平成29年司法試験論文式民事系第2問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.司法試験の論文式試験において、合格ラインに達するための要件は、概ね

(1)基本論点抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを摘示できている。

という3つです。とりわけ、(2)と(3)に、異常な配点がある。(1)は、これができないと必然的に(2)と(3)を落とすことになるので、必要になってくるという関係にあります。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記の配点をすべて取ったという前提の下で、優秀・良好のレベル(概ね500番より上の順位)に達するために必要となる程度の配点があるに過ぎません。 

2.ところが、法科大学院や予備校では、「応用論点に食らいつくのが大事ですよ。」、「必ず趣旨・本質に遡ってください。」、「事実は単に書き写すだけじゃダメですよ。必ず自分の言葉で評価してください。」などと指導されます。これは、必ずしも間違った指導ではありません。上記の(1)から(3)までを当然にクリアできる人が、さらなる上位の得点を取るためには、必要なことだからです。現に、よく受験生の間に出回る超上位の再現答案には、応用、趣旨・本質、事実の評価まで幅広く書いてあります。しかし、これを真似しようとするとき、自分が書くことのできる文字数というものを考える必要があります。
 上記の(1)から(3)までを書くだけでも、通常は6頁程度の紙幅を要します。ほとんどの人は、これで精一杯です。これ以上は、物理的に書けない。さらに上位の得点を取るために、応用論点に触れ、趣旨・本質に遡って論証し、事実に評価を付そうとすると、必然的に7頁、8頁まで書くことが必要になります。上位の点を取る合格者は、正常な人からみると常軌を逸したような文字の書き方、日本語の崩し方によって、驚異的な速度を実現し、7頁、8頁を書きますが、普通の考え方・発想に立つ限り、なかなか真似はできないことです。
 文字を書く速度が普通の人が、上記の指導や上位答案を参考にして、応用論点を書こうとしたり、趣旨・本質に遡ったり、いちいち事実に評価を付していたりしたら、どうなるか。必然的に、時間不足に陥ってしまいます。とりわけ、上記の指導や上位答案を参考にし過ぎるあまり、これらの点こそが合格に必要であり、その他のことは重要ではない、と誤解してしまうと、上記の(1)から(3)まで、とりわけ(2)と(3)を省略して、応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいってしまう。これは、配点が極端に高いところを書かずに、配点の低いところを書こうとすることを意味しますから、当然極めて受かりにくくなるというわけです。

3.上記のことを理解した上で、上記(1)から(3)までに絞って答案を書こうとする場合、困ることが1つあります。それは、純粋に上記(1)から(3)までに絞って書いた答案というものが、ほとんど公表されていないということです。上位答案はあまりにも全部書けていて参考にならないし、合否ギリギリの答案には上記2で示したとおりの状況に陥ってしまった答案が多く、無理に応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいって得点を落としたとみられる部分を含んでいるので、これも参考になりにくいのです。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作れば、それはとても参考になるのではないか、ということを考えました。下記の参考答案は、このようなコンセプトに基づいています。

4.今年の商法は、従来の傾向どおり、他論点型、事例処理型の問題でした。上記の(1)から(3)までを普通に守れば、優に合格答案でしょう。本問は応用論点を比較的多く含んでおり、そのために難しく感じるかもしれませんが、基本論点だけに絞って書いていけばよいのです。
 設問1は、最も基本的な問題であり、ここで確実に点を取りたいところです。参考答案は一貫して判例の立場から書いていますが、本問に限っては、有力説の立場に立った方が書きやすいかもしれません。特に、小問(2)は、有力説から事後設立の手続で追認できるとする方が、現場で書いていて気分がよいでしょう。判例の立場からはFの要求に応じざるを得なくなり、さらに「重要な財産の…譲受け」(362条4項1号)に当たるとして取締役会の決定手続が必要となるかも検討することになりますが、現場で書いているときには、少し感触の悪さを感じるかもしれません。
 設問2は、基本論点と応用論点が混在しているので、論点の取捨選択をする必要があります。普通の合格を狙うのであれば、議決権行使代理人株主限定定款規定(Kの議決権行使)と株式併合の不当性(特別利害関係株主・著しく不当な決議)の点に絞って書くべきでしょう。これらは、いずれも事前に用意した規範を書き写すだけで書けるようになっておかなければなりません。訴訟要件についても、敢えて落としてしまって構わないでしょう。もちろん、書いても時間が余って余裕だ、というなら書いてもいいですが、本問では訴訟要件に基本論点は含まれていないので、無理をして拾いに行くのは危険です。参考答案は、訴訟要件を無視しています。株式併合が著しく不当といえるかについて、参考答案は、やや強引に不公正発行と同様の基準で判断していますが、上位を狙うなら、差止め(182条の3)との兼合いも考慮して、もう少し慎重に判断したいところです。特別決議が必要であること(309条2項4号)も、上位を狙うなら、指摘しておくとよいでしょう。
 設問2の応用論点としては、まず、平成26年会社法改正に関するものとして、株主総会決議の取消しにより株主の地位を回復する者の原告適格(831条1項後段)があります。Gは、株式併合の効力が発生すると、持株がすべて1株未満の端数となるため、株主ではなくなってしまうからです。

