平成29年司法試験論文式公法系第2問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.司法試験の論文式試験において、合格ラインに達するための要件は、概ね

(1)基本論点抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを摘示できている。

という3つです。とりわけ、(2)と(3)に、異常な配点がある。(1)は、これができないと必然的に(2)と(3)を落とすことになるので、必要になってくるという関係にあります。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記の配点をすべて取ったという前提の下で、優秀・良好のレベル(概ね500番より上の順位)に達するために必要となる程度の配点があるに過ぎません。 

2.ところが、法科大学院や予備校では、「応用論点に食らいつくのが大事ですよ。」、「必ず趣旨・本質に遡ってください。」、「事実は単に書き写すだけじゃダメですよ。必ず自分の言葉で評価してください。」などと指導されます。これは、必ずしも間違った指導ではありません。上記の(1)から(3)までを当然にクリアできる人が、さらなる上位の得点を取るためには、必要なことだからです。現に、よく受験生の間に出回る超上位の再現答案には、応用、趣旨・本質、事実の評価まで幅広く書いてあります。しかし、これを真似しようとするとき、自分が書くことのできる文字数というものを考える必要があります。
 上記の(1)から(3)までを書くだけでも、通常は6頁程度の紙幅を要します。ほとんどの人は、これで精一杯です。これ以上は、物理的に書けない。さらに上位の得点を取るために、応用論点に触れ、趣旨・本質に遡って論証し、事実に評価を付そうとすると、必然的に7頁、8頁まで書くことが必要になります。上位の点を取る合格者は、正常な人からみると常軌を逸したような文字の書き方、日本語の崩し方によって、驚異的な速度を実現し、7頁、8頁を書きますが、普通の考え方・発想に立つ限り、なかなか真似はできないことです。
 文字を書く速度が普通の人が、上記の指導や上位答案を参考にして、応用論点を書こうとしたり、趣旨・本質に遡ったり、いちいち事実に評価を付していたりしたら、どうなるか。必然的に、時間不足に陥ってしまいます。とりわけ、上記の指導や上位答案を参考にし過ぎるあまり、これらの点こそが合格に必要であり、その他のことは重要ではない、と誤解してしまうと、上記の(1)から(3)まで、とりわけ(2)と(3)を省略して、応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいってしまう。これは、配点が極端に高いところを書かずに、配点の低いところを書こうとすることを意味しますから、当然極めて受かりにくくなるというわけです。

3.上記のことを理解した上で、上記(1)から(3)までに絞って答案を書こうとする場合、困ることが1つあります。それは、純粋に上記(1)から(3)までに絞って書いた答案というものが、ほとんど公表されていないということです。上位答案はあまりにも全部書けていて参考にならないし、合否ギリギリの答案には上記2で示したとおりの状況に陥ってしまった答案が多く、無理に応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいって得点を落としたとみられる部分を含んでいるので、これも参考になりにくいのです。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作れば、それはとても参考になるのではないか、ということを考えました。下記の参考答案は、このようなコンセプトに基づいています。

