平成26年予備試験口述試験(最終)結果について(4)

1.以下は、年齢層別の短答、論文合格率です。短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字です。

年齢層 短答
合格率
論文
合格率
19歳以下 8.1% 0%
20~24歳 18.3% 34.5%
25~29歳 16.8% 31.4%
30~34歳 19.4% 14.2%
35~39歳 21.4% 12.6%
40~44歳 23.0% 8.7%
45~49歳 24.6% 4.7%
50~54歳 24.0% 2.7%
55~59歳 25.6% 2.9%
60~64歳 10.1% 0%
65~69歳 9.8% 6.2%
70~74歳 0% 0%
75~79歳 2.8% 0%
80歳以上 0% 0%

 短答で最も合格率の高い年代は、50代後半です。20代は、30代、40代、50代のどの世代と比較しても低い合格率にとどまっています。短答段階では、年配者こそが優秀であり、若手は劣った存在なのです。
 その原因は、勉強量です。短答は知識量で勝負が決まりますから、勉強量を確保できない若手は、不利になるのです。他方、年配者は、何年も勉強を重ねていますから、知識量は豊富です。若手からみると、「こんな細かい判例なんて知るかよ」と思うようなことも、平気で即答してきます。その差が、合格率として現れているのです。
 逆に言えば、短答が苦手な人は、単純に知識量、勉強量が足りないということです。勉強時間を確保すれば、素直に点が伸びる。これが、当サイトで繰り返し説明している短答の特性です(具体的な勉強法については、「平成26年司法試験短答式試験の結果について(6)」参照。ただし、予備試験は来年も7科目です。)。

2.しかし、短答段階の年配者の優位は、毎年論文でひっくり返されます論文は、圧倒的に若手有利です。
 20代は、合格率が3割を超えています。一方で、30代は1割強、40代以降は1割に満たず、短答でトップだった50代後半は2.9%と、壊滅的な結果になっています。短答では20代を寄せ付けなかった30代から50代までの世代は、論文段階で壊滅する。短答の結果を見れば分かるとおり、この人達はしっかり勉強しています。旧試験時代から10数年、あるいはそれ以上、必死に勉強を続けてきた人も、少なくないはずです。そういう人達が、勉強量の少ない若手にあっさり抜かれていく。40代、50代の人達には、「短答10連勝、論文10連敗」というような人が普通にいます。これが、論文の恐ろしさなのですね。

3.このようなことになってしまうのは、「論文に受かりやすい人は、簡単に受かる」、「論文に受かりにくい人は、何度受けても受からない」という論文特有の法則があるからです。論文は、必要な勉強量は少ないものの、方向性を誤りやすい、しかも、それに気付きにくいという特性があるのだと思います。
 目的地は、西に1時間歩けばすぐのところにある。それなのに、全力で東に向かって走っているこれでは、何年走っても、目的地には着きません。それなのに、本人は、自分が東に向かっていることに気付いていない。歩いて1時間で簡単に目的地に到達したという人がいる。自分は何日も全力で走っている。それなのに、どうして着かないんだ。自分の能力が劣っているのか、努力が足りないのか。なぜなのかわからない。このような状況が、論文では起こりやすいのです。

4.論文合格に必要なことは、基本論点を抽出し、規範を正確に示し、当てはめることです。予備試験では、特に基本論点抽出の比重が、高くなっています。「基本論点抽出の比重が高い」ことには、2つの意味があります。すなわち、「基本論点は、一つ落とすだけで大きく成績に影響する」ということ。それから、「応用論点は、拾ってもほとんど点にならない」ということです。論文に受からない人は、共通して基本論点軽視、応用論点重視の傾向があります。基本論点を落としてしまっても、「ああ、その論点ね。知ってますよ。たまたまうっかり見落としただけです」という感じであまり気にしない。他方で、応用論点を落とすと、「これって○○先生の連載に載ってるやつなんだよ。しまった。あの連載を読み直さないと」などと、熱心に復習したりします。これでは、受かりやすくなるはずがありません。毎年、誰もが拾うような基本論点を「たまたま」「うっかり」落とし、不合格になってしまう(※1)。合格に必要な論点は難しくはありませんが、抽出の精度は、かなり高いものが要求されます。論文は一発勝負ですから、「たまたま」や「うっかり」は許されません。受かりにくい人は、そのことに気付いていないのです。
 やるべきことは明らかで、問題文から基本論点だけは確実に抽出できるよう、演習を繰り返すしかありません。限られた時間内に、見落としをしないための問題文の効率的な読み方や、抽出の際のメモの仕方、意識の集中の仕方、そういった、ある意味で法律の知識と関係のない技術的な部分を訓練するしかないのです(※2)。これは、地道で辛い作業です。受かりにくい人は、そういう作業を「つまらない」と思ってやらないのですね。むしろ、他の人が知らない知識を勉強して、差を付けようとしている。これが、「論文に受かりにくい人」によくみられる特徴です。

※1 本人は、基本論点を落としたからではなく、応用論点を書けなかったから落ちたと思っていたりします。試験終了直後には、「ミスが見つかるのが怖い」などと言い、不合格の結果が出ると、「もう思い出したくない」などと言って復習をしないので、不合格の原因がわからないまま、翌年に向けてこれまでどおりの勉強を漫然と続けてしまうのです。再現答案等をきちんと分析して復習すれば、上位合格者も応用論点にほとんど触れられていないことに気付くはずですが、そういったことをやろうとしないのですね。

※2 このような時間を制限された事務処理作業には、高度な反射神経と集中力が必要になります。歳を重ねると、これがどうしても衰えてくる。年配者が論文に不利なのは、こういう部分も影響しています。ただ、これも意識的に訓練することによって、かなりの部分はカバーできます。

 

5.それから、もう一つ、「論文に受かりにくい人」の特徴として、規範軽視の風潮があります。論点の理由付けはたくさん書くけれども、肝心の規範を落としたり、不正確になっている。中には、規範なのか理由付けなのかすら、はっきりしない書き方をする人もいます。これも、普段の勉強の姿勢に問題があるのです。色々な本を読んだりして何となく理解している事柄は多いけれども、正確に規範を覚えるという勉強をしていないのですね。
 覚える必要のある規範は、基本論点に限られています。ですから、それほど量は多くないしかし、その精度は高いものが要求されます。何となくこんな感じ、というレベルでは、ダメなのです。よく、「『本質を理解しろ、暗記はするな』と言われたので、規範は覚えませんでした」などと言う人がいます。しかし、規範を答案に正確に書くためには、覚えていなければ仕方がありません。規範を正確に覚える勉強は、退屈でつまらないでしょう。だから、新しい本を読む勉強をしたくなる気持ちも、わからないではありません。しかし、そのような勉強をしていると、「論文に受かりにくい人」になってしまうのです。「論文に受かりにくい人」は、勉強の方向性を変えない限り、「何度受けても受からない」。毎年の確立した法則です。一度論文に落ちた経験のある人は、意識して勉強の方向性を変えなければなりません

戻る