最新民訴法判例

最判平成19年03月27日

【事案】

 被上告人が,所有している建物内に居住している上告人らに対し,所有権に基づき,本件建物のうち上告人らの各占有部分の明渡し等を求める事案。原告として確定されるべき者が,訴訟提起当時その国名を「中華民国」としていたが,昭和47年9月29日の日中共同声明によって「中華人民共和国」に国名が変更された中国国家であるとされた。

【判旨】

 本件建物の所有権が現在中国国家以外の権利主体に帰属しているか否かは別として,本件において原告として確定されるべき者は,本訴提起当時,その国名を「中華民国」としていたが,本件が第1次第1審に係属していた昭和47年9月29日の時点で,「中華人民共和国」に国名が変更された中国国家というべきである。

 我が国政府は,本件が第1次第1審に係属していた昭和47年9月29日,日中共同声明において,中国国家の政府として,中華民国政府に代えて中華人民共和国政府を承認したのであるから,これにより,中華民国政府から派遣されていた中華民国駐日本国特命全権大使が有していた中国国家の我が国における代表権が消滅したことは,公知の事実というべきである。
 そして,本件のように代表権の消滅が公知の事実である場合には,民訴法37条で準用される同法36条1項所定の通知があったものと同視し,代表権の消滅は,直ちにその効力を生ずると解するのが相当である。なぜなら,上記規定が,法定代理権の消滅について,相手方に通知しなければ,その効力を生じないと定めているのは,訴訟手続の安定性と明確性を確保し,相手方の保護を図る趣旨と解されるところ,上記の場合には,代表権の消滅が直ちにその効力を生ずるとしても,訴訟手続の安定性と明確性は害されず,相手方の保護に欠けるところはないと解されるからである。
 また,本件のように,訴訟代理人が外国国家の外交使節から訴訟代理権の授与を受けて訴訟を提起した後に,我が国政府が,当該外国国家の政府として,上記外交使節を派遣していた従前の政府に代えて新たな政府を承認したことによって,上記外交使節の我が国における当該外国国家の代表権が消滅した場合には,民訴法37条,124条2項,同条1項3号の規定にかかわらず,上記代表権の消滅の時点で,訴訟手続は中断すると解するのが相当である。なぜなら,上記規定は,訴訟代理人が選任されているときには,当該訴訟代理人が訴訟の実情に通暁しており,一般にそのまま訴訟を追行させたとしても,当事者の利益を害するおそれがないことから,訴訟手続の中断事由が生じたとしても,訴訟代理権は消滅しないものとして(同法58条1項4号参照),訴訟手続の中断についての例外を定めたものと解されるところ,上記の場合,従前の政府の承認が取り消されたことにより,従前の政府が上記代表権の発生母体としての根拠を失ったために上記代表権が消滅したのであって,単に代表権のみが消滅した場合とは実質を異にする上,新たに承認された政府が従前の政府と利害の異なる関係にあることは明らかであるので,従前の政府から派遣されていた外交使節からの訴訟代理権の授与しか受けていない訴訟代理人がそのまま訴訟を追行することは,新たな政府が承認された後の上記外国国家の利益を害するおそれがあるというべきだからである。
 そうすると,本件の訴訟手続は,民訴法37条,124条1項3号の規定により,第1次第1審に係属していた昭和47年9月29日の時点で中断したものというべきである。

 訴訟手続の中断は,中断事由の存在によって法律上当然に生ずるものであり,代表権の有無のような職権探知事項については,裁判所が職権探知によって中断事由の存否を確認することができるのであるから,民訴法319条及び140条(同法313条及び297条により上告審に準用)の規定の趣旨に照らし,上告審において職権探知事項に当たる中断事由が存在することを確認して原判決を破棄するについては,必ずしも口頭弁論を経る必要はないと解するのが相当である(最高裁平成17年(オ)第1451号同18年9月4日第二小法廷判決・裁判集民事221号1頁参照)。

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