 

(「司法試験論文用平成26年会社法改正対応教材」より引用。太字強調は原文による。)

株主総会決議の取消しにより株主の地位を回復する者が株主総会決議取消しの訴えを提起する場合

 株主総会決議の取消しにより株主の地位を回復する者について、株主総会決議取消しの訴えの原告適格が認められた(新831条1項後段)。

【条文】

新831条1項 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この項において同じ。)、監査役若しくは清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、設立時監査等委員である設立時取締役又はそれ以外の設立時取締役)又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする
 各号略。

 

 これは、気付いた人は軽く条文を挙げるだけでよいので、書ければよかったかも知れません。ただ、誰もが気付くかというと、そうでもないでしょうから、時間内にまとめる自信がなければ、落とした方が賢明です。
 もう1つ、これは平成26年会社法改正以前からあった条文ですが、改正によって条文の位置が変わったものとして、株式併合の理由の説明(180条4項)があります(改正前は3項)。問題文13の説明が、株式併合を必要とする説明として十分か、ということですね。書く場合には、314条の論証を流用するとよいでしょう。「司法試験定義趣旨論証集(会社法)」の論証を使えば、以下のようになります。

 

【論述例】

 314条の説明義務について、取締役等が説明義務を果たしたというためには、平均的な株主が決議事項について合理的な判断を行い得る程度の説明がなされたことを要する(東京スタイル事件参照)。180条4項の説明義務についても、同様に考えられる。

 

 もっとも、本問は論点が多く、試験の現場では、意外と多くの人が180条4項を落としてしまうでしょう。ですから、上位を狙うのでなければ、これは無理をして書きに行く必要はないと思います。
 設問2で最も応用的な論点は、相続が「譲渡」(130条1項)に当たるか、ということです。当然に当たる、と考えた人が多いと思いますが、会社法の立案担当者は明確に否定しています。

 

「会社法であそぼ。」2006年03月09日記事「相続と名義書換の関係」より引用。太字強調は筆者。)

 「移転」は、権利者の変更一般をあらわす言葉で、相続等の一般承継も、「移転」に含まれます。これに対し、「譲渡」は、権利者の処分による移転を指す言葉ですから、会社法130条は、相続等の一般承継の場合には適用されません。言い換えれば、会社法では、一般承継については、株主名簿の名義書換をすることなく、会社及び第三者に対抗することができると解すべきです。

(引用終わり)

 

 本問で、仮に相続が「譲渡」に含まれると考えると、Lは単なる失念株主です。

 

(問題文12より引用。太字強調は筆者。)

 Iは平成27年10月1日に死亡し,Iの唯一の相続人であるLが,Iが保有していた乙社株式800株(以下「本件株式」という。)を相続した。Lは,Iの生前から,乙社の株主名簿上のIの住所においてIと同居しており,Iが死亡した後も,引き続き同所において居住している。Lは,Iの生前から,Iが本件株式を保有していたことを知っていたものの,本件株式を相続により取得した後も,本件株式について株主名簿の名義書換えを請求していなかったが…

(引用終わり)

 

 本件株主総会の基準日は平成28年3月31日ですから、Iの死亡から約半年間、Lは本件株式の相続を知りながら、名義書換を怠っていたことになります。これでは、何らかの法律構成でLを救済すべきだ、という話にもならないでしょう。そうなると、Lに関する事情は、専ら設問3に関わりがあるだけで、設問2では何ら問題にならないということになってしまいます。
 ところが、相続が「譲渡」に含まれない、ということになると、Lは名義書換なくして乙社に株主の地位を対抗できることになります。「でも、それだと乙社は本当に相続人だかわからないのに、Lに権利行使させなければいけないの?」と思うかもしれませんが、それについては、Lに相続によって株主となったことの証明を求めることができるので問題ない、というのが、立案担当者の立場です。

