債権法改正:不可分債務

 

1.不可分債務も、地味に債権法改正の影響を受けています。改正の趣旨を端的に言えば、「ガチで不可分なやつ以外は不可分債務にしない。」ということです。すなわち、これまで可分なのに意味分かんねー理由で不可分とか言ってたやつは、基本的に連帯債務にぶっ込むということです。

2.改正前は、性質上可分であっても、意思表示で不可分にできました(改正前428条)。例えば、AとBが、Cに対して100万円の金銭債務を負うという場合に、ABCの合意があれば、不可分ということにできた。しかし、不可分というのは、分けようと思っても分けられないというものではないのか。100万円の金銭債務は、合意しようがなんだろうが、50万円と50万円に分けられる。それを不可分というのは意味わかんねーですね、ということで、改正後は性質上の不可分しか認めないということになったのでした(430条)。

 

(民法430条。太字強調は筆者。)
 第四款(連帯債務)の規定(第四百四十条の規定を除く。)は、債務の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債務者があるときについて準用する。

 

 もっとも、先の例で、AとBの分割債務となると、Cにとっては困る場合もあるでしょう。Cとしては、AにもBにも100万円全額を請求したいということもある。意思表示による不可分債務が認められないと、そんな場合に不都合ではないか、というと、そうではありません。そんなときは、意思表示による連帯債務(436条)とすればよいのです。

 

(民法436条。太字強調は筆者。)
 債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる

 

 改正後の連帯債務は、求償の点を除けば改正前の不真正連帯債務に相当し(「債権法改正:連帯債務」)、基本的に相対効ですから、絶対効を回避するために不可分債務と考える、という必要はありません。

3.それから、改正前は、普通に可分なはずなのに、判例が意味分かんねー理由で不可分としたものがありました。それも、今後は連帯債務と考えれば足ります。その典型例が、共同賃借人の賃料債務です。不可分給付の対価だからという理由ですが、給付の性質がどうであれ、対価が金銭ならやっぱり可分でしょうし、それなら共同買主の代金債務も不可分となるはずで、そのりくつはおかしいのです。 分割が不都合だというなら、連帯債務と考えればよいだけの話ではないか。これが、改正後の考え方です。

 

法制審議会民法(債権関係)部会第43回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

金洪周関係官 不可分な給付の対価の支払債務は不可分債務であるという理解が一般法理として確立しているのであれば,正にその一般法理によって連帯債務になるという理解をしております。従来,可分給付を目的とする債務であるけれども何らかの法理によって不可分債務になると説明されてきたものは,今後はその同じ法理によって連帯債務になると説明することはできないかというのがこの部会資料の整理です。

 (中略)

潮見佳男(京大)幹事 確認したいのですが……(略)……共同賃貸借における賃料債務や,共同労務の提供に対する対価といったようなものは,今回のこの整理でいったら連帯債務と扱うという方向ですか

金洪周関係官 はい

(引用終わり)

法制審議会民法(債権関係)部会第66回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

内田貴(東大名誉教授)委員 これまで可分であるのに不可分と無理に言っていた部分については,そのような言い方をやめて,効果は同じですので,むしろ連帯と言ったほうが分かりやすいのではないか,というのが原案の発想だと思います。

(引用終わり)

 

 改正後は、連帯債務と不可分債務の違いは、一見すると混同くらいです(430条括弧書き440条)。

 

(民法。太字強調は筆者。)
430条 第四款(連帯債務)の規定(第四百四十条の規定を除く。)は、債務の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債務者があるときについて準用する。
440条 連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす

 

 「どうして混同が。」と思った人は、以下のような事例を考えれば、理解できるでしょう。

 

【事例】

① A、B及びCは、Dに対し、30万円の連帯債務を負担した(ABCの負担部分は平等)。その後、Aが死亡し、Dが単独でAを相続した。Dは、B(又はC)に対し、30万円の支払を請求できるか。
② A、B及びCは、Dに30万円で甲土地(登記はABC共有名義)を売った。その後、Aが死亡し、Dが単独でAを相続した。Dは、B(又はC)に対し、甲土地の引渡し及びD名義への所有権移転登記手続を請求できるか。

 

