令和元年予備試験口述試験(最終)結果について(3)

1.以下は、年齢層別の短答合格率(受験者ベース)です。

年齢層 短答
合格率
19歳以下 7.4%
20~24歳 22.5%
25~29歳 19.0%
30~34歳 21.3%
35~39歳 25.0%
40~44歳 26.1%
45~49歳 26.7%
50~54歳 26.6%
55~59歳 22.5%
60~64歳 25.8%
65~69歳 18.5%
70~74歳 13.3%
75~79歳 3.2%
80歳以上 9.0%

 当サイトで繰り返し説明しているとおり、短答は単純に知識で差が付くので、勉強量の多い年配者が有利です。それが、合格率にはっきり表れている。30代後半から60代前半までの年代を見ると、50代後半を除いて全て25%以上の高い合格率です。これに対し、20代前半は22.5%に過ぎません。このことは、単純に知識だけで勝負させてしまうと、「30代後半くらいまで勉強を続けないとなかなか合格できない。」という怖い結果が出力されかねないことを示しています。合格率のトップが40代後半、次点が50代前半というのも、若い人からすれば、「意味がわからないよ。」という感じだと思います。このことは、30代後半から60代前半までの受験者の多くは、勉強期間が長い人達である。すなわち、30代、40代、50代になって初めて法曹を目指し始めた社会人ではなく、 旧司法試験時代から、苦節10年、20年、30年と勉強を続けている人達である、ということを意味しています。前回の記事(「令和元年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)でみたとおり、年配受験者の受験者数は近年増加傾向で、これは年配者の新規参入の増加を意味している(※1)のですが、それでもなお、年配受験者層の多数を占めるのは、長期受験者だということです。旧司法試験時代に存在した滞留者問題は、解消されていないのです。前回の記事(「令和元年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明した若年化方策が必要とされる所以です。
 ※1 長期受験者は概ね毎年受験するので、前年比でみた場合の受験者数の増加にはほとんど寄与しません。

2.上記のとおり、短答は年配者有利の結果でしたが、論文段階ではどうなるか。以下は、短答合格者ベースの年齢層別論文合格率です。

年齢層 論文
合格率
19歳以下 12.5%
20~24歳 38.5%
25~29歳 24.1%
30~34歳 14.7%
35~39歳 10.0%
40~44歳 7.2%
45~49歳 4.9%
50~54歳 1.3%
55~59歳 3.2%
60~64歳 0.8%
65~69歳 0%
70~74歳 0%
75~79歳 0%
80歳以上 0%

 短答では強かった年配者が壊滅し、若手が圧倒的に有利になっています。これが、前回の記事(「令和元年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明した若年化方策の効果です。法律の知識・理解だけで勝負させてしまうと、短答のように30代後半以降の者が有利になり、40代後半・50代前半が最も受かりやすい試験になってしまう。「40代、50代まで勉強を続けた者が一番受かりやすい試験」など、誰も受けたくないでしょう。だから、そのような年代層が受からないような出題、採点をする。具体的には、長文の事例問題を出題し、規範と事実、当てはめ重視の採点をするということです。規範も、判例の規範であれば無条件に高い点を付けるが、学説だとかなり説得的な理由を付していなければ点を付けない。若手は、とにかく判例の規範を覚えるので精一杯です。しかし、勉強が進んでくると、判例の立場の理論的な問題点を指摘する学者の見解まで理解してしまいます。「そうか判例は間違いだったのか。」と、悪い意味で目から鱗が落ちる。こうして、年配者は、「間違った」判例ではなく、「正しい」学説を書こうとします。この傾向を逆手に取れば、若年化効果のある採点ができるというわけです。この採点方法は、「理論と実務の架橋という理念からすれば、まず判例の立場を答案に示すことが求められる。」という建前論によって、正当化することができる点でも、優れています。
 予備試験の論文式試験の問題は、旧司法試験の問題に外見が似ています。しかし、旧司法試験時代と現在とでは、若年化方策が異なる旧司法試験時代は、比較的単純な基本重視で、とりあえず趣旨を書けば受かる、というものでした。だから、趣旨に遡る形式の予備校論証を貼っていれば、当てはめがスカスカでも受かっていたのです。これに対し、現在の予備試験は、規範の明示と事実の摘示に極端な配点を置く当てはめ重視です。ですから、論証を貼って当てはめがスカスカというのでは、危ない。旧司法試験過去問を解く場合には、この点に注意する必要があります。

