平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(5)

1 以下は、直近5年の司法試験受験経験別の受験者数の推移です。

受験経験 平成26 平成27 平成28 平成29 平成30
受験なし 6025 6384 6560 6729 7098
旧試験のみ 3358 3095 2779 2740 2670
新試験のみ 385 317 409 365 428
両方受験 579 538 694 909 940

 一貫して減少しているのが、「旧試験のみ」のカテゴリーです。旧司法試験はもう実施されていないわけですから、これは当然といえるでしょう。とはいえ、旧司法試験から予備に転じて、ずっと受け続けている人が、まだ2670人もいる。旧司法試験最後の論文試験が実施されたのが、平成22年ですから、もう既にそれから8年が経過しています。これが、長年憂慮されてきた、滞留者問題です。
 滞留者問題という意味では、「両方受験」のカテゴリーが増加を続けている点が、怖いと感じさせます。このカテゴリーは、旧司法試験を受験していたが、合格できずに法科大学院に入学し(※1)、新司法試験を受けたが、それでも合格できずに受験回数を使い切ってしまい、予備試験に流れた、という人達です。平成27年は受験回数制限緩和の影響で一時的に減少していましたが、平成28年以降からまた増加傾向となっています。このような人達がこれまでに費やしてきた資金、時間、労力は、莫大なものがあります。受験を諦めることは、それらが完全に無駄になってしまうことを意味する。だから、やめられない。これが、滞留者の陥りがちな心理状態です(※2)。
 ※1 厳密には、旧司法試験受験経験者が予備試験に合格し、新司法試験を受験したが、受験回数を使い切った、という場合も含まれます。
 ※2 ある程度以上高齢になってしまうと、公務員や民間企業の採用枠から外れてしまうということも、重要な要素です。受験を継続するか否かを考えるに当たっては、この辺りも考慮した上で、判断する必要があるでしょう。そうしないと、がむしゃらに受験を継続し、気が付いたら他の選択肢がなくなっていた、ということになりかねません。

 やや不規則な動きをしているのが、「新試験のみ」のカテゴリーです。平成27年の減少は、「両方受験」と同様、受験回数制限緩和の影響といえるでしょうが、その後、平成28年は増加、平成29年は減少、そして今年は再び増加に転じています。新司法試験しか受験経験のない人はまだ十分若いので、他の選択肢に流れる余地が大きい。そのため、民間への就職や公務員試験に流れる者が多い年と、予備で受験を続けようとする者が多い年とで流動的になりやすいのでしょう。その意味では、受験回数制限は、滞留者防止に一定の役割を果たしているといえます。
 それから、一貫して増加傾向にあるのが、「受験なし」のカテゴリーです。今年は、369人増加して、ついに7000人を超える数字になりました。このカテゴリーは、新規参入者を示しています。新規参入者としては、大学生と法科大学院生が思いつきますが、今年の大学生の受験者は3167人、法科大学院生の受験者は1298人で、合わせても4465人。「受験なし」の受験者は7098人ですから、4465人を差し引いても2633人残ります。この2633人は、大学生でも法科大学院生でもない。無職の受験者の多くは専業受験生で、受験経験のない者はあまりいないと考えると、これは有職者である可能性が高いと考えることができるでしょう。今年の有職者の受験者は、3834人います。仮に、上記2633人が全員新規参入の有職者だとすると、有職者の受験者の3分の2強は新規参入者であることになる。前回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)で、有職者の受験者の増加は、新たに法曹を目指して予備試験に参入する社会人や、司法試験で受験資格を喪失し、就職したが、諦めきれずに予備試験を受験する人が増えているという可能性を示唆しているという説明をしましたが、上記の試算は、前者の可能性を示唆するものといえるでしょう。もっとも、逆の方向を示唆する数字もあります。それは、年齢層別の短答合格率です。前々回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)で説明したとおり、30代後半から60代前半までの短答合格率は、すべて20代よりも高い数字です。このことは、30代後半から60代前半までの年代層の多くが、新規参入者ではなく、長期受験者であることを示唆しているのです。そして、前回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)で説明した有職者の短答合格率は、大学生ほど低くはないが、無職ほど高くもない数字を示しており、その中間を示唆しています。30代前半の社会人の新規参入が増えている、ということも考えられますが、今年の30代前半の受験生は1014人しかいないので、説明としては不十分でしょう(※3)。無職のカテゴリーの中に、それまでの仕事を辞めて予備試験に挑戦した新規参入者が含まれている、ということも考えられますが、仕事を辞めて法科大学院に通うという話はそれなりに聞きますが、仕事を辞めて予備試験というのは、あまり聞く話ではありません。今のところ、にゃんともいえない、という感じです。 
 ※3 大学生でも法科大学院生でもない新規参入者というと、近年は高校生を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、今年の19歳以下の受験生は76人、高校在学中の受験生は13人しかいないので、「高校生の受験生が増えた。」という説明にも無理があります。

