平成30年司法試験論文式公法系第2問
設問1(1)の補足説明(4)

1.最後に、Eの原告適格を考えます。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

環境部長:次 に,Eについては,D所有土地に本件事業所を置いています。Eは,本件墓地の経営が始まることにより,本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念があると考えています。本件事業所の利用者は数日間滞在することもありますので,その限りでは住宅の居住者と変わりがない実態があります。

(引用終わり)

 

 Eが主張する具体的利益は、生活環境及び衛生環境上の利益ということになりそうです。上記の「周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪化」とは、具体的には以下のものを指します。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Aは,平成29年11月17日,周辺住民らに対して,本件条例第6条に基づく説明会(以下「本件説明会」という。)を開催した。本件説明会は,Aが主催したが,Cの従業員が数名出席し,住民に対する説明は,Aの担当者だけではなくCの従業員も行った。本件土地の周囲100メートル以内に住宅の敷地はなかったが,本件土地から100メートルを超える場所に位置する住宅に居住する周辺住民らが,本件説明会に出席し,本件土地周辺の道路の幅員はそれほど広いものではないため,墓参に来た者の自動車によって渋滞が引き起こされること,供物等の放置による悪臭の発生並びにカラス,ネズミ及び蚊の発生又は増加のおそれがあることなど,生活環境及び衛生環境の悪化への懸念を示した。しかし,Aは,その後も本件墓地の開設準備を進め,平成30年3月16日,B市長に対して本件墓地の経営許可の申請(以下「本件申請」という。)をした。

(引用終わり)

 

 これを見ると、どうやら生活環境の悪化とは、「墓参に来た者の自動車によって渋滞が引き起こされること」を指し、衛生環境の悪化とは、「供物等の放置による悪臭の発生並びにカラス,ネズミ及び蚊の発生又は増加のおそれがあること」を指しているようだ、ということがわかるわけです。
 上記の生活環境や衛生環境は、墓埋法が保護する利益といえるのでしょうか。墓埋法1条をみると、「公衆衛生」を目的の1つに掲げています。

 

(墓埋法1条。太字強調は筆者。)

 この法律は,墓地,納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われることを目的とする。

 

 衛生環境上の利益は、公衆衛生に含まれるといえるでしょう。他方で、生活環境上の利益は、公衆衛生に含まれるとはいえなさそうです。上記の具体例との関係で考えてみても、「墓参に来た者の自動車によって渋滞が引き起こされる」ことによって公衆衛生が害される、とはいいにくいですね。交通量が増えることによって排気ガスによる健康被害が生じる等であれば、公衆衛生の問題といえそうですが、ここではそのような主張はなされていないのです。単に、渋滞が引き起こされて迷惑だ、日常生活に支障を来す、という程度のものです。なので、ここでは、墓埋法1条の文言のうち、「その他公共の福祉」に含まれるという整理にしておきましょう。このように、Eの主張しようとしている具体的利益には、性質の異なるものが混在しているのです。

2.いずれにしても、同法10条1項は具体的な要件を設けていないわけですから、Eの主張するものが具体的利益として保護されているというためには、本件条例に、生活環境や衛生環境を害する場合には許可をしてはならない、という趣旨の規定があるか、チェックする必要があります。そこで、本件条例の規定を見ると、まず13条1項が目に付くでしょう。

 

(本件条例13条1項。太字強調は筆者。)

 墓地及び火葬場は,次の各号に定めるものの敷地から100メートル以上離れていなければならない。ただし,市長が市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは,この限りでない。

(1) 住宅
(2) 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(中略)に規定する障害福祉サービスを行う施設(入所施設を有するものに限る。)
(3)~(5) (略)

 

 同項は、ただし書で、「市長が市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるとき」を例外としています。このことは、本文に当たる場合が、原則として「市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がある」場合だ、ということを示しているといえるでしょう。また、本件条例9条2項4号が「墓地又は火葬場の周囲100メートル以内の区域の状況を明らかにした図面」を許可申請書の添付書類としているのは、この点が許可の要件となるという理解を前提に、その充足の有無を判断するための資料として提出させる趣旨なのでしょう。そうすると、本件条例13条1項本文は、住宅や同項2号に該当する施設から100メートル未満の距離に墓地があると、通常は公衆衛生を害するおそれがあるので、原則として市長は許可をしてはならないのだ、という趣旨の規定であると考えることができます。そして、ここでいう公衆衛生には、「供物等の放置による悪臭の発生並びにカラス,ネズミ及び蚊の発生又は増加のおそれがあること」などの衛生環境が含まれると考えてよさそうです。したがって、同項は、Eの主張するような衛生環境上の利益を、具体的利益として保護する趣旨を含んでいる、といえるわけです。
 同条2項も、衛生環境と関係がありそうです。

