総論

不真正不作為犯の実行行為性

法益保護と罪刑法定主義・自由保障との調和の観点から、作為義務、作為可能性、作為との構成要件的同価値性がある場合に限り、実行行為性を認めうると解する。

作為と不作為の区別

刑法の目的は第一次的には法益保護にある。
従って、作為とは、法益侵害状態を作出する行為であり、
不作為とは、既にある法益侵害状態を回復させない行為をいうと解する。

不作為の因果関係

不作為においては、仮定的作為を考慮せざるを得ない。
よって、不作為においては、作為による結果回避の高度の蓋然性の有無によって判断すべきと解する。

作為義務の錯誤

作為義務は実行行為性を基礎付ける要素であるが、
裁判所の規範的評価を要するから、規範的構成要件要素である。
従って、素人的認識を欠く場合に限り、事実の錯誤として故意を阻却すべきである。

間接正犯の実行行為性

他人を道具とする場合にも、法益侵害惹起の現実的危険性があるといえるので、実行行為性を認めうる。
そして、道具といえるためには、反対動機の形成可能性がないこと、すなわち、被利用者が規範に直面しないことを要する。

身分なき故意ある道具

身分がない以上、たとえ故意があっても、被利用者は規範に直面しないといえる。
よって、道具性を認めうる。

他の犯罪の故意ある道具

利用者の意図する犯罪については、被利用者は規範に直面していない以上、道具性を認めうる。

故意ある幇助的道具

原則として、道具性を否定すべきである。
故意ある以上、規範に直面しているというべきだからである。
もっとも、幇助の態様が、規範に直面していないと評価できる程度の軽微性を有すると認められる場合もある。
その場合は、例外的に道具性を認めうる。

被利用者の適法行為(正当防衛など)を利用する場合

被利用者は規範に直面していないから、道具性を肯定できる。
従って、原則として、間接正犯は成立する。
もっとも、あまりに偶然性が強い場合は利用行為と認められないので、間接正犯は成立しないと考える。

被利用者の途中知情

知情後の行為により因果関係が否定されるため、未遂となる。

原因において自由な行為(責任能力欠缺の場合)

責任能力を欠く自己を道具として利用する行為を実行行為と解する。
利用行為時には責任能力があるから、完全な責任を認めうる。

原因において自由な行為(限定責任能力の場合)

限定責任能力にとどまる場合、道具といえないから、完全な責任を問い得ない。

限定責任能力においても、規範的障害は極めて微弱であるから、なお道具と考えうる。
よって、完全な責任を問いうると解する。

実行行為の途中で責任能力を失った場合

責任能力を欠缺した自己を利用する意思を欠く以上、故意が否定されるから、完全な責任は問い得ない。

実行の着手時期

実行行為の一部、すなわち、法益侵害惹起の危険性を有する行為を開始した時点である。

間接正犯の実行の着手時期

他人を利用する行為を実行行為と解する以上、利用行為の開始時である。

原因において自由な行為における実行の着手時期

責任能力の欠缺した自己を利用する行為を実行行為と捉える以上、原因行為時である。

択一的競合

一方のみの行為に帰責できない以上、因果関係は否定すべきである。

複数行為の全てを取り除けば結果は発生しない以上、その複数行為すべてに帰責すべきである。

相当因果関係の要否

条件関係のみでは、妥当な帰責範囲の限定ができないから、相当因果関係を要すると解する。

相当性判断の基礎事情

行為者にとって意外でない事情は排除すべきでない。
また、構成要件は社会通念を基礎とするから、一般人の認識可能な事情も考慮すべきである。
よって、行為時に、行為者が認識・予見した事情と、一般人なら認識・予見し得た事情を基礎とすべきである(折衷的相当因果関係説)。

行為後の事情

行為の前後で基礎事情の基準を異にする理由は無い。
行為後についても、行為者の予見した事情と、一般人なら予見し得た事情を基礎とすれば足りる。

故意の内容

故意責任の本質は反規範的人格態度に対する道義的非難である。
従って、犯罪事実を認識し、さらに、これを認容することを要する。

具体的事実の錯誤・客体の錯誤(人違いによる殺人)

およそ人を殺そうとして人を殺したのであるから、殺人の故意はある。

具体的事実の錯誤・方法の錯誤(Aを狙ったがBに命中し、Bを死亡させた)

およそ人を殺そうとして人を殺した以上、Bに対する殺人の故意は肯定できる。
また、Aを殺そうとしていたので、Aに対する殺人の故意も肯定できる。
観念的競合として科刑上一罪となる以上、故意の個数は問題とならないと解する。

抽象的事実の錯誤・方法の錯誤(人を狙ったが、飼い犬に命中し、飼い犬が死んだ)

殺人の規範には直面していたが、器物損壊の規範には直面していない。
よって、人に対する殺人の故意は肯定できるが、飼い犬に対する器物損壊の故意は否定すべきである。

抽象的事実の錯誤・方法の錯誤(重なり合いがある場合)

