平成29年司法試験の結果について(1)

1.法務省から、平成29年司法試験の結果が公表されました。合格者数は、1543人でした。昨年の1583人と比較すると、ちょうど40人の減少です。とはいえ、ほぼ横ばいといっていいでしょう。

2.今回の合格者数には、1つの意味があります。それは、法曹養成制度改革推進会議決定の1500人という最低ラインが守られた、ということです。

 

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用。太字強調は筆者。)

 新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。

 (引用終わり)

 

 当サイトでは、上記の1500人の最低ラインが守られた場合を最も楽観的な数字と想定し、ありそうな合格者数は、1374人くらいだろうと予測していました(「平成29年司法試験の出願者数について(2)」)。その理由は、3つありました。1つは、上記は飽くまで目標にすぎず、そのような合格者数の目標値は、これまであまり守られて来なかったということ。もう1つは、昨年よりもさらに出願者数が減少しているために、昨年同様に1500人強の合格者数にしてしまうと、合格率が高くなりすぎてしまうということ。3つ目は、合格者数を1374人とした場合の合格率(23%)を維持する限り、累積合格率7割を達成できるということでした。
 当サイトのTwitterで実施したアンケートでも、「1301人から1400人まで」と回答した人が最も多く「1501人以上」と回答した人は全体の1割しかいませんでした。当サイトを含め、多くの人が、1500人を割り込むだろうと予測していたのです。

 

当サイトの2017年8月23日9:22のツイートより引用)

今年の司法試験の合格者数。
何人と予想しますか?

27% 1300人以下
40% 1301人から1400人まで
23% 1401人から1500人まで
10% 1501人以上

62票 最終結果

(引用終わり)

 

 その意味では、今回の1543人という合格者数は、予想外だったといえるでしょう。

2.どうして、大方の予想に反し、1500人の最低ラインが守られたのか。これは推測に頼るしかありませんが、法務省や司法試験委員会は、最初から1500人を受からせようとは思っていなかったのではないか、という推測はできるでしょう。なぜかというと、短答・論文の合格率のバランスが、崩れているからです。具体的に数字を見てみましょう。以下は、直近5年の受験者ベースの短答合格率、短答合格者ベースの論文合格率をまとめたものです。


(平成)
短答
合格率
論文
合格率
25 68.7% 38.9%
26 63.3% 35.6%
27 66.2% 34.8%
28 66.9% 34.2%
29 65.9% 39.1%

 短答段階では、合格率は例年とそれほど変わっていません。それが、論文段階になって急激に高くなっています。出願者数が昨年より減っているわけですから、昨年同様に1500人強の合格者数を維持すれば、当然合格率は上がるでしょう。最初からそれがわかっているなら、短答段階で、もう少し合格者数を増やすのが普通です。平成25年が、その例ですね。ところが、短答の合格率は、例年どおり。むしろ、少し下がっているくらいです。そのせいで、論文段階で急激に合格率が上がってしまっている。このことは、短答合格者の判定段階では、1500人を維持するつもりはなかったことの表れではないか。そう考えると、今年、1500人の最低ラインが守られたのは、当初からの計画ではなく、論文合格者の判定段階で、何らかの議論があって、急遽そういうことになった、という可能性はありそうです。

3.さて、1500人台という点では、昨年と今年は共通していますが、合格点の決定基準には、若干の違いがあります。ここ数年、司法試験の合格点は、一定のルールに従って決まっていました。平成21年から平成25年まで(ただし、平成24年は除く。)は、「2000人基準」(「平成26年司法試験の結果について(1)」)。平成26年及び平成27年は、「1800人基準」です(「平成27年司法試験の結果について(1)」)。すなわち、5点刻みで、最初に2000人または1800人を超える得点が合格点となる、というルールによって、説明ができたのです。では、昨年はどうかというと、合格点前後の人員の分布は、以下のようになっていました。

得点 累計人員
870 1707
875 1643
880 1583
885 1513
890 1442

 仮に、昨年の合格点が「1500人基準」によって決定されていたなら、合格者数は1513人になっていたはずでした。このように、昨年の合格点は、「1500人基準」によって決定されていたわけではなかったのです。一昨年の合格者数が1850人だったことを考えると、1513人ではあまりに急激に減少してしまう、という考慮があったのかもしれません。
 では、今年はどうか。合格点前後の人員の分布をみると、以下のようになっています。

得点 累計人員
790 1647
795 1600
800 1543
805 1481
810 1429

 今年は、「1500人基準」によって説明できることがわかります。この点が、昨年との違いです。

4.昨年、今年と、1500人台の合格者数が続いたので、当面は1500人が続くのではないか、という予測も一応はあり得るでしょう。しかし、当サイトとしては、その可能性はそれほど高くはないのではないか、という感じがしています。今年、1500人の最低ラインが守られたのは、上記2のように、当初の計画ではなく、イレギュラーな事情でそうなった、と考えるなら、来年も当然1500人が維持される、とは考えにくいことになりますし、平成28年度もローの入学定員の減少が続いていることから、来年以降もしばらくは出願者数の減少傾向は続きそうだ(「平成29年司法試験の出願者数について(1)」)ということからすれば、1500人を維持すると合格率がさらに高くなってしまうでしょう。そういうわけで、来年以降も1500人が維持される、という期待は、あまり持たない方がよいのではないかと思います。

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