 

「会社法であそぼ。」2006年03月09日記事「相続と名義書換の関係」より引用。太字強調は筆者。)

 相続人が、議決権や配当請求権を行使するときに、会社に対して、「自分が相続人であること」を証明しなければならないのは、証明責任の原則に照らしても、当然であり、その証明をしない相続人による請求を拒んだとしても、会社には責任がないものと解すべきです。
 したがって、名義書換を対会社対抗要件としなくても、「相続人は、相続を証する書面を提出する等して自己が相続人であることを証明してはじめて権利を行使することができる」と考えれば、必要十分だと思います。

(引用終わり)

 

 本問は、その証明がある事案です。

 

(問題文12より引用。太字強調は筆者。)

 Lは,Iの生前から,Iが本件株式を保有していたことを知っていたものの,本件株式を相続により取得した後も,本件株式について株主名簿の名義書換えを請求していなかったが,I宛ての本件株主総会の招集通知を受け取った日の翌日である平成28年6月3日,乙社に対し,相続により本件株式を取得したことを証する書面を提示して株主名簿の名義書換えを請求するとともに,上記10の株式の併合に反対する旨を乙社に通知した。乙社は,同日,Lの請求のとおり株主名簿の名義書換えを行った。

(引用終わり)

 

 若干気になるのは、Lが本件株主総会に出席する際には、相続による取得を証する書面を持参・提示していない、という点ですが、以下の事情からすれば、それは乙社が議決権行使を拒む理由にはならないように思われます。

 

(問題文12より引用。太字強調は筆者。)

 本件株主総会の当日,Lは,本件株主総会の会場に現れ,入場を求めたが,乙社の受付担当者は,乙社の代表取締役Jの指示に基づき,Lが本件株主総会に係る議決権行使の基準日において株主名簿上の株主でなかったことを理由として,Lの入場を認めなかった。

(引用終わり)

 

 そうなると、本件株主総会で、乙社がLに議決権の行使を認めなかったことは、違法となります。その前に、「招集通知をI宛に送付した点も違法なのでは?」と思うかもしれませんが、これは株主名簿の免責的効力(手形法40条3項類推適用によるのか、株券不発行の点に着目して民法478条によるべきか、という論点はありますが。)によって、適法なのでしょう。しかも、IとLが同居していて、Lが招集通知を受け取っているので、この点はそもそも問題にする必要がない、と考えてよいのだろうと思います。
 こうして、設問2でGの主張すべき本件決議の瑕疵としては、Lに議決権の行使を認めなかったという決議方法の法令違反(831条1項1号)もある、という話になるわけです。そうすると、付随的に、「Lが議決権を行使できなかったことをGが主張できるの?」という例の論点も生じてくるわけですね。そして、このことは、後に説明するとおり、設問3でもややこしい問題を引き起こすのです。
 このように、相続が「譲渡」に当たるかは、出題者は意識的に論点としているわけですが、気付く人はとても少ないでしょう。しかも、「軽く触れる」というわけにもいかない。そんなわけで、これは正常な受験生は触れてはいけない論点だ、ということになります。参考答案も、相続が「譲渡」に当たることを当然の前提としています。
 設問2では、問題文の以下の記述から、準共有株式の権利行使の方法に関する最判平27・2・19が気になるところです。

 

(問題文8より引用。太字強調は筆者。)

 乙社は従業員持株制度を採用しており,乙社の従業員のうち希望者が従業員持株会に加入している。当該従業員持株会(以下「本件持株会」という。)は,平成28年3月31日の時点で,乙社の従業員20人から成る民法上の組合であり,乙社の株式を1200株取得しており,当該1200株については下記9のとおり株主名簿に株主として本件持株会の理事長であるHが記載されている。本件持株会の会員は,積立口数に応じて本件持株会が保有する乙社の株式について持分を有し,各自の持分に相当する株式を管理の目的をもって理事長に信託している。すなわち,当該1200株については,実質的には,本件持株会の会員である従業員20人が,その持分に応じて,保有していることとなる。

