最新高裁公法裁判例

福岡高裁判決平成19年03月20日

【事案】

1 Xは,保護観察付執行猶予中であったが,体感器(スロットマシ−ンに装着してその機械のボーナス枠を探り当て,不正にメダルを得るための電子機器)を衣服の下に装着して,パチンコ店に行き,スロットマシーンで遊技をして,短期間にボーナスを3回引き当てた。ところが,監視カメラでXの手の動きを見ていた店員に,体感器を使用していると疑われて現行犯逮捕され,スロットマシーンのスタートレバーにかけていたリード線も見つかり,事務室に連れて行かれた。Xは,そこで,「警察にいうのだけは勘弁してください,何でも言うことを聞きます」と土下座して謝り,その際,また,リード線やソレノイドを落として,それも店員に押さえられた上,身柄を警察官に引き渡され,引き続き勾留された。
2 Xは,自分は,執行猶予中の身なので,体感器を使うのが恐くなって,店に入る前に,リ−ド線を切り,ソレノイドをはずしてズボンのポケットに入れていたから,不正はしていない,スタートレバーにリード線をかけていたのは,体感器を買うことを勧めた者が見に来たときに備えて使っているふりをするためだったなどと弁解したが,建造物侵入・窃盗で起訴された。
  ところが,押収されたリード線の長さとソレノイドの装着箇所との関係で,パチンコ店店員の犯行目撃供述どおりでは客観的に犯行は行えないことが分かって,検察官が当初の主張を変更し,追加立証をするなどしたが,結局,「疑わしきは被告人の利益に」として,無罪判決がなされ,これが確定した。
3 そこで,Xは,国(Y1)とパチンコ店を経営する会社(Y2)に対して,損害賠償を請求した。
 しかし,本判決は,原判決と同様にXの請求を認めなかった。

【判旨】

 検察官の公訴提起が国家賠償法上の違法に当たると評価されるのは,有罪と認められる嫌疑がなく,経験則・論理則に照らして公訴提起の合理性を肯定できない場合に限られる。

 Xは,本件刑事事件について全部無罪の判決を受け,同判決が確定しているが,同判決は,「(被告人が)本件体感器を用いて不正に本件遊技機を作動させていたことを窺わせる複数の事情は存在する」とし,さらに「(被告人の)弁解内容はいかにも不自然・不合理な印象を禁じ得ない」としながらも,本件パチンコ店の従業員らの目撃証言には矛盾があるから信用性が低いとして,「疑わしきは被告人の利益にの原則に従い,犯罪の証明がないというべきである」としたものであって,その一事からしても,本件公訴提起が違法であるなどということができないことは明らかである。

 公訴を追行する検察官は,当然に公訴を提起した検察官の収集した証拠及び心証を引き継ぐことになるから,公訴の提起が違法でないならば,原則として公訴の追行が違法となることはないというべきである。。したがって,公訴提起後,公判において有罪と認められる嫌疑を否定する証拠が提出され,それにより公訴提起時における証拠構造が崩され,有罪判決を期待することが到底できなくなったというような特段の事情が認められる場合でなければ,検察官の公訴追行が国家賠償法上の違法に当たることはないと解すべきである。

本件刑事事件が全証拠資料を総合勘案しても有罪判決を期待することが到底できなくなったというような特段の事情がある場合でないことは明らかである。

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