続時のAとの紛争を避けるために、Xへの所有権移転登記手続を済ませるのが当然であるのに、これを行っていない。

第5.設問5

1.弁護士職務基本規程(以下「規程」という。)36条に反しないか。同条の趣旨は依頼者意思の尊重(規程22条1項)にあるから、依頼者意思に反するか否かで判断する。
 本件では、打合せ等をAとしたことは、「細かい打合せ等については、Aとやってくれ」とするYの意思に反しない。しかし、和解は確定判決と同一の効力が生じ(民訴法267条)、特別委任事項とされる(同法55条2項2号)以上、上記「打合せ等」には当たらない。従って、和解の意思確認をAにしたことは、Yの意思に反する。よって、規程36条に反する。

2.規程45条に反しないか。同条の趣旨は、依頼者に確実に預り金等が返還されるようにする点にあるから、依頼者以外の者に返還する場合には、やむを得ない理由が必要である。
 本件では、Y名義の銀行口座に送金することが困難である等のやむを得ない理由は何らうかがわれない。よって、規程45条に反する。

以上

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