(引用終わり)

最判平27・2・19より引用、太字強調は筆者。)

 共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,株式会社が同条ただし書の同意をしても,当該権利の行使は,適法となるものではないと解するのが相当である。
 
そして,共有に属する株式についての議決権の行使は,当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられる
ものと解するのが相当である。

(引用終わり)

 

 結論から先にいえば、「一見関係がありそうで、よく見ると関係なさそうで、さらによく考えると少し関係がありそうだ。」という感じです。一見すると、「実質的には…持分に応じて,保有している」と書いてあるので、「株式準共有の場面だから関係ありそう。」と思います。しかし、気を付けたいのは、株主名簿上の株主は、理事長Hになっているということです。したがって、乙社との関係では、本件持株会の株式はHの単独所有である。このことから、106条の通知や指定は必要がありません。

 

(106条)

 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。

 

 そうすると、「共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合」について判示した最判平27・2・19は、「関係なさそう」だ、ということになる。ところが、さらによく考えてみると、乙社との関係はともかく、本件持株会内部における手続の問題は残っている。すなわち、理事長による議決権行使に関する内部的意思決定の手続として、「当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられる」とする判例法理が、なお妥当する余地はあるかもしれない、ということです。すなわち、乙株式会社従業員持株会規約11条に議決権行使の方法が規定されており、これは少なくとも「直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り」においては、民法252条本文の特則として許容されるでしょう。しかし、「直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情」がある場合には、同規約11条にかかわらず、民法251条により、会員全員の明示の同意が必要(同規約11条ただし書の特別の指示がない、という黙示的同意では足りない)なのではないか

 

(民法251条)

 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

 

 本問は、本件決議によって、会員全員の持株がすべて1株未満の端数になってしまうわけですから、「直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情」がある場合といえます。さて、このような場合にも、明示の同意は不要なのか。その意味において、最判平27・2・19の法理は、少し関係がありそうだ、といい得るわけです。とはいえ、このようなことは、誰も書けないでしょうから、無視して構いません
 念のため、気付いてしまったら厄介なことを、少し説明しておきましょう。154条の2です。

 

(154条の2)

 株式については、当該株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、当該株式が信託財産に属することを株式会社その他の第三者に対抗することができない
2 第百二十一条第一号の株主は、その有する株式が信託財産に属するときは、株式会社に対し、その旨を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。
3 株主名簿に前項の規定による記載又は記録がされた場合における第百二十二条第一項及び第百三十二条の規定の適用については、第百二十二条第一項中「記録された株主名簿記載事項」とあるのは「記録された株主名簿記載事項(当該株主の有する株式が信託財産に属する旨を含む。)」と、第百三十二条中「株主名簿記載事項」とあるのは「株主名簿記載事項(当該株主の有する株式が信託財産に属する旨を含む。)」とする。
4 前三項の規定は、株券発行会社については、適用しない。

 

 現場で気付いてしまうと、「なんだこれは。」ということになってしまうでしょう。本問では、本件持株会の株式はHに信託されているわけですが、株主名簿に信託の記載はされていない。だから、乙社に対抗できないのではないか。それはそのとおりなのですが、対抗できないのは、「その株式が信託財産に属するものであること」であって、「Hが株主であること」ではありません。具体的にこの信託の記載が問題になるのは、Hが無資力になったような場合です。このような場合において、Hの債権者が本件持株会の株式に対して強制執行をしようとしたときに、これがHの固有財産ではなく、本件持株会会員の信託に基づく信託財産である、ということを対抗するためには、信託の記載が必要だ、ということです。

 

(信託法23条1項)

 信託財産責任負担債務に係る債権(信託財産に属する財産について生じた権利を含む。次項において同じ。)に基づく場合を除き、信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売(担保権の実行としてのものを除く。以下同じ。)又は国税滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)をすることができない

(信託法14条)

 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記又は登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができない

 

 本問はそのような場合ではないので、全く関係がない、ということになります。
 さて、設問3です。これは、完全に応用論点です。ただし、多くの人が、現場で目次から条文を引いて、株式買取請求(182条の4)の存在を発見できたのではないかと思います。これは平成26年会社法改正によって追加されたものですが、「司法試験論文用平成26年会社法改正対応教材」でも、無理して事前準備をするのではなく、万が一出題されたら現場で条文を引くべきだ、と説明していたところでした。

