平成28年予備試験短答式試験の結果について(2)

1.以下は、直近5年の科目別平均点の推移です。一般教養だけは60点満点ですから、比較のため、括弧内に30点満点に換算した数字を記載しました。

平成
24年
平成
25年
平成
26年
平成
27年
平成
28年
憲法 15.1 16.5 17.8 17.3 17.6
行政 12.5 14.2 12.7 15.6 14.8
民法 16.3 19.7 17.7 16.9 16.3
商法 14.7 12.1 15.0 13.7 12.0
民訴 16.9 17.0 16.2 14.7 15.6
刑法 16.6 17.0 14.1 16.9 17.5
刑訴 15.6 17.9 12.4 15.5 16.5
教養 27.2
(13.6)
25.2
(12.6)
31.5
(15.75)
28.1
(14.05)
24.3
(12.15)
合計 134.7 139.5 137.3 138.7 134.6

 全体の平均点は、平成25年から昨年まではやや高めの水準でしたが、今年は、平成24年のレベルまで難化しています。
 ただ、科目別にみると、平成24年とは難しさの質が異なることがわかります。平成24年は公法系が難しかった。それが、全体の平均点を押し下げていました。この平成24年は、司法試験の短答式でも公法系が極端に難しく、公法系の最低ライン未満者が受験者の11.3%にのぼった年として有名です。それと比較すると、今年は、公法系はそれほど難しくない難化したのは、一般教養です。直近5年でみると、最低の平均点となっています。これまでで最も一般教養の平均点が低かったのは、第1回予備試験である平成23年の23.2点で、これには及びませんが、今年は、かなり一般教養の難易度が高かった年であったといえるでしょう。昨年と比較すると、4点ほど一般教養の平均点が下がっていますが、それがほぼそのまま、全体平均点の下落幅に対応しています。ですから、今年の平均点の下落は、一般教養の難化だけでほぼ説明が付くといえるでしょう。それ以外の科目では、商法の平均点の低さが目に付きます。もっとも、商法が難しいのは、いつもの傾向です。今年はその程度が若干強かったということです。

2.今年の合格点は、165点でした。とはいえ、これは前回(「平成28年予備試験短答式試験の結果について(1)」)にみたとおり、170点の累計人員が2000人にわずかに届かなかったという偶然の事情によるものでした。今年の合格点が170点だったとしても、不思議ではなかったのです。その意味では、今年170点未満の点数で合格した人は、運が良かった。本来であれば、落ちていたかもしれない、という認識を持つべきでしょう。
 ですから、来年以降の戦略を考える場合には、今年と同じくらいの難易度でも、確実に170点以上を取れるようにする。そのための戦略を考えることになります。その戦略は、受験生の属性によって異なってきます。

3.まず、大学在学中に予備試験を受験しようとする人は、大学受験の記憶がまだ多少残っているので、一般教養はそれなりに取れる反面、法律科目の学習時間が足りないので、どうしても法律科目は点が取れない。ですから、戦略としては、法律科目を最低限取って、一般教養で逃げ切るという形になります。そのような戦略は、可能なのでしょうか。
 具体的に考えてみましょう。ある程度自信のある一般教養では7割、すなわち、42点が取れるという前提で考えます。そうすると、

 170-42=128点

となりますから、法律科目で128点を取ればよい。法律科目の満点は、

 30×7=210点

です。この満点210点に対する128点は、

 128÷210≒60.9%

すなわち、満点の6割強ということになる。一般教養で7割を確保できたとしても、法律科目で6割強を取る実力がないと、短答を突破することは難しいということになります。
 仮に、一般教養で8割、すなわち、48点が取れた場合はどうか。これを上記と同様に計算すると、

 (170-48)÷210≒58.0%

ということになります。一般教養で8割を取る自信があれば、法律科目は58%で良いとはいえ、これでも大体6割は取らないといけないということですから、その程度の実力はどうしても必要だ、ということにはなるでしょう。
 以上のことからわかることは、「一般教養で稼ぐ戦略をとるとしても、最低限、法律科目を6割取る力は必要だ」ということです。法律科目の点数を短期決戦で伸ばすには、肢別問題集が有効です。辰已法律研究所の肢別本が定番になっています。

肢別本〈1〉公法系憲法〈平成27年版〉
肢別本〈2〉公法系行政法〈平成27年版〉
肢別本〈3〉民事系民法1 総則/物権〈平成27年版〉
肢別本〈4〉民事系民法2 債権/親族/相続/要件事実〈平成27年版〉
肢別本〈5〉民事系商法〈平成27年版〉
肢別本〈6〉民事系民訴〈平成27年版〉
肢別本〈7〉刑事系刑法〈平成27年版〉
肢別本〈8〉刑事系刑訴〈平成27年版〉

