平成18年度旧司法試験論文の出題趣旨について(憲法)

旧試論文の出題の趣旨が公表された。
以下は、その引用と若干のコメントである。

【憲 法】

第 1 問

国会は,主に午後6時から同11時までの時間帯における広告放送時間の拡大が,多様で質の高い放送番組への視聴者のアクセスを阻害する効果を及ぼしているとの理由から,この時間帯における広告放送を1時間ごとに5分以内に制限するとともに,この制限に違反して広告放送を行った場合には当該放送事業者の放送免許を取り消す旨の法律を制定した。この結果,放送事業者としては,東京キー局の場合,1社平均で数十億円の減収が見込まれている。この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

(出題趣旨)

本問は,放送事業者の広告放送の自由を制約する法律が制定されたという仮定の事案について,営利的表現の自由の保障根拠や放送という媒体の特性を踏まえて,その合憲性審査基準を検討し,当該事案に適用するとともに,放送事業者に生じうる損害に対する賠償ないし補償の可能性をも検討し,これらを論理的に記述できるかどうかを問うものである。

【コメント】

出題趣旨をみる限り、損失補償ないし国家賠償を書いて欲しかったようだ。
そして、再現答案を見ると、確かに、この点をしっかりと書いてあった人は、高い評価になっている。
しかし、この点に触れられた人は少ない。
全く触れなくてもA評価になっている。
従って、必須ではなかったようだ。

また、出題趣旨は「営利的表現の自由」という言い方をしている。
従って、単なる表現の自由と書いて欲しくないし、かと言って、単なる営業の自由とも書いて欲しくない。
両者の要素を併せ持ったものだということを示して欲しい。そういうことなのだろう。
この点は、多くの人が出来ていた。
それだけに、何の説明もなしに、表現の自由や営業の自由・職業選択の自由とした答案は、評価を下げたようだ。
また、前述の損失補償を書きたいがために、財産権の問題としていた答案もあったが、かなり悪い評価だった。
その人は、2問目の出来も今ひとつだったので、それだけが原因とは言い切れないが。

なお、賠償ないし補償の可能性について、「論理的に記述」することを求めているのは、違憲としたならば、賠償の問題となり、合憲とした場合は補償の問題となるということを言っているのだろう。
違憲にした上で損失補償を書いたりした答案がなかったので、実際この点が評価にどのように影響したかはわからない。


第 2 問

A市において,「市長は,住民全体の利害に重大な影響を及ぼす事項について,住民投票を実施することができる。この場合,市長及び議会は,住民投票の結果に従わなければならない。」という趣旨の条例が制定されたと仮定する。
この条例に含まれる憲法上の問題点について,「内閣総理大臣は,国民全体の利害に重大な影響を及ぼす事項について,国民投票を実施することができる。この場合,内閣及び国会は,国民投票の結果に従わなければならない。」という趣旨の法律が制定された場合と比較しつつ,論ぜよ。

(出題趣旨)

本問は,条例により投票結果に法的拘束力を与える住民投票制度を導入することが憲法上許されるかという点について,日本国憲法における代表民主制と直接民主制の位置づけや関連規定の趣旨,地方自治の本旨等に関する基本的理解を踏まえながら,国民投票の場合と対比しつつ,論理的記述ができるかどうかを問うものである。

【コメント】

出題趣旨に、「基本的理解を踏まえながら・・・論理的記述」とある。
当たり前のような記述だが、本問ではこの点のハードルがかなり高く設定されていたようだ。
各概念の意義とその方向性(ベクトル感覚)が、厳しく問われていたように思う。
重要な概念は、国民主権論(正当性の契機、権力性の契機)、間接民主制と直接民主制、そして、地方自治の本旨(その中でも住民自治)である。
これらのうち、正当性の契機は、間接民主制に親和的である。
他方、権力性の契機は、直接民主制に親和的である。
そして、住民自治は、間接民主制を「補完」するために、直接民主制「的」制度を許容する方向性を持つ。
以上の理解をきっちり表現できていた答案が高い評価になっているように感じた。
この点について、ほとんど触れられていない答案(少数者の人権保障や、統一的意思形成などの理由付けのみ)は、極端に悪い評価になっている。
触れていても、方向性を誤っていたりすると、悪い評価になっている。

また、用語の使用法が不適切だと、低い評価になっているようだ。
例えば、地方レベルでは、「間接民主制の例外として」合憲としている答案は、評価が低い傾向にある。
正しくは、「間接民主制の補完として」だということなのだろう。
「国民主権」という用語も、それだけでどちらかの方向付けに使うとまずいようだ。
正当性の契機を重視するのか、権力的契機を重視するのか、明示しなければ、ダメだと言う事である。
方向性が全く逆になるので、当然といえば当然なのだが、出来ていない人もいる。
さらに、地方では「直接民主制が採用されている」という記述も、評価を落としているように見えた。
あくまで、「直接民主制的な制度が採用されている」としなければならない。

最近の傾向として、統治は極端な採点がされる事が多い。
今年もそのようである。
第1問よりも、第2問の方で低い点数にされている人が多かったのではないか。
統治に関しては、基本概念を正確に書けるようにし、そして、その方向性で論点を説明していくという訓練が欠かせない。
そのような訓練は、予備校の答練では難しい。
学者の演習本を素材とした上で、自分なりに答案像を模索していくしかなさそうだ。

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