重なり合いのある限度で規範に直面していたといえるので、その限度で故意を肯定してよい。

法定的符合説の一般的論証

故意責任の本質は反規範的人格態度に対する道義的非難であり、規範は構成要件で与えられるから、
構成要件が同一、または重なり合う限度で、故意を肯定しうると解する。

因果関係の錯誤

因果関係も構成要件要素である以上、故意の認識対象となる。
もっとも、錯誤が構成要件の範囲にとどまる限り、規範に直面しているので、故意は阻却されない。

ウェーバーの概括的故意の事案の行為の数

一つの結果に向けられた一連の行為である以上、全体を一個の行為と解する。

早すぎた構成要件の実現における行為の数

一つの結果に向けられた一連の行為である以上、全体を一個の行為と解する。

早すぎた構成要件の実現における故意の認定

一連の行為を一個の実行行為と捉える以上、行為・結果の認識はある。
よって、因果関係に錯誤があるに過ぎない。

被害者の同意

同意に基づく行為は、原則として、社会的相当性を有するから違法性が阻却される。
もっとも、同意の内容が反社会的である場合は、社会的相当性を有するとはいえないので、違法性は阻却されない。

対物防衛

法の名宛人は人であるから、物は違法たり得ない。
よって、対物防衛は否定すべきである。

偶然防衛

社会的相当性の観点から、防衛の意思を要するところ、
偶然防衛はこれを欠くから、正当防衛は成立しない。

積極的加害意思

社会的相当性の観点から、防衛の意思を要するところ、
積極的加害意思ある場合は防衛の意思があるとはいえず、正当防衛は成立しない。

自招侵害

正当防衛の要件を見たす以上、原則として正当防衛が成立するが、
全体として社会的相当性を欠くに至っている場合は、例外的に成立を否定すべきである。

自招危難

緊急避難の要件を見たす以上、原則として緊急避難が成立するが、
全体として社会的相当性を欠くに至っている場合は、例外的に成立を否定すべきである。

防衛行為が第三者の法益を侵害した場合

第三者との関係では、正対不正の関係が無い以上、緊急避難の問題となる。

自救行為

社会秩序維持の観点から、原則として許されない。
もっとも、社会的相当性の観点から、官憲による事後救済を待つことの出来ない緊急の必要性があり、
その手段・方法が、相当と認められる場合に限り、例外的に違法性が阻却されると解する。

違法性の意識は故意の要件か

違法性の意識がなくとも、そのような人格形成につき非難しうる。
もっとも、その可能性すら無い場合は責任非難ができない。
よって、違法性の意識の可能性は必要と解する。

規範的構成要件要素の錯誤

裸の事実認識に加えて、素人的な意味の認識を要すると解する。
なぜなら、規範に直面するためには、その程度の意味の認識は必要であり、かつ、それで十分だからである。

誤想防衛

違法性阻却事由ありと誤信した場合、規範に直面していない。
よって、事実の錯誤として故意を阻却する。
もっとも、誤信につき過失があるときは、過失犯が成立する。

過剰防衛の減免根拠

緊急事態おいては、恐怖や興奮などの心理状態から、多少の行き過ぎがあることはやむを得ない。
したがって、責任が減少することに根拠があると解する。

誤想過剰防衛(過剰性の認識ある場合)

過剰性の認識がある以上、規範に直面しているから、故意は認められる。
もっとも、過剰防衛の場合と同様の責任減少が認められるから、36条2項の準用を肯定すべきと解する。

過失犯の構造

危険行為を一般的に違法と評価すべきではない。
従って、構成要件段階でも過失を考慮すべきである。
その判断は、結果予見可能性を前提とした、結果回避義務違反の有無により決すべきである。

予見可能性の判断基準

予見可能性は結果回避義務を基礎付けるものであるから、
結果回避を動機付ける程度の具体的な予見可能性を要する。

結果についての予見可能性

結果回避を動機付けるためには、結果と因果関係の基本的部分の予見可能性が必要であると解する。

一般人ならば結果を予見しうるような中間項の予見可能性があれば、結果回避義務を基礎付けうるから、結果に対する予見可能性はあったものと認定してよいと解する。

信頼の原則の体系的地位

信頼の原則は結果の予見はあっても他者の行動を信頼してよいとする趣旨であるから、
結果回避義務が否定されることになると解する。

過失の競合

複数の行為を過失行為とするのは、明確性を欠く。
結果を直接惹起するのは、直近の過失行為である以上、直近の過失行為のみ問題にすべきである。

中止犯の法的性格

「自己の意思」が重視されていることから、責任が減少すると解する。

中止犯の任意性

「自己の意思により」という以上、外部的障害によらないことを要すると解する。

中止と結果不発生との因果関係の要否

因果関係が無くとも責任は減少するから、不要である。

不能犯と未遂犯の区別

刑法の主目的は法益保護にある以上、法益侵害惹起の危険性の有無で区別すべきである。
その判断は、行為時に、行為者が特に認識した事情と一般人が認識可能な事情を考慮して、社会通念に基づいてすべきである。
なぜなら、事後的に全ての事情を考慮するなら、全て不能犯となってしまうからである。