3.このように、短答で比較的素直に高齢化させておいて、論文で若年化させる。現在は、そのような仕組みになっています。なぜ、短答段階でも若年化方策を採らないのか、不思議に思う人もいるでしょう。かつての旧司法試験では、短答でも複雑なパズル問題を出題するなど、知識では解けない問題を出題して、若年化を図っていました。ところが、そのような手法は、見た目にも法律の知識・理解を問う気がないことがバレてしまう出題形式だったので、もはや法律の試験ではない、というまっとうな批判がなされました。しかも、短答段階で知識を問わなくなった結果、あまりにも知識のない者が合格してしまい、修習に支障が生じるという事態にもなりました(旧司法試験でも民法だけは知識重視の傾向が維持されたのは、これだけは譲れない一線だったからだと言われています。)。そして、そもそも、年配者も知識で解かないということに気付いてしまい、若年化効果が薄れてしまった。そこで、新司法試験では、そのような出題はしないこととされたのです。

 

新司法試験実施に係る研究調査会報告書(平成15年12月11日)より引用。太字強調は筆者。)

第4 短答式試験の在り方

1 出題の在り方

 (中略)

 基本的知識が体系的に理解されているかを客観的に判定するために,幅広い分野から基本的な問題を多数出題するものとし,過度に複雑な出題形式とならないように留意する

(引用終わり)

 

 このことは、現在でも司法試験委員会決定において確認され、予備試験における短答式試験の実施方針においても留意事項とされています。

 

(「司法試験の方式・内容等の在り方について」(平成30年8月3日司法試験委員会決定)より引用。太字強調は筆者。)

  短答式試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが,その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わない

(引用終わり)

(「予備試験の実施方針について」(平成21年11月11日司法試験委員会)より引用。太字強調は筆者。)

第2 短答式試験について

 (中略)

3 出題方針等

(1) 法律基本科目(憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法,刑事訴訟法をいう。以下同じ。)

○ 幅広い分野から,基本的な事項に関する内容を多数出題するものとする。
新司法試験の短答式試験において,過度に複雑な形式による出題は行わないものとしていることにも留意する必要がある

(引用終わり) 

 

 短答は、出題形式や採点方法に工夫の余地が少ないのに対し、論文は、採点をブラックボックスにできるので、工夫の余地が大きいのです。そして、現在の方策は、外見上、法律の知識・理解が問われているように見えるので、年配者も気が付きにくい。不合格になっても、来年に向けて法律の知識・理解を深めようと努力してくれれば、その年配者を落とすことができるので、問題がないわけです。

4.ただ、前回の記事(「令和元年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)でも説明したとおり、この若年化方策の効果が、薄まりつつあると思わせるような数字もみられるようになってきています。以下は、平成28年と昨年、今年の短答合格者ベースの論文合格率の比較表です。

年齢層 平成28年 平成30年 令和元年
19歳以下 0% 20.0% 12.5%
20~24歳 37.8% 33.8% 38.5%
25~29歳 24.5% 25.0% 24.1%
30~34歳 11.7% 15.8% 14.7%
35~39歳 8.3% 11.8% 10.0%
40~44歳 4.3% 5.0% 7.2%
45~49歳 4.7% 7.7% 4.9%
50~54歳 2.3% 2.6% 1.3%
55~59歳 2.1% 3.2% 3.2%
60~64歳 2.7% 2.7% 0.8%
65~69歳 0% 0% 0%
70~74歳 0% 5.8% 0%
75~79歳 0% 0% 0%
80歳以上 --- --- 0%
全体 17.6% 17.2% 18.3%

 全体の論文合格率でみると、それほど大きな違いはありません。しかし、年代別でみると、昨年は20代前半だけが合格率を落とし、他の年配者層は概ね合格率を伸ばしていることがわかります(※2)。今年は、再び20代前半が合格率を伸ばし、年配受験者は苦戦する結果となっていますが、40代前半のように、合格率を伸ばしている世代もあることには注意すべきでしょう。まだはっきりとはしないものの、このような数字は、若年化方策の効果が薄れつつあるのではないか、と感じさせるのです。当サイトが、規範の明示と事実の摘示の重要性を繰り返し説明し、平成27年からこれに特化した参考答案を掲載するようになったこともあって、若年化方策の手口が知られるようになってきたことが、影響しているのでしょう。もっとも、いまだに20代前半が圧倒的に強いことには変わりはない。前回の記事(「令和元年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明したとおり、若年化方策の効果が消失してしまいそうな状況には、全くなっていないということです。そうである以上、法務省としても、今の論文の出題、採点の方針を変更する理由はない。したがって、当面は、新たな若年化方策が採用されるということはない、と考えておいてよいでしょう。
 ※2 19歳以下が大幅に伸びているようにみえますが、これは母数が少ないことによるものです。

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