令和4年司法試験の結果について(1)

1.令和4年司法試験の結果が公表されました。合格者数は、1403人でした。昨年は1421人でしたから、18人の減少ということになります。司法試験の(論文)合格者数については、「1500人程度」という目標値があります。これは、今でも撤回されてはいない数字です。

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用。太字強調は筆者。)

 新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。

 (引用終わり)

 (衆院法務委員会令和3年3月12日議事録より引用。太字強調は筆者。)

階猛(立憲)委員 合格者数については、過去、政府の決定で、千五百名を下回らないというのがあったと思っています。
 私は、これ以上合格者の質の低下を招かないようにするためにも、千五百人という目標はもうやめるべきではないかと思っていますけれども、この点、大臣、いかがでしょうか。

上川陽子国務大臣 ただいま委員の方から、年間千五百人という新たな法曹ということでございましたけれども、これは、平成二十七年六月の法曹養成制度改革推進会議の決定におきまして、法曹人口の在り方については、法曹の需要また供給状況を含めて様々な角度から実施されました法曹人口調査の結果を踏まえた上で、新たな法曹を年間千五百人程度は輩出できるよう、必要な取組を進め、さらには、これにとどまることなく、社会の法的需要に応えるため、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況となることを目指すべきとされているところでございます。
 法務省といたしましては、この推進会議の決定を踏まえまして、関係機関、団体の御協力を得ながら、法曹需要を踏まえた法曹人口の在り方について、必要なデータ集積等を継続して行っている状況でございます。
 しっかりとその質が担保されるように、こうした動きにつきましても注意深く対応してまいりたいと思っております。

(引用終わり)

 一昨年、初めて合格者数が1500人を下回り、1450人となりました。もっとも、一昨年の1450人という数字は、ぎりぎり「1500人程度」といえたこと、短答・論文の合格率のバランスが崩れていたことから、当サイトでは、何らかのイレギュラーな要因があったのではないか、議論が紛糾して、このような微妙な数字に落ち着いたのではないか、と考えたのでした(「令和2年司法試験の結果について(1)」)。それが、昨年は、合格者数が1421人となり、「1500人程度」と表現することが難しい数字であったことに加え、短答・論文の合格率のバランスがよく、、粛々と合格者数が決まったとみえたのでした(「令和3年司法試験の結果について(1)」)。
 これを踏まえて今年の結果をみると、合格者数は、1403人。これは、とても「1500人程度」と表現することはできない数字です。では、短答・論文の合格率のバランスはどうか。当サイトでは、今年の出願者数が公表された段階で、昨年と同じ短答・論文合格率だった場合と、論文で「1400人基準」が維持された場合のそれぞれを想定したシミュレーションを行っていました(「令和4年司法試験の出願者数について(2)」)。以下の表は、その当時の試算と、実際の結果をまとめたものです。 

  受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
昨年と同じ
短答・論文
合格率の場合
の試算
3030 2364 78.0% 1255 53.1% 41.4%
論文で
「1400人基準」が
維持された場合
の試算
2500 82.5% 1430 57.2% 47.1%
実際の
令和4年の
結果
3082 2494 80.9% 1403 56.2% 45.5%

 実際の結果は、論文で「1400人基準」が維持された場合の試算に近い数字であることがわかります。短答合格発表の時点で、論文で「1400人基準」が維持された場合の試算に近い短答合格者数であったことから、当サイトでは、特にイレギュラーな要因が作用しない限り、論文合格者数は昨年同様の水準になりそうだ、と考えていたのでした。 

(「令和4年司法試験短答式試験の結果について(1)」より引用。太字強調は原文による。)

 今回の短答式試験の結果は、論文合格者数を昨年同様の水準にすることを見越したものだ、と考えて無理がない、ということができるでしょう。特にイレギュラーな要因が作用しない限り、論文合格者数は、昨年同様の水準になりそうです。

(引用終わり)
 

 以上のように、今年は、短答・論文の合格率のバランスがよく、事前に予測可能な結果だったといえます。その意味で、今年の結果は、昨年同様、粛々と決まったものだ、ということができるでしょう。

2.もっとも、1403人という数字は、いかにも「1400人ギリギリ」という印象を与えます。このことに着目すると、「司法試験委員会は、敢えて1400人ギリギリの数字にすることで、来年こそは1400人を下回る数字にするぞ、というメッセージを送ろうとしたに違いない。」という説明がされそうです。さて、そのような説明は可能なのか。以下は、これまでの合格者数の推移です。なお、年号の省略された年の記載は、平成の元号によります。

合格者数
18 1009
19 1851
20 2065
21 2043
22 2074
23 2063
24 2102
25 2049
26 1810
27 1850
28 1583
29 1543
30 1525
令和元 1502
令和2 1450
令和3 1421
令和4 1403