 

(本件条例13条2項)

 墓地及び火葬場は,飲料水を汚染するおそれのない場所に設置しなければならない。

 

 同項は、飲料水を汚染するおそれのある場所に墓地が設置されると、衛生環境を害することから、そのようなおそれのない場所に設置しなければならない。すなわち、そのような場所に墓地を設置したい旨の申請があっても、そのようなものは衛生環境を害するおそれがあることから、市長は許可をしてはならない、という趣旨の規定であることが明らかです。もっとも、本問でEが主張するような、「供物等の放置による悪臭の発生並びにカラス,ネズミ及び蚊の発生又は増加のおそれがあること」とは、関係がありません。すなわち、同項は衛生環境のうち、飲料水を汚染されない利益を具体的利益として保護しているとはいえるけれども、Eはそのような利益の侵害を主張していないので、原告適格を基礎付けるものとはいえないのです。
 14条はどうでしょうか。

 

(本件条例14条)

 墓地には,次の各号に掲げる構造設備を設けなければならない。ただし,市長が市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは,この限りでない。
(1) 外部から墳墓を見通すことができないようにするための障壁又は密植した垣根
(2) 雨水等が停滞しないようにするための排水路
(3) 墓地の規模に応じた管理事務所,便所,駐車場並びに給水及びごみ処理のための設備(墓地の付近にあるこれらのものを含む。)

2 墓地の構造設備については,植栽を行う等周辺の生活環境と調和するように配慮しなければならない。

 

 同条1項ただし書が、「市長が市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるとき」を例外としていますから、同項各号は、原則として、違反すれば市民の宗教的感情に適合しなかったり、公衆衛生等の見地から支障がある場合だ、ということになります。それを踏まえた上で1号を見ると、これは市民の宗教的感情に適合しない場合なのかな、という感じです。要するに、墓が外から丸見えになっていると何となく嫌だ、ということですね。したがって、Eの主張する生活環境や衛生環境の悪化とは関係がない。他方で、2号は、雨水等が停滞すると、周辺の道路等に水が溢れ出したりして生活環境が悪化し、蚊が発生するなどして衛生環境が悪くなることから設けられたものと考えられます。このうち、後者の衛生環境の悪化は、まさにEの主張するものといえます。また、3号のうち、ごみ処理のための設備は、Eの主張する「供物等の放置」による衛生環境の悪化に関するものといえますし、駐車場は付近の道路に路上駐車される事態を防ぐという意味で、Eの主張する渋滞による生活環境の悪化と関係がありそうです。そして、本件条例9条2項2号が墓地の構造設備を明らかにした図面を許可申請書の添付書類としていることから、これは申請の許否を判断する段階で考慮し、要件不充足なら不許可とすべき趣旨ということがわかります。したがって、本件条例14条1項2号、3号は、Eの主張する生活環境・衛生環境上の利益を、具体的利益として保護する趣旨を含んでいるといえるのです。
 では、同条2項はどうでしょうか。同項には、「生活環境と調和」という文言がありますが、その前の例示では、「植栽を行う等」とあるので、同条1項1号と類似の市民の宗教的感情に配慮するという程度の趣旨なのでしょう。Eの主張するような生活環境を保護する、すなわち、「墓参に来た者の自動車によって渋滞が引き起こされる」ことを防止しようとする趣旨とはいえないと考えるのが自然です。
 以上の検討から、Eの主張する生活環境・衛生環境上の利益を具体的利益として保護する趣旨の規定として、本件条例13条1項、14条1項2号、3号がある、ということがわかりました。では、これらの規定は、Eの主張する生活環境・衛生環境上の利益を、個々人に帰属する個別的利益として保護しているといえるのか。これを、次に検討する必要があります。
 本件条例13条1項は、わかりやすい。墓地から100メートル以上離れていない住宅の住民や同項2号の施設の利用者は保護の対象となっているが、100メートル以上離れている住宅の住民や同号の施設の利用者は保護の対象とならないことが明らかです。
 14条1項2号、3号については、どうか。まず、2号については、雨水等が停滞した場合に、衛生環境を侵害される者は、墓地の付近に居住する住民等に限られるでしょう。そして、ある程度の環境の変化は受忍すべきとしても、受忍限度を超えるような態様・程度の侵害を受ける者は、具体的利益としての衛生環境を侵害されたといえる。したがって、このような者には、雨水等の停滞によって衛生環境を害されない利益が個別的利益として帰属しているといえる。このように考えることができるでしょう。3号についても同様に、駐車場やごみ処理のための設備を欠くことによって受忍限度を超えるような態様・程度に生活環境や衛生環境の侵害を受ける者には、そのような侵害を受けない利益が個別的利益として帰属しているといえるでしょう。