4.行政法は、例年資料が多く、書くべきことも多岐にわたることから、時間との戦いが厳しい科目です。そのような場合、上記(1)の基本論点と、そうでない応用との区別が重要になります。基本的な事項だけに絞って書き、応用は気付いても、敢えて落とす今年の問題でいえば、設問1(1)の訴訟要件。ここで、勉強が進んでいる人であれば、「一定の処分」(特定性)や被告適格にも気付くでしょう。問題文の【法律事務所の会議録】にも、「選択した訴訟類型を定める条文の規定に即して,全般的に検討をしてください。」とあるので、気付いたら書かなければいけない気持ちになる。しかし、これは誰もが当然に書くものではありません。これを書いてしまったために、誰もが書く基本論点である「重大な損害」や原告適格について、上記(2)、(3)の規範の明示と事実の摘示が雑になってしまったり、後半で時間不足になって途中答案になってしまった人は、結構いるだろうと思います。受験回数が増えると、勉強量が増えるので、「一定の処分」(特定性)や被告適格に気が付きやすくなります。一方で、文字を書く速さはそのままなので、これを書きに行って失敗する可能性が高くなる。受験回数が増えると、逆に論文の合格率が下がるという現象を生じさせるカラクリの1つです。参考答案では、これらの要件は、敢えて無視しています。
 「他に適当な方法がない」(補充性)
についても、通常であれば、配点の低い些末な要件なのですが、わざわざ資料2の参考判例が挙がっていますし、資料1の会議録でも、「当該民事訴訟の可能性が,Y市を被告とする抗告訴訟の訴訟要件の充足の有無に影響を及ぼすかという点は,落とさずに検討してください。」と書いてあるので、本問では誰もが書いてくるでしょう。もっとも、この点を的確に説明できる人は、案外少ないのではないかと思います。特に、本問では、わざわざ参考判例が挙がっているので、そのうちのどこかを答案に書き写した上で、さらに検討を深めて欲しいという趣旨のはずなのです。このような場合、ポイントになりそうな部分だけ問題文から書き写しておく、というのも、1つのテクニックです。参考答案では、参考判例のうち、ポイントとなるであろう「通行の自由権は公法関係から由来する」(訴訟物を基礎付ける権利・法律関係の共通性)という部分と、会議録の「本件でそのような民事訴訟をAに対して提起して勝訴できるかどうかは分かりませんが」の部分を書き写しておきました。定義を覚えていれば、「『他に適当な方法がない』とは、その処分の根拠法令等に特別の救済方法が設けられていないことをいう。」などと書いて、民事訴訟なので含まないと当てはめておけばよいでしょう。超上位を狙うのであれば、「義務付け訴訟が国民に様々な訴訟手段を認めることを目的としてされた行訴法の改正によって認められた訴訟類型であることからすれば、『他に適当な方法がない』とは、訴訟の方法を特に制限する趣旨ではなく、一般法と特別法の関係にあることにより行訴法上の義務付け訴訟が排除される場合を注意的に規定する趣旨と考えるべきであるから、個別法に特別な救済方法がない場合には、たとえ共通の法律関係に基づく民事訴訟等が提起可能な場合であっても、『他に適当な方法がない』といえる。」とか、「公権力が本来なすべき権限の行使を怠っていることによって、同時に私権の侵害が生じている場合において、個々の市民が公権力に対しなすべき権限行使の発動を求めることができず、自らの私権の行使によって独力でこれを是正しなければならないとすることは不合理であるから、私法上の手段は、同項にいう『適当な方法』であるとはいえない。」などと、それなりにありそうな説明をする必要があります。しかし、正常な受験生がこれを書こうとすると時間が足りなくなるから、気付いても書いてはいけないのです。
 さて、実はこの参考判例ですが、原告適格を考える際のヒントにもなっています。道路法を普通に読む限り、周辺住民の具体的・個別的な通行権を保障していると認めるに足りる規定は、見当たらないはずです。市町村による管理や道路敷地所有者に対する権利制限の反射的利益として、周辺住民が自由に通行できるようになる、という程度でしょう。このことは、公共用物の利用に関する通説的な考え方でもあります。そのような考え方からすると、普通は原告適格は認められないはずです。しかし、その普通の考え方とは異なる裁判例があるのです。

 

東京高判昭36・3・15より引用。太字強調は筆者。)