 

(「司法試験論文用平成26年会社法改正対応教材」より引用。太字強調は原文による。)

株式の併合により端数となる株式が生じる場合の規律

 事前・事後の情報開示(新182条の2、同条の6)、差止請求(新182条の3)、反対株主の株式買取請求権(新182条の4)及び価格決定申立権(新182条の5第2項)が新設された。
 しかし、論文試験において株式の併合により端数となる株式が生じる場合の規律を正面から問う可能性は高いとはいえず、仮に出題されたとしても、現場で会社法の目次から「株式の併合」の項目を探して条文にたどり着くことが可能である。従って、格別の対策を要しない

(引用終わり)

 

 ですから、最低限、182条の4まではたどり着く。普通の受験生にとっては、後は適当に条文を当てはめて終わりです。参考答案は、そのように書いています。ただ、実際には、さらに頑張って条文を引くと、「(一に満たない端数の処理)」という見出しの掲げられた条文を発見することができたはずです。

 

(会社法 第10節 雑則)

(一に満たない端数の処理)

234条 略。
2 株式会社は、前項の規定による競売に代えて、市場価格のある同項の株式については市場価格として法務省令で定める方法により算定される額をもって、市場価格のない同項の株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により、これを売却することができる。この場合において、当該許可の申立ては、取締役が二人以上あるときは、その全員の同意によってしなければならない。
3 前項の規定により第一項の株式を売却した場合における同項の規定の適用については、同項中「競売により」とあるのは、「売却により」とする。
4 株式会社は、第二項の規定により売却する株式の全部又は一部を買い取ることができる。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 買い取る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
二 前号の株式の買取りをするのと引換えに交付する金銭の総額
5 取締役会設置会社においては、前項各号に掲げる事項の決定は、取締役会の決議によらなければならない。
6 略。

235条 株式会社が株式の分割又は株式の併合をすることにより株式の数に一株に満たない端数が生ずるときは、その端数の合計数(その合計数に一に満たない端数が生ずる場合にあっては、これを切り捨てるものとする。)に相当する数の株式を競売し、かつ、その端数に応じてその競売により得られた代金を株主に交付しなければならない
2 前条第二項から第五項までの規定は、前項の場合について準用する。

 

 上位を狙うなら、これは引きたい。「235条があるのなら、株式買取請求なんてする意味がないじゃない。」と思うかもしれませんが、182条の4であれば「公正な価格」で買い取ってもらえるので、端数をまとめて競売等の手段で売却した代金よりは通常高額になる。だから、十分意味があるのです。ただし、この「公正な価格」が、単に本件決議がなければ有したであろう価格(「ナカリセバ価格」)なのか、乙社の完全子会社化による企業価値の増加(シナジー)が生じる場合として、その価値も織り込まれるのか、という点は、さらなる応用論点です。組織再編等に関する判例を応用して解答することになるでしょう。

 

最決平23・4・19(楽天・TBS事件)より引用。太字強調は筆者。)

 吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合には,増加した企業価値の適切な分配を考慮する余地はないから,吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格(以下「ナカリセバ価格」という。)を算定し,これをもって「公正な価格」を定めるべきである。

(引用終わり)

最決平24・2・29(テクモ事件)より引用。太字強調は筆者。)

 株式移転によりシナジー効果その他の企業価値の増加が生じない場合には,株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,当該株式買取請求がされた日における,株式移転を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいうと解するのが相当であるが(前記第三小法廷決定参照),それ以外の場合には,株式移転後の企業価値は,株式移転計画において定められる株式移転設立完全親会社の株式等の割当てにより株主に分配されるものであること(以下,株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率を「株式移転比率」という。)に照らすと,上記の「公正な価格」は,原則として,株式移転計画において定められていた株式移転比率が公正なものであったならば当該株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格をいうものと解するのが相当である。

(引用終わり)

 

 「司法試験定義趣旨論証集(会社法)」でも、これに対応する論証を用意していますが、本問では、気付いても書く余裕はないでしょうから、正常な受験生は無視すべきでしょう。

 

(「司法試験定義趣旨論証集(会社法)より引用)