3.もっとも、このことから、直ちにEの原告適格が肯定されることにはなりません。上記のような具体的利益がEに帰属していなければ、Eは、「法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者」とはいえませんから、原告適格を認めることはできないのです。では、Eに上記の具体的利益が帰属しているといえるか。問題文の事情からは、本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあるということは明らかですが、雨水等の停滞や駐車場・ごみ処理のための設備を欠くことによって生活環境・衛生環境を受忍限度を超えるほどに侵害されるような位置にあるか否かについては、明らかではありません。したがって、ここでは、本件条例13条1項の保護する利益との関係を考えることとします。
 Eに本件条例13条1項の保護する衛生環境上の利益が帰属するかを考えるに当たり、注意すべきことは、Eは法人である、ということです。Eから、「供物等の放置による悪臭が発生するぞ!」と言われても、「お前鼻が付いてんのかよ。」ということになる。「蚊が発生するじゃないか!」と言われても、「お前刺されんのかよ。」ということになるでしょう。裁判例でも、騒音等による健康被害との関係で、法人の原告適格を否定したものがあります。

 

大阪地判平18・3・30(西大阪延伸線事件第1審)より引用。太字強調は筆者。)

 工事施行認可に関する事業法等の規定の趣旨及び目的,これらの規定が工事施行認可の制度を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,同法は,これらの規定を通じて,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の利益を保護し,鉄道事業等の健全な発達を図るなどの公益的見地から鉄道事業の工事施行を規制するとともに,騒音等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって,鉄道事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業に係る工事が施行されることにより騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該工事施行認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものといわなければならない。

 (中略)

 原告らは,法人である原告らについて,代表者の職場等であることを理由に原告適格があると主張する。しかし,法人である原告らは,騒音等により健康又は生活環境に直接被害を受ける者ではなく,上記を理由に同原告らに原告適格を認めることはできない。

(引用終わり)

 

 この点をクリアするためには、2つの考え方があり得ます。1つは、本来的に利益が帰属するのは本件事業所の利用者であるが、個々の利用者が提訴するのは現実的ではないため、本件事業所の運営者であるEに利用者に代わって原告適格を認めるべきである、とする考え方です。本件事業所の利用者が、周辺住民同様に生活環境や衛生環境上の利益を享受すべきことについては、問題文に示唆があります。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 本件事業所は,従来のEの施設の利用者を引き継いでいたことから,定員に近い利用者が日常的に利用し,また,数日間連続して入所する利用者も見られた

 (中略)

環境部長:次に,Eについては,D所有土地に本件事業所を置いています。Eは,本件墓地の経営が始まることにより,本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念があると考えています。本件事業所の利用者は数日間滞在することもありますので,その限りでは住宅の居住者と変わりがない実態があります

(引用終わり)

 

 もっとも、本件事業所の利用者は法人Eの構成員ですらないわけですから、そのような理由によって原告適格を認めるためには、任意的訴訟担当等の民訴法の論点(行訴法7条参照)をクリアした上で、本件事業所の利用者の授権を要することになりそうです。したがって、本問で明らかになっている事実関係からは、無理があるでしょう。
 もう1つの考え方は、本件事業所における生活環境・衛生環境の悪化は本件事業所の業務に支障を生じさせるので、そのような業務上の利益によってEの原告適格を基礎付けることができる、というものです。Eの業務上の利益については、問題文に示唆があります。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 B市は,本件事業所の移転やDの代表者とEの代表者に親族関係があるという事情を把握していなかったが,D及びEがB市長に対して平成30年4月16日,本件申請に対して許可をしないよう求める旨の申入れを行ったことにより,上記事情を把握するに至った。D及びEの申入れの内容は,①本件墓地が大規模であるため,B市内の墓地の供給が過剰となり,Dの墓地経営が悪化し,廃業せざるを得ないこともあり得る,②本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあり,本件条例第13条第1項の距離制限規定に違反する,③本件墓地の経営が始まることにより,本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念がある,④本件墓地の実質的経営者は,AではなくCである,⑤仮にB市長が本件申請に対して許可をした場合には,D,E共に取消訴訟の提起も辞さない,というものであった。

