【問題】
天皇の権能に関する次の1から8までの各記述について,正しいと認められるものを二つ選びなさい。
1. 天皇の国事行為について,それが内閣の助言に基づいてなされた場合には,天皇が責任を問われることはないが,天皇の発案に基づき内閣の承認を受けてなされた場合には,天皇が国事行為の責任を問われることがある。
2. 天皇の権能は,一身に専属し,その国事に関する行為を他に委任することはできない。
3. 天皇は,内閣の助言と承認が不当なものであると判断した場合でも,その助言と承認を拒むことは一切認められていない。
4. 天皇は,憲法で列挙された国事に関する行為以外であっても,国政に関する権能を行使することが認められている場合がある。
5. 憲法が定める天皇の任命行為は,すべて内閣の助言と承認に基づいて行われる。
6. 天皇に衆議院の解散権があるとしても,それが内閣の助言と承認によって行われる以上,国会が天皇の政治責任を追及することは認められない。
7. 天皇による国会開会式の「おことば」を「儀式」に含めて理解する見解に立てば,その行為については内閣による助言と承認は要求されない。
8. 天皇に代わって摂政が置かれる場合は,摂政が自らの名で国事に関する行為を行い,その責任は摂政に帰属する。
【解説】
形式面について
旧試験にはなかった形式である。
選び方は28通りあるので、でたらめに選んでもほとんど当たらない。
こういう出題が技術的にできるなら、肢の組み合わせ問題は不要ではないかとも思うが。
1について
天皇は一切権限がない代わりに責任もない。
よって、誤りである。
憲法3条も、明文上「すべての行為」とし、例外を認めていない。
2について
臨時代行がある(4条2項)。
誤り。
3について
正しい。国民主権・象徴天皇制からの帰結である。
なお、質問行為は認められるとするのが、内閣法制局の見解である。もし、仮に天皇が拒否したらどうなるか。
この点、憲法に何ら規定はないし、強制履行などありえない話である。
心身の故障に準じて摂政を立てるという見解もある。だが、無理があるだろう。
このことを挙げて、日本国憲法の象徴天皇制の実効性を疑問視する論者もいる。
天皇が自ら象徴として振舞う限度でのみ、象徴天皇制が維持されうるからである。
4について
誤り。4条1項。
なお、国会開会式での「おことば」等について、国事行為以外の公的行為の存在を認める見解がある。
しかし、これらの見解も、公的行為を「国政に関する権能」とは考えていない。
5について
個人的には正しいと思うが、正解は誤りである。
おそらく、6条の任命行為が「内閣の助言と承認に基づいて行われる」わけではないと言いたいのだろう。まず、6条には、7条のような「助言と承認により」という文言が無い。
しかし、これは助言と承認が不要だということではない。
3条が「すべての行為」とする以上、例外を認めないのが通説である。
従って、6条の任命行為にも、内閣の助言と承認は必要である。
不要説は少数説なので、択一の知識としては、これで良いと思う。では、何が誤りなのか。
正確なところはよくわからない。
だが、おそらく、作問者はシンプルに条文上「○○に基づいて」の○○の部分を訊きたかったのだろう。
そうすると、答えは、6条の場合、国会の指名であり、内閣の指名であるので、助言と承認じゃありませんよ。
だから間違いですよ、ということになる。あるいは、実質的決定権の所在を聞いているつもりだったのかもしれない。
内閣総理大臣(最高裁長官)の任命は、内閣の助言と承認に基づいて(=実質的に決定されて)行われるのではなく、国会(内閣)の指名に基づいて(=実質的に決定されて)行われるのだ、
内閣の助言と承認は必要とされるとしても、形式的なものに過ぎないのだ。だから誤りだ。
こう言いたいのだろうか。いずれにせよ、助言と承認の要否を聞かれていると思って、正しいと判断した人は、知識的には間違ってはいない。
6について
とにかく天皇は、法的にも政治的にも、国事行為について責任を問われることはない。
従って、正しい。もちろん、事実上は、国会が天皇の政治責任を追及することはできる。
これを抑制する直接の制度はない。
7について
「儀式」に含めれば、国事行為ということになるから、助言と承認が必要になる。
よって、誤り。
8について
見ただけで誤りとわかると思う。
摂政は、「天皇の名で」国事行為を行う(5条)。
摂政が自らの名で行うのではない。
また、摂政も天皇と同様、国事行為につき何ら責任を負わない。