企業価値の増加が生じない場合の「公正な価格」(469条1項柱書、785条1項柱書、797条1項本文、806条1項柱書)の意義
重要度:A
 企業価値の増加が生じない場合の「公正な価格」(469条1項柱書、785条1項柱書、797条1項本文、806条1項柱書)とは、組織再編等を承認する株主総会決議がなければその株式が有していたであろう価格(「ナカリセバ価格」)をいう(楽天・TBS事件判例参照)。

 

企業価値の増加が生じる場合の「公正な価格」(469条1項柱書、785条1項柱書、797条1項本文、806条1項柱書)の意義
重要度:A
 企業価値の増加が生じる場合の「公正な価格」(469条1項柱書、785条1項柱書、797条1項本文、806条1項柱書)とは、組織再編等の対価が公正であったならばその株式が有していると認められる価格をいう(テクモ事件判例参照)。

(引用終わり)

 

 ところで、そもそも本問のLは、「反対株主」(182条の4第2項)に当たるのか、実は、これが設問3最大の応用論点です。

 

(182条の4第2項)

 前項に規定する「反対株主」とは、次に掲げる株主をいう。
一 第百八十条第二項の株主総会に先立って当該株式の併合に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該株式の併合に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
二 当該株主総会において議決権を行使することができない株主

 

 785条2項1号ロの「議決権を行使することができない株主」については、議決権制限株式の株主のことを指し、基準日後株主(失念株主も会社との関係では基準日後株主となる。)は含まない、というのが、立案担当者の立場です。このことは、182条の4第2項2号についても妥当すると考えてよいでしょう。

 

「会社法であそぼ」2009年7月14日記事「略式株式交換と株式買取請求権」)より引用。太字強調は筆者。)

  1号ロは、議決権制限株式の株主のことをいい、株主総会の「基準日後に株式を取得した株主」は議決権を行使することはできませんが、1号ロの適用はなく、株式買取請求権を行使することができないとするのが通説です(争いはありますが、実務では、この考え方で確立しています)。

(引用終わり)

 

 これに関しては、「司法試験定義趣旨論証集(会社法)」でも同旨の論証を用意していましたから、超上位を狙うつもりで準備をしていた人は、書けたかもしれません。これはCランクですが、Cランクも絶対出ない、というわけではなく(絶対出ないものはそもそも収録しません。)、出題可能性も低いし、ガチガチに覚えておく必要もないけれど、上位を狙うなら知っておくと役に立つ場合もあるよ、というようなもので、本問のような場合がまさに当てはまるでしょう。

 

(「司法試験定義趣旨論証集(会社法)」より引用)

「議決権を行使することができない株主」(469条2項1号ロ、785条2項1号ロ、797条2項1号ロ、806条2項2号)に失念株主を含むか
重要度:C
 「議決権を行使することができない株主」を「反対株主」に含めた趣旨は、議決権制限株式の株主に株式買取請求権を付与する点にあること、名義書換を怠った失念株主の要保護性は低いことからすれば、失念株主は含まれない(旧カネボウ事件参照)。

(引用終わり)

 

 したがって、Lは、182条の4第2項2号によって株式買取請求をすることはできない。そうなると、1号はどうか。Lは、「第百八十条第二項の株主総会に先立って当該株式の併合に反対する旨を当該株式会社に対し通知し」の要件は満たしています。

 

(問題文12より引用。太字強調は筆者。)

 I宛ての本件株主総会の招集通知を受け取った日の翌日である平成28年6月3日,乙社に対し,相続により本件株式を取得したことを証する書面を提示して株主名簿の名義書換えを請求するとともに,上記10の株式の併合に反対する旨を乙社に通知した

(引用終わり)

 

 ネックになるのは、「当該株主総会において当該株式の併合に反対した株主」という部分です。ここで、設問2で問題になった、相続は「譲渡」(130条1項)に当たるか、という論点の帰結が影響してきます。仮に、相続も「譲渡」に当たるから、本問のLは単純な失念株主である、と考えれば、Lを救済する必要も何ら認められないわけですから、182条の4第2項1号にも当たらない、という単純な帰結になります。ところが、これが相続も「譲渡」に当たる、ということになると、Lが議決権を行使できなかったのは、乙社が不当に議決権を行使させなかったからだ、ということになる。ここで、名義書換の不当拒絶の論点を想起しましょう。同じように、乙社が、Lが本件株主総会で反対の議決権行使をしていないことをもって、「当該株主総会において当該株式の併合に反対した株主」に当たらないと主張することは、信義則に反し、許されない、ということになりそうです。こうして、Lは、182条の4第2項1号によって、株式買取請求をすることができる、ということになる。しかしながら、これを現場で書ける人は、ほとんどいないだろうと思います。
 参考答案の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(会社法)」に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)DとEの支払請求が認められるためには、AD間の賃貸借契約、AE間の雇用契約の効果が、甲社に帰属していることが必要である。