 平成27年以降、合格者数は一貫して減少しています。そして、今年は1400人ギリギリで、この減少傾向が続くのであれば、来年は1400人を下回ってしまいそうにみえる。そうすると、「司法試験委員会は、敢えて1400人ギリギリの数字にすることで、来年こそは1400人を下回る数字にするぞ、というメッセージを送ろうとしたに違いない。」という説明にも説得力がありそうです。そこで、これまでの合格者数の決定についてどのような説明が可能であったのかも踏まえて、もう少し緻密に考えてみましょう。
 平成20年から平成27年までは、合格者数の決定基準はとても安定していました。一貫して、「〇〇人基準」、すなわち、5点刻みで最初に基準となる人数を超える累計人員となる得点を合格点とする、というルールで説明できたのです(「平成27年司法試験の結果について(1)」)。ところが、平成28年は、1500人強の合格者数だったにもかかわらず、「1500人基準」では説明できない合格者数でした(「平成28年司法試験の結果について(1)」)。この年は、何らかの理由で、イレギュラーな合格者数の決まり方になっていたのでしょう。その年のイレギュラーな要因としては、例の漏洩問題の影響で法科大学院の教員が考査委員から外され、実務家が考査委員の多数を占めていた(「平成28年司法試験考査委員の体制に関する提言」)ということがありました。当時、弁護士会は、合格者数の大幅な減少を主張していました(「平成30年司法試験の出願者数について(2)」)。また、元々、実務家考査委員というのは、合格点を下げて合格者数を増やすことには消極的だったのでした。

司法制度改革審議会集中審議(第1日)議事録より引用。太字強調は筆者。)

藤田耕三(元広島高裁長官)委員 大分前ですけれども、私も司法試験の考査委員をしたことがあるんですが、及落判定会議で議論をしますと、1点、2点下げるとかなり数は増えるんですが、いつも学者の試験委員の方が下げることを主張され、実務家の司法研修所の教官などが下げるのに反対するという図式で毎年同じことをやっていたんです。学者の方は1点、2点下げたところで大したレベルの違いはないとおっしゃる。研修所の方は、無理して下げた期は後々随分手を焼いて大変だったということなんです。 そういう意味で学者が学生を見る目と、実務家が見る目とちょっと違うかなという気もするんです。

(引用終わり)

(「基本ルールTF/基準認証・法務・資格TF議事録(法務省ヒアリング)平成19年5月8日(火)」より引用。太字強調は筆者。)

佐々木宗啓(法務省大臣官房司法法制部参事官) 私 、ここに来る前に司法研修所の民事裁判の教官をやってございました。そして、弁護士になるにしても、何になるにしても、イロハであるものに要件事実の否認と抗弁の違いというものがございます。これについてのあってはならない間違いとして、無権代理の抗弁というものがございます。
 これは昔でありましたら、1つの期を通じて間違いを冒すのが数名出るか出ないかであって、幻の抗弁と呼ばれていたのですが、最近になりましたら、それがクラスでちらほら見かけられるようになった。新60期のときには、いくつかのクラスに2桁出てしまっており,相当大変な事態になっているのではないかと思います。

(引用終わり)

 そして、平成29年は、「1500人基準」で説明できる合格者数だったのですが、短答の合格率と論文の合格率のバランスが崩れていたことから、当初は1500人強を受からせるつもりはなかったのではないか、短答段階ではもっと少ない合格者数にするはずだったのに、論文合格判定の段階で異論が出て、急遽1500人強になったのではないか、と思わせるような数字でした(「平成29年司法試験の結果について(1)」)。この年は、考査委員に法科大学院教員が戻ってきた年でした(「平成30年司法試験の出願者数について(2)」)。このように、平成28年は「1500人基準」によらなかったという点で、平成29年は短答・論文の合格率のバランスが崩れていたという点で、それぞれ何らかのイレギュラーな要因があったのだろう、ということが伺われる結果でした。
 その後は、「〇〇人基準」で説明でき、短答・論文の合格率のバランスのよい「安定型」と、そうではない「イレギュラー型」が頻繁に入れ替わる時代となりました。平成30年及び令和元年は「1500人基準」で説明ができ、短答・論文の合格率のバランスもよい安定型(「平成30年司法試験の結果について(1)」、「令和元年司法試験の結果について(1)」)。一昨年は、「1500人基準」で説明ができず、かつ、短答・論文の合格率のバランスも崩れているイレギュラー型となり(「令和2年司法試験の結果について(1)」)、昨年は、「1400人基準」で説明でき、かつ、短答・論文の合格率のバランスもよい、という安定型となったのでした(「令和3年司法試験の結果について(1)」)。

3.さて、以上を踏まえた上で、今年の結果はどうだったのか、みてみましょう。以下は、今年の合格点である750点前後における5点刻みの人員分布です。

得点 累計人員
760 1338
755 1372
750 1403
745 1436
740 1464

 合格点となった750点が、5点刻みで最初に1400人を超える得点だ、ということがわかります。すなわち、「1400人基準」で説明できる。前記1のとおり、今年は、短答・論文の合格率のバランスもよかったので、昨年に引き続き、安定型だったということになります。同時に、冒頭で示した「司法試験委員会は、敢えて1400人ギリギリの数字にすることで、来年こそは1400人を下回る数字にするぞ、というメッセージを送ろうとしたに違いない。」というような説明が、適切でないこともわかるでしょう。1403人という1400人ギリギリの数字になったのは、合格点前後の人員分布による偶然の結果、すなわち、たまたま5点刻みで最初に1400人を超えた数字が1403人だったから、というにすぎないのです。もっとも、「1400人基準」によって合格者数を決定するということは、当初から「1500人程度」の合格者数にするつもりがないことを意味します。これは、意図的なものといってよい。では、「1500人程度」という法曹養成制度改革推進会議決定はどうなってしまったのか。それは次回、詳しく説明します。

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