 道路がいわゆる公共用物であつて、公衆がこれを通行することのできるのは公物主体である道路管理者がこれを公物として維持し、一般交通の用に供していることによることは被控訴人のいうとおりである。したがつて、みぎ道路の存する公共団体の住民ないし一般公衆がみぎ道路を通行する便益は道路がみぎ公用に供せられたことの反射的利益であつて、各人に個別的になんらかこれを使用する特別の権利が設定せられたものとなすことはできないというべきであるが、行政庁がその管理する道路について公物としての供用を廃止する処分をなし、その処分が無効な場合その無効確認を請求することができる者を当該道路について道路法による占有使用権とか地方自治法第二〇九条所定の慣行による使用権等を有する者にかぎるとなすは狭きにすぎるものであつて当該廃止処分の無効につき直接の利害関係を有する者は、みぎ廃止処分の無効確認をもとめるにつき利益あるものとして広くその訴を許容し、その利益を保護すべきである。
 本件について、これを見るに、控訴人は…所有宅地上に住家を有し、道路に向つて出入口を設け、みぎ道路を利用することによつてのみ外界と交通する状況にあつたことがうかがわれ、自己の住家の唯一の出入口が廃道処分によつて塞がれたことにより直接生活上重大な支障をこうむつた者として前示無効確認を請求していることがあきらかである。そうすると控訴人は被控訴人が当該道路部分を廃道としたことについて直接の利害関係があるものというべきであるから、みぎ廃道処分を無効ならしむべき違法があればその無効確認をもとめる法律上の利益があるものというべできある。

(引用終わり)

京都地判昭61・5・8より引用、太字強調は筆者。)

 行政処分の取消し、無効確認の訴えの原告適格は、その処分の法的効果として、自己の権利や法律上保護された利益を侵害され、または、必然的に侵害されるおそれのある者に限り、これを有する。これらの権利や利益は、その処分がその本来的効果として制限を加える権利や利益に限られるものではなく、行政法規が明文の規定またはその法規の合理的解釈によつて、個人の権利や利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障された権利や利益をも含むものと解される(最高裁昭和五七年(行ツ)第一四九号同六〇年一二月一七日第三小法廷判決・判例時報下七九号五六頁)。
 道路法により道路の路線が認定され、供用が開始されると、その道路は公共用物となり、近隣住民のみならず、何人も、その道路の用途に従つてこれを自由に使用することができることになる。道路法一〇条一項も、「一般交通の用に供する必要」を、路線を廃止するかどうかの要件として定めている。このことからすると、道路を利用する利益は、国民一般の利益であつて、これが道路の路線廃止、供用廃止処分を争う原告適格を直接に基礎づけるものではないしかしながら、住居又は所有地がその道路に近接しているなどにより、その道路の利用が生活上不可欠である者に限つては、例外的に、その道路を廃止する処分を争う原告適格を有すると解すべきである。

(引用終わり)

 

 これを理論的に説明してみせろ、というのが、本問の課題です。これは、現場で真面目に考えてはいけない。そこで、ヒントになるのが、参考判例の「自己の生活上必須の行動を自由に行い得べきところの使用の自由権(民法710条参照)を有するものと解するを相当とする。勿論,この通行の自由権は公法関係から由来するものであるけれども」という部分です。公法関係に由来して通行の自由権が認められるということは、公法上も通行権があるということではないか。こうして、原告適格を認めるのであれば、周辺住民に個別的な通行権がある、と解答すればよさそうだ、ということがわかるのです。ただし、実際には、判例はそのような個別的な通行権を正面から認めているわけではありません。

 

最判平9・12・18より引用、太字強調は筆者。)

 建築基準法四二条一項五号の規定による位置の指定(以下「道路位置指定」という。)を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。
 けだし、道路位置指定を受け現実に開設されている道路を公衆が通行することができるのは、本来は道路位置指定に伴う反射的利益にすぎず、その通行が妨害された者であっても道路敷地所有者に対する妨害排除等の請求権を有しないのが原則であるが、生活の本拠と外部との交通は人間の基本的生活利益に属するものであって、これが阻害された場合の不利益には甚だしいものがあるから、外部との交通についての代替手段を欠くなどの理由により日常生活上不可欠なものとなった通行に関する利益は私法上も保護に値するというべきであり、他方、道路位置指定に伴い建築基準法上の建築制限などの規制を受けるに至った道路敷地所有者は、少なくとも道路の通行について日常生活上不可欠の利益を有する者がいる場合においては、右の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、右の者の通行を禁止ないし制限することについて保護に値する正当な利益を有するとはいえず、私法上の通行受忍義務を負うこととなってもやむを得ないものと考えられるからである。