(2)発起人が設立のためにした法律行為の効果は、実質的に権利能力のない社団である設立中の会社に帰属する。そして、会社が成立した場合には、設立中の会社と成立後の会社は同一の実体である以上、上記法律行為の効果はそのまま成立後の会社に帰属する
 設立のために必要な行為は、定款記載の設立費用(28条4号)の限度でのみ、成立後の会社に帰属する(東洋紙器事件判例参照)。この判例に対しては、定款記載額を超過する設立費用に係る債権者が複数ある場合の帰属が不明確であるという批判があるが、行為時の時系列によって効果帰属の可否を区別すべきであり、行為の先後が不明な場合には、債権額に応じた按分額によるべきである。したがって、判例の立場は妥当である。

(3)Aは、甲社の設立手続を進める上で、当初の1か月間は、設立事務を行う事務所と設立事務を補助する事務員が必要であると考えており、設立に不要であったことをうかがわせる事実はないから、Dからの事務所用建物の賃借とEの事務員としての雇用は、いずれも設立のために必要な行為である。
 もっとも、甲社の定款には、「設立費用は80万円以内とする。」と記載されていたから、80万円の限度でのみ、甲社に帰属する。AD間の賃貸借契約の賃料60万円とAE間の雇用の報酬40万円を合計すると80万円を超過するから、行為時の時系列によって帰属を判断する。AD間の賃貸借契約が成立したのは、平成23年5月9日であり、AE間の雇用契約が成立したのは、同月12日であるから、先に成立した前者が優先する。そうすると、AD間の賃貸借契約の賃料60万円は全額が甲社に帰属し、AE間の雇用契約の報酬40万円については、そのうち20万円の限度で甲社に帰属することになる。 

(4)よって、甲社は、Dへの賃料60万円の支払は拒むことができないが、Eへの報酬40万円の支払については、そのうちの20万円の支払は拒むことができる。

2.小問(2)

(1)本件購入契約は、成立後の甲社の事業に用いる目的で、甲社の成立を条件として締結されたから、会社成立後に財産を譲り受ける契約であり、財産引受け(28条2号)に当たる。定款に記載のない財産引受けは、無効である(同条柱書)
 甲社の定款には、財産引受けについて記載がなかったから、本件購入契約は無効である。

(2)要件を欠く財産引受けは無効であるし(民法119条参照)、厳重な手続(28条2号、33条)の潜脱を認めるべきではないから、会社による追認は認められない(判例)
 したがって、甲社は、事後設立(467条1項5号)の手続によって本件購入契約を追認する方法によって本件機械の引渡しを受けることはできない。

(3)要件を欠く財産引受けの無効は、無効である以上、会社のみならず他の当事者も主張することができる(判例)
 したがって、甲社は、Fは無効主張できないとして本件機械の引渡しを受けることはできない。

(4)以上から、甲社が本件機械の引渡しを受けるためには、Cが、甲社を代表して、再度Fと本件機械について売買契約を締結するという方法によらざるをえない。

(5)「重要な財産の処分」(362条4項1号)に当たるか否かは、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきである(奈良屋事件判例参照)。このことは、同号の譲受けについても同様である。
 本件機械の代金は、Fから要求された追加額を含めると850万円であり、甲社の純資産額は、設立後、数か月の間、3000万円を超えることがなかったから、少なくとも純資産の4分の1を超えること、本件機械は甲社の事業活動に不可欠であったこと、Fから50万円を追加するよう要求されたこと等からすれば、「重要な財産の…譲受け」(362条4項1号)に当たる。
 よって、上記(4)の方法を採るためには、取締役会の決定手続が必要となる(同項柱書)。
(6)さらに、甲社の成立時である平成23年6月14日から2年以内に(4)の方法を採るためには、事後設立(467条1項5号)の手続が必要となる。本件機械の代金は、Fから要求された追加額を含めると850万円であり、甲社の純資産額は、設立後、数か月の間、3000万円を超えることがなかったから、同号ただし書の場合に当たらない。
 よって、株主総会の特別決議が必要である(309条2項11号)。

