平成18年度新試短答公法系第9問解説

【問題】

投票価値の平等に関する次のアからエまでの各記述について,最高裁判所の判例に照らして,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。

ア. 議員定数をどのように配分するかは,立法府である国会の権限に属する立法政策の問題であるが,衆議院議員選挙において,選挙区間の投票価値の格差により選挙人の選挙権の享有に極端な不平等を生じさせるような場合には,例外的に,立法府の裁量の範囲を超えるものとして,憲法違反となる。

イ. 衆議院議員選挙において,選挙区間の投票価値の最大格差が3倍を超える場合には,憲法の要求する投票価値の平等に反する程度に至っているといえるが,必ずしもそれだけでは,当議員定数配分規定が憲法に違反しているということまではできない。

ウ. 参議院議員の選挙区選挙については,地域代表の性質を有するという参議院の特殊性により,投票価値の平等が直接的には要求されないと解されるから,衆議院議員選挙の場合とは異なり選挙区間における投票価値の格差が5倍を超えるような場合であっても,憲法違反とはならない。

エ. 議員定数配分規定が,憲法の要求する投票価値の平等に反し,違憲であると判断される場合,そのことを理由として当該規定に基づく選挙全体を無効としても,これによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなくかえって,憲法の所期するところに適合しない結果を生ずるから,行政事件訴訟法第31条の定める事情判決の制度を類推して,議席を過小に配分された選挙区の選挙のみを無効とすべきである。

【解説】

アについて

ざっと読んだだけだと、正しいと判断してしまいそうな肢である。
前段の原則論は正しい。
衆議院議員定数不均衡の代表判例である昭和51・4・14の判例は、
「国会両議院の議員の選挙については、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(四三条二項、四七条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのである。」
としている。
「立法政策」とまでは言い切っていないので、その点は気になるが、ここはとりあえず正しいと考えておいていいだろう。

問題は、例外的に違憲となる場合である。
判例は、「選挙人の選挙権の享有に極端な不平等を生じさせるような場合」を挙げてはいない。
上記判例は、
「選挙人の投票価値の不平等が、国会において通常考慮しうる諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているときは、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定されるべきものであり、このような不平等を正当化すべき特段の理由が示されない限り、憲法違反と判断するほかはないというべきである。」
としている。
定数不均衡は飽くまで「投票価値」の不平等の問題であって、「選挙権の享有」が不平等になるわけではない、ということだろうか。
もしくは、イの肢で見る通り、格差が許容範囲を超えても直ちに憲法違反となるわけではないので、誤りということか。
個別正誤が問われているだけに、やや微妙な肢といえる。
判断に迷った人も多かったのではないか。

イについて

これは、合理的期間論からして、正しいとすぐに判断できただろう。
上記判例は、
「具体的な比率の偏差が選挙権の平等の要求に反する程度となつたとしても、これによつて直ちに当該議員定数配分規定を憲法違反とすべきものではなく、人口の変動の状態をも考慮して合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのにそれが行われない場合に始めて憲法違反と断ぜられるべきものと解するのが、相当である。」
としている。

さらに、上記判例は、
「選挙人の投票価値の不平等が、国会において通常考慮しうる諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているときは、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定されるべきものであり、このような不平等を正当化すべき特段の理由が示されない限り、憲法違反と判断するほかはないというべきである。」
としている点も、注意したい。
「一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達している」時であっても、「不平等を正当化すべき特段の理由」があれば、憲法違反とならないのである。

ウについて

参議院議員定数訴訟において、5倍はOK、6倍はアウト、ということを覚えていた人は多いと思う。
それだけに、正しいと判断してしまいたくなる。
しかし、法務省の発表によると、答えは誤りだということだ。
おそらく、「投票価値の平等が直接的には要求されない」というところが誤りということなのだろう。
しかし、昭和58・4・27の判例は、
「公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組みが国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認しうるものである以上、その結果として、各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票の価値の平等がそれだけ損なわれることとなつたとしても、先に説示したとおり、これをもつて直ちに右の議員定数の配分の定めが憲法一四条一項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。したがつて、本件参議院議員定数配分規定は、その制定当初の人口状態の下においては、憲法に適合したものであつたということができる。」
としている。

「投票価値の平等の要求が、一定の譲歩、後退を免れない」ということは、衆議院と比較する場合、投票価値の平等の要求は間接的になるということを意味する。
これを「投票価値の平等が直接的には要求されない」と表現しては誤りか。
個人的にはやや疑問である。
おそらく、法務省の意図としては、「参議院においても投票価値の平等は要求されているから、誤り」と言いたいのだろうが。

エについて

事情判決というものの理解、または、選挙区全体が無効となるということ。
このうちのどちらかを知っていれば、容易に誤りと判断できるだろう。
本問の中でもっとも易しい肢である。

戻る