(引用終わり)

 

 参考答案は単純に書いていますが、上記判例にも「日常生活上不可欠なものとなった通行に関する利益」という表現で示されているとおり、実際には、通行の重要性ないし通行権侵害の程度も考慮する必要があります。前に紹介した裁判例も、直接生活上重大な支障を被った、あるいは、その道路の利用が生活上不可欠であることなどを要求しています。実はこの点についても、資料2の参考判例にはヒントが含まれています。それは、「自己の生活上必須の行動を自由に行い得べきところの使用の自由権」という部分です。これを参考にすれば、「自己の生活上必須のもの」といえるか、という点に着目すればよさそうだ、ということがわかります。もっとも、現場でここまで気が付く人は、あまりいないでしょう。ここまで読んだところで、「あれ?道路法は保護してないけど、人格権的権利などとして保護に値するから原告適格が認められるという構成だと、法律上保護された利益説じゃなくて、法律上保護に値する利益説になっちゃうんじゃないの?」と疑問に思った人は鋭いです。本問は、法律上保護された利益説から拡張的に理解しても原告適格を肯定することが難しい事案なのですね。すなわち、普段ほとんど論証することのない両説の対立を書く実益のある珍しい場面であるとともに、人格的利益(法律が明示に保護していなくても、人格の不可侵に基づく排他性から当然に認められる。)に限っては例外的に法律上保護に値する利益説が妥当するのではないか、という議論を展開すべき場面でもあるのです。

 

最大判平17・12・7(小田急線高架訴訟)における藤田宙靖補足意見より引用。太字強調は筆者。)

 多数意見がその一般論として,行政事件訴訟法9条2項を引きつつ理由4(2)に述べるところは,上記「従来の公式」を踏まえたものということができ,私自身もまた,本件においてそのような手法を採ること自体に敢えて反対するものではないが,一般論として,同法9条の解釈上,そこにいう法律上の利益とはすなわち根拠規定によって保護された利益であるとの出発点に固執することが,果たして適切あるいは必要であるかについては,なお疑問があり,この問題に関する限り,ここでは留保をしておくこととしたい。
 いずれにせよしかし,本件の場合にはまず,本件各事業認可処分そしてその基礎となる都市計画の策定につき,都市計画法上の根拠規定を始めとする諸規定が,果たして,行政庁に対し,このような「リスクからの保護義務」を課すものと認められるか否かが,問題となる。そしてこのような見地から考察するとき,人口密集地において行われる都市計画施設の建設及びその基礎となる都市計画の策定に際して,行政庁が,施設の利用が周辺に与えるマイナスの影響をおよそ考えることなく判断することが,そもそも「都市の健全な発展と秩序ある整備を図」る(都市計画法1条)という法の目的,そして,「機能的な都市活動」と並び「文化的な都市生活」の確保を目的とする都市計画の理念(同法2条)に適合するものであるはずはなく,都市計画の策定及び事業認可に当たって,上記マイナスの影響をも含めた諸利益の調整を十分に行うべき義務を負わされていることは,当然のことであると言わなければなるまい。このことに,生命・健康等の享受について国民に与えられた憲法上の保障(人格権)を併せ考えるならば,行政庁が,少なくともこれらの利益に対する重大な侵害のリスクから周辺住民を保護すべき義務を負わされているものと考えることは,決して無理な推論とは言えないように思われる。また,このようにして保護されるはずの周辺住民の利益が,「公益一般」に過ぎないのか,それとも「個人の利益」なのか,という問題について言えば,ここでいう「公益一般」とは,例えば土地収用の場合などのように,「私益」と対立する「公益」なのではなく,「個々の利益の集合体ないし総合体」としての「集団的利益」なのであるから,そこに「個人的利益」が内含されていることは,むしろ当然のことなのであって,そうでないというならば,むしろそのことについて法律上明確な根拠が示されるのでなければなるまい。言い換えるならば,行政庁は個人に対する上記の意味での保護義務を負うものではないということが,法律上明確な根拠によって明らかにされるのでない限り,少なくとも,事業認可に係る都市計画施設の利用の結果生命健康等に重大な損害を被るというリスクにさらされている周辺住民からの訴えについては,本来,原告適格が認められて然るべきであると考えられるのである。