 上記の①では、仮に相対効だとすると、B(又はC)は一度Dに30万円を支払わなければならず、その後に、D及びC(又はB)に10万円ずつ求償することになります。しかし、そんなことをするくらいなら、Aが30万円をDに支払ったことにして、AがB及びCに対して有することになる10万円の求償権をDが相続する。すなわち、Dは、B及びCに対し、それぞれ10万円の限度でしか請求できないと考えた方が合理的でしょう。440条は、そのような趣旨の規定です。
 それを踏まえた上で、上記の②を考えましょう。この場合に、仮に440条の準用があるとすると、Aが甲土地の引渡し及びD名義への所有権移転登記手続の履行をしたとみなすことになります。しかし、現実にBやCが甲土地を占有していたなら、「Aが甲土地の引渡しをしたとみなす。」というのは無理な話です。また、甲土地はABC共有名義になっているわけですから、A単独でD名義への所有権移転登記手続をすることはできません。したがって、これも、「AがD名義への所有権移転登記手続の履行をしたとみなす。」と言われても、それはできない話なのです。これが、不可分債務の不可分たる所以です(※)。そういうわけで、Dは、B(又はC)に対し、甲土地の引渡し及びD名義への所有権移転登記手続を請求できる。ちなみに、代金30万円については、分割債権としてABCに帰属し、Dに対し、各10万円ずつ請求でき、Aの代金債権は混同により消滅するが、B及びCの代金債権はそのまま存続する、というのが、原則的な帰結です。もっとも、黙示の連帯の合意を認定して、連帯債権としてABCに帰属すると考える余地もあるでしょう。その場合には、Dは、Aに30万円を支払ったものとみなされ、AがB及びCに対しそれぞれ負担する各10万円の支払義務をDが相続する。結果として、Dは、BとCにそれぞれ10万円を支払うことになります。
 ※ 厳密にいうと、ここには可分か不可分か、という要素だけでなく、代替性があるか、求償による解決が可能か、という別の要素も含まれていると筆者は感じます。可分債務について専ら金銭債務を念頭に置いているため、非代替的可分債務や求償による解決が難しい可分債務について、果たして440条をそのまま適用して大丈夫かという点は、ほとんど考慮されていないのです。今後、具体的事例が生じれば、議論されることもあるでしょう。もっとも、司法試験レベルでは、そのようなことを考える必要は全くありません。

 そういうわけで、一般的には、「不可分債務と考えるか連帯債務と考えるかでは、混同以外に差がない。」などと説明されます。しかし、それはちょっと甘いなぜなら、相続した場合、連帯債務は最判昭34・6・19の法理に従うことになるからです。

 

最判昭34・6・19より引用。太字強調は筆者。)

 連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり、各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが、なお、可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるから(大審院昭和五年(ク)第一二三六号、同年一二月四日決定、民集九巻一一一八頁、最高裁昭和二七年(オ)第一一一九号、同二九年四月八日第一小法廷判決、民集八巻八一九頁参照)、連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である。

(引用終わり)

法制審議会民法(債権関係)部会第43回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

道垣内弘人(東大)幹事 小さいことを一つだけ申し上げますが,現在,連帯債務を負っている人が死亡して共同相続が起きますと,分割される形になるわけですけれども,不可分債務の相続では,多分,各共同相続人が不可分債務を負うことになるのだと思います。

(引用終わり)

 

 改正後の共同賃借人の賃料債務を連帯債務と考えると、その共同賃借人に相続が生じた場合について、連動して影響を受けることになります。もっとも、上記判例法理は、既発生の賃料債務を共同相続する場合にのみ適用されると考えるのが素直だろうと思います。以下の例で考えてみましょう。

 

【事例】

 ABCが、月額30万円の賃料(前月末払い)で、Dから甲建物を賃借した。その後、Aが死亡し、E及びFがAを共同相続した。

 

 上記事例で、Aの死亡前に1か月分の賃料30万円をABCが滞納していた場合、既にAが連帯して負担していた30万円の賃料債務をE及びFが相続により分割承継することになるわけですから、E及びFはそれぞれ各15万円の債務を負い、B及びCとともに連帯債務者となるでしょう(なお、EF間には連帯関係がない点に注意)。しかし、Aの死亡後に発生する賃料については、その時点で共同賃借人はEFBCですから、EFBCが30万円の賃料債務を連帯して負担することになるはずです。ですから、E及びFは各15万円ではなく、各30万円を負担することになる。このように、共同相続の後に発生する賃料についてまで分割されるわけではないことに注意が必要です。
 若干問題となるのは、共同賃借人の賃料債務等が連帯債務となる根拠は何か、ということです。連帯債務となるためには、「法令の規定」又は「当事者の意思表示」が必要です。

 

(民法436条。太字強調は筆者。)
 債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。

 

 すぐ思い付くのは、共同賃借人の黙示の意思表示を認定するという方法です。しかし、これではちょっと説明に困る場合があるのです。

 