他人予備の可罰性

予備は定型性が緩やかであり、処罰は限定すべきであるから、他人予備は否定すべきである。

予備の中止

予備の中止も予備である以上、43条ただし書の準用はできないと解する。
強盗予備に免除が無いのは犯情を考慮したものであり、多少の不均衡は止むを得ない。

共同正犯の本質

「共同して犯罪を実行」(60条)とあるので、数人で一つの犯罪を共同することに本質があると解する(犯罪共同説)。

共犯の処罰根拠

刑法の主目的は法益保護にあるから、法益侵害結果に対して、正犯を通じて因果性を及ぼした点に処罰根拠があると解する。

共謀共同正犯の肯否

共同正犯の一部実行全部責任の根拠は、相互利用補充関係にある。
よって、かかる関係が認められれば、実行行為自体を分担する必要はないと解する。

承継的共同正犯

先行者単独の行為には通常相互利用補充関係がないから、原則として否定すべきである。
もっとも、先行者の行為の効果を後行者と共に利用するような場合は、相互補充関係が認められるから、例外的に肯定すべきである。

強盗罪の承継的共同正犯

先行者の暴行脅迫による犯行抑圧状態を利用して、後行者と共に財物を強取する場合であるから、承継的共同正犯が成立する。

強盗殺人の承継的共同正犯

先行者の作出した犯行抑圧状態とその後の強取行為について相互利用補充関係が認められるにとどまるので、
死の結果については相互利用補充関係を認めることはできない。
よって、後行者には強盗の承継的共同正犯が成立するにとどまる。

片面的共同正犯

意思の連絡なくして相互利用補充関係を認めることは出来ないから、否定すべきである。

過失犯の共同正犯

共同の注意義務を負う者が、互いに共同者の注意義務違反を認識したにもかかわらず、互いに義務履行を促すことなく、ことさらに義務違反を共同した場合には、注意義務違反行為の相互利用補充関係が認められるので、肯定すべきである。

結果的加重犯の共同正犯

基本犯に加重結果発生の高度の危険性が含まれている以上、肯定しても責任主義に反しないと解する。

共同正犯と一部の者の正当防衛

違法の連帯性から、共同者全員の違法性が阻却されると解する。

共同正犯と一部の者の過剰防衛

責任の個別性から、過剰防衛の成立する者のみ減免される。

未遂の教唆

刑法の主目的が法益保護にある以上、教唆においても結果発生の認識は必要であるから、不可罰である。

未遂の教唆により意外にも結果が発生した場合

過失による教唆になるが、教唆は過失処罰規定が無い以上不可罰である(38条1項ただし書反対解釈)。

過失犯の教唆

犯意の誘発という教唆の本質に反するので、成立し得ない。

結果的加重犯の教唆

基本犯に加重結果発生の高度の危険性が含まれている以上、肯定してよいと解する。

幇助の因果性

幇助とは正犯の犯行を容易にする犯罪であるから、物理的又は心理的に正犯の犯行を容易にする程度で足りる。

片面的従犯

意思の連絡がなくても正犯の犯行を容易にすることは可能であるから、肯定すべきである。

共同正犯と従犯の区別

正犯で無い者が狭義の共犯である。
よって、共謀共同正犯が成立しない場合が従犯である。

着手前の離脱

離脱の意思の表明と残存者の了承があれば、相互利用補充関係が解消されるので、離脱が認められる。

着手後の離脱

既に、相互利用補充関係に基づく行為が行われているので、
離脱が認められるには、それを打ち消すための積極的な結果回避措置が必要である。

65条1項2項の関係

「身分によって構成すべき」「身分によって特に刑の軽重があるとき」との文言から、1項は真正身分犯についての規定であり、
2項は不真正身分犯についての規定であると解する。

65条1項の「共犯」に共同正犯を含むか

非身分者も身分者を介して法益を侵害でき、正犯たりうるので、共同正犯も含むと解する。

不真正身分犯において、身分者が非身分者に加功した場合

65条2項は身分に応じて、適切な刑を科すという趣旨であるから、身分者には重い刑が成立する。

業務上横領罪と65条(業務上の占有者を教唆した非身分者)

占有者は真正身分であり、業務者は不真正身分であるから、1項2項の適用により、単純横領罪の教唆が成立する。

予備罪の共同正犯

予備には実行行為が存在しない以上、共同正犯は成立しないと解する。

予備罪と狭義の共犯

予備には実行行為が存在しない以上、正犯は観念し得ないから、狭義の共犯は成立しないと解する。

不作為犯に対する教唆

作為義務は一種の身分であるから、65条1項により、教唆犯が成立する。

観念的競合と併合罪との区別

構成要件は社会通念を基礎にしている以上、社会観念上1個の行為かで判断すべきである。

かすがい現象

併合罪との牽連犯という処理が出来ない以上、一体的に牽連犯として処理する他ないと解する。

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