(引用終わり)

 

 しかし、これに現場で気付く人、気付いたとして書ける人。おそらく1人もいないでしょう。参考答案も、強引に通行権が道路法で保護されるという構成を採っています。ここはみんなで赤信号を渡るところです。
 周辺住民の通行に係る利益を反射的利益にすぎないとみるか、個別的な通行権とみるかは、設問1(1)の原告適格だけでなく、設問2(1)の処分性の判断にも、通行できなくなることが法的効果であるか否かと関連して、影響してくることになります。なお、資料2の参考判例は、一応百選判例ではありますが、誰もが当然知っている、という感じではないでしょうし、その解説を読んでいたから、本問が解けるようになるというわけでもありません。参考判例を見て、「ああ、これは私法上の通行権を認めてたけど、公法上は反射的利益でしかないと理解されているものからどうやって私法上の権利が導出されるのか不明であるという批判がある判例だよね。」と現場で即座にわかる人は、正常な司法試験受験生とはいえないだろうと思います。
 設問2(1)は、誘導に素直に従って該当するものを順番に書き写すことができるかが問われています。道路区域の決定及び供用開始により生じる法的効果を書いて、廃止はその消滅という効果が生じるから直接法効果性がある、という流れです。何も考えずに該当する条文を探して上手に書き写すのがコツです。なお、上位を狙うなら、一般処分ではないか、という点に触れたいところです。その場合、法18条2項の規定が手がかりになります。2項道路の一括指定に関する判例土地区画整理事業に関する判例を参照するという方法もあるでしょう。しかし、これは、本問では誰もが触れる基本論点とまではいえないでしょう。
 設問1(2)と設問2(2)は、裁量の範囲、判断の適否を基礎付ける事実をどれだけ答案に書き写すことができるかを競うゲームです。裁量判断の内容が具体的に問題文に挙がっていますから、これを書き写して、その適否を論じる必要があります。1対1対応で書ければ理想的ですが、厳しいでしょう。参考答案は、まとめて処理しています。超上位を狙うのであれば、単なる事実の書き写しだけでなく、例えば、監督処分の効果裁量において、「法が効果裁量を認めたのは、個別具体的な事情に応じ、障害の除去に最も適切な方法を選択すべき判断の余地を認める趣旨であって、直ちに監督処分をするのではなく、ひとまず行政指導を行って任意の是正に期待するなど、障害の除去に向けられた合目的的な裁量判断をする余地はあっても、障害を認識しながら敢えてこれを放置するような裁量判断は許容していないと考えられる。」などといった、説得力のありそうなことを自分で考えて書く必要があります。ただし、普通の人は真似をしてはいけません。
 設問2(2)の内部基準の公表については、最判平27・3・3があるところです。もっとも、これを誰もが知っていて、規範まで明示できるかというと、現時点ではまだそこまではいかないのかな、という印象です。とはいえ、「公表しているのだからそのとおりにしないのはおかしいだろ。」というのは、誰でも気付くでしょう。ですから、参考答案程度に書ければ十分でしょうし、また、そのくらいは書くべきだろうと思います。上位を狙うのであれば、行手法12条1項の趣旨から規範を示して当てはめたいところです。
 冒頭で示した(2)規範の明示と(3)事実の摘示だけを書き、評価を書いていないと、必然的に、事実の摘示と当てはめの結論との間の飛躍が大きくなります。参考答案を読むと、それがよくわかるでしょう。平凡な合格答案を狙うのであれば、これでいいのです。規範と事実は、記憶したものや問題文に書いてあるものを書き写すだけですが、評価はその場で考える必要があるので、書こうとすると時間がかかる(その割に配点はそれほどでもない。)。多くの人が、事実と結論の間隙を埋めようとして時間をロスし、途中答案になってしまうのです。一方、上位合格を狙うのであれば、ここもできる限り埋めていく必要がある。上位合格の難易度の高さは、このようなところにあるのです。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)本件フェンスの除却命令の非申請型義務付けの訴え(行訴法3条6項1号、37条の2)が最も適切である。訴訟要件を検討する。

