【問題】
土地改良事業の施行認可処分の取消訴訟において,当該事業計画に係る工事及び換地処分がすべ
て完了したため,社会的,経済的損失の観点からみて,社会通念上,原状回復が不可能である場合
であっても,訴えの利益を消滅させるものではないとした最高裁判所平成4年1月24日第二小法
廷判決(民集46巻1号54頁)に関する次のアからウまでの各記述について,それぞれ正しいも
のに○,誤っているものに×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。ア. 本判決は,社会的,経済的損失の観点からみて,社会通念上,原状回復が不可能であるとの
事情は,行政事件訴訟法第31条の事情判決の適用に関して考慮されるべき事柄であって,土
地改良事業の施行認可処分の取消訴訟の訴えの利益を消滅させるものではないとしている。イ. 本判決は,土地改良事業の施行認可処分が取り消されれば,同処分後に行われる換地処分等
の一連の手続及び処分の法的効力が影響を受けることを,訴えの利益を根拠付ける理由として
いる。ウ. 本判決は,社会通念上,原状回復が法的に不可能となった場合において,原告が採り得る手
段は損害賠償請求のみであり,同請求の前提として,土地改良事業の施行認可処分の取消訴訟
を提起しておかなければならないことを,訴えの利益を根拠付ける理由としている。1. ア○ イ○ ウ○ 2. ア○ イ○ ウ× 3. ア○ イ× ウ○
4. ア○ イ× ウ× 5. ア× イ○ ウ○ 6. ア× イ○ ウ×
7. ア× イ× ウ○ 8. ア× イ× ウ×
【解説】
アについて
本判決は、
「本件訴訟において、本件認可処分が取り消された場合に、本件事業施行地域を本件事業施行以前の原状に回復することが、本件訴訟係属中に本件事業計画に係る工事及び換地処分がすべて完了したため、社会的、経済的損失の観点からみて、社会通念上、不可能であるとしても、右のような事情は、行政事件訴訟法三一条の適用に関して考慮されるべき事柄であって、本件認可処分の取消しを求める上告人の法律上の利益を消滅させるものではないと解するのが相当である。」
としている。
よって、本肢は正しい。
イについて
本判決は、
「本件認可処分後に行われる換地処分等の一連の手続及び処分は、本件認可処分が有効に存在する
ことを前提とするものであるから、本件訴訟において本件認可処分が取り消されるとすれば、これにより右
換地処分等の法的効力が影響を受けることは明らかである。」
とした上で、アの解説で引用した結論を導いている。
よって、本肢は正しい。
ウについて
本判決では、本肢のような理由は挙げられていない。
よって、本肢は誤りである。
以上から、正解は2となる。