  これを高速で何度も回す。司法試験と違って、予備は7科目ですから大変ですが、試験当日までにできる限り何度も解く。その際に注意すべきことは、「単に正誤を当てただけで正解扱いにしない」ということです。正しい肢であれば、それは条文なのか、判例なのか、学説なのか。誤った肢であれば、どの部分が誤っていて、それは正しくはどのような記述とすべきなのかそこまで解答できるようにする。そうしないと、同じことを訊いている肢なのに、少し文章が変わってしまうと解けない、ということになってしまうからです。これを、全肢一度は正解した、というレベルまで何とか回す。それだけでも、6割を確保することは十分可能でしょう。

4.他方で、かつての旧司法試験の受験者や、受験回数制限を使い切って敗者復活を目指す人は、むしろ法律科目は得意です。逆に、一般教養は自信がない今さら一般教養の学習をしても、効率が良いとはいえないでしょう。ですから、法律科目で高得点を取って、一般教養は実質0点でも受かってやろう、という戦略をとることになります。
 具体的に考えてみます。一般教養の実質0点とは、実は12点を意味します。一般教養の問題は、全て5肢択一式なので、デタラメに選んでも5分の1の確率で正解できる。ですから、60点満点の5分の1である12点は、実は何ら知識がなくても取れる計算になるのです。ですから、ここでは、一般教養で12点を取った、という前提で考えてみましょう。そうすると、合格点である170点から12点を差し引いた158点が、法律科目で取るべき点数ということになります。これは、法律科目210点満点との関係では、

 158÷210≒75.2%

ということになる。すなわち、法律科目を7割5分強取れる実力があれば、一般教養は実質0点でも合格できるのです。実際のところ、ある程度実力があれば、法律科目を8割取ることは十分可能だろうと思います。上記の肢別本を、全肢3回連続で確実に正解できるようにする。そこまで詰めておけば、かなり取れるようになるはずです。また、それでもやや肢の数が足りない、と感じたなら、以下の教材で補充することも考えてみるとよいでしょう。

伊藤真が選んだ短答式一問一答1000 憲法
伊藤真が選んだ短答式一問一答1000 行政法
伊藤真が選んだ短答式一問一答1000民法〈1〉総則・物権・親族・相続
伊藤真が選んだ短答式一問一答1000 民法〈2〉債権総論・債権各論
伊藤真が選んだ短答式一問一答1000 商法―2014年法改正対応版
伊藤真が選んだ短答式一問一答1000 民事訴訟法
伊藤真が選んだ短答式一問一答1000刑法
伊藤真が選んだ短答式一問一答1000 刑事訴訟法

 このように、一般教養が実質0点でも、十分合格を狙うことは可能です。そして、法律科目の短答知識を高めておけば、判例で処理した場合の「本筋」が見えやすくなりますから、論文でおかしな法律構成を採って論点落ちになる、というリスクを減らすことができます。その意味でも、短答で高得点を取る学習は、予備試験の論文、それから、司法試験の攻略にも、十分役に立つのです。
 なお、上記の試算では、一般教養を12点としましたが、実際には、全く知識がなくても取れる論理問題が、毎年2問程度出題されます。今年の問題で言えば、第10問、第11問です。これだけは、図を描くなどしながら時間をかけてじっくり解けば、確実に解けます。これで、6点を確保できる。また、実際には、何問かは「偶然知っていて解けた」というものがあるものです。ですから、実際には、上記試算よりも余裕があると考えておいてよいでしょう。

5.一番つらいのは、社会人になってから、法曹を目指して勉強を始めた人です。このタイプの人は、法律科目を学習する時間も不足しているし、一般教養も自信がない。試験問題をよく知らないと、「社会人なのだから、一般教養は有利だろう。」と誤解しがちですが、一般教養の試験問題は、単なる大学受験の知識を問うだけの問題です。ですから、大学受験から時間が経つと、それだけで不利になるのです。ビジネス実務マナー検定のように、ビジネスマナーなどを問う出題であれば、社会人にも有利になるのでしょうが、残念ながら、そのような出題は1問もありません。
 かといって、今から大学受験の学習をするわけにもいきません。一般教養は範囲が広く、投入した時間に見合う成果は期待できない。ですから、基本的な戦略は、上記4の旧試験組、敗者復活組と同じということになってしまいます。すなわち、一般教養は捨てて、ひたすら法律科目を高める具体的な勉強法としては、上記の肢別式問題集を解きまくる、ということです。
 社会人に有利な点があるとすれば、それは、「職を確保しているので時間的な切迫感がない」ということでしょう。数年くらいかける覚悟で、就寝前や休日にコツコツと肢別問題集を回して、知識を定着させていく。毎年受験していれば、仮に合格できなくても、自分がどのくらいの位置にいるかは確認できます。そうやって確実に前に進んでいけば、やがては合格レベルに達するでしょう。大事なことは、法曹を目指すと決めたなら、早い時点で上記の作業に着手するということです。「実力が付いてから」とか「一通り学習が終わってから」などとは考えないことです。短答で苦戦する人の多くは、この作業に着手するのが、あまりに遅過ぎます。

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