(2)「重大な損害」(同条1項)とは、社会通念上金銭賠償による事後的回復では十分ではないと認められる損害をいう(同条2項参照)。
 X2は、C小学校への通学路として本件市道を利用してきた。確かに、C小学校まではB通りを通っても行くことができ、本件市道を通る方が、C小学校までの距離が約400メートル短くなるにとどまる。しかし、普通乗用自動車が通行できず交通量が少ない点で、B通りよりも本件市道の方がX2にとって安全であるとX1は考えているだけでなく、C小学校は、災害時の避難場所として指定されており、Xらとしては、災害時にC小学校に行くための緊急避難路として、本件市道を利用する予定であったことを考慮すれば、社会通念上金銭賠償による事後的回復では十分ではないと認められる損害が生じるおそれがある。
 したがって、「重大な損害」に当たる。

(3)「法律上の利益を有する者」(同条3項)とは、自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分の根拠法令が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護する趣旨を含む場合には、このような利益も上記法律上保護された利益に当たる。そして、処分の相手方以外の者について上記の判断をするに当たっては、同条4項の準用する9条2項所定の要素を考慮すべきである(小田急線高架訴訟判例参照)。
 確かに、法1条は「公共の福祉を増進」とし、道路は「一般交通の用に供する道」(法2条1項)とされるにとどまる。しかし、法71条1項柱書は、「交通に支障を及ぼす虞のある行為」(法43条2号)をする者に対し監督処分をなしうる旨を定めているから、周辺住民の道路の通行権を個別的利益としても保護する趣旨を含むといえる。参考判例も、「この通行の自由権は公法関係から由来する」としており、公法上の通行権の存在を前提としていると理解することが可能である。
 したがって、道路を日常的に通行する者は、法律上の利益を有する。
 X2はC小学校への通学路として本件市道を利用してきたし、Xらは、災害時にC小学校に行くための緊急避難路として、本件市道を利用する予定であったから、日常的に通行する者として「法律上の利益を有する者」に当たる。

(4)Xらには、Aに対し、道路通行の自由権(民法710条参照)に基づく妨害排除請求をする方法もある。確かに、上記通行の自由権は公法関係から由来する。しかし、本件でそのような民事訴訟をAに対して提起して勝訴できるかどうかは分からない以上、「他に適当な方法がない」(行訴法37条の2第1項)といえる。

(5)以上から、訴訟要件をすべて満たす。

2.小問(2)

(1)裁量逸脱濫用が、本件における本案勝訴要件である(行訴法37条の2第5項)。

(2)裁量の有無、範囲は、国民の自由の制約の程度、規定文言の抽象性・概括性、専門技術性及び公益上の判断の必要性、制度上及び手続上の特別の規定の有無等を考慮して個別に判断すべきである(群馬バス事件判例参照)。
 本件で、法71条1項柱書の除却命令を受ける者は除却の負担を受ける一方、除却命令がされないと周辺住民の通行権が侵害されること、対象者は刑事罰の対象となりうる(法102条3号、104条4号)ことを考慮すると、要件裁量は認められない。他方、法71条1項柱書は複数の種類の処分を規定し、「できる」の文言を用いていること、「交通の発達」や「公共の福祉の増進」(法1条)を考慮する必要があることから、効果裁量は認められる。