2 今度は、最終合格者数をみていきます。以下は、直近5年の司法試験受験経験別の最終合格者数の推移です。

受験経験 平成26 平成27 平成28 平成29 平成30
受験なし 277 319 344 370 347
旧試験のみ 42 45 35 28 31
新試験のみ 15 11 10 11 18
両方受験 22 24 16 35 37

 合格しているのは、圧倒的に「受験なし」、すなわち、新規参入者であることがわかります。もっとも、昨年よりも数が減少しています。他方で、他のカテゴリーはすべて合格者数が増加している。これが、今年の特徴です。

3 では、合格率はどうなっているか。まずは、短答合格率(受験者ベース)です。

受験経験 短答
合格率
受験なし 19.5%
旧試験のみ 27.1%
新試験のみ 33.6%
両方受験 42.9%

 短答は、受験経験を積むごとに、合格率が上がっていきます特に、新司法試験の受験経験があると、合格率が高くなっている。旧司法試験時代は、憲法と刑法は論理問題が多く、知識の比重が低かった(※4)ために、旧司法試験の受験経験は、新司法試験の受験経験よりも短答合格率への寄与度が低くなっているのでしょう(※5)。知識だけで勝負すると、旧司法試験と新司法試験の両方を経験した年配者が圧倒的な差で勝利します。仮に、知識だけで最終合格が決まる試験であれば、誰も新規参入をしたがらなくなるでしょう。そこで、論文段階で強力な若年化方策が必要とされるというわけでした。
 ※4 当時の憲法、刑法の論理問題は、短答段階において知識のない者を受からせるための若年化方策でした。
 ※5 旧司法試験時代の短答の試験科目は憲民刑の3科目でしたが、平成26年以前の新司法試験の短答の試験科目は7科目で、予備試験の短答の試験科目と重なっていたことも、重要な要素です。

4 さて、その論文合格率(短答合格者ベース)をみてみると、以下のようになっています。

受験経験 論文
合格率
受験なし 26.3%
旧試験のみ 4.8%
新試験のみ 12.5%
両方受験 9.9%

 短答で苦戦していた「受験なし」の新規参入者が、圧倒的な差を付けて受かっていくこれが若年化方策の効果であり、「論文に受かりやすい人は、すぐに受かる」が「論文に受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則です。繰り返し説明しているとおり、この結果は、当局が意図的にそのような出題・採点をしているために、そうなっているのです。ただ、その効果が薄まってきている。一昨年(平成28年)の数字と比較してみましょう。以下は、平成28年と今年の論文合格率(短答合格者ベース)の比較表です。

受験経験 一昨年
(平成28年)
今年 両者の差
受験なし 29.8% 26.3% -3.5%
旧試験のみ 4.8% 4.8% 0%
新試験のみ 8.1% 12.5% +4.4%
両方受験 6.2% 9.9% +3.7%
全体 17.6% 17.2% -0.4%

 全体の合格率でみると、一昨年と今年はほとんど差がありません。しかし、カテゴリー別にみると、「受験なし」の合格率だけが下がっており、「新試験のみ」と「両方受験」の合格率は、いずれも上昇している。ここでも、若年化方策の効果が、薄まっていることが確認できます。ところが、「旧試験のみ」の合格率は、上昇していない。これは、興味深い現象です。「新試験のみ」と「両方受験」のカテゴリーに属する者は、いずれも新司法試験を受験して、受験回数を使い切っています。受験回数を使い切る過程で、若年化方策によって出力される成績を通知されている。だから、当サイトなどの情報によって、これが意図的なカラクリによるものであることを示されると、実際の自分の経験と照らし合わせることで、確認し、納得しやすいのです。旧司法試験しか受験していないと、体感が伴わないので、規範と事実が重要と言われても、その意味を十分に理解しにくいという面があるのでしょう。若年化方策のカラクリを実感を伴って理解できるかどうか、その差が、表れているといえます。「旧試験のみ」のカテゴリーの人は、旧試験時代から、一生懸命に勉強を続けてきたはずです。それなのに、論文では4.8%しか受からない。毎年、がむしゃらに勉強しても、ますます、当局が落としたい人、受かりにくい人になってしまうだけです。逆に、若年化方策のカラクリを逆手に取って、若手が書くような答案、すなわち、抽象論は極力省略する一方で、当てはめに入る前に規範を明示し、事実を問題文から丁寧に引用するということを強く意識した答案を書くようにすれば、勉強量は少なくても、受かってしまいます。ただし、そのためには、かなりの文字数を限られた時間で書き切る筆力が必要になる。これは、特に年配者に欠けている能力です。これを克服するには、文字を速く書く訓練をするしかありません。最低限、時間内に4頁びっしり書き切れる筆力を身に付ける。予備試験は、70分(実務基礎は90分)で4頁ですから、若手の上位者は平気で4頁をびっしり、それも、小さな字で一行35~40文字くらいを書いてきます。知識・理解よりも、筆力が合否を大きく左右するこのことをよく知った上で、来年に向けた学習計画を考える必要があるのです。 

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