【事例】

 Aは、Bから甲建物を賃借した。その後、Aが死亡し、C及びDがAを共同相続した。

 

 この場合、AとBが賃貸借契約を締結した時点において、賃料債務を連帯債務とする合意があった、とする認定は困難です。C及びDが共同相続した時点で、C及びDから、今後負担する賃料債務について連帯債務とする旨のBに対する黙示の意思表示があった、とすることは考えられますが、少し苦しいかもしれません。あるいは、AB間の賃貸借契約締結時において、将来賃借人が複数になった場合には賃料債務を連帯債務とする旨の黙示の合意があった、という考え方もあり得るかもしれませんが、やや技巧的に過ぎるという印象を持ちます。
 そこで、考えられるのが、「法令の規定」には法令の解釈も含まれることから、賃貸借については、その性質から、共同賃借人の賃料債務は当然に連帯債務となるという解釈をする、という考え方です。立案担当者も、それほど積極的ではありませんが、このような考え方を想定していました。

 

法制審議会民法(債権関係)部会第43回会議議事録より引用。太字強調及び※注は筆者。)

道垣内弘人(東大)幹事  学説上は法律の規定による場合と当事者の意思表示による場合というのと並んで,「共同の行為によって債務を負った」という類型が挙げられていたような気がするのですが,それは意思表示の中に含めて解釈をするということでしょうか,それとも,A,B二人並んで債務を負ったからといって,それはやはり通常は分割だよね,連帯債務になるためには特別の意思表示が必要だよね,という考えなのだろうかというのが気になります。お聞かせいただければと思います。

金洪周関係官 道垣内幹事がおっしゃったような類型が,仮に一般法理として存在するのであれば,それはむしろ「法律の規定」(※注 436条の「法令の規定」に相当)のほうに分類されるのではないかと考えておりました。消費者契約法第10条にいう「規定」は一般法理を含む趣旨だと解釈されていると思いますが,それと同様のイメージを持っておりました。具体的な条文の書き方はまた別の問題だと思いますけれども,整理としてはそのように考えておりました。

鎌田薫(早大総長)部会長 そういう一般的な法原則があると考えるのか,具体的な当事者意思の認定なのか。一般的な法原則があるのですかね。

金洪周関係官 そういう一般的な法原則が仮にあるとした場合の分類という趣旨で申し上げました

 (中略)

沖野眞已(東大)幹事 確認なのですけれども,共同の行為によって債務を負う場合に連帯債務になるその共同の行為というのは非常に明瞭な当事者の意思表示がある場合でもなければ,個別具体的な法律の規定があるという場合でもない。そのときに一言で言えば,そのルールが適切だと考えるならば書いたらどうかと思うわけです。そういう一般法理があるということであるならば,むしろ書き出したほうが明らかではないかと思われるところ,しかしそうではない形で御提案をされているのか。そのときにはやはり共同の行為というのを何と捉えるかというのが非常に難しく,むしろ黙示の意思表示であるとか規定のほうであるとかそれで対応することもできるし,いずれにしろその部分は解釈に委ねるという趣旨で提案されているのか。今のやり取りの中での提案の趣旨というのを確認させていただければと思います。

○金洪周関係官 先ほど申し上げたのは,共同の行為によって債務を負担した場合に連帯債務になるという一般法理が仮にあるとした場合の概念整理をする趣旨のものでありまして,むしろそのような類型については確立した一般法理はないと理解しております。部会資料36の5ページの商法第511条第1項の一般ルール化のところとも関連しますが,共同の行為によって債務を負担した場合であっても連帯債務にならないとしている判例もありますので,恐らく確立した一般法理ではなくて,それぞれの事案ごとに評価あるいは認定をしなければならない問題であると理解しております。

(引用終わり)

 

  立案担当者も説明するとおり、「共同の行為によって債務を負担した場合」について、その全てを連帯債務とする一般法理はないわけですが、少なくとも共同賃借人の賃料債務に限っていえば、それが一般に連帯債務になるという解釈論は成立するだろう。そう考えれば、共同賃借人の賃料債務は、「法令の規定」により、当然に連帯債務となると考えることが可能でしょう。このように考える場合には、その後に共同相続が生じても、共同相続後に発生する賃料債務について特に問題なく連帯債務と考えることが可能です。

4.このように、従来の共同賃借人の賃料債務等に関する判例法理が変更され、その影響で、相続の場合の処理や説明の仕方も変わっていくことになるので、意外と改正の前後で違いがあります。改正対応を謳う教材でも、漫然と従来の判例に従った説明をしているものがあるので、注意が必要です。 

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