平成18年新試短答公法系第3問解説

【問題】

私人間における人権保障に関する次のアからエまでの各記述について,最高裁判所の判決の要約としてそれぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい 。

ア. 企業者が特定の思想,信条を有する者をそれゆえに雇い入れることを拒んでも違法ではないのであるから,企業者は入社試験の際に学生運動歴を秘匿していたことを理由に本採用を拒否 することもできる。

イ. 女子を男子より5歳若く定年退職させることは,企業経営の上で合理的であるが,必要不可欠とまでは言えないのであるから,女子の定年を男子より低く定めた就業規則の規定は,民法第90条の規定により無効である。

ウ. 労働組合による統制と組合員が市民又は人間として有する自由や権利とが矛盾衝突する場合,問題とされている具体的な組合活動の内容・性質,これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量して,組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の 範囲に合理的な限定を加えるべきである。

エ.憲法の自由権的基本権の保障規定は,私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものでなく,私立大学には学生を規律する包括的権能が認められるが,私立大学の当該権能は,在学関係設定の目的と関連し,かつ,その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認される。

【解説】

アについて

三菱樹脂事件についての肢である。
前段は正しい。
しかし、学生運動歴を秘匿していたことを理由に本採用を拒否することができるかについては、判断はされていない。
差戻審で和解が成立したためである。
よって、本肢は誤りである。

正解:2

イについて

日産自動車事件についての肢である。
これは引っ掛けである。
結論は正しい。
しかし、その理由が誤っている。
判例は、女子若年定年制を、「企業経営上の観点からの合理性は認められず、また社会的な妥当性を著しく欠く」としている。
「企業経営の上で合理的」とは言っていない。
よって、本肢は誤りである。
判例は結論だけ覚えてもダメだということである。

正解:2

ウについて

国労広島地本事件についての肢である。
同事件において、判例は、「労働組合の活動が組合員の一般的要請にこたえて拡大されるものであり、組合員としてもある程度まではこれを予想して組合に加入するのであるから、組合からの脱退の自由が確保されている限り、たとえ個々の場合に組合の決定した活動に反対の組合員であつても、原則的にはこれに対する協力義務を免れないというべきであるが、労働組合の活動が前記のように多様化するにつれて、組合による統制の範囲も拡大し、組合員が一個の市民又は人間として有する自由や権利と矛盾衝突する場合が増大し、しかも今日の社会的条件のもとでは、組合に加入していることが労働者にとつて重要な利益で、組合脱退の自由も事実上大きな制約を受けていることを考えると、労働組合の活動として許されたものであるというだけで、そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定することは、相当でないというべきである。それゆえ、この点に関して格別の立法上の規制が加えられていない場合でも、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。」とする。

ただ、同事件の判旨を詳しく知らなくても、南九州税理士会事件判例などを知っていれば、
「まあ、おかしなことは言ってないな」くらいの感覚で○にして良いところである。

正解:1

エについて

昭和女子大事件についての肢である。
判例は、「いわゆる自由権的基本権の保障規定は、国又は公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障することを目的とした規定であつて、専ら国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものでない。」とした上で、「大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによつて在学する学生を規律する包括的権能を有するものと解すべきである。・・・もとより、学校当局の有する右の包括的権能は無制限なものではありえず、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるものである」とする。

よって、本肢は正しい。
なお、同事件で生徒が加入した政治団体とは、あの民青同盟である。
判示後半部分に事案の詳細が挙げられており、興味深い。
一度、全文を読んでみることをお勧めする。全文はこちら(PDF)。

正解:1

全体について

いずれも基本的な判例であり、知っておかなければならないところである。
旧試験では、平成14年あたりから、急激に判例の知識を出題するようになった。
新試験においても、この傾向は続くようである。
この傾向において顕著なのは、「結論だけ覚えているのは論外。百選の判旨だけでも足りない」というところだ。
できる限り、全文にあたるようにしたい。

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