(3)Y市長は、(ア)本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用は乏しいと思われること、(イ)現に本件市道上で園児と原付との接触事故が発生しており、現場の状況等からすると同種事故が発生しかねないこと、(ウ)Aが本件市道の路線の廃止及び売渡しを希望しており、いずれ路線の廃止が見込まれることから、本件フェンスの設置は法43条2号に違反しないと判断した。
 しかし、同号該当性に要件裁量は認められず、Xらが本件市道を利用する以上、Aの本件フェンスの設置が「交通に支障を及ぼす虞のある行為」となり、法43条2号に違反することは明らかである。
 効果裁量を検討する。裁量逸脱濫用となるのは、事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく妥当性を欠く場合である。
 本件フェンスによってXらの通行権が侵害されていることは明らかであるから、これを放置してその除却を命じないことは社会通念上著しく妥当性を欠く。したがって、Y市長の判断は裁量逸脱濫用に当たる。

(4)よって、本案勝訴要件を満たす。

第2.設問2

1.小問(1)

(1)抗告訴訟の対象となる処分(行訴法3条2項)というためには、特定の相手方の法的地位に直接的な影響を及ぼすこと(直接法効果性)が必要である。

(2)道路の区域の決定及び供用が開始されると、道路敷地の所有者は、道路を構成する物件について、所有権移転等を除いて私権を行使することができず(法4条)、道路の構造又は交通に支障を及ぼすおそれのある行為等が禁止され(法43条)、違反すれば監督処分の対象となる(法71条1項)。これにより、通行者には、道路の通行権が保障される。

(3)路線の廃止により、道路の区域や供用行為は自動的に消滅する。したがって、路線の廃止は、道路敷地の所有者の法的地位に上記(2)の制限の消滅という直接的な影響を及ぼすとともに、通行者の法的地位に通行権の消滅という直接的な影響を及ぼす。

(4)以上から、路線の廃止は、抗告訴訟の対象となる処分に当たる。

(5)よって、本件市道の路線の廃止は、取消訴訟の対象となる処分に当たる。

2.小問(2)

(1)裁量処分を取り消すためには、裁量逸脱濫用(行訴法30条)の違法があることを要する。

(2)法10条1項は「認める」の文言を用いているが、路線の廃止により通行者が通行権を失うことを考慮すると、同項の要件裁量は狭く考える。他方、同項の「できる」の文言、「交通の発達」や「公共の福祉の増進」(法1条)を考慮する必要から、効果裁量は認められる。

(3)Y市長は、1.本件市道の幅員は約1メートルしかなく、普通乗用自動車が通行できないこと、2.本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用は乏しいと思われること、3.本件市道の近くには認定道路であるB通りがあること等から、本件市道の路線を全部廃止しても支障がないと考えられる旨の事実を基礎として、「一般交通の用に供する必要がなくなつた」の要件に該当すると判断をしている。
 しかし、上記はAに対してのみ行われた聞き取り調査によるものであり、その判断過程に問題があるだけでなく、実際にはXらが本件市道を利用し、現に園児と原付の接触事故が起こり、それ以前にも時折原付が通行して園児と接触しかけたことがあったから、利用されていたことは確かであること、Xらは、災害時にC小学校に行くための緊急避難路として、本件市道を利用する予定であったことから、B通りがあるからといって支障がないとはいえないこと、上記(2)のとおり要件裁量が狭いことからすれば、上記判断は事実の基礎を欠く。

(4)市道の路線を廃止するにはその市道に隣接する全ての土地の所有者の同意を必要とする旨の内部基準は、法的拘束力のない行政規則であるが、処分基準(行手法2条8号ハ)としてウェブサイトで公にされた(同法12条1項)以上、X1の同意がないのに路線の廃止をすることは、信義則違反ないし平等原則違反であり、社会通念上著しく妥当性を欠く。

(5)よって、Y市長の判断には、裁量逸脱濫用の違法がある。

以上

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