令和2年予備試験口述試験(最終)結果について(5)

1.以下は、平成26年以降の司法試験受験経験別の受験者数の推移です。

受験経験 なし 旧試験
のみ
新試験
のみ
両方
平成26 6025 3358 385 579
平成27 6384 3095 317 538
平成28 6560 2779 409 694
平成29 6729 2740 365 909
平成30 7098 2670 428 940
令和元 7796 2580 444 960
令和2 7257 2104 435 812

 今年は、新型コロナウイルス感染症の影響で、すべてのカテゴリーで受験者数が減少しています。受験者数の経年変化から傾向分析をするには、今年は適さないといえるでしょう。
 それでも、「旧試験のみ」のカテゴリーに2104人もいるというのは、注目に値します。旧司法試験最後の論文式試験が実施されたのが、平成22年です。それから10年が経過しているのに、まだ諦めきれずに受験を続けている人が、2000人以上いるわけです。これが、長年憂慮されてきた、滞留者問題です。
 滞留者問題という意味では、「両方」のカテゴリーの812人というのも、怖いと感じさせます。このカテゴリーは、旧司法試験を受験していたが、合格できずに法科大学院に通い(※1)、新司法試験を受けたが、それでも合格できずに受験回数を使い切ってしまい、予備試験に流れた、という人達です。このような人達がこれまでに費やしてきた資金、時間、労力は、莫大なものがあります。受験を諦めることは、それらが完全に無駄になってしまうことを意味する。だから、やめられない。これが、滞留者の陥りがちな心理状態です(※2)。
 ※1 厳密には、旧司法試験受験経験者が予備試験に合格し、新司法試験を受験したが、受験回数を使い切った、という場合も含まれます。
 ※2 ある程度以上高齢になってしまうと、公務員や民間企業の採用枠から外れてしまうということも、重要な要素です。受験を継続するか否かを考えるに当たっては、この辺りも考慮した上で、判断する必要があるでしょう。そうしないと、がむしゃらに受験を継続し、気が付いたら他の選択肢がなくなっていた、ということになりかねません。

2.以下は、直近5年の司法試験受験経験別の最終合格者数の推移です。

受験経験 なし 旧試験
のみ
新試験
のみ
両方
平成28 344 35 10 16
平成29 370 28 11 35
平成30 347 31 18 37
令和元 418 24 10 24
令和2 405 14 14

 合格しているのは、圧倒的に「なし」、すなわち、受験経験のない新規参入者であることがわかります。上記1でみたとおり、今年は、旧司法試験を受験した経験のある人(「旧試験のみ」と「両方」の合計)が2916人います。そのうちで合格したのは、たったの28人です。毎年28人合格するとして、2916人が全員合格するには、単純に割り算すると104年程度かかる計算です。非常に厳しい現実が、そこにあります。

3.では、合格率はどうなっているか。まずは、短答合格率(受験者ベース)です。

受験経験 短答
合格率
なし 20.7%
旧試験のみ 29.0%
新試験のみ 26.2%
両方 36.4%

 短答は、受験経験があると、合格率が上昇していくことがわかります。知識・理解だけで勝負すると、旧司法試験と新司法試験の両方を経験した年配者が勝利します。仮に、知識・理解だけで最終合格が決まる試験であれば、「苦節十数年」が当たり前となり、誰も新規参入をしたがらなくなるでしょう。そこで、論文段階で強力な若年化方策が必要とされるというわけでした。

4.論文段階になると、どうか。論文合格率(短答合格者ベース)をみると、以下のようになっています。

受験経験 論文
合格率
なし 27.8%
旧試験のみ 3.1%
新試験のみ 8.7%
両方 5.4%

 短答で苦戦していた受験経験「なし」の新規参入者が、圧倒的な差を付けて受かっていくこれが若年化方策の効果であり、「論文に受かりやすい人は、すぐに受かる」が「論文に受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則です。繰り返し説明しているとおり、この結果は、当局が意図的にそのような出題・採点をしているために、そうなっているのです。ただ、その効果が薄まってきているともみえる数字もないわけではない。以下は、平成28年と今年の論文合格率(短答合格者ベース)の比較表です。

受験経験 平成28年 令和2年
なし 29.8% 27.8%
旧試験のみ 4.8% 3.1%
新試験のみ 8.1% 8.7%
両方 6.2% 5.4%
全体 17.6% 18.3%

 全体の論文合格率でみると、今年は平成28年より0.7ポイントの上昇です。しかし、カテゴリー別にみると、「なし」のカテゴリーは、2.0ポイントも合格率が下落しています。他方で、「新試験のみ」のカテゴリーは、0.6ポイントとわずかですが、合格率を上昇させている。これは、興味深い現象です。「新試験のみ」のカテゴリーに属する者は、新司法試験を受験して、受験回数を使い切っています。受験回数を使い切る過程で、若年化方策によって出力される成績を通知されている。だから、当サイトなどの情報によって、これが意図的なカラクリによるものであることを示されると、実際の自分の経験と照らし合わせることで、確認し、納得しやすいのです。旧司法試験しか受験していないと、体感が伴わないので、規範と事実が重要と言われても、その意味を十分に理解しにくいという面があるのでしょう。それが、「旧試験のみ」のカテゴリーの合格率の下落に反映されているともみえます。若年化方策のカラクリを実感を伴って理解できるかどうか、その差が、表れているといえそうです。「旧試験のみ」のカテゴリーの人は、旧試験時代から、一生懸命に勉強を続けてきたはずです。それなのに、論文では3.1%しか受からない。毎年、がむしゃらに勉強しても、ますます、当局が落としたい人、受かりにくい人になってしまうだけです。逆に、若年化方策のカラクリを逆手に取って、若手が書くような答案、すなわち、抽象論は極力省略する一方で、当てはめに入る前に規範を明示し、事実を問題文から丁寧に引用するということを強く意識した答案を書くようにすれば、勉強量は少なくても、受かってしまいます。ただし、そのためには、かなりの文字数を限られた時間で書き切る筆力が必要になる。これは、特に年配者に欠けている能力です。これを克服するには、文字を速く書く訓練をするしかありません。最低限、時間内に4頁びっしり書き切れる筆力を身に付ける。予備試験は、70分(実務基礎は90分)で4頁ですから、若手の上位者は平気で4頁をびっしり、それも、小さな字で一行35~40文字くらいを書いてきます。知識・理解よりも、筆力が合否を大きく左右するこのことをよく知った上で、来年に向けた学習計画を考える必要があるのです。 

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