 (中略)

環境部長:次に,Eについては,D所有土地に本件事業所を置いています。Eは,本件墓地の経営が始まることにより,本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念があると考えています。本件事業所の利用者は数日間滞在することもありますので,その限りでは住宅の居住者と変わりがない実態があります。

(引用終わり)

 

 上記のように考えるためには、そのような業務上の利益が具体的利益として保護されていなければなりません。しかし、本件条例13条1項2号は、1号の住宅と並列して規定されていること、括弧書きで、「入所施設を有するものに限る。」とされていること、衛生環境の悪化による業務上の利益の侵害は、飲食店や生鮮食品を扱う小売店、宿泊施設等についても生じ得るところ、そのような店舗を同項は対象にしていないことなどから、同号は入所した者の利益を保護する趣旨であって、同号の施設の業務を保護する趣旨と考えることは難しいでしょう(※)。この点において、業務上の支障に着目して医療施設等の開設者に原告適格を認めたサテライト大阪事件判例とは事案が異なるのです。
 ※ なお、本件条例6条の説明会が周辺住民のみを対象にしているか、13条1項2号の施設の運営者をも対象にしているか、という点は、Eの原告適格についての考慮要素となり得ますが、本件条例6条は説明会の対象を明確にしていないため、原告適格の肯否について特定の方向性を有する要素とはいえないでしょう。

 

(サテライト大阪事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 法4条2項は,経済産業大臣は,場外施設の設置許可の申請があったときは,申請に係る施設の位置,構造及び設備が経済産業省令で定める基準に適合する場合に限り,その許可をすることができる旨規定している。そして,これを受け,自転車競技法施行規則(平成18年経済産業省令第126号による改正前のもの。以下「規則」という。)15条1項は,上記の基準として,① 学校その他の文教施設及び病院その他の医療施設(以下,これらを併せて「医療施設等」という。)から相当の距離を有し,文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがないこと(同項1号。以下,この基準を「位置基準」という。),② 施設の規模,構造及び設備並びにこれらの配置は周辺環境と調和したものであること(同項4号。以下,この基準を「周辺環境調和基準」という。)を定めている。

 (中略)

 場外施設は,多数の来場者が参集することによってその周辺に享楽的な雰囲気や喧噪といった環境をもたらすものであるから,位置基準は,そのような環境の変化によって周辺の医療施設等の開設者が被る文教又は保健衛生にかかわる業務上の支障について,特に国民の生活に及ぼす影響が大きいものとして,その支障が著しいものである場合に当該場外施設の設置を禁止し当該医療施設等の開設者の行う業務を保護する趣旨をも含む規定であると解することができる。したがって,仮に当該場外施設が設置,運営されることに伴い,その周辺に所在する特定の医療施設等に上記のような著しい支障が生ずるおそれが具体的に認められる場合には,当該場外施設の設置許可が違法とされることもあることとなる。このように,位置基準は,一般的公益を保護する趣旨に加えて,上記のような業務上の支障が具体的に生ずるおそれのある医療施設等の開設者において,健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益を,個々の開設者の個別的利益として保護する趣旨をも含む規定であるというべきであるから,当該場外施設の設置,運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者は,位置基準を根拠として当該場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有するものと解される。

(引用終わり)

 

 したがって、本問で明らかな事実関係だけでは、本件条例13条1項を直接の根拠としてEの原告適格を肯定することは困難なように思います。また、Dの原告適格の場合と同様に、本件条例が要件としていない要素であっても、裁量逸脱濫用となり得る場合には具体的利益と考える余地があるわけですが、本件条例13条1項2号の施設の業務上の利益を侵害する場合に許可をすると直ちに裁量逸脱濫用の違法となると考えるのは困難でしょう。以上の検討から、Eの原告適格を肯定することは難しい、というのが、当サイトの結論です。