第2.設問2

1.Kを代理人とする議決権行使は乙社定款16条に違反するから、決議方法の定款違反(831条1項1号)があるという主張が考えられる。

(1)議決権行使の代理人資格を定款で制限することは、その合理的理由があり、相当と認められる程度のものである場合には、310条1項に反しない(関口本店事件判例参照)議決権行使の代理人資格を株主に限る旨の定款の定めは、株主以外の第三者による株主総会のかく乱を防止し、会社の利益を保護する趣旨のものであり、合理的な理由による相当程度の制限であるから、310条1項に反しないものとして有効である(同判例参照)
 したがって、乙社定款16条は、有効である。

(2)Kは、本件持株会の会員であり、実質的には本件持株会の株式について持分を有している。しかし、本件持株会の株式について株主名簿に株主として記載されているのは、理事長Hであるから、乙社との関係において、Kは株主ではない。乙社定款16条に違反するか。
 法人株主の職員、従業員等がその法人の代表者の意図に反する行動をすることができない場合には、総会かく乱のおそれはないから、特段の事情のない限り、その職員、従業員等による議決権の代理行使は、代理人資格を株主に限る旨の定款の定めに反しない(直江津海陸運送事件判例参照)。このことは、持株会の会員がその持株会の代表者の意図に反する行動をすることができない場合にも妥当する。
 Kは、本件持株会の発足以来の会員であり、Hの意図に反する行動をすることができないと考えられ、Kが特に総会をかく乱する意図を有していたとうかがわれる事実はなく、本件持株会の会員でHに対し本件株主総会における議決権行使についての特別の指示をしたものはいなかったから、上記特段の事情があるとはいえない。
 したがって、Kの代理人としての議決権行使は、乙社定款16条に違反しない。

(3)よって、上記主張は、認められない。

2.特別利害関係株主である甲社が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされた(831条1項3号)という主張が考えられる。

(1)特別利害関係株主(831条1項3号)とは、問題となる議案の成立により他の株主と共通しない特殊な利益を獲得し、又は不利益を免れる株主をいう
 本件株主総会の議案には、3000株を1株に併合することが含まれており、これにより、甲社だけ1株以上の株主となり、甲社以外の株主の保有株式はすべて1株未満の端数となる。したがって、甲社は、他の株主と共通しない特殊な利益を獲得し、又は不利益を免れる株主といえる。
 以上から、甲社は、特別利害関係株主に当たる。

(2)新株発行等が、特定の株主の持株比率を低下させて現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされた場合には、その新株発行等は不公正発行(210条2号)に該当する(忠実屋・いなげや事件参照)。このことは、株式の併合に係る決議が著しく不当なものといえるかについても妥当する。
 乙社が株式の併合をすることとなったのは、乙社を甲社の完全子会社とするためであること、乙社を完全子会社化するのは、甲社の経営方針に反対する少数株主を排除するためであったこと、乙社の創業者の一族である株主Gは、乙社が甲社の完全子会社となることに強硬に反対し、甲社からの株式売却の勧誘にも一切応じない姿勢を見せていたこと、株式の併合により、甲社だけが1株以上の株主となり、Gの保有株式は1株未満の端数となることから、本件決議は、Gの持株比率を低下させて甲社の支配権を維持することを主要な目的としてされたといえる。
 したがって、本件決議は著しく不当である。

(3)831条1項3号に該当する場合には、裁量棄却の余地はない(同条2項)。

(4)よって、上記主張は、認められる。

第3.設問3

1.反対株主の株式買取請求(182条の4)が考えられる。

2.本件株式は800株であったから、3000株を1株とする株式の併合によって、「一株に満たない端数が生ずる場合」(同条1項)に当たる。

3.Lは、株式の併合に反対する旨を乙社に通知した。しかし、Lは、平成27年10月1日にIの死亡により本件株式を相続し、Iが本件株式を保有していたことを知っていたのに、本件株主総会の基準日である平成28年3月31日(乙社定款11条)までに名義書換をしていなかったために、本件株主総会で反対の議決権行使ができなかったから、「当該株主総会において当該株式の併合に反対した株主」(同条2項1号)に当たらない。したがって、Lは、「反対株主」に当たらない。

4.よって、Lは、株式買取請求をすることができない。

以上

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