4.墓埋法10条1項による墓地の経営許可の取消訴訟における周辺住民の原告適格については、判例(最判平12・3・17)があります。

 

(最判平12・3・17。太字強調は筆者。)

 墓地、埋葬等に関する法律(以下「法」という。)一〇条一項は、墓地、納骨堂又は火葬場(以下「墓地等」という。)を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない旨規定するのみで、右許可の要件について特に規定していない。これは、墓地等の経営が、高度の公益性を有するとともに、国民の風俗習慣、宗教活動、各地方の地理的条件等に依存する面を有し、一律的な基準による規制になじみ難いことにかんがみ、墓地等の経営に関する許否の判断を都道府県知事の広範な裁量にゆだねる趣旨に出たものであって、法は、墓地等の管理及び埋葬等が国民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とする法の趣旨に従い、都道府県知事が、公益的見地から、墓地等の経営の許可に関する許否の判断を行うことを予定しているものと解される。法一〇条一項自体が当該墓地等の周辺に居住する者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難い。また、大阪府墓地等の経営の許可等に関する条例(昭和六〇年大阪府条例第三号)七条一号は、墓地及び火葬場の設置場所の基準として、「住宅、学校、病院、事務所、店舗その他これらに類する施設の敷地から三百メートル以上離れていること。ただし、知事が公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは、この限りでない。」と規定しているしかし、同号は、その周辺に墓地及び火葬場を設置することが制限されるべき施設を住宅、事務所、店舗を含めて広く規定しており、その制限の解除は専ら公益的見地から行われるものとされていることにかんがみれば、同号がある特定の施設に着目して当該施設の設置者の個別的利益を特に保護しようとする趣旨を含むものとは解し難い。したがって、墓地から三〇〇メートルに満たない地域に敷地がある住宅等に居住する者が法一〇条一項に基づいて大阪府知事のした墓地の経営許可の取消しを求める原告適格を有するものということはできない

(引用終わり)

 

 本問の解説の中には、これにそのまま依拠して説明するものが出てきそうですが、現在では、それは適切な説明とはいえないでしょう。

 

福岡高判平20・5・27。太字強調及び※注は筆者。)

 墓地や火葬場といった施設は,一般には付近に設置されることが歓迎されない施設(いわゆる嫌忌施設)であることは明らかであり,これが自らの居住する住宅の周辺に設置されるということになれば,相応の精神的苦痛を受け,さらには,その設置によって,周辺の地価が下落するというような事態もまま見受けられるところである。そして,そのような精神的苦痛等は,当該嫌忌施設に近接すればするほど強くなる関係にあるものということができる。そうであれば,法や規則は,第一次的には,上記のような社会公共の利益を保護するものと解されるが,併せて,嫌忌施設であるがゆえに生ずる精神的苦痛等から免れるべき利益を個別的利益として保護するものと解するのが相当である。このことは,規則3条1号において,具体的に住宅等が列挙されていることにも根拠を見出すことができる(住宅等の個々の居住者や利用者を離れては,そのような施設を列挙した意義は理解し難い。)。
 なお,原判決は,同種事案における判例(最高裁判所第2小法廷平成12年3月17日判決・判例時報1708号62頁)(※注 上記最判平12・3・17を指す。)を踏まえて,上記規定等が個別的利益を保護するものではない旨の説示を行っているものと理解されるのであるが,同判例が生まれた後,行政事件訴訟法の改正(※注 9条2項を追加した平成16年の改正を指す。)という大きな事情変更があったものであり,複数の文献で判例変更の可能性が示唆されていることや,前記(1)の最高裁大法廷判決(これは上記行政事件訴訟法の改正後に出されたものである。)(※注 小田急線高架訴訟判例を指す。)の判示するところをも参酌するならば,法ないし規則が前記のような個別的利益を保護する趣旨を含むものと解するのが相当である

(引用終わり)

 

 以前の記事(「平成30年司法試験論文式公法系第2問設問1(1)の補足説明(2)」)で紹介した東京地判平22・4・16も、周辺住民の原告適格を肯定しています。ですから、周辺住民については原告適格を肯定するのが、現在では正解に近いといえるでしょう。もっとも、周辺住民の原告適格を肯定できたとしても、本問のEについては原告適格を肯定することが困難であることは、これまでに説明してきたとおりです。

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